<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


『パラシュート花火実験』

「オリジナルの花火が欲しい?」
「そう! 山道で迷った時とかにね、バーンて打ち上げるの」
 キャトル・ヴァン・ディズヌフという少女が、黒山羊亭の踊り子、エスメラルダに付き纏っている。
「それなら、発煙筒使った方がいいと思うけれど」
「ダメダメ、煙なんか出したら、火事と間違えられるじゃん! 迷った時じゃなくてもさ、元気が欲しい時なんかに打ち上げたいんだ。売ってる花火って小さいのばっかだろ? ねえ、祭りの花火ってどうやって作ってんの!?」
 店内は賑やかだが、彼女の明るい声は一際大きい。
「あれは、専門の花火職人が作ってるのよ」
「その人に頼めば作ってもらえるかな?」
「それはどうだか……あ、でも、そういえば……」
 エスメラルダは依頼書の束を取り出し、捲って束の中から紙を一枚引き抜いた。
「あったあった。花火職人からの依頼」
「なになに?」

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
当店は、花火大会の目玉として『美女5傘パラシュート打上げ花火』を行なう予定です。
そのため、実験に参加してくれる方を募集しています。

男女不問。
耳栓持参。
飛行手段のある方尚可!

尚、当実験による負傷等につきましては、当方は一切の責任を負いません。
自己責任でご参加ください。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

「う、打ち上げられたーーーーーい!」
 カウンターにバンと手をついて、キャトルは大声を上げた。
「花火だから、爆発したりはしないんだよね? ね?」
「さすがに、人が入る部分は爆発しないように作ってあるでしょうけれど……危ないし、痛いわよ、きっと」
「平気平気ー。一応超回復薬持っていくから〜」
 エスメラルダはキャトルの様子に苦笑しながら説明を続けた。
「金銭報酬は少ないけれど、参加報酬として、望みの花火を作ってくれるみたい」
 作られた花火は、次の花火大会で打ち上げられるらしい。
「すごーい、楽しみっ!! どんなのにしよー」
 キャトルはぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃいでいた。

**********

 空を舞っていた。
 地上からこんなに離れたのは、初めてだ。
 だけれど、恐怖はない。
 パラシュートが開いた後に感じるのは、爽快感だけであった。
 ウィノナ・ライプニッツは、身体を擦りながら地面に着地する。
「うわーっ」
 思わず声が出る。他の参加者は皆悲壮な顔をしていたけれど、彼女だけは違った。
 絡まるパラシュートをもどかしげに外すと、花火職人の元に駆け寄った。
「すっご〜〜〜くおもしろいよこれっ!!」
 飛びつかんばかりの勢いで、不気味な顔つきの年配の職人に頼み込む。
「空に放りだされた時とかね、凄く気持ちいいー! もう一回やらせてよ、お願いっ!!」
「ほほう、珍しいことを言うお嬢ちゃんだ」
 年配の職人はウィノナを上から下まで眺め回すと、うんうんと頷いた。
「いいだろう、お嬢ちゃんは将来が楽しみだからなぁ。落ちるのは湖の方がお勧めだぞー。よーし、次の準備ができるまで待っておれ」
「やったー!」
 ウィノナは飛び上がって喜ぶ。
 気晴らしと、仲間達へ恩返しをするために参加した実験だが、思いの外楽しめた。
(次は村の方が見たいな、ずっと上空から、人々の姿を見てみたい!)
「ねえねえ、あんた一度飛んだんだよね! どうだったー!?」
 丸太に腰かけたウィノナに、次の打上げを待っている黒い髪の少女――キャトル・ヴァン・ディズヌフが近付いてきた。
「すっごく楽しかったよー! これで報酬まで貰えるなんて、サイコー!」
「そっかそっかーっ!」
「最初はびっくりするんだけどね、下りる時が凄く気持ちよくてっ」
「わ〜っ、楽しみーっ!」
 少女達はきゃあきゃあ騒ぎながら、次の打上げを待った。
「ところで、爺さんよぉ」
 同じく順番を待っていた多腕族のシグルマは、準備を進める年配の職人に近付く。
「どうせなら、火薬の量増やして、月まで飛ばさねぇか?」
「何をいっとるか。そんな事をしたら、肉体がもたんだろ」
 年配の職人の言葉に、シグルマは自分の胸をバンと叩いてみせる。
「いや、俺なら大丈夫だ。やってみようぜ! 重労働なら何でも手伝ってやる」
「何をバカなことを」
「絶対できるって。壮大な夢見ようぜ!」
 一旦、拒否をした年配の職人は、突如何かが思いついたように、黙り、しばらくの間腰に手を当てて考え込んでいた。
「よし! やってみよう!! 但し、火薬を増やしただけじゃ無理だ。肉体ももたんだろうし、製作には長い年月がかかるからな。しかしだ! 方法はないとはいえんぞ」
「おう、そうこなくちゃなッ!」
 年配の男性はシグルマをテントへと連れて行く。
 設計図を開いて、打上げ花火の仕組みについて説明をする。
「通常はこの部分に、人が乗り、この部分に火薬を詰める。月に行くとなると、その方法では不可能だ」
「ふむ」
「で、ユークリッド空間……は分かるか?」
「いや、なんだそれは」
「んー。例えば、この空間は縦・横・高の三次元なわけだが、これを四次元的に折り曲げることで、一気に目的地まで飛ばしてしまおうと考えている」
 未知なる空への想い――それは男の浪漫である! 今は一介の花火職人でしかない男であったが、若かりし頃は壮大な夢を持っていたのだ。シグルマの若さと意欲に感化されて、その想いが今、蘇った。
「よくわからねぇが、可能性はあるってことだよな」
「危険だが、やってみるかね?」
「もちろんだ!」
 そうして、男達は熱い握手を交わしたのだった。

