<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


臥龍亭日誌


アナタがいるのは臥龍亭の前。

旅の疲れを癒す為に泊まりに来たのか。
シェルの料理を食べに来て雑談をしに来たのか。
それとも臥龍やギルを誘って白山羊亭の冒険メニューにトライするのか。


この日の行動を決めるのは勿論貴方次第… 

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  すっかり日も暮れた、ある日の出来事…
「ふぃ〜…よく働いた〜」
「おまっ 何言ってんだよ!?都合悪くなるとすぐバトンタッチしやがったくせに!」
 虎王丸(こおうまる)とギルディアは相変わらず漫才のようなやりとりで、依頼完了後、蒼柳・凪(そうりゅう・なぎ)と臥龍と共に聖都の門をくぐった。
「早く帰らないとシェルが心配してるんじゃないか? なぁ、臥…」
 後方を歩く臥龍を振り返った凪。しかしいるはずの臥龍は遙か後方で立ち止まっている。
 聖都の門をくぐってすぐの所で、彼は空の闇や城壁の影を睨みつけていた。
「オイ、臥龍?」
 何かあったのかと近寄ろうとした矢先、凪も周囲の変化に気づいた。
 囲まれている。
 虎王丸とギルの方へ視線をやれば、彼らも気づいたようで、互いに背中合わせに立っている。
「――生体反応はなし…傀儡か!」
 何かの気配が動いた。
 臥龍の腕から伸びるデーモンクローが闇の中を移動する何かに向けて放たれる。しかしその何かは触手を遙かに上回る速さで移動する。
「鴉兵!」
 凪がそう叫んだ瞬間、月明かりに照らされ、夜の闇の中に鳥のような影が舞い上がる。
 武神をその身に降ろし、迫り来る鴉兵を迎撃する凪。
 虎王丸やギルも鴉兵による襲撃を受けた。
「チッ! またこいつらか!凪は戻りたくねーからこっち来てんだろうによっ!」
「どういうことそれ?」
 後で凪に聞け。それしか今は言えなかった。
 多勢に無勢とまではいかないが、人気がないにしろここは聖都の入り口。
 早く片をつけねば騒ぎになる。

キィィイイイィィィィィィイイイィィッ!!

 突如街中に響き渡る金切り声。
 その声に一同、鴉兵も含めて動きを止めた。
「新手か!?」
 月明かりを覆い隠すような大きな影。
 すると鴉兵は蜘蛛の子散らすようにその場から立ち去った。
「――アシェン!」
『大丈夫ですか?』
 巨大な青い瞳のカラスは地に降り立つと見る間に美しい踊り子に姿を変える。
「さっきのは? 皆様お怪我は?」
 おろおろしながら四人の様子を見やる彼女。名をアシェン・ルーナエ。
 月夜烏の踊り子と呼ばれた少女だった。
「問題ない。それより、人が集まる」
 臥龍の言葉どおり、周囲の家々の窓に明かりが燈る。
 見つかる前に臥龍亭に戻ろう。
 五人は足早にベルファ通りへ向かった。



 「んも〜遅いと思ったらまぁた厄介ごと?」
 食事の準備をしながらシェルの小言は続く。
 今宵、宿には他の客はいない。
 事情がありそうなので早めに店じまいをしたシェルは、臥龍に周辺を警戒するよう指示を出す。
「シェンが迎えに行ってくれたからいいものの…街中で問題起こさないの」
「んな事言ったってさぁ〜」
 こちらから仕掛けたわけではないのだからどうしようもない。
「で?虎王丸は凪を追ってきてるって言ってたけど…どういうことなのか話してくれるかい?」
 既に自分たちは巻き込まれている。言葉濁す凪に、ギルディアはそう付け足した。
「……」
 皆を巻き込んでいる。
 そして、虎王丸も既に何度か遭遇している。
 何も知らせぬままにしておけば、いずれシェルやアシェンにも手が及ぶだろう。
 凪は自分が故郷の世界の貴種という種族であること、その貴種達にとって重大な神事を行なう舞術の一族の一人である事を話した。
 故郷から出たことで追っ手がかかっている事など、普段から自分の素性は話さない彼だが、話せる限りの事を彼らに伝える。
「―――戻りたくない事情があることは把握した。しかし、シェルにまで危害が及ぶなら俺はその原因を絶つ」
 その意味がわかるな?そう問われ、分かっていると凪は頷く。
「オイオイ、凪が悪ィわけじゃねーだろがっ それよりも奴らまたすぐに来るぜ」
 こうなった以上対策を講じなければ。
「まぁ〜面倒ごとはいつものことだしぃ〜? シェルちゃんの事はアシェン、君に頼むよ」
「はい、ギルディア様。…でも、あなたも大変ですね…私も、舞絡みでいろいろあったから、あなたの気持ちは少しだけ分かる気がします…」
 だからこそ、無理やり元いた世界へ帰らせるような事はしたくない。
 その為に出来る限り協力すると、凪の前に料理を運んできたアシェンは微笑む。
 非戦闘員はこの場ではシェルのみ。
 彼らが戦闘に集中できるように、彼女の安全は自分が保障すると。
「で、だ。さっき凪も言ってたけど、『鴉兵』だっけ?具体的にあれどーゆーモンなんだい?」
 料理をつつきながらギルディアが問いかける。
 鴉兵。遠隔操作される素早い鴉をイメージして作られた、体内に網や爪を内蔵した、鴉の仮面をつけた黒い機械人形。
「後は…さっきは出てこなかったが、同じく傀儡の気配がしたな。違う『物』で…」
 臥龍の言葉に、凪は恐らく倒せば砂や水となる化け物たちだろうと言う。
 そういう類の傀儡を操る操り手と共に、この聖獣界に追っ手が来ている。そう、凪は呟いた。
「んじゃあ、手駒を一掃した後でそいつをとッ捕まえればいいわけだ?」
「始末すればいいだろう」
 ギルディアに言葉を返す臥龍にシェルが人殺しはダメと釘をさす。
「繰り手に関してはその時の状況で決めりゃいーだろ。とにかく鴉兵とその化け物をサッサと始末しようぜ。じゃねーと安心して動けねえしな。幸い俺もギルも瞬発力はある。臥龍も本人の早さはしらねーけど、爪は何処までも伸びるし自在に操れるし、早さもあるだろ?その辺活かして連中の連携を乱しつつ、俺やギルが隙をついて仕留めていく。凪は援護。臥龍も暴走しねーように主に援護な」
 いつになく率先して対策を練る虎王丸。
 凪のことに関しては、こういう時には自分が守らないとという意識が強いようで、いつも以上に責任感がある。
「…外の世界の事は分からないけれど、凪さんを見てる限り悪い人じゃないもの。物語にあるような政権争いや武力間闘争…その渦中にいると思うと息が詰まっちゃうよね。だから…皆頑張って」
 凪の自由を守ってあげてと、シェルは微笑んだ。



