<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


華やかな舞台の裏で

□Opening
 その一行は、緊張した面持ちで白山羊亭にやってきた。一目見て、酒が目的では無いと、ルディアは判断する。
「いらっしゃいませ、何か、お伺いしましょうか?」
 一行をテーブルに案内しながら、ルディアはそう声をかけた。数人の男性の集団、ただ、武装しているわけではなく、普段は商いを生業としているような身なりだった。
 テーブルにつくなり、そのうちの一人……代表者だろうか、が真剣な顔つきで話し始めた。
「実は、そう、冒険者を紹介して欲しいんだ」
 やはり、そう言う事か。ルディアは、皆に水を差し出しながら、納得した。
「詳しい話を、聞かせてくれる?」
「ああ、実は……」
 ごくり、と、水を流し込み、男は話をはじめた。
「俺達の村に、興行団が来たんだ。その団から、ある日求人の依頼を受けた」
 テーブルについた男達は、代表の言葉にひどく顔を曇らせ、俯いて行く。
 ルディアは、その重苦しい話を、一言一句聞き逃さぬよう真剣に耳を傾けた。
「芸をする者の募集じゃねえ、芸をする『動物』の世話係さ。簡単なエサ運びや檻の掃除なんかだと説明された。俺達の村は、貧困にあえいでいると言うわけじゃねえ、ただ、若いモン達は華やかな舞台と珍しい動物に夢中になってな」
 あんな華やかな娯楽なんか、無かったからなと、誰かが付け足す。
「ああ、その求人に飛びついたのさ。そして、一月が過ぎて、……、連絡が途絶えた」
 連絡が途絶えた、それだけで、こんな所まで冒険者を求めてくるはずも無い。ルディアは、更に続きを促した。
「これはおかしいって話になって、村の代表が一人、遠くの村へ行ってしまったその団へわざわざ様子を見に行ったんだ……、すると、よう、は、はは、あいつら余所の村でも同じように求人募集をしていたんだ。だったら、俺達の村の者はどうなった? 村の代表……サシっちゅう奴だがな、サシは次の村もその次の村もこっそり団の後をつけたのさ」
 言いながら、男の顔が泣き笑いのようになってくる。どんな表情をすれば良いのか、正常な判断ができないのかもしれない。
「すると、奴等、どの村でも同じように求人を出す、そして、一つの村で五人ほど雇って次の村へ進む、なぁ、変だろう? なのに、団の荷車はいつも同じ位で増えないんだよ。雇われた者は、どこに行っちまうんだ? はは、なぁ、それでよ、サシの連絡もそこで途絶えた、二日前さ、毎日定時で連絡してきていたサシの連絡が無かったんだ……連絡に使っていた鳥だけが、帰ってきて」
「芸をする動物って、どう言う事?」
 重苦しい空気の中、ルディアは疑問を口にする。
「ああ、見た事も無い、動物だった……、団の奴等はキメラだと言っていたか……、羽のはえたライオンや龍のような生き物、後は、二首の蛇も居た、そいつ等が煌びやかな舞台で火の輪をくぐったり飛んだりして見せるのさ」
「その、村の人、それからサシって人の安否の確認の依頼ね?」
 できる事なら無事に連れ戻してくれ、と、男は弱々しく付け足した。
 その団の不自然な求人の果てに何が待っているのか、正面からけしかけてはしらを切りとおされるかもしれない。できれば、内部に潜入する方が良いかも……? いや、最悪、戦闘を覚悟した方が良いのか? ルディアは、急ぎ冒険者を探した。

■02
「ふむ……確かに、怪しい求人でござるな」
 いつから、そこに彼がいたのか。
 依頼人達のテーブルの隣に、鬼眼・幻路は静かに座っていた。その身体つきから相当の手練れと思わせるが、その表情はどことなく穏やかで人の良い笑みを浮かべていたので、依頼人達は落ち着いて幻路の言葉を受け止めた。
「そうなの、で、どう? 受けてもらえる?」
「その依頼、承知いたした」
 ルディアの言葉に、幻路は小さく頷く。そして、ぐるりと依頼人達を見回し、静かに問うた。
「調査するに当たって、サシ殿の人相を教えていただけぬかな?」
 いつの間にか、水の入ったコップを手に幻路が相談の輪に入る。
 依頼人達は、それにさして違和感を覚えることがない。幻路を招き入れ、一人一人とサシの特徴を挙げていく。
「身長は低いほうさ、お嬢ちゃんよりちょっと高いくらいかな」
 指差されて、ルディアは自分の頭に手をやった。
「それが、顔はあんまり特徴がないのさ、そう、どこにでも居そうな奴」
「だから、偵察に出したんだけどな、うーん、そうあいつは確か右目の涙腺がゆるいらしくて、右目をごしごしとこする癖があるさ」
 そう言って、依頼人の一人が、右手の甲で右の瞼をこするような動作を見せた。
 幻路は、頷きながら考える。おそらく、特徴のないことが特徴ということか。まずは浄天丸を飛ばして、中を調べさせよう、と、幻路は静かに席を立った。

