<HappyNewYear・PC謹賀新年ノベル>
初日の出
初日の出を見に行きましょう。
そんなキャッチフレーズに誘われて申し込んだツアー。
綺麗な風景はお墨付きだというし、きっちり初日の出を拝んで年の初めを実感したい。軽い気持ちでさらっと済ませてしまう、はずが―――。
ライア・ウィナードは、ひとり夜空を飛んでいた。雪の降る中、漆黒の闇に彼女の白い翼と、その周りに纏わせた炎が映える。
鳥目のライアが夜に行動することを心配する弟を説得し、このツアーに申し込んだ。彼は今、城の留守を守っていてくれていることだろう。夜に外を出歩くことに不安がなくもなかったが、好奇心がそれに勝った。山の上から初日の出を拝むなんて、ウィナード家の風習にはない。ツアーが組まれるほど良いものなら、ライアも是非一度見てみたいと思ったのである。
目的の山に辿り着いた。案内人や他のツアー客はもう山を登り始めただろうかと思いながら、上を目指して飛ぶ。彼女は自分で飛べるところまでは飛んで行き、そこで合流する話をつけていた。
―――だって、歩くのは骨が折れるものね。
とはいえ、頂上まで飛んで行くことは出来ない。ある程度の高さまでは問題ないが、あまり高度のある所までは行けない。空気が薄くなると、飛ぶのも辛くなるのである。
周囲に纏わせた炎の明かりを頼りに、合流地点を探す。やがて小さな山小屋と、その傍に立つ旗を見つけた。事前にツアーの担当者から聞いていた目印と同じ。あそこが合流地点のようである。ライアはばさりと翼を羽ばたかせ、雪の積もった大地へと降り立った。
炎の魔法を解き、小屋に入る。中は真っ暗だった。まだ誰も来ていないようだ。
冷える。ライアは身を震わせ、防寒着の襟口を合わせた。白鳥のウインダーである彼女は鳥の姿になれば寒さに強い。だが、人間の姿の時は他の人と大差ない。
再び魔法で火を灯し、何か暖を取れそうなものはないかと探す。やがて暖炉を見つけ、彼女は用意されていた薪に火をつけた。このツアーのために置かれたものなのだろう、薪はさして湿気っておらずすぐに火がついた。暖かい炎に手をかざし、ほっと息を吐く。
案内人たちの到着を待つ間に、軽く小腹を満たすことにした。持って来ていたパンを出し、火で炙る。次に飲み物を取り出そうとして、目を丸くした。
「あら……」
水筒の中で、水がほとんど凍ってしまっていた。こんなに寒いとこうなるのかと興味深く思いつつ、これも火の傍に置く。やがて焦げ目のついたパンをかじる頃には、氷も溶けて飲めるようになっていた。
しばらくひとり食事を味わっていると、小屋の扉が叩かれた。案内人が来たのだろうかと、口の中のものを飲み下して立ち上がる。扉を開けると、そこにいたのは一人の少年だった。
「まだ暗いですけど、おはようございます。僕はイーヴァ・シュプールといいます」
「おはよう。私はライア・ウィナードよ。イーヴァ君は、ツアーの関係者?」
「はい。ライアさんを探していたんですよ」
イーヴァはにこにこ笑う。ライアは首を傾げた。
「貴方、一人?」
「ええ、僕一人です」
―――ということは、この子は案内人とはぐれてしまったということかしら。
一人で暗い山道を歩くのは心細かったろうに、ライアを不安にさせまいと笑ってみせているのか。彼女は少年を不憫に思い、彼の水色がかった銀色の髪についた雪を払ってやった。頭を撫でる行為にも似た仕草に、イーヴァが照れたように笑う。
「どうにかして、探し出さなくてはね。……とりあえず食べる?」
「あ、いただきます。ありがとうございます!」
腹が減っては戦は出来ませんものねと、イーヴァは喜んでパンを食べ始めた。少年に微笑みかけながら、これからどうしようかとライアは想いを巡らせる。
―――こんな時、弟がいてくれたら……。
