<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『ファムルの診療所/お勧め探索地〜髪飾り〜』

 ダラン・ローデスが再び診療所に顔を出すようになった頃のことである。
 まだ、寒くなる前。獣人のティナは、たまたま傷薬を買いに診療所を訪れた。
「材料持ち込みなら安くするぞ」
 そんなに持ち合わせがなかったティナは、ファムル・ディートの言葉を受けて、薬草探しに出かけることにする。
 野山を駆け回ることが大好きなティナには、もってこいの仕事だ。
「ん……」
 奥の部屋で魔術の練習をしているらしいダランを見ると、声をかけるより早く駆け寄ってきた。
「薬草探しに行くのか!? 俺も行ってやろうか。魔術師の力が必要かもしんねーし」
 言って、ダランは胸を張る。
 ティナは以前ダランと出かけた時のことを思い出す。
 魔術……使えることは使えるようだが、ダランは大した力を持っていない。
 だけど。
 相変わらずのダランの様子を懐かしく思いながら、ティナはこくりと頷いて、「行こう、一緒に」と言ったのだった。 
 1人より、2人の方がきっと楽しいから。

**********

 2人が一緒にこの地下道を通るのは、2度目であった。
 そして――ダランに抱きつかれるのも、2度目であった。
 腕に抱きついたり、後ろから腰に抱き付いてきたり。とにかく、邪魔である。
 この地下道には多少の怪物が入り込む。戦闘能力に乏しいダランは、下手に突っ走られるより、自分の側においておくべきだと思い、ティナはくっつかれても我慢していた。
 ……というより、少し慣れたのかもしれない。
 ダランがティナにくっつくのは、恐怖心と女の子への愛情だ。成人男性だったら、蹴り飛ばさねばならないが、ダランは年下の男の子である。ティナはそんなに嫌だとは感じていなかった。
「で、出たな怪物!」
 驚いたことに、そのダランがティナの前に出た。
 地下道に出現したのは、モグラが変化した怪物であった。大した敵ではないが、ダランには無理……と、ティナがダランを押しのけようとした直後だった。
「火炎弾!」
 2人の前に浮かび上がった火の弾が、怪物に向かって放たれる。
 火の弾は、見事にヒットし、怪物を熱と衝撃で倒したのだった。
「ダラン……強くなった?」
「おうっ! 元々強かったけどなっ!」
 言ってダランは踏ん反り返る。
 少し見ないうちに、随分と成長したようである。
 これなら万が一逸れてしまっても、大丈夫だろう。
「ティナー、寒くないかー、俺が温めてやるぜー」
 再び、ダランがぎゅっとひっついてくる。
 逸れたくても逸れられそうもないが。
 
 以前かかってしまった罠は、十分気をつけて回避し、2人は草原へと出た。
 降り注ぐ光のまぶしさに目を細めながら、草原へ足を踏み入れた途端、ティナの心が高揚し、思わず駆け出した。
「疲れたー」
 対照的に、ダランはのんびり歩いている。しかし、その顔は輝いており、ティナ同様、心は弾んでいるようだ。
「草原の先、行く!」
 ティナが振り向いてそう言うと、ダランは頷いてついてくる。
 蝶や花に気をとられながら、ティナは駆けてゆく。
 この場所では、ダランよりティナの方が子供のようにはしゃいでいた。
 次第に木が多くなり、山裾へと出た。
 見上げた山からは、なんだか不思議な力を感じる。
「これより先はダメなんだ!」
 ティナが足を一歩踏み出した途端、息を切らしてダランが駆け寄ってきた。
「山の中、ダメ?」
 山は自分の庭のようなものだ。少しでいいから、この山の中に入りたいという衝動に駆られる。
「うん、この山には、怖い魔女が住んでいて……ええっと、ティナみたいな可愛い女の子を食うんだ。だから近付いちゃダメだ!」
 その言葉に、ティナは飛び上がるほど驚いた。
 人間とは、本当に恐ろしい生き物だ。
 純粋なティナはダランの言葉に従い、その場を離れることにした。