□06
「確認でござるが」
 興行団のキャンプを前に、五人は集まった。切り出したのは鬼眼・幻路。その肩に、小さな鳥を従えている。
「拙者は、この浄天丸を潜入させるでござる」
 なるほど、小鳥がキャンプに紛れ込むのは、きわめて自然。
 アレスディア・ヴォルフリートは、その提案に頷き自身の装備を確かめた。
「私は、求人の募集をしているようなら、応募しようと思う」
「うん、私も応募しようかな、そう、村から離れた辺りで捜索してみるのが良いかもね」
 ディーザ・カプリオーレが、それに続く。その隣で、千獣も頷いた。
「私、も……求人、に……行こう、と、思う……」
 その手にはサシが提示報告に使用した紙。
「中、入れ、たら……匂い、探して、歩き、回る……よ」
「俺も、求人に応じよう」
 丁度、仕事もなかったし、おかしくはないだろうと、ジェイドック・ハーヴェイも続いた。
「それでは、皆、また後ほど」
 求人応募の際に怪しまれてはいけない。一同を見渡して、アレスディアは静かに歩き出した。
 ばさり、と。小鳥の飛ぶ音が聞こえた。その場所に、幻路の姿はもはやない。
 ディーザと千獣は、それぞれ違う道を歩き出した。その先には、興行団のキャンプがある事だけは確か。
 ジェイドックも、その後を追った。

■08
 さて、他の皆が、興行団の求人面接へ向かう少し前。
 幻路は、浄天丸を小型の鳥に変化させ、団のキャンプへと忍び込ます事に成功していた。浄天丸は、狭い通路を器用に飛びながらキャンプの内部を偵察していく。その映像を、幻路も同じように見ていた。
 まず、村のはずれに設置されたキャンプだが、それほど大きなものではない。小さいテントがいくつか張られ、それぞれに資材や器具が積み込まれていた。勿論、人の休む場所もある。ただ、現在は求人の面接が行われているためか、人の往来は少ない。
 幻路は、テントの配置や内部の間取りをメモしながら、サシや団員ではない……つまり帰らなかった人々を探した。
 時折、テントに団員が居たが、浄天丸を不思議に思うものは居ないようだった。一つ一つのテントは小さい。時折、機材の積み上げられた一角に降りてみるが、人の気配はなかった。
 浄天丸は、さらに奥へと進む。
 テントは、それぞれ不規則に建てられているようにも見えたが、配置をメモしていくうちに二つ、特別な場所が浮かんできた。
 それらのテントは、他のテントよりも少し大きく、他のテントで囲むように、団のキャンプの中心に建てられている。一つは、立派なテントで、もう一つは他のどのテントよりも古くて簡素なもの。
 立派なほうのテントは、小鳥が入れるような隙間も無く、入り口には二人の団員が見張りに立っている様子だった。
 幻路は、浄天丸を入り口まで近づけたが、見張りの団員が驚いたように棒切れを振り回した。
「こら、あっちへ行け」
「何だ? 鳥じゃないか」
 中の様子はわからない。
 いつまでも近づくのは不自然なので、団員の振りかざす棒に驚いた風を装い、浄天丸を空へと帰した。
 一つ大きく空を旋回する。
 それから、今度は見張りのいない裏側から、簡素な方のテントを覗き込む。そっと近づき、隙間から忍び込んだ。テントの中は薄暗いが、浄天丸は闇の中を見通すことができるので問題ない。
 その中は、ただ広い空間だった。
 他のテントのように資材が積み上げられているわけでも、機材がそろっているわけでもない。ただ、広い空間だけ。
 そして、その真ん中に、彼は居た。
 座り込んだ人物。見たところ、目立った外傷は無いが、げっそりと頬がこけている。その顔には何の表情も無いが、特徴と言う特徴も無かった。
「――! サシ殿?!」
 幻路が、はっと息を呑んだ。
 鎖で拘束されているわけでもない、縛られているわけでもない。しかし、彼は、監禁されている。
 幻路は、一つ、はっきりと確信を持った。

