<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
臥龍亭日誌
アナタがいるのは臥龍亭の前。
旅の疲れを癒す為に泊まりに来たのか。
シェルの料理を食べに来て雑談をしに来たのか。
それとも臥龍やギルを誘って白山羊亭の冒険メニューにトライするのか。
この日の行動を決めるのは勿論貴方次第…
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ソーンといっても常に安定した気候の場所ばかりではない。
湿地もあれば砂漠もある。
海もあれば河もある。
「(砂漠か…砂漠か…少し厄介な場所だな。さて、どうするか)」
リルド・ラーケンは魔獣退治を依頼されたものの、場所を確かめれば砂漠のど真ん中。
砂漠の地下にある洞窟にいる魔獣退治。よりにもよって砂漠。
ご利用は計画的に。そんなフレーズが脳裏に過ったような、ないような。
「…その前に」
腹ごしらえをしておこう。リルドはその足で臥龍亭に向かった。
「いらっしゃーい」
宿屋兼酒場、昼間は食事処と少女一人で切り盛りしているようで、話に聞く分には飯が相当美味いらしい。
今日のお任せランチを注文して、ついでに店先で売っていた干し肉と乾パンを購入すると、これから旅か冒険?と料理中のシェルが尋ねてくる。
「ああ、依頼で砂漠の地下洞窟に」
「一人で?よかったら助っ人用意しましょうか?」
用意って、そんな軽々しく言うが枯れ木も山の賑わいという訳にはいかないだろう。
いぶかしむリルドの表情を見て、シェルは笑う。
「だーいじょうぶよぉ、二人とも腕は立つから。冒険メニューや依頼の助っ人にどうぞって、白山羊亭にも貼ってあるし」
「どんな奴ら?」
一人はそこ。そう言って彼女の親指が示す先の、カウンターの隅っこに黒ずくめの隻眼の男が一人。
何とも威圧的なその風貌は恐らくここの用心棒でもあるんだろうとリルドは推測する。
「もう一人は…ギル――――ッ!今日予定空いてる?依頼に付き合わな―――い?」
二階に向かって声を張ると、部屋の扉が一つ開いた。
中から出てきたのは何とも厳つい獣人。
全身白い体毛で覆われた、虎の顔をした男がのそりと顔を出す。
「何ー?何処行くって? てかそういうって事はそろそろツケ払えってことね」
「そのとーり」
堅物っぽいその風貌から想像できないぐらい軽い返事。
出されたスープを思わず噴きかける。
「その子?依頼主は」
二階から降りてくると身の丈二メートルはあるだろうか。
見上げる首が疲れそうだ。
「オレはギルディア・バッカス。見てのとーりホワイトタイガーの獣人さ♪ 宜しく〜」
ランチを運んできたシェルが言葉を続ける。
「んでもってあっちに座ってるのが臥龍。ここの用心棒でもあるのよ。戦闘型ホムンクルスなの。無口で無愛想だけど仕事はきっちりこなせるから」
こちらに視線を向けはするが動く様子はない。
どうやらこちらが店を出ようとするまで動かないつもりのようだ。
両極端な二人だが、腕はお墨付きらしいので、少々不安もあるが同行してもらうことにした。
勿論、依頼ゆえ分け前の話も事前にきっちり済ませて。
砂漠の熱砂はきつい。
その為シェルからサービスでマントが支給された。
「ホントに水いらないの?」
ギルや臥龍には必要分持たせたのだが、リルドは今回はいらないの一点張り。
何か理由があるようだが明かさないまま。
いらないと言うなら無理に持たせる事もないが、少々心配したシェルはギルと臥龍に余分に水を持たせることにした。
ギルはともかく、臥龍は人のように多くの水分は必要としない為、もしもの場合は彼にも足せてある分で補える。
「それじゃあ、いってらっしゃい。三人とも気をつけてね〜」
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「あ〜〜〜っついね〜〜〜ホワイトタイガーの蒸し焼きができちゃいそー」
全身毛皮で覆われているギルにとってこの容赦ない日差しは厳しかった。
「…」
砂漠の中を歩き始めて数時間。
リルドの消耗は激しかった。だが平静を装って黙って足を進める。
そんな二人の視線の先で、一人そのペースを乱す事無くざくざくと砂漠を越えていく全身黒ずくめな上に黒髪褐色の肌をした臥龍。
熱を吸収しまくっているはずの彼だが、その顔色も足取りもいたって変わらず。時折振り返っては二人が追いつくのを待っているという状況だ。
不思議といえば不思議なのだが、今は質問を投げかけることすら体力を消耗しそうで、どこか落ち着ける場所か目的地に着くまでは黙っておこう。リルドはそんな風に思っていた。
「入り口はあれだな。標的は地下だ。あの入り口付近で二人とも休憩しろ」
その場所はいかにも、な、巨大な龍の化石の下にあった。
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入り口付近で休憩すること暫し。
岩場の影と言うだけでかなり涼しく感じる。