 匂いをかぎながら、薬草を選ぶ。
 側では、ダランも草を抜いている。
「ええっと、魔法草には魔力があるんだよな」
 言いながら、草に触れて、目を閉じている。
 ティナにはダランがやっていることの意味がよく分からず、とりあえず知っている草を抜いて、籠に入れていった。
「うおっ、これか!」
 ティナが傷薬に使う薬草を大量に採取した頃、ようやくダランは草を一つ選んで引き抜いた。
「同じ草、ティナも採った」
「あ、そっか。シシュウ草以外は見た目でわかんじゃん!」
 当たり前のことを言いながら、ダランは再び採取に励む。
 魔術も使えるようになったようだし、少しくらい離れても大丈夫そうだ。
 ティナは林の方へと足を伸ばすことにした。
 この時期は、森で色々な食料が採れる。本当は山に入りたいのだけれど……。
 しかし、魔女は怖い。
 キノコや小さな木の実を採ると、ティナはダランの元に戻ることにした。
 ダランは蹲って何かをしている。草を選んでいるわけではなさそうだ。
「ダラン」
 後ろから声を掛けると、ダランは「わっ」と、驚きの声を上げて振り向いた。
 彼の手の中にあるのは……花だった。
「えええっと、花冠でも作ってみようと思ったんだけど、失敗した」
 笑いながら、ダランはピンク色の花を一輪とった。
 そして、手を伸ばして、ティナの髪に、花を挿したのだ。
「うん。ティナにはこういうの似合うよな。豪華なアクセサリーじゃなくて、こういう自然の綺麗なものがさ」
 鏡も水溜りもないのが残念だった。
 自分に本当に似合っているのだろうか。
 わからない。
 だけれど……嬉しかった。
「ありがと」
 言って微笑むと、ダランは照れたように笑った。

 帰り道は、行きよりも楽しく談笑しながら歩いた。
 根性なしのダラン・ローデスも、話をしていれば、疲れや恐怖を感じないようで、道中ずっと楽しそうであった。
 怪物が襲ってきた時には、力をあわせて退治した。女性のティナが前面に立ち怪物に飛びかかり、ダランが後方からの支援という役割だったが、自分達の関係では、それがベストだろう。
 地下道を抜け、地上に顔を出した頃には、外は暗闇に包まれていた。
「いけねっ、今日は早く帰るってとーちゃんに言ってあるんだった! 俺、このまま家に帰るけど、ティナ一人で大丈夫か?」
 ダランの言葉に思わずティナは笑ってしまう。
「ダランこそ、一人で、大丈夫?」
「あったりまえじゃん!」
 確かに……。
 よくよく見ると、以前一緒に出かけた時より、外見も少しだけ成長したようにみえる。
「じゃ、またね」
 ティナがそういうと、ダランは頷いた。
「まったなー!!」
 大声でそう言いながら、手を振ってダランは自宅へと駆けていった。

**********

「随分と採ってきたなー」
 受け取った草をテーブルの上に広げて、ファムルは選別をする。
「ん? 薬草じゃないのも混ざってるぞ」
「あ、それは今晩のごはん」
 ティナはキノコや木の実を集めて籠に戻した。
「これも、薬草じゃないな」
 言って、ファムルは穏やかな顔でティナの髪を指差した。
 ティナの髪の中で、ダランが挿した一輪の花が明るい笑みを見せていた。
 こくりと頷いて、ティナは顔にも満面の笑みを浮かべたのだった。

※今回の成果
シシュウ草/4株
ナック草/1株
ミンカ草/2株
その他薬草/6株

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2447 / ティナ / 女性 / 16歳 / 無職】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】
【NPC / ファムル・ディート / 男性 / 38歳 / 錬金術師】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸です。
探索ノベルへのご参加、ありがとうございました!
あれからダランは少し成長をし、魔術をある程度使えるようになりました。
今回は足手まとい度が随分と減ったと思います。
ティナさんとの探索、とても楽しませていただきました。
また機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたしますー。