<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


迷子になった


 あまりに依頼が来ないので、廃業したと思われているのではと疑いたくなっていた晴々なんでも屋の晴々なる子は趣味から日課になってしまった家庭菜園に精を出していた。
 だから、久しぶりの来訪者の声には敏感に反応した。
「で、依頼というのは」
「僕の友だちが4日前に貴石の谷に行ったまま帰ってこなくて……」
「ふむふむ。お名前は?」
「メイナネッテっていうの……」
「あ、いや、キミの名前を……」
「僕? 僕はムゥーマだよ」
 ムゥーマは肩を落とし、「宝石喰いに食べられていたらどうしよう!」と言って涙を流した。
 なる子は立ち上がってムゥーマの肩をぽんっと叩き、
「大丈夫。あたしに任せて! 燃えてるんだから! ちゃちゃっと探して連れてくるよ、安心して」
 微笑み、裏腹なる子は頭の中で作戦を考えた。久しぶりなので、あまり良い案が浮かばない。それにもし宝石喰いに遭遇した場合、生きて帰れる自信も無いし、幼夢の館のココやララに助けを求めるなんて死んでも嫌だ。
「……だから、ここに来たんだけど、誰か手伝ってくれませんか?」

 なる子は白山羊亭にいた。


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 少し遅い春風に乗り、悠々と舞った。晴れ渡る空の青に白い鳥が飛んでいる。
 鳥は地上を見つめる。
 キャラバン隊が果物をたくさん積んで運んでいるが、目的はそれではない。それでも低空飛行をしていると、気のいい親父が鳥に向かって木の実を投げた。
 目的は違うがありがたく貰っておくことにしよう。
 鳥は速度を上げ、目を光らせた。
「メイナネッテ殿はこのあたりにはおらぬようでござるな」
 遠くの空にいる浄天丸を眺めていた鬼眼・幻路は、隣で走るトゥルース・トゥースに微笑みかけた。
「他の町とかに行っているよりマシだ。このまま突っ走るぞ」
 トゥルースは横目で晴々なる子を見た。疲れの色はなく、目が生き生きしている。
「もちろん! このまま行かないと2日以内に帰れないよ!」
 予算の都合上、非常食を2日分しか用意できなかったからだ。
 聖都エルザードから貴石の谷までは、川を飛び越え、草原を越え、山を登らねばならない。普段ぐーたらしているなる子はおいて、幻路とトゥルースは普段から依頼などで動いているので問題はないだろう。
「もう今日は休まないー?」
 こんな弱音を吐くのはいつもなる子だった。そんな様子のなる子に幻路は励まし元気付け、トゥルースはトゥルースなりに年下の女の子であるなる子を気遣い、喫煙を注意されながらも、1つ1つを越えていった。
「えーっと、地図によるともう少しみたいだ。って、あれ? さっきまで浄天丸がいたのにいない?」
 陽射しを手で遮りながら空を見ていたなる子は言った。
「貴石の谷の坑道に入ったのでござるよ。浄天丸は聖獣装具。拙者らより先にメイナネッテ殿の傍にいさせておくでござる。大丈夫でござるよ。浄天丸がいま何を見ているかなど、拙者にはわかるでござる」
 目を指差し、微笑んだ。
 その隣でトゥルースはため息をついた。
「どうしたでござるか?」
「……いや、なんだ、その……メイナネッテか? 貴石の谷なんざ何の目的でいったのか知らんが。もしも、その目的がまだ達成されていなかったら、「帰らねえ」って駄々こねるんじゃねえかと思ってよ。まあ、そんなことはそのときだ。いまは怪我してねえことを祈ることにする」
「そうだね。一応、救急箱は持っているからどんな怪我でもちょちょいっと治すよ♪」
 そう話しながら、貴石の谷の坑道に到着した。
 何もかも飲み込みそうな闇が広がる坑道の入り口。
 ここまで誰ともすれちがっていない。
「ムゥーマは“切り裂く武器を持っているから傷が残っているはず”って言ってたよ。ねえ、幻路。そんな傷、坑道内にあるの?」
「おお、そんな傷なら分岐点にたくさんあったでござるよ。きっと迷わぬようにつけているのでござる。けっこう奥のほうまであるでござるから、もしかするとメイナネッテ殿は奥に行ったのかもしれないでござるな」
 トゥルースは燻らせていた葉巻を踏みつけた。
「行くぞ。無事に帰って、白山羊亭で腹いっぱい食おう」
 食料はもうほとんど残っていない。


■□■


 頭上から落ちた雫の冷たさよりも、目の前に広がる光景を認識することを優先した。嫌でも息をする呼吸よりも地下水によって地面が泥になり足がとらわれてしまったことよりも酸素が薄いことよりも――。

 貴石の谷ということもあり、少し入れば貴石が顔を出し、松明を近づけるとそれらは光り輝いた。
 幻路を先頭に走りぬけ、分岐点があれば壁を見、傷を確認した。途中、真新しい焚き火の跡なども見られ、間違いなく先に人がいることがわかった。それがメイナネッテか、はたまた違う冒険者かはわからない。
 5番目の分岐点で幻路が急に立ち止まるまでは。
「この先で倒れているでござる」
 そう言って黙った幻路は懐に手を入れた。
「おまえも気づいたか」
 最後尾のトゥルースは幻路の傍で立ち、右手を握った。
 なる子は一瞬戸惑ったが、ここで立ち止まるということはアレしかない。
「宝石喰い……」
「気づくのが遅いぜ」
「行くでござるよ!」

