<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
『母と娘の絆』
紅に染まった静かな太陽の下、行き交う人々はどこかせわしい。夕刻を迎えた街に並び立つ家々からはほのかな夕食の香りが漂っており、人々は我家に帰る道を急いでいるのである。
街の広場では食料品から衣類、書籍や玩具と、様々なものが売り出されていたが、昼間の賑わいは徐々になくなりつつあり、店じまいをする店もちらほらと見られる。
その広場のベンチに、一人の少女が腰掛けていた。ジュディ・マクドガル(じゅでぃ・まくどがる)は、母親のクレア・マクドガル(くれあ・まくどがる)とこの街へ買物へ来ていたが、クレアが買物をしている間、自分は母と別行動を取ってさきほどまでこの広場で行われていた、大道芸を見ていたのであった。
買い物客を楽しませる為に、この街では広場で様々なイベントを行っているようで、ジュディは大道芸のボールの不思議な動きや、ピエロの様な格好をした人々が風船を動物の形に作り上げていくのにすっかり夢中になり、この広場で大道芸を見ながらクレアが戻ってくるのを待っていたのであった。
大道芸も先ほど終了して、黒山の人だかりはすっかり解散し、ジュディは一人でベンチに座り、クレアの姿がどこから現れるだろうかと、広場を見回していた。
「あ!お母様」
クレアが荷物を抱えてこちらへやってくる・・・いや、違う。クレアの格好に良く似た赤の他人であった。
その女性は手に抱えた籠に、いかにも柔らかそうなパンを一杯に入れていた。
(美味しそうなパン!)
ジュディの視線が、籠のパンに引き付けられる。女性はジュディの視線などにはまったく気付かず、さっさとジュディの視界の外へと歩いてしまった。
急に腹の虫が鳴ってきた。ジュディはまだ15歳、育ち盛りの少女だ。何を食べても美味しく、元気に動けばすぐに腹が減ってくる。
(でも、夕食の前につまみ食いをしてはいけないのよ。またお母様に怒られちゃう)
昨日も、夕食前につい菓子をつまみ食いしてしまい、クレアに怒られたばかりだ。これでまた買い食いをしたら母におしおきをされるのは、ジュディにだってわかっている。
ふいに、香ばしい香りが漂ってきた。
「本日最後のセールだよ!焼きたてパン、今から半額!さあ、夕食に美味しいパンを買っていっておくれ!」
ふとっちょのパン屋の女主人の声が広場に響き渡った。女主人はきつね色の焼けた丸いパンを、広場に設置したオーブンから取り出すと、それを次々に店へと並べていった。パンの心地の良い香りは広場へと広がり、まばらだった人々が、少しずつパン屋の前へと集まっていく。
「焼き立てのパンって美味しいね!」
「そうね、焼き立てのパンが一番いのよ」
パンを購入した少年と、その母親らしき人物が、ジュディの前にあるベンチに座り、幸せそうな表情でパンを食べている。ジュディの腹の虫はますます騒ぎ出した。
「さ!残り僅かだよ!まだ買ってない人はいるのかい?」
ジュディは財布をポケットから出し、口を開いて中を覗き込む。小銭なかりだが、パンを買うだけの金はある。母はまだ姿を見せていない。
(お母様にバレなきゃいいのよ。食べて知らん顔していれば、わからないもの)
ベンチから立ち上がり、ジュディはパン屋へと走った。パンはあと数個しか残っていないが、ジュディは焼きたての暖かい香りのするパンを1つ、購入する事が出来た。彼女はベンチの影に隠れると、もう一度クレアの姿がない事を確認し、一気にパンを口に頬張った。
(美味しい!)