  空が白み始める。
 夜のうちに襲ってくるかと思いきや、朝もやに乗じての襲撃のようだ。
 臥龍亭の周囲に無機質な殺気が満ちていく。
「―――そろそろか…」
 臥龍を除く全員が仮眠から目覚める。
「動きは?」
「今はまだ沈黙を保っている」
 じゃあそろそろ移動するか。そういって装備を抱え、ギルディアが外へ出る。
 臥龍亭を盾にするのはシェルにも周辺にも迷惑がかかるから。
 シェルのことは任せてとアシェンは四人の微笑む。
 恐らく朝の光が聖都を包む頃には全て終わっているだろう。
「皆様…お気をつけて…」

 宿を出た四人は朝もやの中を聖都の外に向かって一直線に走りぬける。
 幾つもの気配が四人を追う。
「繰り手が卑怯者なら、宿の方にも行くかもね?」
 走りながらギルディアが呟く。だが、あの場はアシェンに任せてある。
「サッサと片をつける」
 臥龍の声がドスの入ったものになった。戦闘モードに切り替わったのだろう。
「追っ手なんざ蹴散らしてやんぜ!」
 聖都から出て、遠くにアクアーネ村が見える辺りまでやって来た。
 立ち止まると同時に周囲を囲まれる。
 鴉兵に紛れて化け物が同時に襲い掛かってきた。
 臥龍の腕や背中から幾重にも伸びる触手、デーモンクローが複雑な動きでそれらを牽制し、その間にも次々とギルディアと限定獣化により腕や脚を獣化さた虎王丸が高速移動で仕留めていく。
「くっ…!」
 鴉兵に内蔵された網が降り注ぎ、それをデーモンクローの刃と虎王丸の刀が両断。
 化け物も凪の銃弾やギルの鞭を受け、あっけなく砂や水と化して崩れた。
「(どこだ…何処に潜んでる?)」
 こいつらを操っているものがいる。
 遠隔操作とはいえ、それほど遠い場所なわけがない。
 援護射撃をしながらも凪は周囲の気配を探った。勿論、虎王丸やギルディア、臥龍も同じ様に気配を探していた。
「―――!」
 臥龍のデーモンクローの一本が一つの方向へ高速で伸びていく。
 するとそれまで襲い掛かってきた鴉兵や化け物が沈黙した。
 操り手の力を失ったそれらはガラガラと音を立てて崩れる。
「やったのか!?」
 デーモンクローが戻ってくる。
 徐々に薄まる靄の中、その先には僅かに血が。
 しかし量から見て致命傷に至る傷ではないようで、遠くに走り去る人影が見えた。
 シェルの言いつけどおり、殺してはいない。
 こんな状況でも、ただそれだけのことで凪はホッとした顔を見せる。
 追われている身ではあるが、目の前で人の死を見るのはやはり忍びない。
「―――繰り手ならば筋を絶つだけでいい…日常生活にはさほど支障は出ないだろうが、傀儡を繰るほどの複雑な事はもはや不可能だ」
 逃げたあの男は二度と凪たちの前に現れないだろう。
 しかし、そうだとしても次はまた別の追っ手がやってくる。
 そう思うと素直に喜べない。
「ま〜…とりあえずは撃退したってことで、いんじゃない?」
「だな。次があるならまた蹴散らしてやりゃあいいだけだ」
 拳をグッと握り、にかっと凪に笑いかける虎王丸。
「皆、有難う…ごめん」
 感謝の気持ちと巻き込んでしまったことへの謝罪と。嬉しさ反面、やはり気の引けるところがあるようで、凪は微苦笑する。
「…帰るぞ。次があるならまたその時駆り出せ。もっとも、シェルを巻き込まない事が絶対条件だがな」
 そう言って臥龍は踵を返す。
「そーそー♪オレら助っ人も仕事だもんねーいつでも呼びなよ。力になるからサ」
 だってよ?そう言わんばかりに虎王丸が凪に視線を向ける。
 何かあった時に力を貸してくれる人たちがいる。
 

 ありがとう。


 心の底からの感謝。
 そして、こんな仲間がいてくれるこの世界に、もっと居たいと切に願う。



―了―
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1070 / 虎王丸 / 男性 / 16歳 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 男性 / 15歳 / 舞術師】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、鴉です。
【臥龍亭日誌】毎度ご愛顧有難う御座います。

ノベルに関して何かご意見等ありましたら遠慮なくお報せいただけますと幸いです。
この度は当方に発注して頂きました事、重ねてお礼申し上げます。