<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
ピカレスク −路地裏の紅−
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■序章
薄く雲が張った空には、嵩を被った月がある。
それは、とても紅く、陰惨な光を放っていた。
そんな中、婦人は一人立つ。
両手には血に塗れた短剣を持ち
足元には数人の死体。
短剣は、ぬめった液体を被ったままに、鈍く月光を反射する。
婦人の影は薄く延び、それは何処までも、延々と続いているようにも見えた。
■
時は夜、殆どの家々は灯りを消し眠りについている。それでも、ぽつりぽつりと小さな灯りを燈す部屋もあった。
今日は満月のはずだが、厚い雲が覆い隠し、街は月光の恩恵は全く受けられていない。街灯の消えた広場、灯りの無い店や家、薄暗い路地、街には静寂が悠々と闊歩している。…だが、静寂すらも慌てて引き返すような無残な音が、小さく細い路地に響いた。
つつつ、と、石畳の上を黒味がかった液体が滑る。その液体は、石畳の隙間を埋めるようにどんどんと伝っていく。
ぴちゃん
一つの水音が、暗闇の中を駆け抜けた。一滴、石畳の上に落ちたようで、また、透明でない色の液体が石畳を滑る。
「営業妨害ですわ」
滑る液体をとめるような声が路地に響く。高さから言って婦人だろう。そして、液体が湧き出る源へと近付くべく、かつんかつんとヒールの音が歩みだした。微かな光に照らされて見えたのは赤いドレス。
「営業妨害、とは…?」
液体の源にも誰かいた様だ。すぐさま、平坦な音調の返答を返す。振り返ったのか、ばさりとマントを翻すような音がしたが、路地から見える細い空を隠すのは、もっと柔らかい物だ。しかしそれは、闇と同化しどこがどこやら。真黒の人がゆっくりと、赤いドレスの婦人を見遣りながら、首を傾ぐのが闇の流れで辛うじて感じ取れた。
「貴方が私の真似事をなさるお陰で、私の動きが限られますの」
薄暗い路地、二つの影が対峙した。ほぼ暗闇の中で、二人の輪郭線は不確かだ。双方の視線が入り混じり、溶け行きそうなほどの深い闇に身を浸す。その闇を邪魔しないように、遠慮したような鈍い光を放つ物が双方の手に握られているのが見えた。
「営業妨害の罪は重いですわ、お覚悟を」
「おやおや」
赤いドレスを翻す婦人に、困ったような、といっても、さして気にもしていない風な声を、長身の黒尽くめの人物は溜息をつくように零した。薄らと見える口元は、未だに笑みを絶やさないまま。
暗い路地、微かに走る火花と閃光だけが交差し、他は足音だけ。闇が双方を包み込み、まるで外からの邪魔を拒むようだった。見物客は民家の屋根に止まった梟だけ、首を傾いで金の目を瞬かせている。
「少し、お聞きしたい事があったのですよ」
先に口を開いたのは、黒の人。赤の婦人は、防御する黒の人の隙を突こうと攻撃をしている真っ最中だ。水を差されたと感じたのか、不満そうに舌打ちを鳴らした。
「何かしら?手短にお願い致します」
手が放せないもので!
婦人はそう続け、攻撃も相変わらず続けている。
「私、貴方の本を一巻、持っているのですよ」
「あら、それは有難い事ですわね」
二人の間にまたも、閃光が走った。
「そして、模倣をしてみたわけです」
「ええ」
「それから、小説内での、描写、と…私自身の感情や行動の差異を計算して…」
「勉強熱心ね」
にこりと、黒の人が笑う気配。赤の婦人は、ふと動きを止めて、黒の人を見上げる。
「今日は、会える…と、思いました、君に」
「…新手のお誘いかしら?」
思い出したように、婦人は黒の人との間を広げた。雲の切れ間から、月が垣間見える。微笑した黒の人は、大鎌を持ったまま静かに婦人を見据えていた。瞬く間だけ見えたその黒い視線に、婦人は少し息を詰めるような喉の動きを見せ、それからすぐに、月は再び顔を隠した。
「訊ねたい事が沢山、あるのですよ」
「どういうおつもりで?」
「興味本位で」
黒の人の返答はいたって簡潔で判りやすく、それ故に婦人は口元を少し歪めて笑った。
「作家としては、インタビューにも答えなければ」
「さすがです」
音を出さない緩やかな拍手を婦人へと送った後に、インタビューは始められた。
生い立ちは?
軍人を恨んでいる?
人殺しは好き?
何を求めている?
黒の人はゆっくりと、赤の婦人へと問いかけた。赤の婦人は熱心なインタビュアーに、口元だけで笑いやる。
「全ては、ピカレスクに」
おや、と黒の人は声を出した。
「それでは、買うしかありませんね…、実に作家らしい返答」
「ファンに対して、ネタ晴らしは禁物ですから」
赤の婦人はもう一度、くすりと笑った。…次第に雲が開けてきた、互いの姿が月光の下に曝け出される。
「あら、素敵なお召し物」
「君のドレスも、良い色ですね」
漆黒の翼に飛び散った液体は月光の光を反射する、赤いドレスには婦人の胸元から裾にかけてまで夥しい黒い染み。二人して、悪事の様を露呈するような格好で、夜の街を悪びれも無く闊歩する。細く暗い路地に残されたのは、大きな刃物で両断され、内部に白い薔薇を生けられた死体のみで。虚ろな瞳に、細い紺色天鵝絨、鏤められたスパンコールのような星屑と、紅玉のように赤い月が美しく映し出されていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 整理番号3619/ PC名 トリ・アマグ/ 無性/ 24歳(実年齢444歳)/ 異歌姫/吟遊詩人】
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■ ライター通信 ■
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■トリ・アマグ 様
初めまして!この度はシナリオを発注いただき真に有難う御座います。
ライターのひだりのです。 トリ・アマグさんとの会話楽しく描かさせて頂きました。
第二巻も楽しみにしていただけているのが嬉しいです。(笑)
楽しんでいただければ幸いです!
では、まだまだ精進して行きますので
機会がありましたらこれからも良しなにお願い致します!
ひだりの
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