<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
旅籠屋―幻―へようこそ
大通りから一歩踏み入れた、小さな通りの一角にその店は佇んでいる。
一つ、仕事を終えて、町へと戻ってきたシグルマは、冒険を終えたという喜びを大勢の者たちと分かち合いたいという名目で、その夜は梯子酒をしていた。
大通りに店を構える酒場を一巡してしまったシグルマはふと、脇道に視線を投げる。
すると、食堂兼酒場、という看板が見えた。
「ふむ……」
呟きシグルマは、隠れ家の如く、小さな通りに構えられたその店――旅籠屋―幻―へと、足を向けた。
「……いらっしゃい。食べに来たのなら、好きな席に座って……」
暖簾をくぐり、戸を開けて中に入ると、カウンターの中で食事の支度をしていた女将らしき女性――闇月夜が顔を上げ、一言告げた。
中を見渡せば、あまり広いとは言えない店内であるが、いくつか置かれたテーブルとその周りの椅子には客がちらほら座り、酒やつまみを片手に話に花が咲いているようである。
「おう。これで、お勧めの酒を頼む。それからここに居る連中にも同じ物を飲ませてやってくれ」
金の入った袋を夜へと放り投げ、シグルマは告げた。
「……っと。こんなに……。取って置きでも……出してこようか」
袋の中を確認した夜が、ぽつりと呟く。
シグルマの奢り発言と夜の呟きに、他の客たちから歓喜の声が上がった。
「誠、手伝って……。直ぐに出してくるから……適当に、座っててください……」
夜は、窓際で客たちの様子を眺めていた少年にも見える少女――如月誠に声をかけ、手伝いを促す。そして、シグルマに一言告げてから、酒の準備のため、店の奥へと入っていった。
***
夜と誠が店の奥から出してきたのは、女性2人で抱えるには少し大きすぎるほど大きな酒樽であった。その中に、この店のお勧めでもあり、取って置きでもある酒が入っているという。酒樽をいくつか出してくると、夜はカウンターへと戻り、これから始まるであろう宴会のつまみを作るべく、調理を始めた。
「今夜は朝まで帰さねーからな! しっかり飲みやがれー」
酒樽の中から、杯に酒を注ぎ、その杯を掲げながらシグルマは店内の客たちに向かって、告げた。
「おぉっ!」
「旦那には、負けねぇぞ!」
同意する声や飲み比べるなら負けないぞという宣言の声が客たちの間から上がる。
「お前もどうだ?」
シグルマは、酒樽を運んできた後、元居た席に戻った誠へと声をかけた。
「飲めない。……てか、未成年だし」
「それならジュースでも出してもらえ。そんなとこで独り、見てるより混ざった方が楽しいぞ!」
杯を持っていない方の手で、夜にジュースの瓶とグラスを出してもらって、誠へと渡す。
「ん……ありがと」
誠は受け取ると、それでも隅の方ではあるが、飲み客たちが騒ぐ輪の中に混ざろうと、近くのテーブルへ移動してきた。
「さあ、最初は誰が相手だ!?」
訊ねるシグルマの前に、我こそはという飲み客たちが名乗り挙げる。
その飲み客たちと共に、早速、杯の酒を飲み始めた。
最初は調子に乗って、飲み進める飲み客たちであるが、次第に酔い潰れ、テーブルに突っ伏す客たちが増えてくる。
それでもシグルマは潰れることなく、寧ろ飲む勢いが増しているのではないかと思われるほどであった。
「すご……」
突っ伏す客が増えるのを間近で見ていた誠は思わず、呟いた。
「ほら、まだ朝は遠いぞ!」
言いながらシグルマはまだ生き残って飲んでいる客たちに、酒を振舞う。彼の言うとおり、梯子をした後であれど、朝を告げる鳥が鳴くにはまだたっぷり時間があった。
そして、酒を飲みながら、今回の冒険の様子などを満足げに話す。
飲み客たちの中にも日ごろ冒険をしている者がいるのか、対抗して満足げに話す者たちも居た。
そうして、賑やかな夜は更けていく。
***
「世話になったな」
翌朝、酔い潰れた他の客たちをよそに、シグルマはけろっとした様子で、旅籠屋―幻―の戸口に立つ。
「冒険の話、楽しかったよ」
いつもの席に戻りながら、誠はシグルマにそう告げた。
「……ありがとう、ございます。またいつでも、いらしてくださいませ……」
見送るため、夜は片付けの手を止めて、カウンターから出てくる。
「おう。それじゃあな」
シグルマは暖簾をくぐると、大通りに向けて歩き出した。
終。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
PC
【0812 / シグルマ / 男性 / 29歳 / 戦士】
NPC
【闇月 夜 / 女性 / 23歳 / 女将】
【如月 誠 / 女性 / 18歳 / 用心棒】
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■ ライター通信 ■
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シグルマさん、初めまして!
このたびは『PCゲームノベル/旅籠屋―幻―へようこそ』への発注、ありがとうございました。
OMCでの活動が久しぶりだったため、勢いで書いたような感じがするのですが、気に入っていただければよろしいのですが……。
もし気に入っていただけましたなら、機会があれば、また、よろしくお願いしますね。
暁ゆかでしたっ。
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