心の内で弱音を吐く。しかし、いけないと自分を叱咤した。
蝙蝠のウインダーである弟は夜目が利く。更に、夜行性の蝙蝠を使役することが出来る。けれど、彼女は心配いらないと言って弟を城に残して来たのだ。発言を覆すことは出来ないし、そもそもこの場にいない彼に頼ることは出来ない。
「ご馳走様でした!」
言って、イーヴァが手を合わせる。ライアはひとつ溜息を吐いて、立ち上がった。
「ごめんなさいね、粗末なもので」
「いえ、とても美味しかったです。宜しければ僕からも、どうぞ」
イーヴァが差し出したものは銀紙に包まれたチョコレートの粒だった。小さなそれを受け取り、彼女が微笑む。
「ありがとう。――そろそろ行きましょうか。ここにいるより、きっと探した方がいいわ」
「え? あ、なるほど。わかりましたっ」
イーヴァが元気よく立ち上がった。暖炉の火を消してから、ライアは少年の先に立って歩き出す。
小屋を出ると、外は晴れていた。彼女が空を飛んでいた頃は雪が降っていたが、雲は綺麗になくなっている。山の天候が変わり易いというのは本当らしい。これなら、まず初日の出は期待出来そうだ。
照明代わりに再び魔法で炎を灯し、どうやって探そうかと辺りを見回す。すると、何処からか何か音が聞こえたような気がした。そちらを見て、ライアが息を飲む。
「そんな、雪崩……!?」
崩落する雪。思わず呟いて、次の瞬間にはすべてが終わっていた。
目を閉じてしまった間に雪は過ぎ去り、しかし彼女は無事でいる。怪我もない。思わず、ぱちくりと目を瞬く。
「ライアさん、大丈夫ですか?」
目に見えない壁に守られ、二人は無事だった。雪崩の来た方に手をかざしていたイーヴァが振り返り、にこりと微笑む。どうやら、彼が守ってくれたようだった。
「今のは……」
「召喚術ですよ。間に合ってよかったです」
危なかったですねと言うイーヴァに、ライアが再び目を瞬く。術を解いて彼が一歩踏み出し、と、その姿が沈んだ。
「イーヴァ君!?」
少年が陥没した穴に落ちゆく。ライアは咄嗟に手を伸ばした。間一髪、小さな手を掴む。雪が厚く積もった地面だ、基本的には脆い。それが召喚術の衝撃で崩れてしまったのだろう。
「雪って怖いんですね。甘く見ていたみたいです」
「呑気なことを言っていないで……その召喚術とかで上がって来られないの?」
「ちょっとそういう術は思い浮かびませんね。すみません」
刹那、ライアの下の雪も崩れる。彼女は白い翼を広げ、羽ばたいた。イーヴァの手を両手で掴んだまま、宙に浮く。不安定な体勢で飛んでいるため、身体にかかる負担は大きい。
「ライアさん、無理しないでください。下は雪ですから、落ちてもきっと衝撃が緩和されますよ」
イーヴァがそう言うが、落ちたりしたら周りの雪が崩れ、彼はたちまち雪に埋もれてしまうことだろう。ライアが首を横に振る。
「さっきは私が助けられたんだもの。今度は私が助けるわ」
宙ぶらりんにイーヴァをぶら下げたまま、しばらく持ちこたえる。すると、明るい光が差し込んできた。日の出時刻を迎えてしまったのである。
光を視界に捉え、彼女は即座に白鳥たちを呼んだ。朝になり活動時間を迎えた鳥たちが集まってくる。彼らは各々イーヴァの服をくちばしで加え、彼女の代わりに彼を支えた。それから、安全な場所に降り立つ。彼女はほっと一息吐いた。
「そうだわ、案内人さんのことも探してもらえるかしら……」
白鳥たちに呼び掛ける。彼女に応え、白鳥たちが空高く舞い上がった。しかし間もなく戻ってきて、イーヴァの周りを飛び回り始める。
「あら……?」
ライアが首を傾げた。結論がひとつ、導き出される。それはとんだ盲点だった。
そこへ、歌声が聴こえてくる。可愛らしい澄んだ声。思わず耳をすませていると、そちらから人が現れた。
「いたわ、ロキ! 人がいたわよう!」
