<Trick and Treat!・PCゲームノベル>


逃げる飴玉・パンプキン

『は〜い、これから毎年恒例、鬼ごっこを始めま〜す!』
 司会者がマイクを使って呼びかけている。
『はいそこ行くお兄さんお姉さん男の子女の子! 鬼ごっこに参加しませんか〜?』
 鬼ごっことは何ぞや。
 なぜにハロウィンに鬼ごっこ。そう思って様子を見ていると、すでに集まっている参加者が色々と準備をしている。
 網とか。縄とか。タライとか。
 何をするんだか、と見守っていると、
『では、今年の追いかけられるちゃんたちをご紹介しま〜す!』
 どこにあったのか幕が下りた。
 そして現れたのは……
 山盛りのかぼちゃと、山盛りの飴玉。
 きゃあきゃあと参加者が騒ぎ出す。
『さあ、この子たちが逃げますからねっ。皆さん頑張ってゲットしてきてくださいね!』
 司会者はぐっと親指を立てて、
『ちなみにつかまえた物は食べてもよし調理してもよし、こちらに任せて頂ければこちらでも調理いたしまーす』
 さあ。
 レディー、GO!

 合図と共に、一斉にわらわらと逃げ出すかぼちゃと飴玉。
 飴玉はぴょこんぴょこんと。
 かぼちゃはごろんごろんと。

『さあてそこのあなた、参加していきませんか?』

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

「……すげぇ、わけわかんねぇ」
 右目に眼帯をした、黒髪の青年はつぶやいた。
 何でかぼちゃと飴玉が逃げてんだ? しかもそれを捕まえて食うのかよ……
 目の前では、本気でぴょんぴょん逃げている飴玉を子供が必死で追いかけていたり、ごろんごろん転がっているかぼちゃに大人が凄い形相で網を振りかけていたり。
「ばっかばかし」
 リルド・ラーケンはつぶやいた。
「こんなとこ、ルゥのやつが来たいって言わなきゃ誰が来るかよ」
 るぅ?
 リルドが腕に抱えていたルゥという名のミニドラゴンが、不思議そうにリルドを見上げた。
 そのつぶらな瞳にぎくっとし、リルドはこほんと咳払いをする。
「そうだよな、ルゥ。お前が来たいって言ったんだもんな。お前、飴玉とかかぼちゃが欲しいんだもんな」
 るぅ?
「――そうだよな!」
 るぅ……るぅ?
 最近鳴き方が豊かになってきたルゥは、リルドの必死の言い聞かせにくりんと首をかしげてみせる。
 げふんごほん、とリルドは再度咳払いをした。
 耳まで赤くなっていた。
「き、来たからには、お前が満足するまでやってやるからなっ。感謝しろよ? なあルゥ」
 るぅ?
「感謝しろよ!」
 るぅ……
 ルゥはぽっと、小さな火の玉を噴いた。リルドはびくっとしてルゥの顔を見た。
「ル、ルゥ?」
 るぅ るぅ るぅ
 何かを訴えるようにルゥはしきりに鳴く。
 ……何を訴えたいのか、痛いほど分かっていた。
 しかしリルドは、無視した。
「さあルゥ。お前のためにかぼちゃを取りに行くぞ! お前の思う存分!」
 るぅ……
 ルゥはため息をつく代わりに、ぽっとまた火を噴いた。
 要するに。
 ルゥを連れてきたのはすべて口実。リルドは自分が来たかっただけなのだ。

 ☆☆☆ ☆☆☆

 通りがかりに呼び止められて、
「え?」
 とデュナン・グラーシーザは振り向いた。
 気づいたらその場は、なぜか逃げている飴玉とかぼちゃ、それを追いかけている大人や子供でいっぱいだった。
「え、なに?」
 司会の声が聞こえる。
「捕まえたかぼちゃ、もらっていいの?」
 おお、楽しそう! とデュナンは気軽に参加を決めた。
 さてここはどんなものを狙おうか。飴玉も捨てがたいがかぼちゃはもっとレアリティが高い。大量にはあるが。なかなかどうして捕まえにくいらしい。
「せっかくだから皮でランタン作れそうな大きいのを」
 ぽんと右拳で手を叩いて大きなかぼちゃを探し始めた。
「これがいいかなあ……あ、あっちにもっと大きいのがある! あっちにしよう」
 一度捕まえたかぼちゃをぽーいと捨ててそっちに走ると、惜しい! 一歩手前で他の参加者に取られてしまった。
 その参加者が逃がすまいとぎゅううううううと抱いて、何故かデュナンをにらんでくるので、
「いや、横から取ったりはしないけど……」
 首の後ろをなでながら、デュナンは困った顔で言った。
 そして再び大きなかぼちゃを探す。
「あれ! いやこれ! いやあっち! あ、そっちのもいい! どーれーにーしーよー!」
 2つも3つも残念ながら持って帰ることができない――一抱えはあるものを持って帰りたいからだ。
「こら、待てえええええっ」
 大きなかぼちゃを求めて、銀髪の見目麗しい青年が奔走する……