 すぐそこに、倒れたメイナネッテがいた。
 すぐ傍に、巨大宝石喰いが鋭い牙を向けていた。


■■□


 なる子の頬に雫が落ちた。
 虚ろな眼差しの前で、カラスに変化した浄天丸に目を潰された宝石喰いが坑道の壁に交わされた一撃をぶつけた。そのせいで岩と粉塵が舞い、埋まっていた貴石がなる子の手元に落ちてきた。思わず握り締めポケットに入れる。
 よく見ると粉塵の中で誰かが動いているのに気づいた。でもなぜか頭がすごく痛くて視界がぼやける。
「これでもくらいな!」
 聖獣装具、ロードハウルを発動させたトゥルースは宝石喰いに一喝。背後にまわり、その大きな頭に拳骨一発。怯んだ隙に幻路は足に向かって鎖鎌を投げた。
 宝石喰いはよろめき巨体を倒した。それでもなお体を揺さぶらせ、頭上から細かい石をパラパラと落とさせ、起き上がろうともがいた。幻路は手に持った爆竹をしまい、投網を投げた。
 これでやっと動きがおさまったが、まだ油断はできない。
 だが、今回の目的は宝石喰いを倒すことではない。
 幻路とトゥルースは互いに合図し、なる子とメイナネッテの体が宙に浮いた。幻路はメイナネッテを。トゥルースはなる子を抱き抱え、来た道を駆け抜けた。
 3番目の分岐点を抜けたとき、宝石喰いはその鋭い牙で投網を食いちぎり、轟音立てて這うように追いかけてきた。
 その音が、2人の耳に届いた。
「……帰ったら、白山羊亭で一杯やるか」
 前を向きながら、トゥルースは言った。
「いいでござるなあ。この宝石を金に換えて、4人でいくのはどうでござるか? これも何かの縁でござる」
 どさくさに紛れて採った貴石を見せながら幻路は言った。
 トゥルースは息を吸いなおし、「しょうがねえなぁ」と呟いた。


〜〜〜


 後日。なる子は幻路とトゥルースに言われてはじめて気づいた。
 宝石喰いが現れてすぐの攻撃になる子は巻き込まれ、気を失ったのだという。
「少しは痩せろ」
「大きなお世話! トゥルースさんだって、少しは煙草を控えたらどうなんですか?!」
「あはは、あんた達って面白いなー!」
 改めて集まった4人は白山羊亭で一番大きなテーブルを陣取っていた。メイナネッテの怪我もなる子の怪我も軽傷で済み、幻路もトゥルースも無傷だったので、この場で怪我をしている者はいない。
「気になっていたんだが、メイナネッテは貴石の谷に何しに行ってたんだ? 気を失っていたから無かったが、目的達成していなかったら駄々こねられるかと思ってたぜ」
「あぁ、それはだな。永遠の炎を探していたんだ。貴重だからな、前々から興味があったんだ。でも結局、この小さな欠片しか見つけられなかった。それに、あんたらにも迷惑をかけてしまった。すまん。目が覚めてからムゥーマにもちゃんと謝ってきた」
 メイナネッテの手のひらで微かな揺らめきを見せる、永遠の炎。それは小さくとも魔力を感じさせた。
「あー、もう今度どこかに行くときは誰かと一緒に行ったほうがいいのかなー」
 椅子に深くもたれかかったメイナネッテは天井を見た。
「そういう人々のために拙者たちは依頼を受けるのでござるよ」
「そういう奴らのために俺らは依頼を受けるんだ」
 視線を戻したメイナネッテにトゥルースはくわえた煙草に火をつけた。




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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3492/鬼眼・幻路/男性/24歳/忍者】
【3255/トゥルース・トゥース/男性/38歳/伝道師兼闇狩人】

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         ライター通信          
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 こんばんは、田村鈴楼です。

 幻路様、引き続きのご参加ありがとうございました!
 微妙にエセっぽい口調が、エセござる口調になっているかもしれませんが、今回は優しいお兄さん、といった感じで書かせていただきました。
 爆竹は、なんだか宝石喰いがさらに暴れそうで自粛させていただきました。
 浄天丸さんも書かせていただけ、当方けっこう和モノと鳥が好きなので楽しかったです。

 トゥルース様、お久しぶりです!
 なんだか心配性な感じになったり、おてんば娘に突っ掛かられたり、宝石喰いに立ち向かったり、なだめたり……いかがでしたでしょうか?
 願わくは宝石喰いを倒す勢いでいきたかったのですが、トゥルース様の慈愛により、倒さないことにしました。
 それでも色んなトゥルース様を見ることができ、楽しく書くことが出来ました。

 本当にありがとうございました。
 五月病など吹き飛ばす勢いで、またシナリオを書きたいと思います。
 みなさま、お元気で。