□13
「それじゃあよ、新入りは新入り同士、仲良くやってくれ」
 皆が最初に案内されたテントに戻ってくると、団長はそれだけ言ってその場を離れた。見ると、他の団員も、団長に続いて去っていく。夕日がそろそろ落ちる頃、小さなテントの中でささやかな夕食が用意された。しかし、最初のテントに残されたのは、つまり、今回求人に応募した四名のみだ。
 いや。
 正確には……、
「その食事、しばし待たれよ」
 闇に紛れてもう一人。幻路が、いつの間にかテントに姿を現した。
「ああ、飲み物、食料、全て口にしないほうが良い」
 全ての団員が出て行ったのを確認して、ジェイドックは持っていたグラスを手放した。
「……、匂い、が、変……?」
 千獣は、並んだ料理を眺め、首をかしげた。
「匂い……、うーん、そうねぇ、ハイになるような物じゃないわよ、そうどちらかと言えば、良い気持ちで眠っちゃう薬だ、ずぅっとね」
 くすり、と、ディーザが笑う。
 指先で並べられた果物をつつき、皆の顔を見回す。
「なるほど、我々は、この場で眠りにつくというわけか」
 それからどうなるのか。おおよその見当はついてしまうわけなのだが、アレスディアはそこで言葉を区切ってぐっと拳を握り締めた。
 再び顔をあわせた五人は、それぞれの思いを胸に、これまでの事を報告しあった。団員が全て出払ってしまったので、報告もスムーズだ。これは、幸いだったと言えよう。
「やはり、あの二つのテントか」
 アレスディアは、サシを見たと言う幻路と、キメラを見たと言う千獣の話を聞いて頷いた。このキャンプの中心に在る二つのテント。それを、アレスディアも目撃していた。一つは、特別立派なテントで、見張りの団員が二人並んでいる。その隣にあるのは、特別質素なテント。幻路の話では、サシがここに捉えられていると言う。但し、状況は芳しくない。アレスディア自身も、テントの前でかすかな呻き声を聞いていたので、これには素直に頷けた。
「まずは、サシの救助を考えるか、求人に応募したものがどうやって消えたのか、彼ならば何か知っているかもしれん」
 ジェイドックの言葉に、皆が頷く。
 そうだ。例えここで皆眠らされたとして、どうやって求人に応募した人間は消えた? その答えを、今のサシなら持っているのかもしれない。
――どうやって消えたのか
 その言葉に、千獣はどくりと反応する。
 羽根の生えた獅子が振り向いた。
 彼の者が纏っていた、あの匂い。……血の匂い。
 答えは、ここに、在ったのかもしれない。
「その前に、一つ、荷物を確かめたいのよ」
 その時、ディーザがひょこりと片手を挙げた。しかし、笑っているのは口元だけ。その瞳は、静かな冷たい光が宿っていた。