「やったな、ミルカ。ん……なんだ、ライアじゃないか」
男女二人組がライアたちの元に駆けて来る。うち男性――ロキの方は、ライアとも知り合いだ。二人も案内人を探して、山を登って来たらしい。ライアが眉を寄せ、イーヴァを窺う。
「あれ、もしかしたら言ってませんでしたっけ?」
きょとん、と彼が首を傾げた。ごめんなさいと謝ってから、ぺこりと頭を下げる。
「僕が、その案内人です」
皆で頂上に着く頃には、すっかり日が出てしまっていた。紫から白へ、やがて金色へと世界が染まっていく。その様を、彼らは山を登りながら眺めていた。手にはミルカの持参していたホットミルク。身も心も暖まるようだった。
「ライアも歌を歌うの? お仲間さんねえ」
「ライアの歌はいいぞ。もちろん、ミルカの歌もいいが」
「ええ、先ほど少し聴かせて頂いたわ。よければもっとじっくり聴きたいわね」
「そう? じゃあねえ、無事に頂上に着いて、みんなで新しい年を迎えられたところで、喜びの歌をおひとつ」
ライアも次に歌ってねと言い、ミルカが瞳を閉じる。息を吸い、歌声が紡がれ出した。風に運ばれ、山々の間に彼女の声が響き渡る。
ライアも美しい歌に聞き惚れていたが、不意に申し訳なさそうにしているイーヴァに気づいた。おずおずと、彼が口を開く。
「すみません。僕がもっと早く言っていれば……」
「いいえ、私が早とちりしていただけよ。それに、これでいいのよ」
気持ち良さそうに歌うミルカと、そんな彼女を眺めているロキと、それから少年を見る。
「貴方と一緒に新しい年を迎えられて、楽しかったわ。ありがとう、可愛い案内人さん」
ライアの言葉に、イーヴァは最初困ったような表情をした。だが、やがてはにかむように微笑む。彼も確かに、楽しいと思っていたから。
ただ初日の出を拝むだけなら、一人で頂上に向かえばいい。そうしなかったのは、皆で同じ目的のために頑張るということに、ライアも無意識に惹かれていたからかもしれない。皆の笑顔を見ながら、そんな風に思う。
山の麓から皆と一緒に歩いていたら、もっと楽しかっただろうか。考えて、思い直す。やはり、ひどくくたびれそうだ。それはそれ、これはこれ、か。
「あっ……すっかり言い忘れてました。明けましておめでとうございます!」
「ええ。明けましておめでとう」
眩い朝日に照らされ、ふたり挨拶を交わす。笑い合い、すっかり空に浮かんだ太陽へ顔を向けた。日の出の瞬間には間に合わなかったけれど、とても美しい光景。弟にも見せてやりたいくらいだと思いながら、ライアは祈った。
今年もきっと、素敵な年になりますように。
《了》
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
PC
【3429 / ライア・ウィナード / 女性 / 26歳 / 異界職(四大魔術師)】
【3457 / ミルカ / 女性 / 17歳 / 歌姫・吟遊詩人】
【3555 / ロキ・アース / 男性 / 24歳 / 異界職(バウンティ・ハンター)】
クリエーターNPC(案内人)
【 イーヴァ・シュプール / 男性 / 13歳 / 管理者】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライア・ウィナード様
はじめまして、緋川鈴と申します。
弟さんのノベルに続きまして、ご依頼ありがとうございました!
遅くなってしまいまして、また他のPC様より先行して書き始めさせて頂いていたこともありあまり絡ませられず、申し訳ございません。ですが、楽しんで頂けましたら幸いです。
新しい年がライア様にとって素敵な一年となりますよう、お祈りしております。
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