<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


臥龍亭日誌


アナタがいるのは臥龍亭の前。

旅の疲れを癒す為に泊まりに来たのか。
シェルの料理を食べに来て雑談をしに来たのか。
それとも臥龍やギルを誘って白山羊亭の冒険メニューにトライするのか。


この日の行動を決めるのは勿論貴方次第… 

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  今日も朗らかな昼下がりを迎える天使の広場は老若男女で賑わっている。
 天使の像が掲げられた噴水を中心に放射状に伸びる幾つかの道の先には、それぞれ王立魔法学院、コロシアム、エルザード城、エルファリア別荘、ガルガントの館、アルマ通り、そしてベルファ通りがある。
 ベルファ通りは昼の賑わいからは少し離れてのんびりと夜を待つ者たちが所々にいた。
 そんな中、周囲の目を気にしながらあからさまに怪しい歩調でベルファ通りに入っていく虎王丸(こおうまる)は、通りの中ほどまで来た所でようやくホッとした様な顔を見せ、次の瞬間何か企んでいるような分かりやすい笑みを浮かべる。
「よし、尾行はないな? ……んじゃ心置きなく♪」
 軽やかなステップで黒山羊亭近くの路地へ入っていく虎王丸。
 そしてその後をつける誰か。

「シェ〜〜〜ルちゃん♪今日も来たぜ――!」
「あら、いらっしゃい。虎王丸さん」
 テーブルを拭いていたシェレスティナが顔をあげ、入店してきた虎王丸に会釈する。
 勿論、臥龍は客には反応しない。いつものようにカウンターの奥の隅っこで壁に背を預けながら足を組んで座ったまま寝ているだけ。
「今日はお連れさんがいるのね?」
「え?」
 シェルの言葉に笑顔が固まる。
「なぁ〜んかウキウキしながら出て行ったと思えば…こういうことか」
「げっ…!おまっ…凪、何で!?」
 虎王丸の親友でもある蒼柳・凪(そうりゅう・なぎ)は、半眼で彼を見据えている。
 それと同時にどこか周囲を警戒している節があった。
「こんな繁華街に昼間ッから堂々と…てかお前の魂胆なんて今この場で瞬時に分かった」


 状況証拠その一、虎王丸が言った「今日も」という台詞。
 状況証拠その二、ウェイトレスと思しき少女が虎王丸の事を知っている。
 状況証拠その三、人目を気にしつつも足取りはまっすぐこの店に向かっていた。


