<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


想月花の宴



 ある大富豪を家まで送り届けると言う護衛の仕事を全うし終わったフガクは、自分の仕事には割に合わないと思うほどの大金を懐に、暗くなった夜道を一人歩いていた。
 護衛中は特に賊が出るわけでもなく、モンスターの類が出たわけでもない。それなのに‥‥‥
 ――― いいっつっても押し付けるからなぁ‥‥‥
 指にはルビーやサファイアの指輪、首には純金のネックレス――― ちなみに金歯も純金だそうだ ――― と言う豪華な装いの大富豪は、コテコテに装飾された馬にまたがって、大量に買い込んだ高価な品物を召使達に持たせ、丸腰で野山を突っ切ろうとしていたところを、黒山羊亭の美しき踊り子・エスメラルダに止められ、たまたまお酒を飲みに来ていたフガクに護衛の話が回ってきた。
 脂ぎった顔に満面の笑みを浮かべ、札束の入った封筒を押し付け、また何かあった時は頼んだぞ!と明るい声で言った彼は、相当フガクを気に入ったらしい。
 ――― まぁ、確かにこの仕事してるヤツは、粗野で口が悪いのが多いからな‥‥‥
 礼儀も敬語もきちんと身についているフガクは、確かに依頼主からの受けは良かった。
 大雑把な部分もあるが、そこは人懐っこさと面倒見の良さでカバーされている。
 ――― それにしても、ここどこだ‥‥‥?
 身長2mを越すフガクよりもさらに高い木々が生い茂る砂道は、何処に続いているのか知れない。
 聖都へと帰りたいのに、どうやら道を間違えてしまったようだ。
 ――― 引き返すか‥‥‥
 このまま進んでいても、ヘタしたらますます迷い込んでしまう危険がある。
 ――― あそこの分かれ道を左だったのか‥‥‥?
 そう考えていた時、突然道の先が明るくなった。
 淡い水色に染まる先に何があるのかが知りたくて、フガクは警戒しつつも高い木々が途切れた先、広い花畑に出た。
 見渡す限り広がる花畑には、見た事もない綺麗な花が咲いていた。
 可憐で可愛らしい純白の花は、透き通った水色の光を空へと飛ばし、風に身を躍らせている。
 フガクは初めて見る美しい光景に、暫し言葉も忘れて見入った。風が吹くたびに水色の光りが空へと飛び、花が右へ左へ、軽やかに揺れる。
 ――― これは‥‥‥‥‥?
 もしかして、妖精の悪戯かもしれない。
 彼女達は愛らしい顔をして、お茶目で危険な悪戯をする時がある。
 花に魅了されてしまいそうな心を必死に繋ぎとめると、フガクは剣を抜いた。
 周囲に目を凝らし、耳を澄ませる。
 カサカサと言う微かな音を敏感に察知し、音の方へと切っ先を向けた、その瞬間 ―――
「きゃっ!」
 しゃがんで何かをしていたらしい金色の髪の美少女が立ち上がり、剣を構えたフガクを見て小さな叫び声を上げると、手に持っていたカゴを足元に落とした。
 口元に手を当て、驚きと恐怖がない交ぜになったような視線をフガクに向けて固まっている。
 ――― 人、か‥‥‥?