口に中に広がる、焼き立てパンのバターの味。砂糖の甘い味が、ジュディの舌を満足させる。彼女は、パンの最後の一切れを口に入れると、何食わぬ顔をしてベンチに座っていようと、ベンチの影から立ち上がった。
「ジュディ」
立ち上がったその瞬間、彼女は自分のすぐ横に、買物の荷物を持ったまま無表情のまま立っている、クレアの存在に気付いたのであった。
「お母様!?いつの間に!」
「いつの間に、ではないでしょう。今のは何なのです。どうしてパンなんて食べたの」
母の顔は笑っていなかった。ジュディにはわかっていた。次にクレアが何と言うか、という事が。
「お尻を出しなさい」
ジュディは黙ったまま、後ろを振り返り母に尻を向けた。
「買い食いをしてはいけないと言ったでしょう!どうして、母の言う事が聞けないの!」
そう言いながらクレアは、ジーンズのズボンの上からジュディの尻の左右のほっぺたを、両手で強くつまみあげた。
「い、痛い!お母様、痛いよお!」
あまりの痛さに耐えられず、ジュディは目に涙を浮べた。ジュディの叫び声に、まわりを歩いていた人々が何度もこちらを振り返ったが、クレアはまわりの人々の視線などはまったく気にしていない。
美味しかったパンの味が、すっかり飛んでしまった。確かに自分は母の言いつけを破って買い食いをしたけれど、どうしてこんなおしおきを受けなければならないのだろう。何かを盗んだわけではないのだ。それなのに、母は今自分の尻をつねっている。
そう考えると、急に腹が立ってきた。そんなに悪い事をしたわけではないのだ。母はいつも、自分に厳しすぎる。もし、自分に娘がいたら、もっと優しくするはずだ。
「お母様はちっとも優しくないよ!どうしてあたしの気持ちを分ってくれないの!」
「まあ、何て事を言うの!」
クレアに尻を向けているので、母の表情は見えないが、声は驚いている様子であった。
「買い食いしただけでこんなにつねるなんてさ!よそのお母様は、こんな事しないよ!お母様だけだよ!」
そう言った瞬間、母の指がさらに強く尻を強くしめつけた。
「私がどうしてこんな事をするのか、わかっていないでしょう!誰の為だと思っているのです!」
あまりの痛みに、ジュディはとうとう細い悲鳴を上げた。
「痛い!もうやめてよ!お母様!もうやめて、あたしをほっといてよ!」
クレアがようやくジュディの尻をつねるのを辞める頃には、もうすっかり夜になっていた。ジュディとクレアは帰途へついたが、その間一言も口をきかなかった。気まずい沈黙が続いた。
家へついてからジュディは、すぐに自室に篭り、腫れた尻を鏡に映して涙を浮べた。痛くて泣いたのではない。クレアが自分の気持ちを分ってくれなかった事が悲しかったのだ。赤く染まった鏡の中の尻を見つめ、母が自分を嫌っているのではないかとさえ思った。
しばらくの間、一人で椅子に座りぼんやりとしていた。そして、母に怒られた時の事を思い出していた。どうして、母はいつも自分を自由にさせてくれないのだろう。自分はもっと自由に過ごしたいのに・・・。
「でも」
落ち込んでいた顔を、ジュディはふと上げた。
母に叱られた事は数え切れないし、おしおきだって何度あったかわからない。だが、母は闇雲に自分を叱っていただろうか。一体何がいけなかったのだろうと、ジュディは考えた。
クレアは確かに厳しい。それは娘であるジュディはよくわかっている事だ。だが、ジュディはクレアを嫌いになる事など出来ない。それは、どんなに怒っていても、クレアは間違った事は言っていない。普段は優しく、その知識と行動力で屋敷を切り盛りしているのだ。
だとしたら、やはり自分が悪かったのだろうか。母はパンを食べてはいけないとは言ってないし、ジュディが成長期で食欲も旺盛である事はよくわかっているはずだ。こそこそと買い食いなどせず、クレアにきちんと腹が減っていた事を伝えていれば、軽食ぐらい許してくれたのではないだろうか。
