<PCクエストノベル(1人)>


〜暗黒の闇に虹色の護り〜

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【3573/フガク (ふがく) / 冒険者】

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フガク:「いてて…」


 前回の冒険から聖都に戻ったフガクは、いつもの宿で傷の手当てをしていた。
 前回の敵は、魔法を行使する高等種族で、いくつか派手に傷を付けられてしまった。
 元々肉弾戦にはかなりの自信がある彼でも、魔法がからむと途端に戦闘力が落ちる。防御の力もあるにはあるが、集中が必要なために、防御をしている最中は攻撃に回れない。そうなると、捨て身でかかっていくしかないのが、現状なのだ。


フガク:「いい加減、対策を講じないとなぁ…」


 これまでに何回か、同じような戦いをしたことがあった。
 そして、どれもこれも、同じような戦法だった。つまり、「捨て身」である。
 これから先、まったく魔法を使う輩との戦闘がないのであれば、何もする必要はないだろうが、そんなことはあるはずがない。
 はああ、と盛大にため息をついて、フガクは傷口を見やった。
 
 
フガク:「あんまし気は進まないけど、仕方ないか…」


 しなくてもいい殺生はキライだった。
 殺生どころか、傷をつけるのも嫌だった。
 それが「仕事」であれば、そんな感情など、一瞬でねじ伏せられるだけの精神力はある。
 だが、今回、自分がしようとしていることは、自分のためで「依頼」ではない。
 だから、傷をつけないように、もしつけてしまうことがあれば、それは最小限で済むようにと、彼は心に決めた。
 フガクは荷物を少なめに、軽装で出かけることにした。
 元々漂泊の身だ、物は持たないに限る。
 フガクはいつものショートソードを腰に吊るし、上半身を覆うマントを羽織って、小さな皮袋を肩に担いだ。
 目指すはクーガ湿地帯。
 この聖都からは馬で3日の距離だ。
 途中に町はなく、水場がひとつあるだけなので、皮袋の中は食料と念のため、解毒剤を詰めてあった。
 水は腰のベルトに吊るした水用の皮袋の中だ。
 今回はなるべく静かに行動することを求められるので、柔らかい鹿皮の靴に履き替えた。
 
 
フガク:「よーしっ、準備完了!」  


 威勢良く、そう声に出し、フガクは宿を後にした。
 
 
 
 
 聖都で借りた馬は相性が良かったらしく、足場の悪いところもよく走ってくれた。
 水場は思ったより簡単に見つかり、道中はほとんど困ることがなかった。
 馬にも十分に水を飲ませ、フガクは一路、クーガ湿地帯へと向かう。
 湿地帯に入る入口で、彼は馬を近くの木につないだ。
 

フガク:「まあ、このあたりは魔物の気配はしないから、大丈夫だと思うけど、ね」

 
 そうつぶやきながら、フガクはロープを、ある方向に引っ張ればほどけるように結び直した。
 こうしておけば、仮に何かに襲われて暴れれば、すぐに逃げ出せるはずだ。
 一度、馬の鼻面をやさしくなでて、フガクは湿地帯へと足を踏み出した。
 ここは暗緑色の苔や赤褐色のツタが一面に張りめぐらされた森のようになっていて、湿地帯のため、足元は澱んでぬかるんでいる。
 どこに底なしのくぼみがあるかわからないので、慎重を期する必要がある。
 念のため、近くの長い枝を一本折り取って、それを地面に突き刺しながら歩いた。
 進むたびに、ゆるい泥の感触が足に伝わってきて、フガクは顔をしかめる。
 この感触は、どう寛大に見積もっても、不快極まりなかった。
 だからこそ、ここを棲み家に選んでいるのだろうが。
 昼なお暗い森の中を、そろそろと進んで行くと、遠くにかすかに洞穴のようなものが見えてきた。
 かなり大きなもので、奥は暗すぎて、まったく見晴るかすことは出来なかった。