 身長160cmないくらいの少女は、ジッとフガクの瞳を見つめると、ふわりと微笑んだ。
「すまない、どうやら思い違いをしてたみたいだ‥‥‥」
 剣を鞘に収め、頭を下げる。
「いいえ、ここに初めて来られた方は、皆さん驚きますから」
 透き通った声は甘く、優しく紡がれる言葉は心地良く耳に届いた。
「もしお時間がありましたら、ご一緒にお茶でもしませんか?」
 突然の申し出に少々戸惑うが、彼女から悪意は感じられない。
「邪魔でないなら」
「邪魔なんて、とんでもないです。一人でお茶をするのは寂しいなと思っていたところだったんです。あちらにテーブルがありますので、どうぞお座りになってお待ち下さい。すぐにお茶とケーキをお持ちいたします」
 そう言って、彼女は足元に落ちたカゴを拾い、散らばった何かを集め始めた。
 先ほどフガクが驚かせてしまった時に落としたのだろう。
 花を傷付けないように注意しながら少女の所まで来ると、一緒になって落ちた林檎を拾う。
「あ、すみません‥‥‥」
 肩をすぼめ、申し訳なさそうに謝る彼女に、こちらが驚かせてしまったのだからと言って、林檎を拾う作業に集中する。
 散らばっていた林檎を全て集め、いっぱいになったカゴを抱えると、少女は花畑の向こう側へと消えて行った。
 一人残ったフガクは真っ白なテーブルに腰を下ろすと、少女が戻ってくるまでの間、満月の下で儚い光りを飛ばす花々を静かに見つめていた。



 小花があしらわれたカップと、真っ白なポット。
 縁が金色のお皿にはクッキー、取っ手の部分にピンク色の小さな造花が結ばれているカゴの中には甘い香りを発するマフィン。
「私は、喫茶店・ティクルアの店長でリタ・ツヴァイと申します」
 丁寧に頭を下げて自己紹介した少女・リタは、外見年齢はフガクよりはやや若いくらい ――― 18歳程度だろう ――― だが、随分とシッカリした雰囲気だった。
「俺はフガクって言うんだ。宜しくな、リタさん」
「フガクさん‥‥素敵なお名前ですね」
 にっこりと微笑みながら、リタは数度口の中で「フガクさん」と呟くと、フガクの顔と名前を記憶に縫いとめた。
「私の作ったものですのでお口に合うかは分かりませんが、どうぞ」
 チョコチップの入ったクッキーを一枚取り、口に運ぶ。
 サクッとした食感と柔らかな味。驚くほど美味しいクッキーは、出された柑橘系の紅茶によく合っていた。
「凄く美味しい‥‥‥」
「そう言っていただけると嬉しいです」
 胸の前で手を組み合わせ、無邪気に微笑むリタ。
 まったりと流れる時間は、嫌いではなかった。
 銀色の髪を風が優しく撫ぜ、花から淡い光が空へと飛ぶ。
「あれは、なんて花なんだ?」
「想月花と言うんです。私が品種改良して作った、ここにしか咲かない花なんです」
 恥ずかしそうに言うリタの横顔は、それでもどこか誇らしげだった。
「想月花、か‥‥‥。確かに、名前の通りだな」
 褒めたつもりが、寂しそうな顔をされて驚く。
 透き通ったエメラルドグリーンの瞳が、真っ直ぐにフガクの紫の瞳を見つめ、微かに揺れると目を伏せた。
「‥‥‥この花は、普段は揺れる度に白、淡いピンク色と色を変えるのですが、満月の晩にのみ、透き通った水色の光を空へと飛ばすんです」
「普段でも揺れる度に色を変えるのか‥‥‥すごいな」
「ずっと眺めていても飽きないんですよ。私もお店が暇な日は、ここでずーっと眺めてるんです」
 白、淡いピンクと色を変える花畑の中央、真っ白なテーブルでボンヤリと花を見つめる少女。
 絵になる光景だが、どこか物悲しい感じがするのは気のせいだろうか ――――― ?
