<WhiteChristmas・聖なる夜の物語>


イブを取り戻せ!

■オープニング

「さーて、これで全部そろったぞー!」
「夢の世界」にそびえ立つ巨大なモミの木の下で、エファナは満足そうに頷いた。
 目の前には、ここひと月かけていくつかの世界を飛び回り、そこで出会った人々の願いを聞いて苦労の末に準備したプレゼントが、綺麗にラッピングされて山と積み上げられている。
 ついでに、モミの木を取り巻く草原には、テーブルを並べた野外パーティーの準備も整えられていた。
「イブの夜、夢の世界に集まったみんなが、ここでパーティーを楽しみながらプレゼントを開く……ウフッ、我ながら完璧なプランね!」
 もちろん「夢の世界」の出来事なので、目覚めてしまえばパーティーやプレゼントのことは皆忘れてしまうだろう。
 たった一夜の夢とはいえ、それでも集まったみんなの心からの笑顔を想像すると、エファナの口許にも知らず知らずのうちに笑みがこぼれてくる。

「あ〜ら。随分、楽しそうじゃない?」
 頭上からの声に驚いて振り返ると、そこに黒いドレスをまとい、蝙蝠のような翼を広げた少女が宙に浮いていた。
 歳は、ちょどエファナと同じくらいだ。
「あんた、誰?」
「私はメリーゼル。夢魔見習いの魔女よ」
「あら、そうなの? あたし、サンタ見習いのエファナ。よろしくね♪」
「よろしくぅ? バカいってんじゃないよ!」
 唐突に罵声を上げ、メリーゼルが手にした黒いステッキを振う。
 激しい突風が発生し、エファナが準備したパーティー会場をめちゃめちゃに吹き飛ばした。
「あーっ!? 何てことするのよ!」
「ここは私たち夢魔のシマなの。勝手なマネするんじゃないわよ!」
「そんなこと、いわれたって……」
「あら? そこにあるのは何かしら?」
 モミの木の下に積まれたプレゼントの山に目を付け、メリーゼルが舞い降りる。
「なーるほど。サンタ見習いは夢の世界で、人間が一番喜ぶプレゼントを探すって聞いてるけど……これがそうね?」
「ダメよ! それはみんなの――」
 慌てて止めようとしたエファナは、黒衣の少女の魔力で弾き飛ばされ、後方の地面に叩きつけられた。
 見かけの歳は同じでも、魔女としての力はメリーゼルの方が一枚上手らしい。
「ホホホ。私たち夢魔はねぇ、人間の『夢』を糧にして力を得るの。これだけの夢の力があれば、私もめでたく正規の夢魔に昇格できるわ。ご協力ありがとね〜」
 そういうと、メリーゼルは周囲の空間から召喚した小さな使い魔たちに命じ、一つ残らずプレゼントを持ち去ってしまった。

「ううっ、ひどい‥‥」
 エファナは半ベソをかきつつ、泥だらけの姿で立ち上がった。
「もうすぐイブの夜が始まっちゃう……その前に取り返さなきゃ。プレゼントを……みんなの夢を」
 顔を上げると、「戦利品」を抱えたメリーゼルと使い魔たちが、意気揚々と丘の上に建つ館へと引上げるところだった。

