<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
『仲良し二人組み……?』
エルザード城下町。
雑貨や衣料品店が立ち並ぶこの辺りは、連日若者達の姿が多く見られる。
カップルやグループが行き交う中に、一際明るく軽快な声が響いていた。
「見て見てロキ! あのブローチ、すっごい可愛い、スッゴイ可愛いーッ!!」
銀色の瞳を輝かせながら、レナ・スウォンプがロキ・アースの腕を引っ張る。
レナが見ているのは、ショーウインドーの向うで輝く、可憐で繊細な雪の結晶のブローチだ。
「買っちゃおうかなー。どーしよっかなー。ああ、でもそんなにお金残ってないんだよなー」
「そんなに金ないってレナ、あんた自分の金使ってないじゃな……って、ああ!?」
「うーん、このブローチと、これに似合う服を買って……ギリギリかなぁ」
残金を確認しているレナ。その手の中にあるのは、ロキの財布だった。
奪い返そうにも、ロキは両手がふさがっている状態だ。
右手には、大きな袋3つ。ワンピースに、新作のスカートに、ブーツ。
左手には、大きな袋が2つ。カーディガンに……なんだったか。
とにかく重い。しかし、地面に下ろそうものなら、盗まれる! 皺になるー! と怒鳴られるものだから仕方ない。すっかり衣紋掛け状態だ。
「ギリギリってな、それ俺の金だぞ!? 奢るにも限度ってもんが……」
「じゃ、ちょっと買ってくるから、これも持ってて!」
「ふがっ!?」
「お姉さーん、あの服試着していいー? ブローチも一緒に♪」
ロキの言葉途中で、レナは自分が持っていた袋をロキに銜えさせ、そのまま店内に走っていってしまった。
……待つこと数十分。
すっかり手も足も……顎も棒になったころ、レナが上機嫌で戻ってきた。
「あのブローチ、他国から取り寄せた珍しいものなんだって! ラッキー」
先ほどと服が変わっている。購入した服を、そのまま着てきたらしい。
「はい。壊れやすいから、気をつけてよね」
当たり前のように、服とブローチが入った袋をロキに差し出す。
「ふごふご、ひふんげほへよ!(無理無理、自分で持てよ!)」
しかし、ロキが持てるわけは……。
「大丈夫大丈夫ー。紐貰ってきたから」
そう言って、レナはロキの首に紐を通し、袋を吊るした。
「ふーごー!!(レーナー!)」
「ん〜。歩きまわったから、喉が渇いたわ。あー、でももうジュース代もないや」
レナが財布をひっくり返す。出てきたのは、銅貨が1枚のみだ。無論、それはロキの財布だ。
「ロキ、銅貨一枚で美味しいジュースが飲めるお店知ってる? ああ、買ってきてくれてもいいわ。あたしはもう少しこの店の商品見てたいし。店長と仲良くなっちゃってさー。ツケでもいいって言ってくれたし」
そ れ は 誰 の ツ ケ で す か !?
「ふごごー!」
ロキはうめきながら、重い首を左へ左へと2度、3度向けた。
「なーに? あっちに喫茶店でもあるの?」
こくこくと頷き、ロキは重い足を郊外へと向けた。
**********
郊外へ出、田畑が広がる道を歩くこと数十分。ようやく一息つける場所へ着いた。
ここには、店も商人もいない。
故にこれ以上、出費を重ねることはない。……とはいえ、残金銅貨1枚だが。ああ、当座の生活費どうしよう。
「きゃー、素敵じゃない。こういうのどかな場所もいいわよねー」
頭をやなませるロキとは対照的に、レナは購入したばかりの服をひらひらと舞わせながら、手ぶらで走っていた。
光の中、優美な服で走るレナの姿は、まるで女神のように美し……かったが、今のロキにはそんなことはどーでもよかった。
「こんにちはー!」
言葉を発することのできないロキに変わって、レナが老婆に声をかける。
葡萄を洗っていた老婆が、声に振り向く。ロキの姿を見つけると、顔を皺でいっぱいにして微笑んだ。
「よく来たのう、ロキ」
ロキの知り合いの果物農家の老婆だ。
縁側に荷物を置かせてもらい、ロキはようやく自由な身体を手に入れた。
「婆さん、すまないけど、果物もらえるか? 収穫手伝うからさ」
「おお、おお、構わんぞ。ちょうど休憩にしようと思っとったところだ。お嬢さんも遠慮なく食べてな」
老婆は、葡萄と、籠一杯の林檎を二人の前に出した。
「わー、取れ立ての果物ね。ありがとー!」
レナは葡萄を、ロキは林檎を手にとって丸齧りした。
「それじゃあ、あたしは皮むき手伝おっかな」
言ってレナは老婆が剥こうとした林檎を取り、手の中で転がした。すると、レナの手の中でするすると皮が剥けていく。
「おお、すごい能力じゃのう」
「収穫のお手伝いはロキに任せて、あたしは豊作のまじないしていくわね」
言って、レナは立ち上がり、果樹園の方へ足を踏み出した。
光の中、彼女の緑の髪が、金色に輝いてみえた。
綺麗だと、一瞬。その時は一瞬、ロキも思った。
「ほう……ロキもいい嫁さんをもらったもんじゃ」
しかし、老婆のその言葉を聞いた途端、ロキは思わず林檎を噴出した。
レナはコケかける。
「「誰がこんな奴と!」」
ロキとレナは、同時に叫んでいた。
「こんな奴とはなんだー!」
先に怒鳴ったのは、レナの方だった。
「ああ? これを見ろ!」
ロキは紙袋の数々を指差す。
「これもだ!」
そして、自分の財布も。ひっくり返せば、寂しく銅貨が一枚落ちてくる。
「あたしのセンスを馬鹿にする気!? 雀の涙ほどのお金で、これだけの買物が出来る女はそうはいないわよ!」
「そういう意味じゃねぇ! てか、人の金を散々使っておいて、その言い草はなんだ!」
「なによ、あんたなんか、いっつも同じ服着てるくせにッ!」
「ぐっ」
確かに、レナと会った時、自分はこの服ばかり着ていた。彼女は毎回違う服を着ているのだが……。
「どーせ洗濯もしてないんでしょ。水が怖いんだものねぇっ。お風呂も何年入ってないの!?」
「いや、洗濯はできる。雨に濡れるのも平気だ、風呂にも入れるー!」
深くなければ。と言いそうになり、言葉を飲み込む。
「そうそう、水を怖がる子供っておねしょが原因だったりするよのねぇ。ロキってそんな年なのに、まーだおねしょしてるのねえぇ」
「してねーよ!」
レナの皮肉いっぱいの言葉に、ロキも負けてはいられない。
「あんたは、洗濯しねーで、買い換えるんだろ!? 服も男もそうやってころころ変えてっと、いずれ誰にも相手にされなくなるぜ!」
「な、なによー! ロキのくせに生意気よ!」
「じゃあなんだ、あんたはレナだから節度知らずの能天気なのか!?」
「そ、それは世界中のレナを侮辱する言葉だわッ、許せないっ!」
「それをいうのなら、ロキの名を馬鹿にするあんたは俺の種族を……」
次第に低レベルにエスカレートしていく二人の口論を、老婆はぼーっとながめていた。
そして……。
「本当に仲がええのう」
お茶を飲みながら微笑んだ。
**********
「何で俺が」
呻きながら、夕焼けに染まる街を、ロキは歩いていた。
身体は相変わらず衣紋掛状態。そして、首を回せば、肩にはレナの安らかな寝顔がある。
結局、口論の決着はつかなかった。騒ぎ疲れたのか、眠ってしまったレナを背負っての帰還だ。
「疲れてんのは、俺の方だっての」
レナを背負っていては、荷物を全て持つことはできない。
しかし、荷物を置いてこようものなら、後で何言われるかわかったものじゃない。
仕方なく、農園の老婆から台車を借り、荷物の半分は台車に載せて片手で引いている。
むしろ、レナも台車に乗せたいくらいだが。
途中で目を覚ましたら、それこそ何と言われるか……。
ため息をつきながら、軽く跳ねて、レナを背負いなおす。
微かな吐息が、耳を擽った。
再び、レナを見る。穏やかな顔で眠っている。
ロキはもう一度ため息をついた。
「着いたぞ」
家の前で下ろし、身体を揺するがレナは目を覚まさない。
「レナ、起きろ。風邪引くぞ」
放置して帰るわけにもいかず、更に激しく揺する。
「うーん……」
レナが目を開けて、虚ろな眼でロキを見て、心なしか笑った。
「ローキー、その温泉、底なしなのよぅ……」
「ど、どんな夢見てたんだ」
底なしの温泉にロキを突き落とす夢でも見ていたのだろうか? そ、想像したくもない。
「ほら、ちゃんと家に入ってベッドで寝ろよ。台車は明日取りにくるからな」
「うーん。わかった……」
レナはぼーっと立ち上がり、台車を引いて、家の中に入っていった。
**********
翌朝。
小鳥の囀りが心地よく。
空は雲ひとつない青。
すがすがしい朝だった!
ドンドンドンドン!
荒々しくドアを叩かれて、ロキは目を覚ます。
髪も梳かさぬまま、目を擦りながら歩き、ドアを開けた。
「レナ……あ、台車持ってきてくれたのか」
ドアの外には、昨日購入した服を着たレナの姿があった。
にこにこにこにこ笑みを浮かべている。
一晩寝て落ち着き、ようやく礼を言う気になったかと、ロキは苦笑した……途端。
「ローキ、これなに?」
レナが見せたのは、雪の結晶のブローチであった。ただし、2箇所ほど欠けている。
段差で一度、台車をひっくり返してしまったことがある。多分、その時の衝撃で欠けてしまったのだろう。
「あ、ごめん。レナを背負ってたものだから」
「ごーめーんで、済むかーッ!」
一転。レナは叫んだ。
「これ、いくらしたと思ってんのよ!? せっかく値切って値切って手に入れたっていうのにー! これに似合う服も買ったのよ? 全て台無しよ、あんたのせいで!!」
――ぶ・ちっ。
ロキの頭の中で、何かが切れる音がした。
「そいつあ、誰の金だと思ってんだーーーーーーッ!」
そして、第二ラウンドが始まる――!
乞うご期待!!
●ライターより
ライターの川岸満里亜です。
その後、お二人はとても仲良くなったようで……って、違ッ?
この後も口論が多そうですが、互いに根にはもたなそうなので、また二人で出かけてみては、同じようなことを繰り返すのでしょうか!?
とても楽しくかかせていただきました。ありがとうございました!
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