<ホワイトデー・恋人達の物語2007>


White day −恋人達の記念日−
 ホワイトデーの二日ほど前、郵便受けに一通の封筒が投函された。
 それは真っ白な封筒で、宛名はなく、ピンクの可愛らしいハートマークに天使の羽がはえたようなシールで封をされていた。
 封筒の中身、便せんも雪ように真っ白で、チョコレート色の文字が書かれている。

『White day −恋人達の記念日−

 想いあった二人の記念の日。
 その日、思い思いの時を過ごし、PM9:00になったら、空をみあげてください。
 きっと素敵なプレゼントが、二人の元へと届くでしょう。

                         恋人達の魔法使い』

 この封筒は不思議な事に、恋人達の元へだけ届けられていたようだった。

「羽月さん…」
 なんだか楽しそうな、嬉しそうな表情でリラ・サファトが二通の手紙を籐野羽月に差し出す。
「…魔法使いさんのお手紙ですって」
「そうか」
 リラの表情につられるように、羽月の表情も和らぐ。
 それは3月12日、うららかな昼下がりだった。

 日本家屋風の屋敷。
 その庭から弾むような鼻歌が聞こえる。
 リラが庭の花々に水をやっていた。彼女の髪がゆれるたび、ライラックの香りが漂うようで。
 そしてリラの歌にあわせて、花々も歌っているかのように風に静かにゆれていた。
「今日は…良い天気ですね……」
 足下にまとわりついてくる猫、茶虎ときじに優しく微笑みかけた。
 そんな様子を、眩しそうに見つめている羽月、膝の上では猫、みけが丸くなっている。
 ホワイトデーだと言うのになんらかわりのないその日。
 否、二人には記念日など不用なのかも知れない。
 …毎日が記念日。そう、二人で一緒に居られることが幸せなのだ。
 でも今日はまたいつもと違った楽しみがあった。
 テーブルの上におかれたカード。
 それがその日、少しだけ変化のある日であることを示していた。

「もうすぐ…9時ですね…」
 自宅の濡れ縁。夕食を軽く済ませ、リラの用意してくれたお茶とお菓子をいただく。
 ふと、羽月は晴れ渡った夜空を、青い双眸で見つめる。
 思うのは明日の事と、今ある幸せ、傍らで微笑む人の事。大事な場所──還らぬと決めた、特別な場所。……今、羽月の還る場所は、この家でも祖国でもなく、リラの傍。彼女のいる場所が自分の安住の地だと、思っている。
「今日はいつになく空が澄んでいるな」
 羽月の言葉に、おかわりのお茶を注ぎながら微笑む。
 ふわりと漂うライラックの香りに、羽月は彼女の同意を感じ、輝く星を月に瞳を細めた。
「リラさんの欲しいものは?」
 不意に聞かれて、リラは困ったように首を傾げた。
 そして辺りを見回しながら小さく笑う。
「…猫ちゃんたちが元気で羽月さんが隣にいてくれる、このささやかな幸せが続く未来…でしょうか」
 さりげなく触れるのは薬指の指輪。形ある物はこれだけでいいように思うが、それ以外、あったら嬉しいのかも知れない。
 永遠を手に入れるのは難しい。だからそれを望むのは無理かも知れないが、それでも……こうして羽月と一緒にいられる事、それが本当の願い。
「…羽月さんは…?」
「私は……」
 思案して黙る。
 子供…と望めば、それはつかの間の夢。幸せを、と願えば自分のよりもリラが幸せである事を願う。
「リラさんと、同じ様なものだな」
 しばらくの黙考の後、導き出されたこたえに、リラは微笑む。
 結局、いきつく先はお互いの幸せ。
「寒くなってきたな」
 言って羽月が用意してあったブランケットをリラの背中にかける。
「…こうしたほうが……」
 くるっと手をのばし、リラは自分と羽月を、大きめのブランケットで包み込む。
 その中に三匹の猫、茶虎とみけ、きじが忍び込む。
 こうしている時間、空間が、今最大の幸せ。
 リラは瞳を閉じ、羽月に寄り添う。
 優しく流れる時間。
 そこに、9時を告げる音が聞こえた。
 二人は同時に空を見上げる。
 すると
「ハッピー・ホワイトデー…ですにゃ」
「……ですにゃ?」
 くぐもった声がブランケットの中から聞こえた。
 その次ぎに聞こえたのはケンカをする声。
「おしちゃダメにゃあ」
「いたいにゃぁー」
「これそっちにおくですにゃ!」
「!?」
 勢いよく羽月がブランケットをはね除ける。
「…あら…」
 そこでは3匹の猫が、プレゼントをしばるリボンにからまった姿で情けない声を出していた。
「茶虎…みけにきじ……なにをしてるんだ?」
「ま、マホウツカイさんからのプレゼントですにゃ」
 茶虎。
「いつもいつもありがとにゃあ」
 みけ。
「これ、ふたりにあげるのにゃぁ」
 きじ。
「「「5フンカンだけ、おはなしができる」」」「ですにゃ」「にゃあ」「にゃぁ」
 満面の笑みの3匹。
 5分という短い時間ではあったが、3匹の猫と楽しそうに話をするリラ。その様子を見守る羽月。
 空からはキラキラと星の光が降り注いでいる。
「まぁ……オルゴール…」
 貰ったのは木彫りのオルゴール。開けてみると、聞いたことのない不思議な、しかしどこか懐かしい音楽が鳴り始めた。
 そして一枚のカードがその中に。

『White day −恋人達の記念日−

 直接届けようかと思ったけど、猫ちゃん達に頼みました☆
 幸せは、想いは、日々変化すればそれは永遠……。
 昨日より、今日より、明日の君に、さらなる想いを…。
 
                      恋人達の魔法使い』

「「「ダイスキ」」」「ですにゃ」「にゃあ」「にゃぁ」
 という言葉を残して、三匹はいつもの鳴き声に戻った。
 羽月ははね除けたブランケットを拾い上げ、軽くはたくと、三匹とリラと自分を包むようにかけなおした。
 そっとリラの手を握る。その手は決して温かくはならないが、今の羽月にはとても暖かい物に感じられた。
 優しく星が降る夜、静かに月が見守る夜。

 二人はそっと、キスをかわした──────

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★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

☆1879*リラ・サファト      *女*16(20)*家事?☆
★1989*籐野羽月(とうの・うづき)*男*18(18)*傀儡師★

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■         ライター通信          ■
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 はじめましてこんにちは、夜来聖です。
 今回は私の依頼にご参加下さりまして、ありがとうございます。
 お二人の雰囲気が出すことが出来たなら嬉しいのですが。
 参照ノベルも読ませていただきましたが、あえて、私が感じた二人を書かせていただきました。
 沢山の思い出とともに、お二人の幸せが続きますように……。