<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
臥龍亭日誌
アナタがいるのは臥龍亭の前。
旅の疲れを癒す為に泊まりに来たのか。
シェルの料理を食べに来て雑談をしに来たのか。
それとも臥龍やギルを誘って白山羊亭の冒険メニューにトライするのか。
この日の行動を決めるのは勿論貴方次第…
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午前中でも賑やかな天使の広場には老若男女、多種多様な種族が行きかっている。
天使の像が掲げられた噴水を中心に放射状に伸びる幾つかの道の先には、それぞれ王立魔法学院、コロシアム、エルザード城、エルファリア別荘、ガルガントの館、アルマ通り、そしてベルファ通りがある。
ベルファ通りは朝目覚める者たちと入れ替わるように眠りにつく。早ければ昼下がりにはちらほらと活動開始する者もいるだろう。
もっとも、それは店屋の女たちではなく、自分の家に帰る客の方なのだが。
朝市も仕舞いの時間。そんな時分にベルファ通りに向かって走っていくのは虎王丸(こおうまる)。
前回の様にこそこそはしていない。
何故なら今回は相棒の蒼柳・凪(そうりゅう・なぎ)が普通に同行しているから。
こそこそはしていないのだが、白山羊亭の冒険メニューにトライしようと臥龍を誘いに行くと言った時点で、何か企んでるのかなーと思った凪だが、冒険メニューはゲームではないわけだし、仕事と言えば仕事だし、日々先立つ物の確保は大事なことだし、虎王丸のこのノリはいつものことだから気にしても仕方がないなと自己完結。
話を振った虎王丸としては、前回の臥龍とシェレスティナを取り巻く雰囲気が只ならぬもので、関係が深そうだとちょっと興味を持った。
彼女の前では聞けなさそうな、彼女の好みとか聞けそうだし、毎度おなじみギルディアよりは取り分を要求しなさそうだと踏んだから。
「シェールちゃーん!」
元気よく臥龍亭の扉を開け放ち、真っ先にシェルがいるであろうカウンターへ視線を向ける。
「あら、いらっしゃい。虎王丸さん凪さん。今日はどんな御用向き?」
カウンター越しのエンジェルスマイルにくらりとした虎王丸を見て、凪は呆れて溜息をつく。
「っと、今日は白山羊亭の冒険メニューやろうと思ってさ!そんでもしよければ臥龍ちょっと貸してほしいんだけど」
「いいわよ、今日は忙しくもないからどうぞどうぞ」
サンキューといいついでにカウンターににじり寄り、昼の弁当を作って欲しいとねだる虎王丸。
「お前な…そんな無茶まで言うんじゃねーよ」
「だ〜ってよーシェルちゃんの飯、超美味いじゃん?運動した後にシェルちゃんの手料理なんてまた格別。 だからお願い!」
犬耳と尻尾が幻覚で見えそうなおねだりっぷりに苦笑しつつ、わかったわと手を差し出す。
「ん?」
思わず状況からしてお手をしそうになって、やり場のない手がわきわきと微妙な動きをする。
そんな虎王丸にシェルはにっこり微笑んでさらりとのたまった。
「臥龍の貸し出しはタダですけど?お弁当はちゃ〜んと料金いただくからヨロシク」
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白山羊亭に赴いた三人は早速ルディアの案内で冒険メニューを開いた。
「ん〜…冒険ってか、人探しとか物探しとか……なんつーか」
「…人探しはともかく、雑事な印象が強いのが多い、な」
「……」
会話終了。
というよりも全く会話に加わろうとしない臥龍のせいでもあるのだが。
「臥龍はさ、どれか受けたい依頼あるか?」
それとなく冒険メニューを見せるが、好きにしろと一言返すだけ。
どこか機械的で感情らしい感情も、先日見た彼が嘘のように実に素っ気無い。
命令を待っているかのように時折視線を送ってはくるのだが、凪はそれにどう対応してよいか分からず、毎回苦笑しか出てこない。
人工生命体。しかも戦闘に特化した型の。
あっけらかんと話すシェルや虎王丸にも驚かされるが、如何せん接し方に困る。
一方的な感じの強い虎王丸と現時点で自己主張ゼロの臥龍。
両極端な二人の意思の疎通を図りたいというか、何かしら橋渡しのような役回りが出来ればとは考えるものの、何とも前途多難な印象を受ける。
「と〜りあえずさ、バーッと体動かせる奴がいんじゃね?失せモノ探しって得手不得手激しいしよ」