■聖獣界からの来訪者

「いったいどうしたの?」
 泥だらけのままベソをかくエファナに話しかけてきたのは、ミルカだった。
 現実ではソーン世界の羽耳族。背中まで伸ばした豊かな銀髪に金色の瞳、耳のあたりには種族名の示すごとく小さな白い羽を持つ。また幼少の頃より養父と共に旅の生活を続けていた吟遊詩人、まだあどけなさを残す17歳の歌姫でもある。
 もっとも彼女の肉体はいま寝床の中で安らかに寝息を立て、その心のみが夢の世界の住人として実体化しているわけだが。
 そしてミルカもまた、今夜エファナからクリスマスパーティーに招待され、プレゼントをもらう約束を交わしていた一人であった。
「だいじょうぶ? ケガしてない? それにしてもヒドイ話だわ!」
 エファナのサンタドレスから泥を払い落としてやり、事情を聞いたミルカは腹に据えかねたように憤った。
「みんなの夢を奪いとるだなんて……これは、絶対にとりもどさなくっちゃ!」
「でも、どうしましょう? 相手は見習いといっても夢魔なんですよ? 夢の世界じゃ誰もかないっこありません……ごめんなさい、あたしが不甲斐ないばかりに……」
 そういうと、再び見習いサンタの少女はシクシク泣き始めた。
「君たち、どうかしたかい?」
 そのとき、背後から心配そうに声をかける者がある。
 2人が振り返ると、そこに黒い燕尾服に身を包み、背中から蝙蝠に似た翼を持つ青年が立っていた。
「そのコウモリみたいな羽……さては、あなたも夢魔の仲間ね!?」
 怒りにまかせて拳を振り上げるミルカ。
「ま、待ってください! そのひとも、あたしがパーティーに招いたんです!」
 エファナが慌てて制止する。
「あら? あなた、ひょっとして……ウィンダー(有翼人)?」
「君もソーンの住人かい? 始めまして。僕の名はレイジュ・ウィナード」
 赤い髪に銀の瞳を持つ青年は、白手袋をはめた片手を胸に当て、礼儀正しくミルカに一礼した。
 ソーン世界では「蝙蝠の城」と呼ばれる屋敷の主でもある彼は、また「蝙蝠の騎士」の二つ名を持つウィンダーの戦士でもある。
 誤解が解けたところで、レイジュも改めてエファナから事の次第を聞いた。
「ふむ……メリーゼルがどんな奴か知らないが、レディを泣かすような輩は見過ごせない。及ばずながら、僕もプレゼントを取り返すのに力を貸そう」
「夢魔っていうくらいだから……魔の眷属なのよね」
 ミルカが思案する。
「それなら、聖歌は効くかしら? みんなで歌って……とまではいかなくても、あたしなら歌に魔力がこめられるから」
「確かに神聖系の魔法は効果があると思います。……でも、彼女も夢魔だけに夢の中なら自由に手下の怪物を召喚できますし……正面から行くのは危険すぎますよ」
 晴れ渡った空の下、そこだけが不気味な暗雲に覆われたメリーゼルの館を不安げに見やり、エファナが忠告した。
「なら、こっそり忍び込むのはどうかな?」
 レイジュが提案した。
「こういっちゃ何だけど、僕は君らより魔に近い存在だし……姿を変えて行けば、気配を悟られずに館の中に侵入できると思う。プレゼントさえ取り戻せれば、別に無理して闘う必要もないだろう?」
 そういうと、レイジュは奪還したプレゼントを運ぶための袋か何かを出せないかとエファナに尋ねた。
「それじゃあ、これ……サンタがプレゼントを配るのに使う、専用の袋です。見た目よりずっと一杯荷物が入るし、重さも感じないんですよ☆」
 エファナが魔法のステッキを一振りすると、空中から絵本などでよくサンタが背負っている、あのお馴染みの白い布袋が現れ、レイジュの手にフワっと落ちた。


