<PCクエストノベル(1人)>


ヤーカラの里へ

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【3544 / リルド・ラーケン / 冒険者】

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 夜闇に舞うのは一匹の竜。
 人と竜と、その存在は半分ずつ。



 龍の字を持つ者らが住まう地の一つに、ヤーカラの隠れ里という場所がある。龍人と人が共存しているという噂は様々な思惑の人間をこの地に到らせる。周囲は岩場に囲まれた山岳地帯であり、滅多に人が訪れることはない。しかし、龍人の里が近くにあるという噂から、純たる目的であるという縛りを抜かせば全く人が訪れないということはない。何を純たるとするかにも、屁理屈は通りそうなものであるのだが。
 その日も里の見張り場に、一人の少女が立っていた。手には双眼鏡もなく、目を細めて遠くの岩場を視界に収めている。
「……驚いた。血族以外の龍の者をこの目で見るのは、久方振りかな」
 少女は彼方の方へと向けた黄金を一層と細める。風が吹く度に頬に掛かる髪の毛を無感情のままに耳の後ろへとやりながらも、意識を集中させる。
 視線の先にいるのは、対峙する二者。二者、と安易に一対一と称するのは語弊があるかもしれないと思いながら、考えるよりも先に飛翔を開始する。初めに少女の下された命は余所者の排除であるのだが、見る限りでは一方は自身らの側に近い。厳密に言えば異なるのだろうけども、という前置きは必要であるのだろうが、それを気にしていたところで何か得をする部分はここにはなさそうだ。
 向かう先に立つ一人は、黒髪に青い眼。色は、白い方。細身な体で、剣も同様に細身のものを手にしている。性別は、女性特有の丸みがないという点での判断になるが、男だろうと思われる。片目に眼帯をしていたが、それはどうも視力の悪さから来ているようには思えなかった。

「俺の弱点はここだ。しっかり狙え、しっかりぶっ壊せ。……俺がおまえらを殺し尽くすまでの瞬きもさせねぇ短い時間に、おまえらがそんな妙技を出来るっつー話ならな」

 青年は片手に剣、突き出した親指で自身の胸を差す。余程の自信から来るものなのか、それとも壊れているかのいずれかであるし、その両方かもしれない。
 合い見える一方。少女からしてみればお馴染み反龍派の一つ、名前が長くて噛みそうなものが故に既に忘れてしまったのだが。数は十程度。
 戦闘は一瞬。少女が青年の下に辿り着く頃合には既に戦闘は終結しており、反龍派が敗北するという予想通りの結末に帰結していた。
 血だまりの中を音を立てて進み、少女は青年の前に立つ。少女は翼も尾も隠していたが、既にその存在が何者であるかは直感で感じ取っていたように、青年は驚くよりも先に嬉しそうな顔になっていた。探していたものを見つけたような、子どものような顔に。
「おまえ、ヤーカラの里の龍人か?」
「いかにも。先程我が領土に近付く竜を見かけ監視していたのだが、どうもここらに降り立ったようでね。気になって足を運んでみた次第。して、貴公がその竜か?」
「竜と言われれば竜だが、厳密に言えば違ぇよ。竜のカタチもするし、人のカタチもする。その点ではおまえら、ヤーカラの里の龍人と同じだと言えるかも知れねぇが、でも、おまえとは違う」
「それでも、やはり似ているね。異なるけど、とてもとても似ているよ」
 少女の言葉に、青年は瞳孔を細くした。色は黄金。少女の色と寸分違わぬ色への変質に、意を得たりとして少女は笑った。
「名と用を申せ。内容によっては、斬る。或いは上の者と会っていただく」
「一方的に命令されるのは癪だが、ま、いいとするか。名前はリルド・ラーケン、用件は竜の力の制御方法を知るためってとこだな」
「竜の力の制御? 先程申したように遠目に見た際、貴公は竜の姿をしていた……否、竜のカタチをしていたとでも言うべきか? それをどう呼ぶかは置いておくとしても、制御は出来ているように見えていたが」
「あのカタチは消耗が激しいんだよ。あと、土地柄によっても力の具合が違ったり、中途半端に大怪我すると暴走するし、今まででも何かと問題がある」
「常識として、それくらい餓鬼の頃に学ばないのか?」
「生まれ付いてのもんじゃねぇし、教わる相手もいねぇ」
 なるほどな、と少女は頷いて、リルドの顔を下から覗き込む。見上げる少女の瞳はやはり黄金の色をしており、存在としてはリルドと似たような立場にあることは明らかだった。
 そして唐突に龍の者は腰に差していた二振りの刀を両手に握り締めると、クロスに構えた。そして一方の刃先を、リルドへと向けた。
「さてリルド」
 にぃっと微笑んで、少女は言う。
「我が里に案内しようと思うが、その前にここは一つ実力を見たい。本当に龍人であるか、それとも竜の子であるかこの黄金で判断をしたいと思う。早い話が単に、刃を交えてみたいだけなんだけどね」
「いいぜ。俺としても、龍人の力をこの手で感じて見てぇしな」
 にぃっとリルドも嗤う。
 リルドが熱い戦いを好むように、少女らの血族もその傾向が強いらしい。龍人にも派閥があり、その派閥によって戦闘や全てのものに対する考えは変わらないものの、戦闘に置いて血が騒ぐというその一点においては変わりがない。
 腰から細身の剣を抜き、二者が対峙する。

 剣同士の鬩ぎ合う音にどこからともなく笑みが零れる。



「――ああ、その戦い方は真に、とてもとても我らに似ている」





【END】