<東京怪談ノベル(シングル)>
『The angel whom I wanted』
君は一番大好きな人だから、
一番大切な宝物を君にあげるよ―――
The angel whom I wanted Open→
夜の草原を私は走っていた。
満天の星空の下、私は胸にあの人への溢れんばかりの好き、という恋心を溜め込んで草原を走っていた。
月の無い星月夜。
この晩しかないと思ったの。
この恋心。
きっとあの人に口にする事の無い、永遠の私の秘密。
それを届けられるのは、この晩しかないと思ったの。
好きよ―――
言葉にするのなら、たった3文字の言葉。
だけどそれを口にするために必要とするのは、何と膨大な心の力でしょう。
奮い立たせるのはきっと、勇気じゃなくって、望む心。
大好きなあなたと共に生きられる幸せを。
一緒に居られる時間を。
欲しているのは、あなたの愛。
心が望んでしまうのは、あなたに私のこの愛を捧げる事。
私は波。
あなたに私の存在を許して欲しくって、
あなたに私があなたを想う事を許して欲しくって、
あなたの望む私の全てを捧げたくって、
そればかりを請うくせに、
請うてあなたの心に触れるのに、
あなたの心が私の心に触れようとすると、私は結ばれる事に臆してしまう。引く波のように、私はあなたの心から逃げてしまう。
大好きな人の心を欲して、
欲した私があなたに見返りを強要したんじゃないかって愛される事に臆して、恐れるから傷つけて、傷つけてしまった事に自分も傷ついて、そうして私の恋心は固く蕾をよりいっそう閉じてしまう。
捧げたくって、あなたに許される事を望んで、
でもそれを許してくれたあなたの想いが、
私を不安にするの。
臆病な心は、優しさに敏感だから、それを強要してしまったんじゃないかって………
私の好きは、
あなたの笑顔を望むの。
私の好きは、
あなたの幸せを望むの。
私の好きは、
あなたに私があなたを想う事の許しを望むの。
あなたを想う私の好きは、私の幸せ。
あなたに私の全てを捧げる事が、私の福音。
でも、私は、私の感情があなたに見返りを強調して、あなたに無理をさせて、傷つけているんじゃないかって、それが怖いの。
―――臆病なの、私は。愛される事に…………。
優しいお月様が言う様にただ、あなたの優しさに何も想わずに甘える事なんて、臆病な私にはできないの…………。
―――たとえ、私の大好きな優しいあなたが、私にあなたに身を委ねて、ただ、自分の愛情に甘えて欲しい、って、そう願ってくれていても、
私は私の想いがそれを強要したんじゃないかっていう不安や負い目は隠せない。
だから私はあなたの愛情にただ溺れる事なんてできないの。
私の胸にある花は、永遠に固い蕾に閉ざされたまま。
あなたを想う好き、を溜め込んで、大きく成長していっても、
冷たい不安や恐れの雪が、私の心には降り続けるから。
私は星月夜の空の下、草原を走ります。
私は星月夜の空の下、草原を走ります。
私は星月夜の空の下、草原を走ります。
お母さんに昔、教えてもらったあの場所そっくりの場所を求めて。
私は星月夜の空の下、草原を走ります。
ねえ、私が夢に見る小さな私。あなたは今、笑っていますか?