 凪の初見でこの場が宿屋兼飯屋なのは分かった。
 飯が上手いという理由でも確かに納得はできるのだが、虎王丸の行動を見ればそのお目当てが料理だけではないと推して知れる。
「…お前年下守備はん…」
「あ―――!!そーかそーか!凪も一緒に飯食いたいか!ここの料理は最高だぜぇ〜何たってシェルちゃんのお手製だかんな!」
 凪の言葉を遮り、飯を食いに来たことが目的と言わんばかりにシェルにアピールする虎王丸。
「……外見か」
 年下は守備範囲外で二十歳前後のセクシー美女がストライクゾーンな虎王丸にしては珍しいこともあったもんだと思っていれば、なんて事はない。
 おそらくシェルの容姿が大きく作用したとみた。
「ご注文は?」
 メモを手にテーブルまでやって来たシェルが小首をかしげる姿に、虎王丸の表情はにやけまくり。
 そんな親友に呆れながらも、凪はメニューを開いた。
「それじゃ…初めてだから何がどうなのかわからないけども、この日替わり定食ってのお願いします」
 凪がメニューを閉じて虎王丸に渡すと、彼はいつものようにメニューの一番上にある料理を指差し、そこからなぞる様にメインディッシュを総なめに。
 相変わらずのどか食いでホントに味わって食べてるのか疑問に思う。
 店の雰囲気は悪くない。
 黒山羊亭の近くとはいえ、その周辺には花売りや娼館まがいの女付き宿がごろごろある中で、ここは比較的アルマ通りの雰囲気と似ている。
 入ってすぐの右手にあるカウンターキッチンの奥の席に座ったままの、場の雰囲気にそぐわない黒衣の男が何とも気になるところだが、あちらはこちらを気にも留めていない。
「夜になったら酒も出してるけどな。酔ったら酔ったで二階の部屋で休めるし」
「宿屋もやってるし、半住人化してる客もいるけどね〜 はい、お待たせ」
 凪の定食と虎王丸のオーダーの一部を持って言葉を添えるシェル。
「お!待ってましたぁ♪」
 通常より虎王丸仕様で少々多めに盛られた料理に、彼も満足の様子で手をつける。
「いただきます」
 口にした瞬間広がる、どこか懐かしい味わい。
 ふとシェルの方を見てしまう凪。
 彼女が自分の郷里を知っているわけがないのに。
「お気に召しました?」
 初めての客は皆そんな風に不思議そうな顔をするとシェルは笑う。
 人を見るだけでその人の郷里の味に近い物を再現できてしまう。それがシェルの特異な力であった。
 ホッとするような味に凪も満足しつつ、ぺろりと平らげ食後のお茶を楽しむ。
 その間、椀子蕎麦のように次々と運ばれてくる料理と、それを平らげる虎王丸を眺め、充実した心地で天井を見上げた。
「なんか、いいな…」
 花街の一画にあるということを忘れさせてくれる瞬間。
「だろ!?今の宿屋より飯美味いから引っ越そうぜ。な?引っ越そうぜ〜〜」
 ここに来るまでの路地裏の雰囲気や表のベルファ通りの様子も、治安を懸念した上で凪は難色を示すが、店の雰囲気は悪くない。
 飯も美味いし、店主も快活でいい印象だ。
「ん〜………」
 この宿屋ならいいかな、とも思うのだが、如何せん花街の中というところで二つ返事はしかねる凪。
 加えて虎王丸の意図するところが丸分かりなので、引っ越したとしていずれ店主が迷惑するのではないかと思うとまた悩む。
「よければ二階見てみます?まだ部屋に空きはあるし」
 虎王丸に食後のお茶を出し、凪にはおかわりを出したシェルが会話に加わる。
「部屋は三部屋で、どれもツインになってるわ。今は二部屋それぞれに一人入ってる。一人は虎王丸さんも知ってるわね」
 怪談を登りながらシェルが肩越しに虎王丸にそう告げる。
 自分が知っている奴?はて??
 首をかしげる虎王丸。
「冒険から帰ってくるとよく貴方の話をしてたわ。ギル…ギルディア・バッカス。覚えてない?」
 その名前を出されてあ〜〜〜ッと手を打った。
「ここじゃ見たことなかったけど、アイツここの宿にいるんだ?」
「知り合いがいるのか?」
 虎王丸の後を歩く凪が虎王丸に尋ねる。
 まぁな、と苦笑交じりに返事をする虎王丸。
「こないだの話からすると、虎王丸さん結構痛い目にあったみたいだしね」
「あ〜……ははははははは…まぁ、その、なぁ?」
「…痛い目って、結局お前が自分でまいた種か…」
 シェルと虎王丸の反応に、あらから構図が見えたようで、溜息ついてあきれ返る。
「うちは主に個人向けの宿屋なんで、オネーサン付の宿屋が希望なら他所をお勧めするわね。まぁ、割と訳ありさんとか懐が寂しい人とかには場所的にも丁度いい感じかしらね」