□14
「これは……、いや、たったこれだけ、残されただけだと?」
 その荷を前に、アレスディアは呻いた。
 昼間のうちにディーザが見つけた鍵付の荷物箱。その鍵を、ジェイドックがこじ開けてみたのだ。その中には、素朴なつくりのブレスレットや指輪など、装飾品が詰め込まれていた。明らかに、舞台の煌びやかなフェイクの飾りではない。素朴な村人が付けていたと思われるそれらは、主無き今を静かに鍵付の箱の中で眠っていたのだ。
「後は、サシ殿でござるな」
 それら装飾品を集めながら幻路が呟いた。
 この持ち主達の末路を思うと、それ以上何の言葉があるというのか。
 あらかじめ調べておいた内部の間取りを元に、皆を誘導する。後に続く者達も、皆、無言だった。
 立派なテントの入り口には、変わらず門番が二人たっていた。一同は、その裏手から、質素なつくりのテントにもぐりこんだ。
「サシ、だな?」
 最初に声をかけたのは、ジェイドック。
 テントの真ん中に、ぽつんと、そう、本当に一人ぽつんと、彼は座っていた。頬はこけ、ぼんやりと宙を見ている。瞳に力は無く、全く覇気が感じられなかった。
 それでも、ジェイドックの呼びかけに、ゆっくりと彼は振り向いた。まるで特徴の無い顔つきだが、よく見ると右目が少しはれぼったい。
「……、同じ、匂い」
 千獣は、懐からサシが出したという報告書の紙を取り出し確認した。
 幻路の聞いていた特長とも一致する。
「……、どう、し、て?」
 彼がゆっくりと口を開いた。喉がかれているのか、声もからからと乾いている。
「大丈夫、助けに来た、さぁ、何があった?」
 アレスディアは、優しくサシに問いかけた。
 すると、枯れ果てているはずのサシの瞳に、うっすらと涙がにじむ。
「ここ、は、餌小屋……、逃げ、て、もう、誰も居ない……、次は、俺の、番……俺の……」
 そして、サシは震えだした。
 餌小屋。
 その言葉は、かなり不愉快な響きだ。
「落ち着いて、ねぇ、キミからは薬の匂いはしない、だから、ほら深呼吸して?」
 けれど、ディーザは、それでも明るい声でサシに語りかける。
 その手を、サシが取りかけた。
 その時。
 一同は、小屋へ近づく気配を感じた。

□15
「あれ? お前ら……、何で起きてやがる……っ」
 テントに入ってきた団員は、ぽかんと一同を見て呟いた。
 別のテントで寝ているはずの新入り。それが、揃いも揃って、ここに居る。それは、何か、おかしくないのか?
「いや、お前ら、何者だっ」
 その隣で、キメラのテントの見張り番をしていた団員が、はっと身構えた。
『我が命矛として、牙剥く全てを滅する』
 が、一瞬早い、アレスディアのコマンドが響く。瞬間、彼女の手には漆黒の突撃槍が装備される。それが、槍だと、団員が理解する時間は無かった。くるりと漆黒の槍を手元で一度回転させ、柄の部分で素早くテントに入ってきた団員を殴りつけたから。
 団員は、言葉無く崩れ落ちた。
「どうやら、急いだほうが良さそうね〜」
 歌うように手元の銃を躍らせ、ディーザは一歩前に出た。
「ああ、急いで出てきて欲しいものだがね」
 崩れ落ちた団員の外側で、そんな声が響いた。
「……、匂い、獣の……」
 千獣が呟く。
 ばさり、と、風を巻き起こすような、羽根の音が聞こえた。
 暗いテントに、そのシルエットが浮かび上がる。ぼんやりとした影は、獅子のもの。けれど、その背に大きな羽根が見える。その後ろには、大きな管を巻く、そう、大きな蛇のようなシルエット。
「さぁ、出て来い……、丁度、食事の時間なんだ」
 再び、その声。
 それは、集合の時に聞いた、団長の声だ。
「浄天丸」
 テントの外へ目を向ける皆の中で、幻路は静かに浄天丸に命じた。瞬く間に、小さな鳥の姿から、猛禽類へとその姿を変化させる浄天丸。そっとサシの隣へ身を滑り込ませ、隙を無くす。