「どうしてこの花を作ったんだ?」
 突然の質問に、リタが目を丸くする。
 フガク自身も、自分の言った事に少々戸惑った。
 気にはなっていたことだが、まさかこんなに直球で聞くとは‥‥‥。
「いや、その‥‥‥ごめん。話したくないことなら‥‥‥」
「いいえ、良いんです。そうですね‥‥‥でも、人にこの話をするのは久しぶりですから、どこから話したら良いのか‥‥‥」
 サラリと金の髪を靡かせながら、リタが視線を左右に振る。
 白く細長い指がカップの縁をなぞり、取っ手へと滑る。
「もう何年も前になるんでしょうか‥‥‥私が13の時の事ですから、5年も前になるんですね‥‥」
 ふっと遠くに向けられた視線の先を追う。
 満月が輝く空には、無数の星が散りばめられていた。
「私は昔、ここではない世界‥‥‥ここよりももっと不安定で、戦いの多い場所にいました」
 風は血の臭いを孕み、悲鳴や剣がぶつかる音を運んでくる。
 悲しく、寂しい世界。戦いは憎しみを呼び、憎しみは人々を殺戮へと駆り立てる。
「私の両親は私が幼い時に、戦いに巻き込まれて亡くなったそうです。幼かった私はとある男女に助けられ、彼らの営む孤児院へと引き取られました」
 孤児院にはリタの他にも戦いで両親を失った子供達が大勢おり、寂しい思いはしなかった。
 深い森の奥、ひっそりと建つ孤児院に戦火の魔の手が迫ったのは、リタが10歳の時だった。
「母は‥‥‥私を引き取ってくれた女性の事を、母と呼んでいます。男性のことは、父と呼んでます。本当の両親の顔は知りませんから‥‥。母は、私達を連れて森の中の洞窟へと逃げ、何とか助かりました。けれど父と数人の子供達は、やって来た兵士に‥‥‥」
 グッと奥歯を噛み、その先の言葉を飲み込むリタ。
 その当時の光景を思い出したのか、ジッと花畑を見つめ、唇を噛んでいる。
「‥‥‥辛い記憶を思い出させてしまって悪かった。だから、もう‥‥‥」
 その先は言わなくても良い。そう続くはずだった言葉は、リタの真剣な眼差しによって遮られた。
「私達は焼け落ちた孤児院の前で、ずっと泣き続けました。大好きだった父と、兄弟のように育った子供達の死は、とても辛く悲しいものでした。けれど、その悲しみにも負けずに未来を見ていた人が2人だけいたんです。母と、13歳の男の子でした」
 フガクと同じような綺麗な銀色の髪に、青い瞳の少年は、子供達の中でも最年長だった。
「ずっと泣いていたって、何も変らない。僕達には、未来がある。あの日の事は忘れずに、それでも前を向いていかなきゃいけない。生きている者として、大切な人たちの記憶を持つ者として」
 悲しみにくれるリタ達をそう鼓舞すると、少年は孤児院を建て直そうと、どこからか木を運んで来て、母親と一緒に造り始めた。
 最初はその光景をボンヤリと見ていた子供達も、1人、また1人と手を貸すようになり、一年後には以前と変らないこじんまりとした、それでもどこかお洒落な孤児院が復活した。
「それからの私達は、幸せでした。時折あの日の事を思い出して悲しくなったりもしましたが、それでも‥‥家族がいる、それだけで幸せでした」
 決して多くは望まない。
 少しの食事、必要最低限の洋服、朝になれば起き、夜になれば眠る。妹や弟のために枝や草花を用いて玩具を作り、森の中を飛び回る鳥の声にあわせて歌を歌い、リスと追いかけっこをする。
「私が13歳のあの日までは‥‥‥」
 家族のように過ごすうち、芽生えた甘い感情。少年を想うリタの心は、リタを想う少年の心と重なった。
 そしてあの日 ――― 全ての幸せが壊されてしまったあの日 ――― 少年はリタを森の中へと連れ出した。
「凄くシンプルな告白の言葉でした」
 たった2つの音に含まれた想いの深さに、リタは返事をする事が出来なかった。
 ただ顔を赤くして、目を潤ませて‥‥‥‥
「突然、木々がざわめき、悲鳴が聞こえたんです。風が運んでくる血の臭い、聞き覚えのある悲鳴‥‥‥。彼は私をその場に残すと、孤児院の方へ走って行ってしまいました。‥‥‥私は、止める事が出来なかったばかりか、追う事すら出来ませんでした」
 長い時間、リタは恐怖に怯えながら森の中に残っていた。
 空が赤みを帯び、紫色の雲が浮かぶ頃になってやっと、リタは震える足を動かすと孤児院の方へと向かった。
 そして ―――――
「家が、燃えていました。そして、母が、妹達が、弟達が‥‥‥」
 エメラルドグリーンの瞳から、透明な涙が零れ落ちる。
 真っ直ぐにフガクを見つめる瞳は儚気で、今にも崩れ落ちてしまいそうなほどに危うげだった。
「血の海の中で、目を閉じていました。もう2度と返事をしてくれないのが分かっていながら、名前を呼びかけて‥‥‥1人1人見ているうちに、彼を、見つけたんです。一番末っ子の女の子を抱きかかえるようにして‥‥‥」
 目を逸らす。
 膝の上で力強く握り締められた手が、震えている‥‥‥。
 ――― 見た目だけじゃ、分からないもんだな‥‥‥
 穏やかで、柔らかな雰囲気のする少女の背負うものは、決して温かなものではなかった。
 2度も喪った両親、家族、好きだった相手 ――――
 名前以外の全ての記憶を失っているフガクは、自分がどんな過去を背負っているのか、思い出せない。
 けれど、リタの言っている言葉の意味が、辛さが、分からないわけではなかった。
 もし自分が彼女の立場なら?