風さんはまだ強くって肌寒いけど、私にはお父さんのマントがあるから平気。
樹さんの根っこさんの寝床から起きて、私はワーゲンワルツの森さんに「おはよう」を言うの。
「おはよう、ワーゲンワルツの森さん」
春の装いに衣装を変えたワーゲンワルツの森の木々さんたちが枝や葉を揺らしておはようの挨拶をしかえしてくれました。
「おはよう、花さん」
小さな水滴を一滴零して花開いた花さんは香り良い匂いで私におはようの挨拶をしかえしてくれました。
ワーゲンワルツの森の動物さんたち、おはよう。
ワーゲンワルツの森の虫さんたち、おはよう。
皆、みんな、おはよう。
私はワーゲンワルツの森を走りながら皆に聴こえるように朝の挨拶をしました。
嬉しいの。朝が。
あのね、春の香りがね、すごいんだよ。
いっぱい、いっぱい、春がワーゲンワルツの森さんの中にあるの。
それに冬眠していた動物さんたちに出会えたのがね、すごく嬉しいの。
たくさんのはじめまして。
はじめましての挨拶の後に皆とお友達になったの。
お友達。たくさんのお友達が春のワーゲンワルツの森さんで出来たの。
それが嬉しいの。
すごく嬉しいの。
私、独りじゃないんだよ。
皆がいるんだよ。
いっぱい、いっぱい、皆がいるんだよ。
それがすごくすごくたくさん嬉しいの。
幸せなの。
春のワーゲンワルツの森。
温かな春の香りに誘われて眠りから醒めた皆に朝の贈り物を私はプレゼントするの。
大好きな皆に贈り物。
感謝を込めて贈り物をするの。
「ねえ、見上げて、春の空の青さを。
その透明な青にたゆたう雲になって私は流れて行きたい。
あなたの元へとだよ。
望む心はこんなにも素敵なのに、不思議だよね。だって、あなたを思う度に、私の胸は痛むから。
切なく。
言葉に出来ないこの感情、どうしたらあなたに届けられるの?
だから私はこの春の空の青を雲になって流れて行って、あなたの胸へと飛び込んで行きたい。
ただ、私は、あなたがこんなにも好きだから♪」
きゅん、と切なく胸が痛みました。
それは夢に見ながら私が泣いてしまった夢の中の大きくなった私を想って。
夢に見ている間は大きくなった私の想いが痛いぐらいに伝わってきました。でも夢から醒めたらその想いは雪さんが木漏れ日さんに消えてしまうようにするすると心から消えて、ただ私は大きくなった私が泣いていた事だけを覚えているの。
「ねえ、夢の中の大きくなった私。あなたはどうして恋をしているのにそんなにも哀しそうに泣いているんですか?」
私は夢の中の大きくなった私を想って、ぎゅっとお父さんのマントを抱きしめました。私にこの優しいお父さんの温もりがあるマントが届いたように、夢の中の大きくなった私の元にもお父さんのマントが届くように。
そしたらきっと、大きくなった私の心に積もる雪さんも溶けてしまうはずだから。
私は歩きました。
またクマさんにクマさんが冬眠の前に溜め込んでいた蜂蜜を分けてもらおうと想ったんです。
ワーゲンワルツの森さんを私は歩いて、
クマさんの所に行こうとしたら、そしたら鳥さんの綺麗な歌声が聴こえてきたんです。
ワーゲンワルツの森さんで聴く初めての鳥さんの歌声。
「この囀りは、」
―――こっち?
私は歌声が聴こえてくる方角を目指して走りました。
桜さんの樹の枝。
淡い薄桃色の可愛いらしい花が咲いている桜さんの樹の枝でその鳥さんはとまっていて、綺麗な声で優しい歌を歌っていました。
黄色い鳥さん。
―――カナリヤさん。
その歌う姿を見たら、私の目から涙が零れ落ちました。
だって、カナリヤのようだね、って、私のお母さんはそう言われていたから。
カナリヤさんの歌う姿を見ていて私はお母さんの事を想いましたから。
私のお母さん。
大好きだった私のお母さん。
いつもお昼は皆の前で心が明るくなる歌を歌っていたお母さん。
夜はベッドで私に優しい子守歌を歌ってくれていたお母さん。
私はいつもお昼のお母さんを遠くから物陰に隠れて見ていたの。
だって私が居たらお母さんが困るの知っていたから。
―――私が居たら、お母さん、困るよね?