 相部屋仕様だが、客室が埋まることも少ないので大体常連がいつも一部屋独占している状態らしい。
 空いている部屋の一つに入ると、正面の窓からは港が臨め、日当たりもいい。
 ベッドが二つそれぞれ壁際にあり、小さなチェストと壁掛けも置いてある。
 中央の空きスペースもシングルのベッド一個半程度の幅が空いており、窮屈さは感じない。
 寝泊りすることだけを考えればいい条件に思えた。
「泊り客には朝晩の食事のサービス付でこれぐらいね」
 指で金額を示すと、その安さに凪は驚いた。
「え、じゃあ、コイツとかだと採算合わないんじゃ…」
「大食漢にはそれ相応に追加金が発生するから、ご心配なく」
「ちぇ、さすがに食べ放題じゃないか」
 当たり前だと双方からツッコミを受ける虎王丸。
 窓を開けて風を通しながら、シェルは説明を続ける。
「ギルも結構大食いだからね、宿代もツケが多いけど時折白山羊亭の冒険メニューで依頼とって来て臥龍連れて賞金稼ぎみたいなことして一括払いとかするしね。だから長期滞在の人には出る時にまとめて払ってもらうか、月一で一括で払ってもらうかしてるの。以前は金銭じゃなく物品もありだったけど、ちょっと問題があったんで今は金銭のみね」
 この通りに来る客自体、怪しい客も多いだろうし、奥まった所にある宿屋ならなおさら一癖も二癖もある客がくるのだろう。
 現物も曰く付だとか、そんな感じなんだろうなと凪は推理した。
 だが、そういったことさえ退けばここは、ベルファ通りの中にあるのが不思議なほど落ち着ける空間だと思う。
「――まぁ、前向きに検討ってトコかな」
 虎王丸の肩をポンと叩き、微笑む凪。
「っしゃあ!やったぜシェルちゃん」
「きゃあ!?」
 ガッツポーズを掲げる虎王丸は、どさくさに紛れて抱きついた。
「あ、こらお前―――ッ!」
 凪が割って入ろうとした矢先、背後から鋭い何かが横切り紙一重で虎王丸とシェルの間に割って入った。
「…何してやがる小僧」
「げっ!臥龍」
 臥龍の腕から伸びる生態兵器がその切っ先を虎王丸に向ける。
「わ、こらっ、臥龍やめなさいっ!何でもないから!だいじょぶだから!!」
 カウンターの奥に座っていた男がものすごい形相で凄んでくる姿に驚いたのもあるのだが、それ以上にそんな男に店主が平然と注意していることの方が驚いた。
「冗談だってじょーだん!ンなマジで怒んなって!」
 降参降参と手を上げる虎王丸と、シェルの言葉に溜息混じりに生態兵器を仕舞い、シェルに手ェ出したらただじゃおかないと捨て台詞を残してまた一階の定位置にも戻っていった。
「………何、あれ」
「あー…ははは……あれうちの用心棒、ね。柄悪いけど悪い奴じゃないんでー」
「シェルちゃんに迷惑かかったり、アイツにちょっかい出したりしなきゃ何もしないらしいから」
「じゃあ何でやってんだよ!」
 わかってるならやるなと一喝するが、男たるもの何たらかんたらと訳の分からない言い訳を始める虎王丸。
「言い訳すんな!」
「それが男ってもんだろう!」
「開き直るな!!」
「んだと――」
「ハイそこでおしまい!喧嘩は外でお願いね。それも宿を貸す時の条件よん」
 取っ組み合いになりかけた二人の間に入り、双方ににっこりと微笑むシェル。
 つられてへらりと笑ってしまう虎王丸の態度に、凪は怒る気も失せてしまった。
「……まぁいいか。話は前向きに検討するってことで、とりあえずは下に戻ろう。せっかくだからお茶をもう一杯ほしいしね」
「ありがとv ついでに食後のデザートはいかが?ギルもそろそろ帰ってくると思うし、せっかくだから顔合わせしといてもいいと思うし」
「あ、じゃあ俺も!小腹も空いてきたし…」
 もう!?と二人が声を揃えて突っ込んだのはそれからすぐさまのこと。


―了―
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1070 / 虎王丸 / 男性 / 16歳 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 男性 / 15歳 / 舞術師】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、鴉です。
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お友達同士の参加で掛け合い漫才のようなやりとりをかけて楽しゅう御座いましたv

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