「あなた達も実験に参加するのー?」
 わくわく準備を見守っていたウィノナ達の所に、緑色の髪の女性が近付いてきた。
「あたしも参加するんだ。あたしレナ。よろしくねー!」
「よろしく〜。ボクはウィノナ」
「あたしは、キャトルだよ。よろしくっ」
 レナはウィノナの隣に腰掛ける。
「楽しみー。最近刺激的なことなくてつまんなかったしね」
「ボク、さっき一度飛んだんだけどね、すっごく楽しかった」
「きゃー。あたし飛べるんだけど、打上げられたことなんてないから、面白そうだと思ってー」
 言いながら、レナは自分の格好を気にしだす。
「服とか、汚れちゃうわよねきっと。一応汚れていいの着てきたんだけれど、貸し出ししてくれんのかしら?」
「上から着るものなら貸してくれるみたいよー。ボクは借りなかったけどね」
「じゃあ、あたしは借りてこよっかな」
 再び立ち上がったレナは、一人の男性が近付いて来ることに気付く。職人ではない。多分実験参加者だろう。
「やあ。……女の子ばっかりだなぁ」
 その銀色の髪の青年――ロキ・アースは軽く笑みを浮かべながら近付き、近くの木に寄りかかった。
「あ、ロキじゃん!」
「お?」
 見知った顔に、ロキは少しだけ驚く。彼女は確か……寿命の短い少女だったはず。
「キャトルか。大丈夫か、こんな実験に参加して」
「平気平気〜。すっごく楽しいみたいよ〜」
「いやしかし、人を打ち上げるってどんな実験だよ、これ」
 ロキは苦笑しながら言う。
 見れば、職人達が手を振っている。そろそろ準備が出来たようだ。
「やったー一番乗り!」
「いい場所とらなきゃー」
 ウィノナが駆け出し、キャトルが続く。
「待って待ってー!」
 急いでテントで服を借り、レナも駆けてくる。
 ロキは最後にゆっくり身を起した。