フガク:「あれだな…」


 腰に下げた小さな携帯皮袋の中から、黒い水晶のようなものを取り出し、それに向かって、彼は一言何かをつぶやいた。
 途端にそれは、手の中で兜のような形に変化した。
 彼の聖獣装具である三眼兜・スリーゲイズである。
 兜には三つの赤い目のようなレンズがついていて、内ふたつは暗視能力がある。
 あれだけ濃い闇の中でも、十分敵の姿を確認出来るはずだ。
 フガクは徐にそれをかぶると、ふう、と一息ついた。
 ここからはなるべく、音をたてないようにする必要がある。
 さらにぬかるみを先へ先へと進んで、彼はそっと洞穴の中に忍び込んだ。
 そこはきちんとした堅い地面に覆われていて、足元の心配はなさそうだった。
 足場さえ確保できれば、戦いにほとんど支障はない。
 この、まとわりつくような暗闇でさえ、今のフガクには昼間のようなものだった。
 彼はそっと腰からショートソードを抜いた。
 洞穴は人がふたり並んで歩けるほどの広さはあった。
 だが、分かれ道はなく、ただただ奥へと誘い込まれて行く。
 やがて、シューシューと、激しい息遣いのような音が聞こえて来た。
(敵さんのお出ましってね…)
 フガクは薄い唇をやや皮肉げにゆがめ、そう心の中でつぶやいた。
 突然、シュッと前方から何かが飛んで来た。
 反射的に後方へ飛び、フガクはショートソードを構える。
 さっき立っていたところに液状のものが広がり、ジュジュ…と地面が焼けただれていた。
 はるか遠くを注視すると、派手なまだら模様が目に入った。
 怒りのうなり声をあげ、こちらに毛だらけの脚をうねうねと伸ばしてくる。
 ここの主、巨大蜘蛛のマドエイドだ。
 フガクは伸ばされた脚を軽くなぎ払う。
 そして、マドエイドの背後にある、更なる闇に目を向けた。
(あった…!)
 洞穴の一番奥に、虹色の光の束が見える。
 綺麗に編み上げられた、それはマドエイドの巣だった。
 その瞬間、マドエイドの口から何かが吐き出された。
 フガクは壁を利用して、それをやり過ごし、マドエイドの右側へと回り込む。
 吐き出されたものはコールタールのような、どす黒い色をした半液状のものだ。
 粘度が高く、その上、強酸のようだった。
 あれにつかまったら大変なことになりそうだ。
 フガクはちょっとだけ肩をすくめて、奥へと飛びすさった。
 マドエイドの攻撃は容赦がなく、ほとんど間断なく、その剛毛の脚をいくつも伸ばして来ては、フガクを絡め取ろうとする。
 それを剣で払ったり、防いだり、少しだけ反撃したりして、誘うように踏み出しては、また大きく後ろへ飛びのく仕草を繰り返した。
 その間に、彼は真剣に体内で気を練り上げて行く。
 これは戦飼族の能力のひとつだが、手練れであればあるほど、精神集中が不要になる。
 フガクは一族の中でも早熟であった。
 そのため、これくらいの能力行使であれば、他の誰よりも易々とやってのけるのだった。
 怒り狂ったマドエイドが、必殺の一撃を放って来た時、フガクの気も十二分に完成していた。
 ふと足を止め、フガクは目を閉じる。
 その時。
 彼の移動したいくつかの場所から、怒濤のような音と共に、大きな波動がほとばしった。
 蜘蛛の脚をめがけて、巨大な空気の波が襲いかかる。
 その波が八本の脚を覆い尽くした瞬間、不自然なほどピタッと、蜘蛛は動きを止めた。
 まるで時間が止まったかのようだった。
 彼は無意味な動きを続けた訳ではなかった。
 一定の距離を保ちながら、地面に近いいくつかの壁に気を打ち込み、まるで袋の口を縛るかのように、最後にそれをまとめ上げたのだ。
 その範囲の中にいた蜘蛛の脚は、その気の触手に絡め取られて、立ち往生している。
 計算どおり、だった。
 苛立ちを隠しきれないマドエイドが、まだらの背中を震わせている間に、フガクは悠々と奥へ歩いて行った。
 そして、ショートソードの鋭い刃で、巣の端の糸を必要なだけ取ると、別の皮袋の中に糸のかたまりを落とし込む。
 それから、ふとフガクが横を見た時。


フガク:「うわ…っ」


 フガクは慌てて皮袋を腰のベルトに吊るした。
 嫌なものを見てしまった。
 すぐに踵を返し、マドエイドの横を走り抜ける。
 十分に距離を取った頃、彼は当初の予定通りに気を解除した。
 無論、マドエイドは怒号を発して追いかけて来る。
 マドエイドは距離があるので、追いつかないだろう。
 しかし。
 フガクはショートソードを右手に持ったままだった。
 なぜなら。


フガク:「来たか?!」


 マドエイドより甲高い音を発しながら、もっと近い距離を走って来る気配があった。
 ちっ、と舌打ちして、フガクは身を翻し、三眼兜の第三の目に意識を集中した。
 真紅の光線が、天井へと注がれ、大音響をあげて岩が崩れ落ちて来る。
 額の第三の目で高出力ビームを発したのである。
 岩の崩れる音の向こうで、悔しそうな鳴き声がした。
 だがそれも、すぐにかき消される。
 フガクは振り返らなかった。
 彼は見たのだ。
 マドエイドの巣の横に、ふたつの小さな巣があったことを。
 そして、そのうちのひとつに、家主がいなかったことを。
 フガクは湿地帯へと飛び出した。
 足がぐにゃりと沈んだが、後方からの追っ手は振り切ったようだった。
 気がつくと、岩の崩落はもう収まっていた。
 
 
フガク:「つ、疲れた〜…」


 片足を湿地に突っ込んだまま、フガクは大きく息を吐いた。
 思ったより重労働だった。
 だが。


フガク:「ま、これで魔法に耐性のある短衣が作れるな」


 後はマドエイドの巣から採った糸を、知り合いの防具屋に持ち込む。
 そこで短衣を作る糸に、この糸を編み込んでもらえば完璧だ。
 中等魔法なら九分九厘跳ね返すと言われる、アカマダラオオグモの糸なのだ。
 これだけの量を採取できれば、一着分にはなるだろう。
 フガクは無邪気な笑顔で、糸の入った皮袋をひとつ、ポンと叩くと、軽く口笛を吹きながら、ぬかるみのひどい湿地帯を上機嫌で戻って行った。



 〜END〜



 <ライターより>

 
 いつもご依頼、誠にありがとうございます!

 ライターの藤沢麗です。

 今回はおひとりでの冒険でしたが、
 フガクさんは戦い慣れているので、
 相手が大蜘蛛でも、
 まったく影響はなかったようですね!

 これで新しい防具が出来たら、
 さらに強くなっちゃうんでしょうね!

 彼の今後の活躍を大いに大いに期待しています!!

 それではまた、
 未来の冒険を綴る機会がありましたら、
 光栄至極です!

 この度はご依頼、本当にありがとうございました!