怖くて声に出してみた事は無かったけど、
それでもお母さんも昼間、私の隣に居てくれた事は無かった。
お母さんはいつも皆の輪の中で、楽しそうに歌っていた。
昼間のお母さんはずっとずっと遠くにいってしまっていた。
だから私はずっと夜が続けば良いと思っていたの。
ずっと夜が続けばお母さんは私だけの物で、ずっと私の隣で私の為に歌を歌ってくれているから。
ねえ、お母さん。
大好きだよ。
大好きだよ。
大好きだよ。
お母さん、大好きだよ。
大きくなった私。
私にもわかるよ。
私にもわかったよ。
私、思い出したよ。
こんなにも、胸が苦しいんだよね。
こんなにも、胸が切ないんだよね。
こんなにも、寂しくってしょうがないんだよね。
大好きな人に、
世界中で一番大好きで、
誰よりも、何よりも大好きで、優先したい人に、好きだよ、って伝えられない気持ち、こんなにも胸が張り裂けそうなぐらいに寂しくって、哀しくって、切なかったんだよね。
寂しいよぉー。
寂しいよぉー。
寂しいよぉー。
お母さん、寂しいよぉー。
ねえ、大きくなった私、寂しいよね。
世界中で一番大好きな人に好き、って言えないのは、
好き、っていう気持ちが好きな人の重荷になってしまうのは、辛くって、苦しいよね。
―――うん、そうだね。夢の中の幼い私。
瞬く星の海に見た夢。
その夢の中で幼い私は、泣いている私の為に歌を歌ってくれていた。
でもお母さんを思い出させるカナリヤに出逢って、夢の中の幼い私は泣いてしまっている。
―――覚えているよ。
―――忘れてないよ。
ずっとお母さんと手を繋いで旅をしていたあの頃、胸に秘めていた想い。
私、忘れてないよ。
私も忘れてないよ、夢の中の、ちっちゃいシェアト。
忘れてないよ。
でも夢の中のちっちゃいシェアト、あなたは忘れている。
大切な記憶、あったでしょう?
「それを思い出して」
――――それを思い出して。
風さんが運んでくれたの。
大きくなった私の声。
私はその声に青い空を見上げました。
透明な、透明な、透明な、青い空に、真っ白いお月様が浮かんでいました。
優しいお月様。
夜は光の無い世界に優しい金色の輝きをくれて、
昼間も遠い青い空に真っ白い身をたゆらせながら私を見守ってくれているお月様。
なんだかそれが優しいお母さんのようで、私はいつだって寂しい時はお月様に語りかけている。
お月様はいつだって、私を慰めてくれる。
私を優しい光りで、気配で、包み込んでくれる。
青い空に浮かぶお月様に私は泣きながら両手を伸ばしました。
指をいっぱい真っ白なお月様に伸ばしました。
背伸びして伸ばしました。
届くように。
届くように。
届くように。
私の手が真っ白いお月様に届くように。
私の想いは真っ白なお月様の優しさをこんなにも求めてやまない。
私に青い空にたゆたうお月様から届いたのは、昼間のお月様が見ている夢でした。
それは夢。
昼間の青い空に浮かんでいる真っ白いお月様が見ている優しい夢。
幼い私は隠れていました。
森の大きな樹の幹に開いた穴の中に。
隠れん坊。
鬼の居ない隠れん坊。
いいえ、鬼は居ました。
見つけて欲しかった。
見つけて欲しかった。
こんなにも必至に心で唱えている声を聞きつけて、見つけて欲しかった。
見つけてもらいたかった。
抱きしめて欲しかった。
ぎゅっと抱きしめてもらいたかった。
鬼の居ない隠れん坊。
私独りの隠れん坊。
昼間のお母さん。
いつも私が物陰から隠れて見ていたお母さん。
ずっと私のお母さんでいてもらいたかった。
私だけのお母さんでいてもらいたかった。
ずっとぎゅっと抱きついていたかった。
お母さんと一緒に居たかった。
でも、私が居るとお母さんが困るから………。
私が居ない方が良いから………。
そしたらお母さんは好きな人の隣で歌っていられる。
―――それはお母さんにとって、とても素敵な幸せ。
そうなれたら、もっとお母さんは幸せになれるでしょう?
だから私は隠れたの。
私は隠れたの。
お母さんから隠れたの。
お母さんを自由にしてあげるために。
私が好き、って言って、私のその言葉にもう、お母さんが無理してお母さんも好きだよ、って言わなくても良いように。
お母さんが好きだから、
お母さんが大好きだから、
お母さんは私の神様だから、
だから私は隠れたの。
お母さん。
お母さん。
お母さん。
お母さん。
――――――――ミツケテ………………………。
「しぇあと」
お母さんの悲鳴のような声。
いつも楽しそうに歌っているお母さんの声なのに、
それとは全然違う声。
樹の幹に開いた穴に隠れていた私を見つけて、ぽろぽろと涙を零したお母さん。
どうしようもないぐらいに胸がいっぱいになって、私は大声で泣いてしまって、
そして逃げようとした私を、
お母さんはぎゅっと抱きしめてくれた。
それはとても力強くって、
絶対に私を放してくれないぐらいに強く抱きしめてくれて、
春のお日様色のお母さんの髪に私は顔を埋めて、
お母さんを抱きしめたの。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
嫌いにならないで。
嫌いにならないで。
嫌いにならないで。
お母さんに嫌われてしまったら私はもうどうしようもできないから。
大好きな人だから。
世界中で一番、お母さんが大好きな人なの。
だから嫌いにならないで。
嫌わないで。
何千回でも謝るから。
お母さんが許してくれるまで謝るから。
だから嫌いにならないで。
私は泣きながら言いました。
「嫌いに、嫌いにならないで。私の事、嫌いにならないで、お母さん。お母さん。おかあさん」
「ばか。シェアトのばか。シェアトはお母さんの宝物なんだから。だからお母さんがシェアトの事、嫌いになったりする訳が無いじゃない」
ぎゅっと抱きしめられた温もりに、
私は嬉しくって、
安心して、
それで、そのまま泣き疲れて眠ってしまったの。
目を覚まして、
瞼を開けようとしたら、
そしたら私の瞼をお母さんの手が覆ったの。
春の草原。
甘い香りがするお花畑。
そこに私はお母さんと一緒に寝転がっていた。
目をお母さんに手で隠されながら私は言ったの。
「お母さん?」
そしたらお母さんは嬉しそうに笑いながら言ったの。
「私は神様にシェアトっていう私がすごく欲しかった宝物を、私の天使様を頂いたの」
「うん」
私はお母さんのその言葉がすごく嬉しくって頷いたの。
「そして私は、シェアト。あなたのお父さんにも頂いた。お父さんの、お母さんを好きだよ、っていう気持ちと、それからお父さんが一番大切にしていた宝物を。それがこれよ」
そっと私の目からお母さんの手が外されて、
そして私の目の前には満天の星。
星空。
星月夜。
降る様な、幾千幾億、無限の星々の輝き。
「これがお父さんの宝物?」
「そう。お父さんが好きだった風景。お母さんはお父さんにそれをもらったの。そしてね、シェアト。この星空を今度はお母さんが世界中で一番大切で、大好きな娘のあなたにあげる。これが二つ目の、大切な大切な私の天使への贈り物」
「じゃあ、一番最初の贈り物は?」
そう訊ねた私に、
お母さんはひとつの星を指差した。
「シェアト。シェアト、というあなたの名前はね、あなたを守ってくれるお星様の名前から頂いたのよ。それが私からの一番最初の私の大好きで大切な娘への贈り物」
―――名前。シェアト、という名前が、お母さんからの一番最初の贈り物。
私はお月様が見ている夢をお月様と一緒に見ながら泣いてしまったの。
その時に想ったうれしい、っていう感情を思い出して、泣いてしまったの。
お母さんは私を愛してくれていたの。
いっぱい、いっぱい、いっぱい、愛してくれて、
大切に思ってくれて、
その証として、
このシェアト、っていう名前を私にプレゼントしてくれたの。
隠れん坊していた私を見つけてくれて抱きしめてくれたお母さんが流した温かい涙が私の中の雪を溶かしたの。
私の事を、私が欲しかった天使様なの、って言ってくれた言葉が私の中の雪を溶かしてくれたの。
お母さんがお父さんに貰った星空を私にくれた事が幸せだったの。
お母さんの想いが私の中の雪を溶かしてくれたの。
それでね、お母さんがね、その夜にたくさんたくさん私が生まれてからの事をたくさん話してくれたの。