「結構狭いね」
「この筒ごと空に打ち上げられて、空で筒が爆発するんだよ」
 レナにウィノナが説明をする。
「爆発!?」
 その言葉に酷く驚いたのはキャトルであった。
「爆発するっていっても、筒が壊れてポーンとはじき出されるだけで、火傷とかはしないよ」
「そっか」
 一瞬飛び上がったキャトルだが、安心したように再び座った。
「一人足りねぇから、見学に来ていた子供つれてきたぜ。よろしくなー」
 若い花火職人が、10歳未満と思われる少年を抱え、中に入れた。
「こ、こんにちは」
 少年は、おどおどと皆を見ている。
「可愛いじゃーん。お姉さんの側においでー。ボク名前は?」
 レナが少年をひっぱり、自分の隣に座らせた。
「ファン・ゾーモンセン。……えっと、みんなここで何してるの?」
 ファンは花火の実験をやっていると聞いて、見学に来ただけである。
 そしたら、何故かお兄さんに手招きされて、何故か耳栓と変な荷物を手渡され、何故か手を引かれ、何故か今こんな狭い筒の中にいる。
「花火するんだよー。ほら、パラシュート背負って背負って!」
 レナがファンの手からパラシュートをとって、背負わせる。
「花火するのに、なんで荷物背負わなきゃいけないの? こんな狭いところじゃ花火できないよ?」
「それは、あたし達が花火になるからだよ!」
 キャトルの言葉に、意味が分からず、ファンは首をかしげる。
「大丈夫か? まあ一応説明は聞いてるんだろうし」
 ロキの言葉の後、外から筒が叩かれる。
「準備はいいかー、打ち上げるぞー」
「はいはいいつでもOKですよ」
 そう言いながら、ロキは耳栓をする。
「ほら、ファンちゃんも耳栓して! 空で爆発したら、ここの紐を引っ張って、パラシュートを開くのよ? そうしないと、急降下してぺちゃんこになっちゃうからね〜」
「えっえっ?」
 耳栓を嵌めながらのレナの言葉に、ファンは驚いた。
 ようやく、ファンは事態がわかってきた。
『パラシュート花火を打ち上げるから、手伝ってくれ。手伝ってくれたら、好きな花火を作ってあげる』と言われてファンは連れてこられたのだ。
「て、手伝うってこういうことー!?」
 声を上げても、皆耳栓をしていて、誰にも声は届かない。皆、とても楽しそうである。
「あ、ああああ。うううっ」
 ファンは一人涙目になりながら、両腕を抱え込んだ。
「では、いくぞー! 舌噛むなよー! はい、3、2、1」
 カウントダウンの声が響き、その直後。
 大爆音と共に、5人の体全体に今までの人生で感じたことのないほどの衝撃が襲い掛かる。 
 苦しい、だけれど声は出ない――。
 バン!
 再び、衝撃が走る。今度は爆風だ。
 風に煽られ、5人はバラバラに飛び散った。

 体が浮いたような感覚を受けた後、急降下を始める。
 危なくなったら、飛べるしーと、レナは余裕で箒に手を伸ばした。レナは魔女だ。普段から、箒を使って空を――。
 って、箒、あるわけがない。
 花火に入る前に、全ての持ち物は預けてきたのだから。
 サーッと血が引く。いや、そんな感覚はもうわからない。
「ぎゃ、ふぁ、ぐ、ぎー」
 声にならない叫び声を上げながら、レナはじたばた暴れる。
「紐、紐、紐!」
 そんなレナの姿が視界に入ったロキが、近付きながら大声で叫んだ。
 レナは紐を引っ張って、パラシュートを開く。途端、降下の速度が弱まる。
「き、きゃーーーーーーーーーっ!!!」
 とりあえず、レナは叫んだ。
「もーーーー、びっくりさせないでよーーーーっ!」
 下は湖である。湖畔からそう離れてはいない。せっかく服を借りたというのに、自前の服も濡れてはしまうが、まあ怪我はしないですみそうだ。
 ロキはレナの様子に安心しながら、視線を地上に向けた。
「おお、綺麗だな、このあたりは」
 付近の景色に見とれる。
 青々とした緑は、心を和ませてくれる。
 肌に感じる強い風も、気持ちがいい。
 多少危険であっても、回復力の高い自分である。着地地点がどこであろうが、平気だ。
 そう思いながら、眼下の景色を見る。
 素敵な湖だ。広く美しい。湖畔の草花も――って湖?
 み、ず、う、み。
 ロキは神族である。落ちこぼれのレッテルを貼られはしたが、身体能力は高い。
 魔法防御力もある。
 長身だし、武芸にも秀でている。
 だーーけーーどーー。
 超・カナヅチだったりするッ。
 ロキは事態を察知すると、必死に空を泳いだ。泳ぎ方なんて知らないけど、手をばたつかせて、泳いだ! 泳いだ泳いだ泳いだ!
「ロキー? どうしたのー!」
 近付いてくるロキに不思議そうな目を向けるレナ。
「って、それ以上近付いたら――」
「水が、水で、水なんだ、うわ、ぎゃああああああーーーーー!」
 必死の形相のロキが、空をかきながら、ゆっくりとレナへと近付く。
 箒のないレナは咄嗟に避けることもできず、二人のパラシュートがぶつかる。
「ち、ち、ちょっと離れなさいってば!!」
 避けようとしたレナのパラシュートと必死にもがくロキのパラシュートが絡んでいき、ついに、二人はバランスを崩し、急降下を始める。
「きゃああああー、離れろー!」
「み、水が水で水ぅぅぅうぅぅううー!!! うあああああああああーーーっ!」
 サバーン!
 綺麗な水しぶきを上げて、二人はもつれ合ったまま、湖に落ちた。
 バシャバシャバシャ
 水をかきながら、レナは体に絡みつくパラシュートを外そうとする。
「あぶぶぶ、ふがっ、ぎゃっ」
 しかし、しかあし! 側でもがいている男が、パラシュートを更に複雑に絡ませていく。自分自身は既にパラシュートの綱でぐるぐる巻きになっている。レナも同じ状態になるまでに、さほど時間は掛からなかった。
「離、し……がぼっ、あぐっ」
 ロキに引っ張られるように、レナの体は水の中に沈んでいった。

 2度目のウィノナは、下降を存分に楽しんだ後、ゆっくりとパラシュートを開いた。
「うわー、今度は村の中に着地かぁ。のどかな村だー。空気もいいし、サイコー! これ、有料化しても客集まるんじゃないかなっ!」
 伸ばせる範囲で体を伸ばし、そろそろ着地に備えようかと思ったその時。小さな音がウィノナの耳に入った。
「……めー? ……な、何かすっごくイヤな予感」
 地上を見下ろしたウィノナ。目に入ったモノは!
「メー、メェェェー」
 ヤギの大群だ。
「……ぎゃー!! 何でこんなにヤギだらけーっ!?」
 体をばたつかせるが、空の上である。着地場所を大きく変えることは不可能!
「やだ、やだやだ、あっちいけーーー!!」
 叫んでいるというのに、ヤギ達は、のほほんと餌を食べている」
「ぎゃー!」
 叫びながら、ウィノナの体は牧場に投げ出された。
「メェェー」
「ぎゃーぎゃーきゃー」
 ヤギ達が、倒れたウィノナに寄ってくる。
 彼女は何故かヤギと縁がある。郵便屋の彼女にとって、紙を食べてしまうヤギは天敵だというのに!
 転がるように逃げるウィノナの前に、回りこむようにヤギの姿が。
 後ろにもヤギ、左にもヤギ、右にもヤギである。
「やーだー!」
「メー、メェェー」
「今日は紙持ってないしぃぃー!」
 ウィノナは、なにかとカミを欲しがられることの多い娘だ。

 ファンはもう狂ったようにパラシュートの紐を引いた後、ぎゅっと目を閉じていた。
 体は痛いし、頭はぐるぐる、吐き気もするし、あまりの恐怖に声も出ない。
 ずっと目を閉じていたら着地で失敗し、怪我をしてしまうと気付き、そっと目を開ける。
 地上が迫ってくる。
「ふっ、う、あああ、あーあー……っ」
 ずさささささっと、体を擦りながら、なんとか着地をしたファン。
 何かから逃げるように、体を引き摺るように歩く。
「たっのしかったね!」
 逃げたいのに、直ぐにこの場から去りたいのに! 速攻家に帰りたいのに!! 哀れファン君は肩を掴まれてしまったのです。
 振り返れば、服を泥だらけにしたキャトルの姿がある。
 涙目でファンはキャトルを見上げながら強く首を横に振る。
「全然、全然、全然、たの……」
「え? 全然足りなかったの!? じゃあ、もう一回やれるよう頼んでみようかー」
 ぐいっと引っ張られる。
「ちが、ちが、ちがっ」
 興奮が収まらず、言葉がきちんと出てこない。
 ぐいぐい引っ張られ、ずるずる引き摺られる。
「わーん」
 声を上げたファンの顔を見て、キャトルはファンが泣いていることに気付いた。
「どした? どこか怪我した? あたしも沢山擦りむいたけど、全然平気だよ」
「違うよ、怖いよ、やだーーー」
「えー!? あんなに楽しいのに? 見てごらん、皆凄く楽しそうだよ!」
 キャトルが指を指したのは、ヤギと戯れるウィノナだ。
「ぎゃー、こっち来るなー」
 叫びながら、バタバタ走り回っている。
「あ、あれは逃げてるんだよっ!」
「そうかなー。遊んでるんだと思うけど。でもさ、あの二人は水遊びを楽しんでるよー」
 続いて指したのは、湖の中で戯れる二人である。
「あれは、おぼれてるんだよー」
「なんだ、おぼれてるのか」
 さらりと言った後、キャトルはハタッと事態に気付く。
「って、助けなきゃ!」
 ファンの手を引いたまま、キャトルはテントへと走る。
「それでだ、衝撃に耐えられる筒というものの開発が必要になる」
「なるほど、その素材はどこで手に入れられる?」
「店に、いくらか在庫があります」
「肝心の装置の方は、大会までに間に合うのか?」
 テントでは、シグルマと年配の花火職人が他の職人をも巻き込み、熱いトークを繰り広げていた。
 キャトルの話に耳を傾ける者はいない。
 仕方なく、キャトルはロープを拝借して、湖に走る。ファンの手は引いたままだ。
「ロープ持ってて、あたしが二人を引き上げるから!」
「む、むりだよ。ボクそんな力ないよー」
 ぶんぶん首を振って抵抗するファン。
「そっか、じゃ、アンタが行ってきて。あたしがロープ引っ張るから!」
「もっと無理ーっ!」
「いいから行くんだよ! ほら、沈んじゃったじゃないかー!!」
「ぎゃー、無理だってばー」
 岸に手を伸ばしながら、引き摺られていく哀れなファン。
「って、うあああっ!」
「あーーーーっ! ぶくぶぶく」
 浅いと思った湖は思いのほか深く、キャトルは足を踏み外し、湖の中に沈んでいった。無論、ロープで繋がっていたファンも……。