己を割とよく知っているな、と思わずその意見に頷く凪は、戦闘特化型の人工生命体である臥龍も、ある種虎王丸と似た部分があるのではと思い、一先ず二択で聞いてみることにした。
「臥龍はどっちがいいか選んでくれるか?盗賊退治か失せモノ探し」
まず彼自身の意見を聞きたい、そう思って臥龍は、と強調してみせる。
するとどうだろう、示された冒険メニューを凝視し、ものの数秒黙ったかと思えば一言はっきり盗賊退治と返してきた。
思えばこの数秒は依頼の内容を確認していたんだろうな、と、何故か教育している気分になる。
「じゃあ決まり。この盗賊退治にしよう」
■
エルザードから少し離れた所の峠道、ちょうど峠を越える辺りで盗賊によって資材が強奪され、抵抗を試みた者は死、もしくは重傷を負って伏せっていると聞く。
「なんつーか…言っちゃ悪いが…こう、ベタな感じだよな」
頭をかきながら依頼内容を読み返す虎王丸。
「そりゃあ確かにそう言いたくなるほど似たような事が多いのは認めるが…それだけ外の治安は不安定だと思うべきだ。それに資材ってアレだろう?他の街からの特産物とか金品とか、峠を叩くってことは放置しとけばそれだけ王都の物流にも幾許か支障が出てくるはず」
王都内で満足な食事もできなくなるかも。そう呟くと俄然虎王丸はやる気を出す。
「そーゆートコ、お前らしいよなぁ……」
やれやれと溜息をつく凪。
「ところでさぁ、臥龍?シェルちゃんの好きな食べ物とか場所とか知ってる?」
目的地に向かう道中、虎王丸は後方を歩く臥龍を振り返り、唐突な質問を投げかける。
「本人に聞けば済む話だろうに…」
そんな風に言ってみるものの、虎王丸なりのコミュニケーションのとり方なのだろうか、と、凪はふと考えた。
戦闘以外の共通項が臥龍亭のあの少女以外ないというのも、これまた話を振りづらいものである。
こんな他愛のない話でも乗ってくれるならそれはそれでいいことだろうとも。
二人揃って臥龍の反応を待つ。
「―――先日の行動パターンより推測。結果、好きな食べ物は許可、場所は却下。好きなのは甘いものだ。果物でも菓子でも」
「お菓子や果物か……って…その前の何だよ」
臥龍の回答から反芻した凪は思わず噴出してしまった。
「な!?」
「おまっ…こないだのことしっかり覚えられてんじゃないか!」
腹がよじれそうになりながらも、凪は馬鹿笑いしたい衝動を抑えている。
「こないだ…………」
「宿の部屋」
そこまで言われてようやっと思い出したようで、ああ、と手を打つ。
「てか!何でそこまで根に持つかな!?」
確かに些細なことかもしれないが、臥龍にとってはそうではないらしい。
マスターであるシェルの危機に即座に反応するよう設定されているがゆえに、その「危機」にもパターンがあるようで。
「声の周波数から計測してその状況を判別し、悲鳴の項目も幾つかに分類される。簡単なものから挙げれば「嬉しい驚き」と「困る驚き」とかな」
「つまり――…あの時シェレスティナがあげた声は後者だったから飛んできた。そういうわけか」
なるほど、と凪は納得した。
「それと好きな場所を教えないのが何の関係があんだよ!?」
「…好きな場所に連れてってあわよくばこないだみたいなことしようと思ってるって思われてるからじゃないのか…?」
虎王丸の表情や仕草が僅かにぎこちない。
図星かよ。
「正しい見解だ」
だから教えないと回答した。臥龍はそう答えた。
苦虫を噛み潰したような顔でぐうの音も出ないようだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ファイト俺!」
一人足早に先を進んだかと思えば、途中で立ち止まり自分に喝。
めげないなぁと、凪はそのポジティブ思考を素直に賞賛する。
そうこうしている内に山沿いの道に入り、緩やかな傾斜を一行は登って行く。
「腹減ってきたな…」
そんな台詞とほぼ同時に虎王丸の腹の虫が豪快に鳴る。
虎王丸ほどではないにせよ、凪も少々腹が減ってきたのは事実だ。
「じゃあこの辺で昼飯にしようか。どうせ上まで行けば昼飯どころじゃないだろう」
むしろ昼飯を抱えていることで普段どおりの動きが出来るかどうかが心配だ。虎王丸が特に。
虎王丸と凪がシェル特製の弁当を広げて食べようとしたその隣で、臥龍は昼飯に手をつけず周囲の気配を探っている。
「食べないのか?」
