<WhiteChristmas・聖なる夜の物語>
『あなたの望み〜最高のプレゼント〜』
「人間がいちばん喜ぶプレゼントって、いったい何なんだろ?」
夢の世界に着いても、エファナにはわからなかった。
「誰かに聞いてみようかな?」
道行く人々に聞いてみると、それはもう様々な答えが返ってきた。
『玩具』
『高級料理』
『美貌』
『金。金があれば、自分で買えるし。玩具も、高級料理も、美貌さえも』
「でも、お金は反則なんだよなー」
ため息をつきながら、てくてく歩くエファナ。
「いや、お金じゃなくて、箱に入った黄金色のお菓子ってことにするとか、人形の中にお金を入れて……とかならオッケー!?」
それでは、まるで賄賂や麻薬取引である。
エファナは悩みながら、歩き回る。
玩具も料理も美貌も、欲しいものではあるけれど……本当に欲しいものってなんだろう。
望みって何だろう。
自分は、サンタになりたい!
だけれど、それは人からはもらえないものだ。
「もしかして、ナシが答え!? ……ってそんなサンタを否定するような答えなわけないよね」
再び、道行く人々に欲しいものを聞いているうちに、エファナは思った。
望みをかなえるのは自分自身だけれど、こうして話しを聞き、答えてくれる人達がいる。そこから答えは導き出される。
「あたしの今一番の望みは、答えを知ること。一番悩んでいるのは、答えが分からないっていうこと」
エファナは目の前を歩く人の前に飛び出して、聞いた。
「ね、あんたの悩みは何?」
その悩みを解消してあげることが、最高のプレゼント探しに繋がるのではないかと、エファナは思ったのだった。
……なきゃ、作ればいいし。
むしろ、大ピンチな状況作ってー、そこから救ってあげたらぁ、サイコーに嬉しいんじゃなあい?
**********
「悩みー、悩みはありませんか〜」
見習いサンタエファナは、街行く人々に声を掛けて回っていた。
「今なら無料、なんと無料で相談に乗っちゃうよー!」
まるで押し売りのようだ。大きな声を上げて人々の前に出る。
「おおっ、いかにも悩みがありそうな人発見!」
エファナは一人の女性の前に立ちふさがる。
体中に包帯を巻きつけた女性であった。
「ね、何か悩みあるでしょ? あたしに話してみない!?」
「……悩み……?」
突如目の前に現れた少女を見て、不思議そうに首を傾げながらも、その女性――千獣は、返答を考える。
「……悩、み……」
「そう、悩み! 心が痛くなったり、苦しかったり、困ってたりすることだよ」
エファナの言葉に、千獣は首を傾げたまま、考え込む。
「……そう、だね……」
「うんうん」
「……私が……この、世界に、いて……人の……人達の、傍に、いて、いいの、かな……ていう、のは、悩む……」
「うっ……」
千獣の言葉に、エファナは腕を組んで、眉を顰めた。
「なんか、その悩みよく分からない。でもとにかく、詳しく聞かせて!」
エファナは、千獣の手を取った。まるで友達の手を取るように自然に。
そのまま千獣の手を引っ張って走り、川沿いに設けられたベンチに2人は並んで腰かけた。
曇り空の下。空気はとても冷たい。
とても寒いはずなのに――。
何故か暖かく感じるのは、街がクリスマスで賑わっているからだろうか。
それとも、人々の顔が輝いているからだろうか。
「で、なんでそれが悩みなの?」
「……それ、は……」
千獣は言葉を探しながら、ゆっくりとエファナに語った。
まずは、自分の生い立ちを。
ずっと森にいたこと。
獣や魔物を食らい、生きてきたこと。
それが普通であり、それ以外の行き方を知らなかったこと。
だけれど、人の世界に生きるようになり、知ったことがある。
そのうちの一つが、人の世界には、家族というものがあること。
獣の世界にも、親子の関係はあった。群というものもあった。
だけれど、人の作る家族とは違うものであった。
自分にも、人間の親がいたはずだ。
人間の家族の中が生きる場所だったはずなのに――。
自分は、森にいた。
深く、暗い森の中にいた。
「……だから、人の……人達の、傍に、いて、いいの、かな……ていう、のを、悩む……」
そして、今共にいる大切な人達について話す。
自分には、今、居場所としている場所がある。
大切に想う人がいる。
傍にいたいと思う。
守りたいと思う。
だけど、自分は――。
“いらない子だった”
だから、森にいた。
だから、独り、森にいた。
森に、捨てられて……。
「……私は……最初、いらない、子、だった、から……」
千獣の言葉に、エファナの表情が沈む。そんなエファナに、千獣は怪訝そうな顔で返す。
「……いらない、子、でも、いいん、だけど……」
川の向こうに、人々の姿がある。
家族の姿。恋人達の姿。
笑顔が溢れていた。
顔も知らない母親にとって。
名も知らない町の人々にとって。
自分がいらない子であったとしても、それはどうということでもない。
でも……。
彼等を知るようになって。
誰かを愛するようになって。
共にいたい人が出来て。
では、彼等にとって自分は?
