<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
『やさしいおしおき』
初夏の近づく空は、晴れ渡り澄み切っていた。
木漏れ日の煌きの下、ジュディ・マグドガルは、お屋敷の庭にある木の枝の上で、気持ちよくお昼寝をしていた。
風がそよそよ吹くと、彼女の周りにある木の葉が涼しげな音を響かす。
彼女が持つ隠れ家の中でもこれは絶好に良い場所だった。
「ジュディー! ……ジュディ!」
誰かが彼女の名前を呼んでいる。
やや青みがかった黒い瞳を、ジュディはゆっくり開いた。
「……どこにいるの? 出ていらっしゃい!」
「ママだ」
ジュディは身を潜めようと体を起こすと、枝に腰掛けたまま幹に体を寄せた。
娘の名を呼びながらクレア・マグドガルは、その庭木の足元を気づかずに通り過ぎて行く。
(やったぁ! 気づかれなかった)
安堵して胸を撫で下ろすジュディ。母が去ったら、隠れ場所を変えた方が良いかもしれないと思い、去っていく後姿を確認しようと身を少しだけ乗り出した時だった。
片足が滑り、木の葉の中にざざざっと音をたてて突っ込んだ。危うく落ちるとこだったが、幹にしがみついて事なきを得た。だけど。
「ジュディ!!」
ママに気づかれないわけにはいかなかった。
「全く! この子は!」
お屋敷の食堂で、椅子に腰掛けたクレアの太ももの上に体を横たえたジュディは哀れな姿を晒していた。ドレスのスカートを背中の上までまくりあげられ、下着は膝のところまで下ろされて、母の手でむきだしのお尻を叩かれているのだ。
何度も、強く。
乾いた音が部屋中に響き渡る。
ペシッ、パシッ。叩かれるジュディのお尻はもうすっかり赤く腫れ上がっている。
叩いているクレアの手も赤くなっているが、彼女はそれでも容赦しなかった。
「あなたの為を思っているからこうするのよ!」
「痛いよぉ! ママぁっ!」
悲鳴をあげてジュディは母の膝の上で身悶えた。
「反省するまで許してあげませんっ!」
パシッ!
また叩かれる。ジュディは悲鳴を上げた。
◆
ジュディももう十五歳を迎える年齢になっていた。
表情にはまだまだ幼さが残る彼女だけれど、いつまでもおてんば娘のままではいけないと、クレアは彼女を社交界に入れる為の特訓を決めたのは最近のことだ。
普段は優しく穏やかなクレアだが、テーブルマナーや礼儀作法を教える時はとても厳しい。
その厳しさったら、ジュディ曰く、「鬼そのものっ!」と言わせるくらいなのである。
今日の午前中もそうだった。
朝食の時間と思い、食堂に下りて行くジュディを迎えたものは、前菜、スープ、果物、パンと食器が並ぶ横にずらずらっと並んだナイフ、フォーク、スプーン。
そして彼女の座る椅子の隣には、既にクレアがスタンバイしているわけで。
「おはよう、ジュディ。さあ、今日も頑張りましょうね」
にっこり。
優しい母がこんなにも怖く見えることが今まであっただろうか。
しかもクレアのスパルタ教育ったら無いのである。
「そんなにガチャガチャ音を鳴らしてはいけません!」
「そのフォークはまだ取っては駄目です。順番をよく見なさい!」
「食材を落とすなんてもっての他です!」
そして、そのお怒りモードがバロメーターを突破すると決まって、クレアはジュディをお膝に座らせて、下着をおろさせるとむきだしのお尻にひたすらお仕置きを始めるのだ。
ジュディのお尻はおかげで、ここのところ腫れっぱなし。
しかも特訓はこれで終わりでもない。
やっと朝食を終えたと思ったら、お隣の部屋で今度は歩き方の練習が待っていて、やっぱり叱られて、お尻を叩かれて。
ジュディが溜まりかねて脱走を試みたのは、お昼ご飯の直前だったわけで。
◆
「もうっ!! ママは細かすぎるのよっ!!」
ジュディは隙をついてクレアの膝から飛び降りると、彼女が立ち上がる前に部屋の隅に離れた。もつれて走りにくい下着をそこで戻して、近づいてくるクレアから再び逃れて別な壁際に急ぐ。
「ジュディ! どうしてわかってくれないの?」
真剣な表情でクレアは訴える。
けれどそんなの分からなかった。ジュディは目の前にあった花瓶を掴むと、それを思いっきり床に叩きつける。
「あたしにはこんなこと必要ないっ!」
花瓶の砕ける音が部屋中に響き渡る。
「ジュディ!!」
クレアが一瞬青ざめるのを見届けてから、ジュディは逃げる様に部屋の外に飛び出すと、自分の部屋へと駆けたのだった。
◆
「何よ……何よ……ママなんて大嫌い……」
自分の部屋に戻ると、一気に涙が溢れてきて、ジュディはドアを背にしてわんわん泣き出した。お昼ご飯の直前に逃げ出したのでお腹は空いているし、お尻は痛いし、ママは意地悪だし、自分は不甲斐ないしでもう心がズタボロだ。
(私は冒険者になるんだもの! 社交界なんて必要ないのに!)