 蝙蝠に姿を変え、レイジュは貴族の城のごとくそびえ立つ夢魔の館に空から近づいた。
 館の上空を守って飛び交う使い魔のカラスや蝙蝠たちがわらわらと群がってくるが、レイジュのことを「仲間」だと思いこんだらしく、すぐ警戒を解いて離れていった。
(こんな連中に同類扱いされるのは、ちょっと不本意だけどな……)
 現実のソーン世界ならば数々の強大な魔力を使いこなすレイジュだが、ここは夢の世界――いわば敵のホームグラウンドなのだから仕方がない。
 館の窓が一つ半開きになっているのを見つけ、そこから巧みに潜り込む。
 そこはちょうど大広間にあたる場所で、暖炉のマントルピース脇に綺麗にラッピングされたプレゼントの箱が山と積まれていた。
(あれがエファナから奪ったプレゼントか)
 広間に人影がいないことを確かめると、レイジュは元の姿に戻り、エファナから借りたサンタの袋にプレゼントを詰め込み始めた。
 見かけはそれほど大きくない布袋だが、エファナのいったとおり、詰めても詰めても面白いように荷物を呑み込んでいく。しかも袋じたいの重さは全く変わらない。
「なるほど、こいつは便利だ」
 しかしプレゼントの量が多すぎたため、つい詰め込む方に気を取られてしまった。
「あんた誰!? そこで何してるの!?」
 鋭い声に慌てて振り返ると、2階から広間に降りてくる馬蹄状の階段の中程で、黒いゴシック・ロリータ風のドレスに身を包み、背中からレイジュ同様蝙蝠のような翼を生やした少女がこちらを睨み付けていた。
(え? この子がメリーゼル……?)
 レイジュは困惑した。メリーゼルのことは「夢魔見習いの魔女」と聞いていたが、まさかエファナと殆ど同年配の少女とは思わなかった。
「誰だか知らないけど、私の館に盗みに入るとはいい度胸ねぇ」
 メリーゼルは翼を羽ばたかせ、レイジュの前に舞い降りた。
(弱ったな……いくら悪者でも、こんな年下の女の子と闘うわけにはいかないし)
「えーと、君がメリーゼル? 勝手に入り込んだのは謝るよ。でも、このプレゼントはエファナに返した方がいいな」
 とりあえず、穏便に説得を試みる。
「正規の夢魔に昇格したい気持ちは判るけど……そういうのは、やっぱり自分の実力で――」
「余計なお世話よ!」
 牙を剥いてメリーゼルが怒鳴る。
 黒いステッキを一振りした瞬間、強烈な衝撃波を浴びてレイジュは壁際に吹き飛ばされた。
(交渉決裂か……やむを得ないな!)
 すっくと立ち上がり、吸血剣・レッドジュエルを抜いて身構えるレイジュ。
 だが、背後の壁から湧いて出るように出現したワーウルフのようなモンスターに翼を捕らえられてしまった。
「しまった――!」
「ホホホホ。夢の世界で夢魔である私に刃向かおうなんて、百年早いわね!」
 高らかに笑いつつ、次なる攻撃を仕掛けようとメリーゼルがステッキを振り上げたとき。
 ――何処からか、澄み渡った歌声が聞こえてきた。
「なっ……なによ、この歌は!?」
 メリーゼルが顔を歪めた。レイジュの耳には心地よく響く同じ歌声が、彼女にはひどく苦痛らしい。
「レイジュさんっ!」
 広間の扉が開き、エファナとミルカが駆け込んできた。
 見習いとはいえ、エファナも魔女のはしくれである。ミルカが聖なる力を込めた歌声で使い魔たちをひるませた隙に、館の扉を破って駆けつけてきたのだ。
「エファナ!? ……くそっ、あんたたちグルだったのね!」
 気を取り直してステッキを振り、広間中に新手のモンスターたちを召喚するメリーゼル。
 しかしミルカが竪琴をつま弾き、さらに聖なる歌声を張り上げると、モンスターたちは石像のごとくその場に硬直した。
 レイジュの翼を捕らえていたワーウルフも、苦しげなうなり声を残し壁の中へ逃げ込んだ。
「レイジュさん、手伝って!」
 エファナが魔力により空中から聖水を召喚。レイジュも魔力を貸し、広間中に増幅された聖水の雨が降り注いだ。
「ひい――っ!!」
 夢魔の少女が頭を抱えて悲鳴を上げる。
 聖水を浴びたモンスターたちは宙に溶けるように消え去り、あとは翼の先までずぶ濡れになってブザマに腰を抜かしたメリーゼルだけが残された。
「勝負あったな……じゃあ、こいつは返してもらうよ」
 幸い、魔法の袋に詰めたプレゼントは無事だった。レイジュはひょいと袋を担ぎ上げ、ミルカ、エファナらと共に引上げる。
 ちょうど広間から出ようとしたとき、背後から啜り泣きの声が聞こえた。
 振り返れば、床に座り込んだメリーゼルが悔しげに唇を噛み、ポロポロ涙を流している。
 3人は気まずそうに顔を見合わせた。
「……あのさ、メリーゼル」
 引き返したエファナが話しかけた。
「あたしは本物のサンタになるために、みんなが本当に喜ぶプレゼントを捜してるの。だから、今夜……イブの夜は、誰にも泣いて欲しくないんだ。よかったら教えてくれない? あんたは、どんなプレゼントを贈られたらいちばん嬉しいの?」
「知らないわよっ、そんなの!」
 メリーゼルは泣きながら叫んだ。
「ずっとこの館で、独りぼっちで暮らしてきたのよ――プレゼントをもらったり、パーティーに誘われたことなんて一度もないんだから!」
「だったら、あなたも来ない? あたしたちのパーティーに」
 にっこり微笑んで、ミルカが提案した。
「みんなで楽しもうよ。尊き夜なんだから……」
「……」
「さあ、涙を拭いて。レディには笑顔のほうがお似合いだよ」
 レイジュがハンカチを渡し、手を差し伸べると、メリーゼルは照れくさそうに俯いたまま、おずおず立ち上がった。