 そう考えると、胸が締め付けられる思いがした。
「ウチの孤児院では、亡くなった人は月に行くんだって聞かされてたんです。平和で美しい場所‥‥‥亡くなった人は皆、そこに行くんだよって」
「‥‥‥だから花達が月に向けて光を放つのか?」
 そうなんです。
 そう呟いたリタの瞳からは、まだ涙が流れ続けている。
 ただ流れるに任せているだけの透明な雫は、パタリ、パタリと淡い水色のスカートの上に落ちてはジワリと滲んでいく。
「私、結局言えないままだったんです。彼に、好きだって‥‥‥。それに、両親や兄弟にも、大好きだったって、たくさんの幸せを有難うって、言えないままでした。いなくなってから言いたくなるなんて、馬鹿ですよね‥‥‥」
 生きているうちに言わなければ伝わらないのに。
 いくら花を作ろうとも、想いは永遠に届かないのに。
 淡い水色の光が、決して月に届かないように ―――――
「‥‥‥案外さ、お月様にも花の光りは見えてるかもよ?」
 リタの瞳が揺れ、涙が一粒零れたきり、沈黙する。
「光らないとお月様も心配してたりしてね」
 随分抑えられた声は優しい音で、幾分フガクを物腰柔らかい紳士へと変えていた。
 金髪の美少女と高身長の紳士のツインが、幻想的な花畑の中央でお茶を飲みながら語らう姿は、絵画のように静謐な雰囲気を持っていた。
「手は届かなくても、気持ちって意外と届くもんだし。‥‥‥そうじゃないと、一生懸命光ってる花が可哀想じゃない」
 伝えられなくても、言葉は届かなくとも、リタが必死に想っているのならば、きっと彼らに伝わるはず。
「‥‥‥‥‥なんてね、俺の勝手な想像だけど‥‥‥」
 止まっていたリタの涙が再び溢れ出し、思わず慌てる。
 何か変な事を言ってしまっただろうかと自分が言った言葉を思い返してみるが、特におかしな事は言っていないように思う。
 それなのに、なぜ ―――――?
「‥‥‥フガクさんって、本当‥‥‥お優しい方ですね」
 ふわり、泣きながら微笑むリタは、そっと涙を拭うと大きく深呼吸をした。
「彼が生きていたら、きっと同じような事を言ったんでしょうね‥‥‥」
 お優しい方なんですねと再度繰り返し、リタは空を仰ぎ見た。
 淡い水色の光りで満たされた地上を優しく照らす月。そこにはきっと、月光と同じくらい優しい光りを心の内に宿した人々が住んでいる。
「泣いたのなんて、本当に久しぶりです。この話をしたのと同じくらい久しぶりですね‥‥‥」
「そうなのか?」
「えぇ。ココに来てから、毎日が楽しいんです。たまに事件が起きたりもするんですけれど、それ以外は平和で穏やかなんです。変化のない毎日はつまらないって仰る方もいらっしゃいますが、私はお客さんの楽しそうな笑い声とか、笑顔とか、そう言うのを見ていられるだけで幸せなんです」
 会話が途切れ、夜の寒さがジワリと身体を包んでくる。
 フガクはカップに残っていた紅茶を飲み干すと、席を立った。
「今日は綺麗な光景が見れたし、色々話も出来たし、楽しかった」
 大富豪から半ば強引に押し付けられた封筒を取り出し、中からお札を抜く。
 美味しい紅茶とデザートの御代にと思って置こうとしたのだが、リタがそっとフガクの手に触れると押し返した。
「満月の夜に開かれるお茶会では、御代を頂かないんですよ」
「でも‥‥‥」
「一緒に花を見て、お喋りをしていただく。それだけで、十分なんです」
 つくづく今日はお金に縁のある日だ ―――――
 フガクは俯くと、思わず口元に笑みを浮かべた。
「そうそう、リタさんに聞きたい事があるんだけど‥‥‥聖都の方角ってどっちかな?」
 あちらですと指差したリタが、胸の前でパンと手を叩くと大輪の花のような笑みを浮かべた。
「どうせなら、お店の前までご一緒しません?」
 手早くテーブルの上の物を纏めたりタの手から、食器類を取ると歩き出す。
 ザワザワと揺れる花々を傷付けないように、驚かせないように、そっとそっと、慎重な足取りで歩く。
 美麗な花畑を抜けた先には、まるで御伽噺の中から抜け出てきたような可愛らしい丸太小屋のお店がチョコンと建っていた。
 喫茶店・ティクルアと書かれた木の看板に、金色のドアノブに下がるCloseの文字。
「ここがリタさんの喫茶店か‥‥‥」
「はい。もし機会がありましたら、ぜひお越し下さいね。一番日当たりの良い席にお連れしますから」
 そうだわ‥‥‥少しここで待っていてもらえませんか?
 そう言って、リタが喫茶店の中に入って行った。ポワリとオレンジ色の柔らかな明かりが灯り、窓にかけられた真っ白なカーテンを通して夜の闇に沈んだ周囲を淡く照らす。
「お待たせしました。今日の残り物を詰めただけのもので申し訳ないのですが、どうぞお持ち帰り下さい」
 綺麗にラッピングされた袋を受け取る。中にはマフィンやクッキー、パンなどが詰められているらしい。
「悲しい思い出って、不思議ですよね‥‥‥。人に話すごとに、淡く変っていく気がするんです。‥‥‥でも、悲しいお話って、聞いていてあまり楽しいものじゃないじゃないですか。だから‥‥‥せめてものお詫びです。どうか受け取ってください」
 受け取る事に躊躇しているフガクの前で、リタは深く頭を下げた。
 細い肩から金色の髪が滑り落ち、顔の横でユラリと揺れている。
「いや‥‥‥俺が聞いたようなものだし。少しでもリタさんの心が軽くなったんなら、それで‥‥‥」
 顔を上げ、華やかな笑顔を浮かべたリタは、胸の前で祈るように手を組み合わせた。
 そして ―――――
「優しい貴方に、月の祝福を‥‥‥。真っ直ぐに、家まで帰れますように‥‥‥」



 月に照らされた道を歩きながら、フガクは手に持ったプレゼントに視線を落とすと、空を仰ぎ見た。
 ――― 月の祝福、か‥‥‥
 きっと今夜は迷わずに家まで帰れるだろう。
 月光は何処までも真っ直ぐに道を照らしてくれているし、リタの言ったとおり、地平の近くには未だに眠らない聖都の明かりが見えている。
 散りばめられた星と、煌々と輝く月と、漆黒に染まった空と。
 フガクは無意識に胸元に手を当てた。
 右肩から左の腰にかけて残る傷痕をなぞり、欠け落ちた記憶を思う。
 思い出せない過去は、どんな風に彩られていたのだろうか‥‥‥?
 ふっと息を吐き、足元に視線を落とすと、フガクは静かに目を閉じた ――――――



END


 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  3573 / フガク / 男性 / 25歳 / 冒険者


  NPC / リタ・ツヴァイ


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 遅くなりまして申し訳ありません。
 想月花の宴、如何でしたでしょうか?
 リタの過去話をいれつつ、想月花が作られた理由、月に光りを飛ばす理由を入れてみました。
 口調がとても心配ですが、大丈夫でしたでしょうか‥‥‥?
 フガクさんとリタのほのぼのとした、穏やかな深夜のお茶会の様子を描けていればと思います。
 この度はご参加いただきましてまことに有難う御座いました!