「アンタ特殊な身体なんだって?砂漠で誤作動とかしねーの?」
臥龍の構造がメカか何かと勘違いしているようで、当の臥龍も怪訝な態度を示す。
メカは男の浪漫!ということで興味津々な訳だが、素直にそれを表には出さず、何となく聞く形になるリルド。
ついでにさっきからぴこぴこと揺れるギルの長い尻尾にも興味があるが、同じく興味ないフリをしている。
天邪鬼というべきか。
「生体兵器。それが俺だ。着用している服も俺が戦う事を前提に作られている為、両方とも似た構造している」
極寒の地、灼熱の地、その両方で活動できるようその都度体が勝手に調整するから動作不良の心配はないらしい。
この暑さでへばっている中、そんな素敵機能が羨ましく思える二人。
とはいえ、臥龍の姿を見ているだけで暑苦しく感じるのはお約束な訳で。
「ま、シェルちゃんから注意事項聞いてるでしょ?そのとーりに扱えば、彼がいると楽だよ〜 一歩間違えるとすっげー大変なことになるけどー」
さらりとのたまう内容ではない気がするが、実際どういう状態になるのかはリルドとて見た事がない。
だが、魔獣退治に来ている今の状況からして、忠告には素直に従っておくべきだろう。
「……戦闘時はバーサク入るってか…まぁ、何とかなんじゃねぇの?」
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「…奥に進めば進むほどさっびー!」
「オレ快適〜」
「やかましい」
ギルとリルドの掛け合い漫才のようなやりとりを気にも留めず、臥龍は奥へ進んでいく。
岸壁に浮かぶ太古の生物達の成れの果て。
そこに歴史が…と言えばロマンも感じるのだろうが、魔獣退治をしようという今は下手をすると自分たちもこの中の仲間入りだ。
「――――!」
「…何か動いた?」
臥龍が動きを止めると、二人とすかざす構える。
リルドの体を青白い雷が覆い始める。
その明かりゆえか、周囲のコケの発光による薄ぼんやりとした世界が急にはっきりと形作られる。
「!」
滴る水滴と思っていた水音。
だがそれは違った。
無数に伸びた鍾乳石の隙間に身をくねらせ張り付くようにして、ずっとこちらを見ていたのだ。
落ちる唾液。
「逃げろ!」
臥龍の声とほぼ同時か、魔獣は天井から降り注ぐように三人目掛けて襲い掛かる。
「マジかよ不意打ち?! ちっくしょ…ッ これでも喰らえ!!」
リルドの放った雷撃が魔獣に命中し、落下地点からそれたのか、大きな音をたてて岩盤に激突する。
その振動で天井に連なった石柱が何本も落下してくる。
頭上に降り注ぐそれを臥龍がデーモンクローでなぎ払い、三人とも無傷だった。
「!」
瓦礫が動く。
来るか、身構えたが早いかそうでないかという一瞬の最中、勢いよく魔獣がこちらに飛び掛ってくる。
先ほどの落石を避けられなかったのか、体の所々に石柱が突き刺さっている。
「ぅらぁっ!!」
氷弾と雷弾を両手に発生させ、次々と打ち込むリルド。
そんな彼を援護するように、ギルは鞭を操り魔獣の動きを牽制する。魔獣の爪牙を臥龍が受け流す。
打ち合わせたでもなくそれぞれが判断し、効率よく動けている。
「(確かに、助っ人としては申し分ねぇな!)」
「これで終わりだぁ!!」
リルドはそれまでの倍以上ある雷撃を、その懇親の一撃を魔獣目掛けて投げつける。
辺りを一瞬、眩いばかりの閃光が包み、一同視界を覆う。
再び暗闇を取り戻したその空間には、力尽きた魔獣の残骸が転がっていた。
「ふぅ…後はお宝を…」
「確証はないんだよね?」
「まぁな、でもコイツ光モンが好きだったらしいから、襲われた連中の証言のよれば、相当あるはずだぜ?」
とりあえずもう少し奥まで進んでみよう。
二人は少々足早に。
その後を臥龍がやれやれといった面持ちでついていく。
そして―――…
「おぉ!?」
「うっは、こりゃすげぇ」
絵に描いたような財宝の山が、これまた絵に描いたように髑髏と共にあった。
「―――見つけたはいいが、どうするつもりだ?」
臥龍の言葉に二人は振り返る。
「これ全部を持っていけるわけじゃあるまい。帰りも砂漠の中を数時間だぞ。お前ら大丈夫なのか?」
「「あ……」」
入れる為の袋もない。
手持ちのポーチには食料。そして腰に下げた水袋。
どうやら財宝を少しでも多く持ち帰る為には、飢えと渇きを我慢しながら帰ることになりそうだ。
―了―
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3544 / リルド・ラーケン / 男性 / 19歳 / 冒険者】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、鴉です。
【臥龍亭日誌】に参加頂きまことに有難う御座います。
ノベルに関して何かご意見等ありましたら遠慮なくお報せいただけますと幸いです。
この度は当方に発注して頂きました事、重ねてお礼申し上げます。
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