 4人が協力して野外パーティーの会場をセットし直した頃、エファナが招待した様々な世界の人々が、夢の世界へと姿を現した。
 大きなモミの木が魔法の灯でイルミネーションのごとく輝き、その下で人々は食事や飲み物を楽しみつつ、エファナから一つ一つ手渡しでプレゼントを贈られた。
 初めはバツの悪そうにしていたメリーゼルも、その頃になるとすっかり雰囲気に馴染み、笑顔を浮かべて切り分けたケーキを招待客に配ったりしている。
「っと、そうそう。レイジュさんへのプレゼントはこれです。……はいっ」
 エファナから贈られた箱をレイジュが開くと、中には少し古びた、可愛いぬいぐるみが入っていた。
「これは僕が小さい頃に母親からもらったものだな。かなり前に無くしてしまったが、ここで出てくるとは思わなかった。子供の頃必死で探したのだよ」
 ぬいぐるみを見つめ、しみじみと懐かしい思い出に浸るレイジュ。
「そして、ミルカさんへのプレゼントは……」
「ええ。お願いね、エファナ」
 サンタ見習いの少女がステッキを振ると、ミルカのみならず、会場にいた人々みんなが「わあっ」と歓声を上げた。
 それは真っ白な雪――夢の世界全てを白く染め上げるような、ホワイト・クリスマス。
 ミルカは再び竪琴をつま弾き、静かに歌い始めた。
 この喜びが、幸せな気持ちが、みんなの胸に届くように――。

〈了〉

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
PC
3370/レイジュ・ウィナード(れいじゅ・うぃなーど)/男性性/20歳(実年齢20歳)/異界職(蝙蝠の騎士)
3457/ミルカ(みるか)/女性性/17歳(実年齢17歳)/歌姫(吟遊詩人)

公式NPC
−/エファナ(えふぁな)/女性/外見年齢12歳/見習いサンタ(レベル1魔女)

その他NPC
−/メリーゼル(めりーぜる)/女性/12歳(外見)/見習い夢魔

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、対馬正治です。今回のご参加、誠にありがとうございました。
レイジュさんはどうも始めまして。またミルカさんは、ハロウィンイベントに引き続いてのご依頼ありがとうございます。
お二人の力で、エファナもプレゼントを取り返し無事に聖夜を迎えることができました。
ノベルの方もお楽しみ頂ければ幸いです。
ではまた、ご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。