<東京怪談ノベル(シングル)>
・・・戦士のサンダル・・・
とある日の昼下がり、一人の筋肉質で背の高い半裸の旅人、ガイ(3547)が山道を歩いていた。いや、というか迷っていた。
「やべぇなぁ、次の街への道がわかんなくなっちまった。どっちへ進めばいいんだかさっぱりだ」
山道で迷った。ということはともすれば遭難。ということであろう。だがしかし、
「ま、此れも修行だな!とりあえず飯でも探すか、腹が減っては修行は出来ぬっ!ってな」
迷っているはずなのに、何故か明るい。この男、細かいことは気にしない性質らしい。
異界人の大地の民という種族であるガイは、元々自然と共に暮らしていたため、このような状況はごく自然のことなのだろう。
そして、少し遅い昼飯を探している最中に、一人の男とであった。
その男も、ガイに負けず劣らずの大男、あちこちに傷のある鎧を身にまとい、大きな斧を携えている。まさに歴戦の戦士、といった男である。
『ん?あんたこの辺じゃ見かけねぇ奴だな。一体全体こんなところで何してんだ?しかもそんな格好で』
「俺は世界各国を渡り歩いてる大地の民のガイってんだ、悪いが道を教えてくんねぇか?道に迷っちまって次の街がどっちにあるんかわかんなくなっちまったんだ」
迷ってる。そう言ったはずなのにやたらと笑顔のガイに男は笑いながら答えた
『ハッハッハ、面白い兄ちゃんだな。近くの街へならここを真っ直ぐ下ったところに道があるから、そこを道なりに進めばいいぜ。ああ。そうだ、この辺には、この山の主にあたるモンスターがいるから気をつけてな』
「分かった。ありがとう。それじゃ俺は行くぜ」
ガイは男に礼を言うと、裸足とは思えないスピードで下っていった
男と別れてからしばらくたったころ、ガイは男に教えてもらった街道についていた
「あのおっちゃんに感謝だな。おっちゃんに会ってなかったら、まだ俺は山ん中でうろうろしてただろうしな」
と、そのときである。かすかにあの男の悲鳴のようなものが聞こえたのである。そして微かに匂う血の臭い。常人ならこんなところまで匂いがわかるはずがないが、大地の民であるガイは嗅覚も発達しており、嗅ぎ分けられるのである。
「まさか、あのおっちゃんの身に何かあったんじゃ!?」
困っている人を放っておけない性質でもあるガイは、今来た道をすぐさま引き返し始めた。そして、そのスピードは下ってきたときよりも速い速度で進んでいた。親切にしてくれたおっちゃんに何かあったんじゃないか。そう考えると自然と足が速くなるようだった
男と別れた場所に戻ると、そこには争った後があった。
太い幹についた爪あと、切り落とされた枝葉、あちこちにある血痕。ここであの男が戦ったことは間違いない。だが、どこにも男の姿も戦ったはずの相手の姿がない。何かないかと辺りを見回すと、先ほど男が履いていたサンダルを見つけた。ガイは自分の嗅覚で男がどちらに行ったのか見つけようとそのサンダルの匂いを嗅いだ。そしてあまりの臭いに卒倒しそうになった。鼻が効く分匂いも強烈となるのだ。だが、男のために必死で意識を保ち、サンダルの匂いを嗅ぎ分け、どちらに向かったかを割り出しのだった。
男は山の奥のほうに進んだらしい。そして、男の足の匂いとは別の匂いも同じ方向に進んでいる。男のものとは思えない大きな足跡や血の跡もある。ガイは必死で追いかけしばらくすると、巨大な熊のモンスターがあの男を咥えているのを見つけた
「おっさん、今助けるからな!!」
言うが早いかガイは熊の正面に飛び出すと、熊の爪が飛んできた
『グルルァアア!』
だが、ガイは怯まなかった。熊の爪を避け、懐に入り込むと熊の横っ面に思いっきり拳を叩き込んだ。熊は打撃には強いはずである。特にモンスター化しているのだからなおさらであろう。だがそれでも熊はその一撃でよろめき、男を落とした。ガイは男を受け止め近くに下ろすと、すぐさま熊へと向き直した。
「今のはおっさんがいたから手加減してやったんだ。次は手加減無しだ!」
自分の獲物を奪われた熊は激昂し、ガイへと突撃してきた。だが、ガイは熊を受け止め持ち上げると、近くにあった岩へと背中から叩きつけた
熊も此れはたまらない、仰向けで痙攣しているところへガイの全力の一撃が決まる。岩をも砕く衝撃が熊の体を打ちのめし、その一撃で熊は絶命した
熊を倒し、倒れている男のところへと駆けつけ様子を見ると、意識はあるようだが体中から血を流している。特に腹の傷が深そうだ。その場で応急処置を済ませると、どこか休ませる場所がないか見渡すが、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。そこで、ミノタウロスの腕輪を使い周囲を照らして見渡すと、近くに洞穴(恐らく先ほど倒した熊の棲家であろう)を見つけた。
そこに男を連れて行き横にしたところでガイは男の傷を治すために己の能力を使おうとした。だが、この能力は万能ではない。治す傷に応じた痛みを対象に与えてしまうのである。
「おっさん、おっさんの傷は今すぐ治さないと危ねぇ。だが、俺の治癒法だとこの傷の深さだととんでもねぇ痛みがいっちまう。だから我慢してくれよ!」
男が微かに頷くのを見ると、ガイはすぐに治療を始めた
治療が終わったとき、あまりの痛みに気絶することも出来なかった男が、ほっとした所為かとうとう気を失った。ガイは男の足の匂いを確認(やはりとても臭かった)し、拾ったサンダルがやはりこの人のものだということを確信して男の荷物のそばにサンダルを返した
その後、一晩中看病した甲斐もあり、夜が明ける頃には男もすっかり回復していた。男から倒した熊のモンスターについて聞いたところ、どうやらアレがこの辺りの主だったようで、賞金もかけられていたらしい。男から感謝の言葉と熊の賞金を受け取り、ガイは再び旅立つのだった。
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