 ……その数分後。
 可憐な女性が凄い形相で男女一人ずつと、子供一人を抱えて岸に辿りつき、そのままぐったり倒れこんだという。

**********

「あんたねー! 泳げないのに、救命具も付けずに参加とはどーゆー神経してんのよ!」
「いや、湖が側にあるなんて、知らなかったから」
 テントの側で濡れた服を乾かしながら、レナは捲くし立てている。ロキは頭を下げ、謝罪している。
「しかし、見かけによらず凄いなあ、レナは」
 緑の髪や、銀の瞳はあまり見ない色ではあるが、見かけは普通の女性である。
「魔法よ! 大体、アンタのせいで、あたしは、あたしはー!」
 レナはシグルマと熱いトークを繰り広げている年配の花火職人をびしっと指差した。
「あれに、キスされそうになったのよ!?」
 くるっと首を回し、レナを見る花火職人。顔中白い髭だらけ、皺だらけのまん丸顔。……不気味な顔だ。
「惜しかったなぁ。人口呼吸は男の浪漫なんだがなー。死ぬまでにはきっと!」
「……あんたは一生死なないでしょうよ」
 ため息交じりに言って、レナは視線をロキに戻す。
「あの顔が、あの顔が! にやりと笑ったあの顔がっ、目前に迫った段階で気がついたからよかったものの……」
「まあ、いいじゃないか。未遂だったんだし」
「そういう問題じゃなーい!」
 叫びながら、レナは気付く。
「アンタッ! 何耳栓してんのよーーーーッ!」
「い、いや、酸欠状態の脳に、えー、美声がガンガン響いてな……」
 耳栓を引っ張りだして、レナはロキをガクガク揺すった。
「反省が足りなーいっ!」
「わはっ、そんなに揺すられると、水でふやけた脳が耳から飛び出しそうだ」
「うーん……」
「や、ヤギーやだー……」
 キャトルとウィノナは転がっている。
「しくしくしくしくげほっ、げほっ、しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく」
 ファンは両足を抱えたまま、時折嗚咽を漏らしていた。
「ほーら、ファンちゃん! 泣いてちゃだめでしょ。おじさん達がきっと素敵な花火作ってくれるわよー。あたしは、猫とかお花とか可愛い花火を提案しちゃおっかな!」
 レナが時折ファンの頭を撫でている。
「は、花火なんて、いらない……しくしくしくしくげほっしくしくしくしく」
「花火大会かあ、故郷にはなかったから楽しみだな。俺は……」
「アンタはなしよ、なしっ!」
 レナがロキをキッと睨み一喝する。
「で、帰還はどうするんだ? お主、月に住むわけではないだろ?」
「そうか、ならば、もう1本作ってくれるか? 月から花火を上げ、それで帰還することにする」
「なるほど、では、素材は2倍必要だな」
「調達なら任せてくれ。それくらいら一度で運べる」
 シグルマ達は相変わらず男の浪漫に燃えている。

 こうして、白山羊亭発、白山羊日帰りツアー男の浪漫熱さ爆発夏の水泳大会は無事幕を下ろしたのである。
 ……?

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【0812 / シグルマ / 男性 / 29歳 / 戦士】
【3555 / ロキ・アース / 男性 / 24歳 / 異界職】
【0673 / ファン・ゾーモンセン / 男性 / 9歳 / ガキんちょ】
【3428 / レナ・スウォンプ / 女性 / 20歳 / 異界職】
【NPC / キャトル・ヴァン・ディズヌフ / 女性 / 15歳 / 無職】
花火職人さん達

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■         ライター通信          ■
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白山羊日帰り……じゃなかった、パラシュート花火実験にご参加ありがとうございます!
とても楽しいプレイングの数々、ありがとうございました。
皆様の個性を上手く描けていればいいのですが。
報酬の花火を、男の浪漫に燃えている職人達が作ってくれたかどうかは、後日納品予定のゲームノベル「夏祭り」でご確認ください。
それではまた機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。