臥龍の分だと持たさされた包みを差し出すが、先に食ってろと言って手近な岩場にもたれかかった。
食事時が一番狙われやすいのは自然界でも何処でも同じだから。
「てかホントお前小食だよな。シェルが持たしてくれたお前の分、凪より少ねーんじゃね?」
小柄とはいえ凪もいっぱしの少年。虎王丸のような大食漢ではないにせよそれなりに食べる。
虎王丸よりもはるかに体格のよい臥龍が自分よりも少ない食事で果たして維持が可能なのだろうか。
況してやこれから盗賊退治に行こうとしているのに。
「――燃費はかなりよく造られているから、少量の食物と水分があれば事足りる。気にせず食え」
必要以上に摂取すると臓器に負担がかかって運動能率が下がると、もっともらしい回答だ。
「んじゃお言葉に甘えて」
彼の分を渡して、凪は自分の分を食べ始める。
塩漬け肉の入ったバゲットサンドが一本とお茶の入った皮袋。
ちなみに虎王丸は凪より長いバゲットが三本と二周りほど大きい皮袋。
長い付き合いながらよくこんなに食えるものだと、端目に見ていて感心してしまう凪。
「――美味しい」
これから戦闘に向かうというのに何とも朗らかな気分だ。
「ぷはっ!やっぱシェルちゃんの飯は美味いや♪」
見るからにご満悦な表情で早々と完食し、臥龍の所に向かった。
「俺済んだから臥龍食えよ。次俺がやっから」
虎王丸なりの気遣いなのだろう。彼の言葉に臥龍は素直に従い、彼の座っていた居場所に移動し、包みを開いた。
中身は何も挟んでいない小さなバゲットと干し肉の塊、そして酒の入ったボトル。
「―――昼間ッから?」
「酔いはしない」
妙に渋い昼飯を無言で豪快に食べ始める臥龍に、見張りをしながら虎王丸が話しかける。
「そういや、お前、服はシェルちゃんに洗って貰ったりしてるのかよ?」
にやにやと明らかにからかい半分な質問に、どう反応するんだろうと凪もちょっと興味を惹く。
虎王丸から聞いたギルディア・バッカスなる人物は泊り客だというし、実際あの宿屋の経営しているのはシェルだ。
臥龍はあそこの用心棒のようなものだと聞いている。
あの風体から自分で掃除洗濯炊事などをしている姿はとてもじゃないが想像つかない。
ともすれば、やはりシェルが一切合切世話を焼いているのだろうか。
「…依頼から帰ったら風呂に入れとは言われるが、装備の洗濯は不要だ。自己修復及び改造修復できるようプログラムされてるからあえて人のように衣服の洗濯をする必要はない」
そういってコートの裾を持ち上げ、ビリッと大きく引き裂いた。
「なっ…」
目の前でいきなり衣服を引き裂く臥龍の行動に凪は驚いた。
「よく見てろ」
敗れたところを凝視していると、無数の糸が破れ目から出てきて反対側から伸びる糸と結びつき、引き合い、やがて元通りになる。
まじまじと見ても縫い目もほころびもなく、破る前と全く変わらぬ状態になっている。
「俺の肉体構造上、戦闘時にはどうしたって衣服の破損は避けられん。戦闘のたびに衣服を新調するのは面倒だからな。服も込みでの製造だ」
そういえば、先日の一件でも腕から鎖鎌のようにとび出ていたあの物体をしまった後でも衣服に損傷はなかった。
どうやって、どこから出し入れしているのか少々疑問だっただけにこうやって説明を受けるとなるほど納得である。
それに使われている技術に関しては、恐らく説明されても理解不能な気がするのであえてそこは何も言うまい。
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「…やだね〜…こうあからさまにやられっとさー」
峠が近づくにつれて、目につくところにある木々や岩に、刺さったままの矢であったり何だったりと人目見るからにこの場で何かあったと連想させる物がゴロゴロある。
「ここまでやられると盗賊が出ますと告知してるみたいだな」
傷ついた木がそのまま立ち枯れて、何かの拍子に道の方へ倒れれば更に通行人にとって不利になる。
「見通しが悪いのも盗賊共にとって都合がいいようだ」
臥龍が見上げたその先には、自然とは思えない明らかに人為的に置かれたであろう岩が幾つも崖の端にあった。
崖の上で待ち伏せられて岩でも落とされようものならたまった物ではない。
既にここも盗賊達のテリトリー。
三人は気を引き締めて先を進んだ。
そこから少し行った辺りで丁度峠に差し掛かった。
流石に野郎三人組がのこのことこんな所で屯ってる姿を警戒しないはずはない。