□17
 ぐしゃりと、テントに獅子が突っ込んできた。
 アレスディアと幻路は、さっと腰を落とし、サシを守る。
「ひ……、い、あ、俺も同じだ……、食べられ、食べ……」
 サシは、テントに乱入してきた獅子の姿を見て、さらに混乱した様子だ。がたがたと震えだし、ぶつぶつと呟き続ける。
 そこに、素早く身体をくねらせ、大きな蛇が這い寄った。
「一戦ご希望とあらば、お相手するでござる」
 幻路は、向かってくる蛇に鎖鎌を大きく投げて威嚇した。まず、その進路を狂わせ隙を作る。そして、静かに身体を移動させながら、アレスディアに目で合図を送る。
 アレスディアは、漆黒の槍を構え、サシの前に立った。
 幻路の投げる鎖鎌にあわせて、くるりと槍をまわす。その勢いで、地面をえぐり蛇の道を遮った。続けて、道を遮られた蛇が飛び上がったのを、槍の柄で殴り勢いを殺す。
「ぐ、ぐお、おおおおおお」
 次に、テントにめり込んで倒れていた獅子が起き上がった。
 その咆哮に、また、サシが震えて座り込む。
 幻路は、浄天丸をサシの周りで旋回させ、獣の攻撃に備えた。蛇が完全に動かなくなったのを確認して、鎖鎌を投網に持ち替え構える。いかに力のある獣でも、足を止めて束縛してしまえば、危険はあるまい。
 ばさりと、獅子の背の羽根が、風を巻き起こした。
 その風に乗り、獅子は体勢を立て直す。
 そして、勢い良く地面を蹴り、アレスディアとその背後で震えるサシへ突進してきた。
「甘いでござるよ」
 その一直線の動きは、読みやすい。
 獅子の背後で、幻路が投網を投げる。
 投網は、鋭く獅子の後ろ足に絡みつき、獅子はバランスを崩した。
「ぐお、あ、あああああああー」
 まだ、その、咆哮は収まらない。獅子の背の羽根がばさばさと暴れ、テントが震える。アレスディアは、獅子の次の攻撃に備え、静かに獅子と向き合った。
 渦巻く風の刃は、ただ、アレスディアの髪を乱れさせる。
 がちり、と、彼女が槍を構えなおしたその時、どん、と、テントの外で音がはじけた。
「……、ぐ、わ、我は……」
「ああ、私は、」
 テントの中でも、変化はおきていた。
 苦しげに、人間の言葉を口にした獅子と蛇。
 彼らの動きを奪った幻路とアレスディアは、その変化に当惑の表情を浮かべた。

□Ending
「我らは、多くのニンゲンを、餌にしてきたのだ」
「ここで果てるのなら、それも運命でしょう」
 獅子と蛇は、静かに語る。
 それらを、抱きしめたのは千獣だった。
「……、でき、ない」
「うーん、ここまでおとなしいキミ達を、どうにかするって後味が悪すぎ」
 千獣の悲しげな言葉に、ディーザがため息をついた。団長の持っていた玉を割ったことで、キメラ達の意識と理性が確立したのだ。逆に言うならば、団長が光の玉を以って獣を使役していたのだろう。
「村人の遺品、割れた玉のかけら、証拠はある、罪と言うのなら団員達にその責を負わすのが筋だ」
 今は黒装を解いたアレスディアは、静かに一堂を見回した。
「そうでござるな、後ろ暗い連中、余罪は有り余るほどあるであろう」
「ああ、村人にこのまま突き出したらどうだ」
 それに同意するように幻路とジェイドックが頷く。
「……、我らを見逃す、と言うのか」
 その獅子の問いに、誰も答えるものは無い。
 彼らが、今まで何を食してきたのか、それは明白だ。しかし、それは、興行団の団長に強要されてきたこともまた明白。こうして、理性を取り戻した彼らを、殺めたからと言って、もはや戻るものなど何も無い。
 だから、誰も、何も、言えなかった。
「私達は、再び人に合間見えることはありますまい」
「ああ、我ら、遠い空へ飛び立とう」
 静まり返ったその場に、一陣風が吹く。
 獅子は蛇を背に乗せ、遠く高く、飛び立った。
「さ、帰りましょう、報酬たっぷり貰わなくっちゃね」
 沈んだ空気を救い上げるようにディーザが明るく皆を励ます。
「ああ、そうだ、サシを無事皆に会わせてやらねばな」
 ジェイドックが真顔で頷く。
 団員達を縄で縛り上げ、村人に引渡し、一同はサシを伴い帰路に着いた。
<End>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3087 / 千獣 / 女 / 17 / 異界職】
【3492 / 鬼眼・幻路 / 男 / 24 / 異界職】
【3482 / ディーザ・カプリオーレ / 女 / 20 / 異界職】
【2919 / アレスディア・ヴォルフリート / 女 / 18 / ルーンアームナイト】
【2948 / ジェイドック・ハーヴェイ / 男 / 25 / 賞金稼ぎ】

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■         ライター通信          
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 この度は、怪しい興行団の調査にご参加頂きましてありがとうございました。ライターのかぎです。あれも書きたいこれも書きたいと欲張ってしまいまして、若干長めの物語になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
 ■部分は個別描写、□部分は集合描写(2PC様以上登場シーン)になります。

□鬼眼・幻路様
 はじめまして、初めてのご参加ありがとうございます。
 忍者である鬼眼様の、確かな隠密行動やするりと人の輪に入っていく様は格好良いのだろうなと思いながら描写させていただきました。いかがでしたでしょうか。
 それでは、また機会がありましたらよろしくお願いします。