お母さんが私が生まれてきてくれて、どんなに嬉しかったのか、
幸せだったのか、
私にたくさん話してくれたの。
そしてお母さんがね、私にね、
「シェアト。シェアトに私の大切な物をあげる。私の歌を教えてあげる」
歌をくれたの―――。
ねえ、嬉しかったよね、大きくなった私。
お母さんの優しい温もりの中で、嬉しくって、幸せだったよね。
嬉しくって幸せだったよね。
ねえ、大きくなった私。
だから私、大きくなった私がこれからしようとしている事、わかったよ♪
目を閉じると見えるの。
夢の続き。
星月夜の空の下、草原を走る大きくなった私。
私はあの夜、お母さんと一緒にお花畑に寝転んだように白くて甘い香りを香らせるお花畑に寝転んで、両手を星空に向かって伸ばすの。
降るような星に向けて、手を伸ばすの。
心はそれを求めてやまないから。
君は一番大好きな人だから、
一番大切な宝物を君にあげるよ―――
お母さんは一世一代の恋をした。
お父さんと出逢って、恋をして、心と身体は結ばれて、私を授かった。
私は、お父さんとお母さん、ふたりの神様から生まれた恋という感情の、愛という想いの、結晶。
―――だからお母さんは私の事を天使と呼んだ。
そしてお母さんは私にこの星空をくれたの。
大好きなお父さんから貰った星空を今度は私にくれたの。
―――だから、
私も、
こんなにも心の奥底からそれを願うの。
あなたに、
お父さんからお母さんに、お母さんから私に贈られたこの星空を、
私が贈る事。
願ってやまないの―――。
私の好きは、
私の好きだけを、
あなたに贈り届けられる事さえできるのなら、
もう、それで、他には何もいりません。
波が自分だけ人に触れて、
引いていくように、
私はあなたの心にそっと触れるだけでいいんです。
それで私は幸せになれるから。
それで私は嬉しくなれるから。
私の大好きなあなたの幸せそうにしている顔を、
私の大好きなあなたの嬉しそうに笑う顔を、
私は見ているだけでじゅうぶん幸せですから。
だから私はあなたに歌を贈り届けます。
この星空から生まれた歌をあなたに贈り届けます。
お母さんが私が歌う度に幸せそうに微笑んでくれたように、
あなたも私が歌う度に幸せそうに微笑んでくれるから。
だから私は、
私の持っている物全てを私の大好きなあなたに贈り届けます。
大好きな人たちから私が貰った物、
この星空と、
歌と、
人に恋する心、
それを私が歌う歌声に紡いで、あなたに贈ります。
私が見つけた幸せの形。
私はお母さんと一緒に歌を歌う事で、お母さんに好きだよ、って伝えていた。
歌は、
私にとっての愛情表現。
私がこんなにも心から溢れるぐらいに願ってやまないのは、人を愛する事。
私の歌は、愛してもいいですか? そう祈る想いの形なの。
私は人を愛したいと、心の奥底から願うから。
―――愛したいと願うから、愛するという感情にどうしても許しを請うてしまうから、だから逆に愛される事に臆病すぎるぐらいに敏感になってしまうけれども、
でも、もう、この想いは、とめられない…………
私は歌を歌うの。
星月夜の空の下、
かつて一世一代の恋をしたお母さんがお父さんと心も身体も結ばれたあの夜のように、
きっとお母さんも見ていた星の海の美しさを、
私も大好きなあなたに届けられるように、
歌を歌うの。
好きを歌に込めて紡ぎ出すの。
大好きだよ。
大好きだよ。
大好きだよ。
大好きです。
ですからどうかこの星月夜の空の下で、その美しさを大好きなあなたに贈り届けたくって紡ぐこの歌を、歌う事を許して下さい。
―――お父さんからお母さんが貰って、
お母さんが私にプレゼントしてくれた星空を、
大きくなった私は歌にしたの。
お母さんがくれた、私がお母さんと私との幸せな繋がり、ってそう想えた歌に大きくなった私は私が大好きな人にあげられる物全部織り込んだの。
ワーゲンワルツの森。
私はそこで思い出したの。
お母さんが私に抱いてくれたたくさんの好き。
だから私もあの頃の様に、
お母さんの隣で一緒に歌を歌っていたあの頃の様に、
私は、お母さんに好き、っていう感情を贈りたい、そう思ったんです。
だから――――
「ねえ、カナリヤさん。私もあなたと一緒に歌を歌ってもいいですか?」
→closed
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