 ☆☆☆ ☆☆☆

「よし。見てろよルゥ、俺がしっかりゲットしてやるからな」
 リルドは片唇の端を上げて、軽く手を空中で振る。
 ――彼の竜の力が発動し、雷撃が落ちた。
 どうだとばかりにリルドはもくもくと上がった煙が晴れるのを待って――
「………」
 るぅ
 ルゥが慰めるように鳴いた。
 肩を落としたリルドは、小さくつぶやいた。
「ああ……そうだな。ああ……」
 問い:雷撃が直撃したら、かぼちゃはどうなるか。
 答え:見るも無残な姿になる。
「………」
 るぅ
 ルゥが腕の中でバタつく。
「お? そうだな、お前と一緒にゲットするのも悪くねえ」
 少し考えたリルドは、ルゥがあまり飛べないことを聞かされていたのを思い出し、
「よしルゥ、お前を風に乗せるからな。うまくかぼちゃにしがみつけ」
 ほらあの辺の、とかぼちゃがごろごろしつつも他人があまりいないあたりを指差し、
「いいか?」
 るぅ
 ルゥの瞳に火がついた。
「行くぜ……っ!」
 リルドは風を喚ぶ。そしてルゥを放り投げて、その風に乗せた。
 ルゥは滑空し――
 うまく大きなかぼちゃにしがみついた!
 かと思ったら、

 ばっこん!!!

 ――ルゥは、どうも追突癖があるらしいんだ。
 ルゥの飼い主が遠い目で言っていたのを思い出す。
「ルゥーーーーー!」
 リルドは駆けた。慌てふためいて駆けた。
 かぼちゃに頭から追突したルゥに向かって。
 かぼちゃは割れていた。
 ルゥはひっくり返っておなかを出し、ばたばたと暴れていた。
 確かこのミニドラゴンは、一度ひっくり返ると自分では起き上がれないとか。
 リルドはよっとルゥをひっくり返した。
 ルゥはすぐさま、割れたかぼちゃに飛びついた。
「いやルゥ、もう割れちまったから――」
 いらない、と言おうと思ったその時。
 がじがじがじがじ。
 ミニドラゴンは割れたかぼちゃをかじり始めた。
「………」
 ――雑食なんだ。何でも食べる。
 ルゥの飼い主の声が頭に響き渡る――

 ☆☆☆ ☆☆☆

 デュナンはようやく、満足のいく大きさのかぼちゃを発見し、それをゲットしたところだった。
「捕まえた……って、あれ?」
 すぽっ
 彼の腕の中からすっぽぬけ。
 そして運が悪いことに、そこは微妙な坂道!
 ごろごろごろごろとかぼちゃは転がっていく。
「あ……うわちょっと待ってああああ危ない避けてえぇ!」
「あっ?」
 なぜか割れたかぼちゃの傍らに立っていた、右目眼帯の青年のむこうずねに激突。
「うがっ!?」
 青年は足を抱えてぴょんぴょん飛び跳ねた。
 しかしかぼちゃは止まらない。
 ごろごろごろごろさらに勢いを増して転がっていく!
 そして勢いあまって途中の石に引っかかり、飛び上がって他の参加者の背中にどっかん!
「ふんがぁ!?」
 重いかぼちゃだけはある。破壊力満点だ。背中に激突された参加者はそのままばったり倒れた。
『おっと、救急車!』
 司会者がすばやく手配している。ちなみにむこうずねをぶつけられた青年が何故無視されたかは謎だ。
「あれ……? 俺のせい?」
 デュナンは悩んだ。一応悩んだ。
 でもまあ年間行事のひとつならこのくらいは……
「許容範囲だよねえ」
 独り勝手に納得し、かぼちゃの捕獲作戦続行。
 どでかいかぼちゃはまだごろごろと止まらない。
「待ってーーーーー!」
 デュナンは綺麗な銀髪の三つ編みを揺らしながら全速力で走る……

 ☆☆☆ ☆☆☆

「あのな、ルゥ。これじゃなくてな」
 るぅ
「もっとちゃんとしたかぼちゃ取ろうぜ。そうしたらもっとうまいもん食えるから」
 確か確保したかぼちゃは調理してもらえるとか何とか。
 割れたかぼちゃをがじがじしていたルゥを何とか引きはがして、言い聞かせていたリルドは、途中でなぜか「避けてえぇ!」という大声とともにでかいかぼちゃにむこうずねをやられたが。
 足を抱えてぴょんぴょんと跳ねるリルドを、ルゥは不思議そうに見上げ、首をかしげて「るぅ?」と鳴いた。
「と、とにかくな」
 泣きそうな声でリルドは気を取り直し、ルゥ――とミニドラゴンを見下ろした。
「今度は俺が、逃げてやがるかぼちゃを先回りするからよ、ルゥ、追い込めるか?」
 るぅ
 できる――と聞こえた。
 とりあえず、信用することにした。
「よし、今度こそ割れないようにするんだぜ」
 うまそうなかぼちゃうまそうなかぼちゃ、と吟味して、
「あれでいくか」
 適度な大きさのかぼちゃをターゲットにし。
 リルドはルゥに目配せしてから、素早く移動した。
 ルゥはどどどどどと突進して、かぼちゃを追い込んでくる。
「よしよし、いいぞルゥ……!」
 来い来い来い来い! リルドは心の中で叫んでいた。
 そして同時に考えていた。
 ――ルゥが追突する前に、何とか俺が捕まえないと――と。

 ☆☆☆ ☆☆☆

 階段があった。
 どでかいかぼちゃはそこを、ごとんごとんとど派手に転がり落ちていく。
 デュナンは、いける! と確信した。手すりが近くにある。素早くそこに飛び乗り、すいーっと滑り降りて。
 下で待ち受ける。ごとんごとん落ちてくるかぼちゃを。
 そしてようやく、
「ゲーット!」
 ずしんとした重みを、その腕に受け止めた。

「うん、やっぱりいい重みだぁ」
 デュナンは満足する。今度は坂道もない。周りに人もいない。
 今度こそ安心して家に帰れる――
 ふと、思い出した。
「そう言えば途中で足に当たった人と背中に当たった人、どうなったんだろう?」
 ………
 ………
 ………
「ま、いっか」
 何作ろうかな、このかぼちゃで――と、心は次の過程へと移っていく。
 そうしてデュナンは帰途についた。ハロウィンらしい、素敵なお土産を手に持って。

 ☆☆☆ ☆☆☆

 さて、むこうずねにどでかいかぼちゃをくらったリルドの方はと言えば、
「よーし! ルゥ、よくやった!」
 こちらも捕獲に成功していた。
 案の定追い込む側のルゥはかぼちゃに追突しようとしたので、その直前に風を操ってルゥの動きを止め、かぼちゃをさらったのだ。
 片手にかぼちゃを抱えながらリルドはがしがしとルゥの頭を撫でる。楽しそうなのは明らかにリルドの方だった。
「調理してくれるっつうのはどこだ?」
 リルドはルゥを片手に抱え、ぐるりと周囲を見渡す。そしてそれらしき場所を見つけて歩き出した。
 途中、まだ逃げ回っているかぼちゃをひょいひょい避け、飴玉は何となく捕まえて、ルゥの飼い主にでも贈っておこうととっておいた。

 ――リルドの捕まえたかぼちゃで完成したのは、とても美味しそうな、熱々のパンプキンパイとポタージュ。
「おいルゥ、あんまりぐしゃぐしゃにして食べるんじゃねえって」
 パイにがっつくルゥの姿に、べしべしとルゥの頭を叩きながらもポタージュを食べるリルドの表情はほくほくと……
 ルゥがポタージュにも興味を示したので、リルドは笑ってスプーンですくったポタージュをルゥの口の中に入れてやった。
 するとルゥはポタージュを気に入ったらしい。
 るぅ るぅ るぅ
 しきりにリルド分のポタージュに頭をつっこもうとするので、リルドは「こいつ用のポタージュ作れねえか?」と調理師に聞いた。
「材料が足りませんので……」
「………」
 リルドはぐいっとルゥの首根っこを捕まえ、顔を見合わせる。
「……もうひとつ、かぼちゃ捕まえにいくか?」
 るぅ
 そして1人と1匹VSパンプキン戦争再び――

 ☆☆☆ ☆☆☆

 家に帰ったデュナンは、はっと気がついた。
 姉の目が、じーっとデュナンの腕の中のかぼちゃに注がれていた。
 だめだ! 姉に調理させてはだめだ!!!
 早々に台所に立ち、物凄い勢いで中身をくりぬいて、中身をさっさとパイとケーキを作るために切り分ける。
 姉の恨めしそうな視線をひしひしと感じた。
「は……はは、たまには俺がお菓子作らなきゃね」
 ――姉にお菓子を作らせたら恐ろしいことになる。それだけは阻止しなくては。
 幸い、デュナンの作るお菓子が美味しいことは姉も認めていた。姉は嘆息して、早く完成させろとばかりに待ちわびる視線になった。
 デュナンはほっとして、お菓子作りに専念した。
 こうして。
 デュナンの家でのハロウィンは、パンプキンパイとパンプキンケーキで楽しく過ぎていったのだった。


 ―FIN―


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

聖獣界ソーン

【0142/デュナン・グラーシーザ/男性/26歳(実年齢36歳)/元軍人・現在何でも屋】
【3544/リルド・ラーケン/男性/19歳/冒険者】

【NPC/ルゥ/男性/0歳/ミニドラゴン】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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リルド・ラーケン様
こんにちは、笠城夢斗です。
このたびはTrick and Treat!ノベルにご参加いただき、ありがとうございました。
ルゥのご指名も嬉しかったです。ルゥは書いてて楽しいのでwその分、リルドさんも楽しんでいただけたら光栄です。
またどこかでお会いできますよう心から願って……