「――――…5、8…13……20…こんな狭い峠道を攻めるにしちゃあ、随分数多いな」
自分たちに向けられる殺気の数を全身で感じ取る虎王丸は、刀に手を添える。
「殺気駄々漏れな分、頭数だけの連中だ。己の腕を過信するわけではないが、むき出しの殺気を向けてくる輩に大した奴は少ない」
見た目丸腰の臥龍ははっきりとした口調でそうのたまい、岩肌に凭れかかる。
すると、この明らかな挑発に乗った連中がわらわらと姿を現した。
「お〜ぉ、それっぽいのが雁首そろえているわ、いるわ」
三人を取り囲むように現れた盗賊達をくるりと一望し、先ほど確認した殺気の数と照らし合わせる。
出てきたのは16名。
殺気むき出しでも挑発にかからない輩は伏兵に回ったか。
「援護頼むぜ!」
「分かってる!」
抜刀した刀に白焔を纏わせ、虎王丸が構える。
それと同時に凪は援護射撃の準備を整える。
二人が戦闘態勢に入ったその横で、未だ腕組みしたまま全く体勢を変えようとしない臥龍は時折チラリと上下左右に視線を向けるだけ。
こちらが様子を伺うと、まるで援護は不要と言わんばかりの目で見やる。
その時だ。
頭上から臥龍目掛けて岩が落下してくる。
「臥…」
声をかけるのとほぼ同時、臥龍の左腕から出たあの鍵爪が落ちてきた岩を両断し、岩を隠れ蓑に襲い掛かってきた伏兵を跳ね飛ばす。
その様子に盗賊も一瞬怯む。
恐らく臥龍自体が魔物のように見えているのだろう。
「気にしなくても大丈夫みたいだな、こっちはこっちでやっちまおうぜ」
「あ、ああ…」
本当に大丈夫だろうかとついつい凪は心配してしまうが、見ている限り本人よりも盗賊の生死を心配した方がいい気がしてきた。
伏兵がやられたことで盗賊達も小手先三寸な戦法で攻めるよりも人海戦術に切り替えたようで、隠れていた連中までも一斉に襲い掛かってきた。
「うらぁっ!!」
白焔を纏った刃が一閃、盗賊達を焔が包み、死角から迫る敵を凪が撃ち、怯んだ隙に虎王丸が斬り込む。
連携のとれた二人は次々と盗賊をねじ伏せ、臥龍もそれに続くようになぎ払っていく。
「…なんか振り返るのが怖いな…」
「…見ねー方がいいと思うぞ…」
背中や左腕から何本も例の鍵爪触手が出ており、臥龍自体が本気で魔物にしか見えない。
しかも俄かに暴走しているように見える為、迂闊に近寄れない。
「あー…そーいや…言ってたっけな…」
「誰が何を?」
「戦闘モードに入ったアイツに近づくと仲間まで攻撃するから絶対近づくなって」
当然言ったのはシェル。
「そういうことは先に言え!!」
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「お帰りなさい、どうだった?」
若干二名が疲労困憊しており、一人が何事もなかったかのようにいつもの場所に座る。
「…と、とりあえず」
「とりあえず?」
「腹減った…」
ぐってりとカウンターに突っ伏す虎王丸と、同じくその横でぐったりしている凪も、食事と水を要求した。
「…その様子だと、また暴走してたっぽいね?」
「……もし次があるなら、注意事項はそっちじゃなくてこっちに言ってほしいかも…」
今回精神的に一番疲弊したであろう凪は、今日一番の深い溜息をついた。
―了―
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1070 / 虎王丸 / 男性 / 16歳 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 男性 / 15歳 / 舞術師】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、鴉です。
【臥龍亭日誌】お二人揃っての二度目のご依頼、有難う御座います♪
お二人の掛け合い+臥龍に興味がおありの凪さんには彼についての情報をちらほらと。
シェルが直接絡んでいなければ割とクールで大人しい臥龍でした。
そしてシェルにアタックしようとする虎王丸さんにはささやかなエールを送りつつ(笑)
ノベルに関して何かご意見等ありましたら遠慮なくお報せいただけますと幸いです。
この度は当方に発注して頂きました事、重ねてお礼申し上げます。
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