ジュディはまた涙が出て来た。自分は何と自分勝手な事を言ってしまったのだろう。母は自分の為に、あそこまで厳しくしていたのだ。例え嫌われても、それがジュディの為であるならば、憎まれ役も買ってでも出るのだ。
ジュディは、生意気な口を利いた自分が急に情けなくなった。ジュディはクレアを尊敬している。母に叱られ、改めてその気持ちに気付いた。わかっていると思っていた事が、全然わかっていなかったのだ。
情けなさと恥ずかしさで、ジュディは鏡に映った自分の顔すら、まともに見られなかった。
翌日、ベットから起き上がったジュディは着替えるとまっすぐにクレアの前へと歩いていった。クレアはソファーに腰掛けていたが、ジュディと視線が合うと、動きを止めてそのまま飲んでいた紅茶をテーブルに置いた。
一晩空けて、ジュディは自分が生意気でワガママな娘であったと改めて思ったのだ。尻をつねられたのは痛かったが、その尻をつねるクレアの心は、もっと痛かったに違いない。
「お母様、あたし、ついお腹が空いてしまったの。昨日はお母様が憎らしいと思ったけど、でも」
そう言うとジュディは、スカートを捲り上げて下着を下ろし、母に自らの尻を差し出した。
「昨日はわからなかったの。痛いのはあたしだけだと思っていたわ。でも、お母様は心の中では泣いていたんでしょう?心が痛かったのでしょう?」
「ジュディ」
クレアが静かな声で呟いた。
「生意気な娘のお尻を叩いて下さい。あたし、この痛みをずっと忘れないようにしたいの。お母様の心の痛みを。そうでなければ、あたしきっと、生意気でひねくれた大人に、なっちゃうから」
「ジュディ、あなたは大切な娘なのよ。大切だからこそ、厳しくするの。立派な大人になってもらいたいのです。叱ってもらえる時期は、やがてやってこなくなるものなの」
クレアはジュディを膝の上に乗せて、スカートを腰の上まで捲りあげた。次の瞬間、クレアの手のひらがジュディの尻を叩き、ジュディは鋭くもどこか熱い痛みを感じたのであった。
「100回叩けば反省するかしら。ジュディ、わかっているわね?」
「はい、お母様」
母の膝の上で、ジュディは尻を叩かれ続けた。尻の痛みがだんだん強さを増していき、やがてジュディは痛みで涙を雨のようにこぼした。
「お母様、あたし、ワガママでした」
反省の言葉を口にするジュディであったが、まだ尻は叩かれ続ける。
「お母様みたいな大人になりたいよ。だから、あたしが大人になるまで、お母様、あたしが悪い事しかったら叱って下さい」
クレアは無言であったが、尻を叩くその手から母の感情が伝わってくる。クレアはおそらくは、心の中でジュディと一緒に泣いているのだろう。その母の心がジュディの心に伝わり、ジュディの気持ちをますます高ぶらせた。
尻を叩かれている間、ジュディは涙が止まらなかった。自分で止めようとしても、涙はどんどん溢れ出てくる。尻の痛みはさらに増してきたけれど、クレアを憎らしいとはまったく思わなかった。
「ジュディ!近所の人とは仲良くしなさいと言ったでしょう!どうしてトラブルばかり起こすの!」
数日後、再びクレアの声が家で響き渡る。
「お母様、ごめんなさい。つい、かっとなってあたし、近所の人と喧嘩をしてしまったの」
眉を吊り上げているクレアの前に後ろ向きに座ったジュディは、スカートを捲りあげて尻を母に向けた。
「あたし意地っ張りだから、すぐに喧嘩をしてしまうの。お母様、あたし、この性格を反省したいよ。おしおきをして。お母様におしおきしてもらえば、あたしどんどん、優しい性格になれるから」
ジュディの尻に、母の手が添えられる。
「おしおきして下さい、お母様。そして、あたしをまっすぐな人間に叩きなおしてください」
(終)
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