大切な人たちの――
「……傍に、いて、いいの、かな……」
「うーん……」
エファナは腕を組んで考えだす。
短絡的な彼女は、欲しいものも悩みも同じように考えていた。
単純なものだろうと。
難しければ、他の悩みを聞き出せばいいと。
だけれど、千獣の悩みは――。
難しくはない。
だけれど、答えが見つからない。
考えても、考えても答えが出そうもなかった。
「ええっと……あたしは、サンタになりたくて、皆の悩みを聞いてるんだけどね」
「……サンタ……?」
「そう、クリスマスに、皆にプレゼントを届けるサンタだよ。テストに受かればサンタになれるんだけどね……」
エファナは千獣に自分のことを語りだした。
千獣は子供のような瞳で、エファナの話に聞き入る。
「誰かになれって言われたからなるわけじゃないんだ。誰かにやって欲しいっていわれたから、やるわけじゃないんだよ。貰う人は、きっと、届ける人はあたしじゃなくてもいいんだ。サンタは沢山いるもん」
こくりと頷く千獣に、小さなサンタ見習いは頷き返して言葉を続けた。
「でも、あたしはなりたいの! サンタになって、皆にプレゼントを届けたい。皆の喜ぶ顔が見たいって思う。……そうやって、自分のやりたいことで、喜んでくれる人がいたら、嬉しいって思うのね。たとえ、それが自分じゃなくてもいいとしても。だから」
エファナは千獣の手に、自分の手を重ねた。
「自分がそうしたいのなら、そうすればいいと思うよ。だって、千獣も大切な人を喜ばせたいって思ってるでしょ? あたしはサンタになれば、皆にプレゼントを贈れる。そして、喜ばせることができる。千獣は大切な人の傍にいれば、皆を喜ばせることが出来るかもしれない。人を喜ばせる手段として、あたしはサンタになる。千獣は大切な人の傍にいる。それでいいんじゃないかな?」
「……そう、かな……?」
「そうだよ! 多分、そういうことなんだよ」
言って、エファナは立ち上がった。
「あたし、一つ皆が喜ぶプレゼント見つけた」
エファナが千獣に手を差し出した。
不思議そうに、千獣はエファナの手をとって、立ち上がった。
「千獣を、千獣が大切に想う人の所に、贈り届けること」
「……え……?」
「だって、そうすれば、千獣は大好きな人と一緒で嬉しいでしょ? そして、大好きな人を喜ばせようとするでしょ? それはとても嬉しいことで、幸せなこと。最高のプレゼント。最高のクリスマス」
エファナが満面の笑みを浮かべた。
千獣の顔にも、穏やかな笑みが浮かんでいた。
もうすぐ、夜がやってくる。
クリスマス・イブ。
あなたに、最高のプレゼントを届けられるのは、もしかしたら……私?
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢(外見) / 職業】
【3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職】
【NPC / エファナ / 女性 / 12歳 / 見習いサンタ(レベル1魔女)】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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クリスマス期間限定ノベル『あなたの望み』にご参加いただき、ありがとうございました。
千獣さんの悩みは、エファナには少し難しくもありましたが、お陰様で彼女なりの答えを出せたようです。
千獣さんの悩みも、多少軽くなりましたでしょうか。
それでは、またお目に留まりましたら、どうぞよろしくお願いいたします!
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