<Trick and Treat!・PCゲームノベル>


『魂の旋律―残された微かなリズム<命の居場所>―』

 土の匂いが感じられる。
 ぼんやりと、景色も見える。
 だけれど、その全てが色あせていて、心は何も感じない。
 何も、聞こえない。

 目を――開けているのだろうか。
 自分の姿さえも忘れてしまった。

 突然現れた子供に、口の中に何かを入れられた。
 その瞬間、全てが消えてしまった。

 なりたい姿を見つけられなかった者の末路。
 無くなってしまった、身体。
 無くしてしまった、記憶。

 トン、トトン、トントン

 ……音が、響いた。
 普段は、意識しない音だ。
 低く、リズムを刻んでいる。
 これは、自分の命のリズムだ。

 一歩、前へ進む。
 失った身体と心を取り戻すために。


 強い想いを思い出せ。
 大切な人を思い出せ!
 自分を表す言葉は何だ?
 自分は何を求めている!?

**********

 わからない。
 わからない。
 何もわからない。

 走っていた。
 ただ、走っていた。
 必死に、走っていた。

 だけれど、身体はない。
 走っているのは、意識だけか?
 これは、夢なのだろうか。
 夢であってほしい!

 しかし、思いは打ち砕かれる。
 僅かな土の匂いが、これは現実だと伝えている。

 トントントン、トトトトントントントントントトトン

 心のリズムが高鳴っている。
 これは命の音だ。
 立ち止まって、耳を澄ます。

“……生き、て、いる……”

 心を澄ましてもう一度聞く。

 トントントン、トン、トントントントトントン

 さっきより、少しだけ落ち着いたリズムだ。

“……私の、命……”

 ここに、存在する命。
 暖かなもの。
 確かなもの。
 だけと違う。
 何かが違う。
 違う、違う、ちがう――。

 あるのかもわからない首を、思い切り左右に振った。

 何も無いこの場所に。
 自分の命しか感じられないこの場所に。
 あるべき命ではない。

“……私の、命、は……命、には……”

 在るべき場所が有る。
 それは、ここではない。

 ではどこだ?
 思い出せ。
 決して無くしてはいないはずだ。
 自分の中に、必ず答えはある。
 思い出すんだ!
 命の、帰るべき場所を――。

 一瞬。
 ほんの一瞬、脳裏が光った。
 その一瞬、映し出された姿がある。

「あ……ああ、ああ……」
 手を伸ばしていた。
 あるのかもわからない手を。

 行かなければならない。
 自分は戻らねばならない。
 『彼』の元へ。

 歩き出した。
 闇雲に走っても、たどり着けないことは理解した。
 落ち着いて、思い描けばいい。
 帰るべき場所を。
 『彼』は、自分を受け入れてくれる。

 目を閉じる。
 呼吸の音が、規則正しく響いている。
 これもまた、生きている証。
 自分がここに、存在している証。

 瞼の裏に浮かぶ人。
 自分に笑いかけてくれる皆と、
 “あの人”を――。

 守ることが全て。
 それが、自分の全て。
「……私の、命の、使い、道……」

 目を開けば、景色が見えた。
 深い緑だった。
 川のせせらぎ。
 木々と風が戯れる音。
 森の音が聞こえる。

 トン、トトン、トントン、トントン

 心のリズムが、広がる森のリズムを刻む。
 穏やかで優しいリズム。

 目に映る眩しい森。
 ここが、自分の今の居場所。

 浮かんでは消える擬人化した精霊達。
 大切な大切な存在。

 だけれど、
 近付いても触れ合えない。
 微笑んでいるだけで、誰も語りかけてはくれない。

 帰らなければ。
 本当の森へ。

 気付けば、身体がある。
 包帯を巻いた身体。
 怪我をしているのではない。
 自分は――

 自分の名を思いだそうとした。
 自分という存在を思い出そうとした。
 姿、を。

 途端、不可解な衝動に襲われる。
 自分の中の自分ではない存在。
 無数の存在。

 なんだ、これは!?

 安らぎに満ちた森は消え去り、
 暗い森が浮かび上がる。
 せせらぎは怪鳥の奇声へと変わる。
 風の声は野獣の雄叫びへと変わる。
 響きわたる狼の遠吠えに、心が荒れた。
 かき乱される。

 これは、昔、暮していた場所。
 牙を剥く獣。
 荒れ狂う魔獣。

 自分は誰だ?
 自分は何だ?
 人か、獣か、魔物か?

 身体が熱くなる。
 リズムが狂う。
 熱く、激しく、猛々しく。
 声が……人のものではない鳴き声が、脳裏に響き渡る。

 乱れるリズム。
 引き裂かれる音。

 浮かんでは消える、獣の姿。
 これが自分の姿か?
 どれが自分の姿だ!?

 熊か?
 虎か?
 狼か!?

「……ち、がう……」
 違う
 違う!
 違うッ!

 否定して、否定して、否定して歩く。
 ここにはいてはいけない。
 自分には帰る場所がある。

 駆け出した。
 大切な存在の姿だけを、思い浮かべて。
 迷いはない。
 思いは一つ。
 自分の思いは最初から一つなのだから――。

 今、自分が存在すべき場所。
 自分を受け入れてくれる場所。
 自分を覆い、抱いてくれる場所。

「……帰、る……。皆、の、ところ、へ……」

 森は、静けさを取り戻していた。
 川のせせらぎが、聞こえる。
 翔け抜ける風の音も。
 そして、大切な皆も手の届きそうなほど近くに。
 再び、帰るべき場所が現れた。

「……これ、は、嘘……偽、物……」

 自分が見せている、心の映像でしかない。
 響く音は、全て自分が奏でている音。
 本当の森の音は、聞こえてはこない。
 本当の皆の命の音は、聞こえてはこない。

 森に、恵の雨が降る。
 命を育む雨。
 雨は森に力を与えてくれる。
 顔を上げた。

 口の中に入った雨は……甘かった。
 全ての感覚が戻っていく。
 全ての景色は、雨に溶けて消えていく。

「……森の、皆を……あの、人を……守る……それが、私の、全て……私の、命の、使い、道……」

 命は次の命の為に。
 命溢れる世界は、命の受け渡しで均衡を保つ。

 ――自分の命は、彼と彼等の未来の為に――

 純粋に
 真直ぐに
 そう願う
 果たすために、駆けた
 降り立った道を、真直ぐに
 純粋に
 わき目も振らず
 ひたすら真直ぐに

 命の居場所
 森へ向って――

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸です。
ハロウィンコラボ企画『魂の旋律―残された微かなリズム―』にご参加いただき、ありがとうございます。
千獣さんの強い思いを上手く描き表すことができましたでしょうか?
何か捉え間違いがありましたら、リテイク申請お願いいたします。
イメージミュージックは、PURE REDさんの「Trick and Treat!・PCイメージミュージック」から発注ができます。ご都合がつきましたら、ミュージックの方もよろしくお願いいたします。