父の様な立派な冒険者になることがジュディの夢だ。
社交界など知らなくていい。強くて優しくて格好よくて、男の子だって顔負けしちゃうような人生を歩んでゆきたい。
娘が十五になったからって社交界にみんながみんな進むわけじゃないじゃない。
「なのに……どうして……あたしは……いやなのにぃ……」
膝を抱えて、ジュディは涙を零し続ける。
どれくらい泣き続けただろうか。涙はいっこうに収まらなくて、ひくっ、ぐすっと肩を震わすジュディに、扉の外から優しい声が聞こえてきたのだ。
「ジュディ……ご飯を持ってきましたよ。お昼がまだだったでしょう……?」
クレアの声だ。
ジュディは座ったまま扉を背中で押して、叫んだ。
「また……マナーの練習とか言うんでしょ? それならいらない!」
「マナーはいらないわ。だってサンドウィッチですもの」
「サンドウィッチ?」
クレアの言葉にジュディは心を揺さぶられた。ますますお腹が空いてきた気もする。
だけど。きっとここを出たら、クレアはまた怒り出したりするのかもしれない。
「……いらない……」
小さな声で呟くように返す。
クレアは「そう……」と残念そうに呟き、けれど、ドアの向こうにコンッと皿が置かれる気配がした。さらに彼女はジュディのこもっているドアの外にゆっくりと座り込んだ。
「ジュディ……少し話をしましょう」
「……」
押し黙るジュディ。冒険者になりたい、という自分の夢を話したら、きっとクレアは怒るに違いない。どうしたらいいのだろう、とジュディはぎゅっと目を瞑った。
けれどクレアの言葉は予想外なものだった。
「……あなたが冒険者になりたいと思っていることは知っています、ジュディ」
「!」
ジュディは顔を上げた。
クレアの優しい声は、さらに続けた。
「だってあなたは私とあの人の子供ですもの……そう目指すだろうとわかっています」
「……ママ」
ジュディの瞳から涙が再び溢れた。
「それならママ……どうして、あたしに……」
「必要だからです。冒険者に必要なものは剣や魔法や勇気ばかりではないの、ジュディ。時には礼儀作法やしっかりとした食事のマナーも、あなたの冒険を必ず助けてくれます。私を信じてちょうだい……ジュディ」
「……!」
知らなかった。
ジュディは瞳を大きく見開き、それから扉を自分から開けて、外に座って話しかけてくれていたクレアに抱きついた。
「ママ、ごめんなさい!! あたし、あたし……!!」
クレアは分かってくれていた。
冒険者になることも許してくれていた。そしてそのために色々教えてくれていたのに、あたしったらそんなことも気づかずに。
ジュディはクレアの胸の中で涙しながら、申し訳なさと恥ずかしさでたまらなくなっていた。
「ママ……お願いがあるの」
「なんですか? ジュディ」
クレアを見上げて、ジュディは少し恥ずかしそうに頬を染めた。
「あたし、ママの気持ちをぜんぜん分かってなかった。だから、これから、今まで以上にあたしを厳しく躾けて下さい。どうか、お願いしますっ!」
クレアは目を細める。
「厳しく躾けていいのね?」
「はいっ! ……あっ」
ジュディはクレアから一歩下がると、彼女に背を向けた。そして自分で下着を膝まで下ろして、スカートを持ち上げる。何度も叩かれたお尻はもう真っ赤に腫れていて、とても痛そうだった。
けれど恥ずかしさと、クレアへの感謝の気持ちを込めて、ジュディはゆっくり告げた。
「どうか……お願いします」
「わかったわ。厳しく……いきますよ」
「はいっ……」
ぴしっ! ぴしっ! クレアの白く長い上品な指がジュディのお尻を何度も叩く。
痛みを堪え、ジュディはまぶたをぎゅっと瞑った。
乾いた音はそれから暫く続いたけれど、ジュディは今度こそ最後まで耐えたのであった。
◆
翌朝。
お屋敷で誰よりも最初に起きて、屋敷の窓を開けるのを日課としているクレアは、昨日ジュディに歩き方の作法を教えた広間に、先に起きていたらしいジュディが立っているのを見つけた。
「おはよう、ジュディ。……こんなに早くどうしたの?」
「おはよう……ママ」
壁際に立つジュディは、昨日割ってしまった花瓶があった場所にいた。
「あたし、この花瓶を割った罰、受けていなかったから……叱ってもらおうと思ったの」
「……ジュディ」
感心するクレアの前で、ジュディは下着を下ろした。
そして赤くなったお尻を彼女に見せて、懇願するのだった。
「ママ……あたし反省しています……。だから罰をお与えください……」
おわり。
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