<東京怪談ノベル(シングル)>
Tragic Heroine Syndrome 〜Extra〜
夜、レピアの石化が解ける頃。公務から帰ってきたエルファリアは別荘にある図書室で、神罰<ギアス>を解く手がかりとなる本を探していた。
そんな時、ある物語の本に目が留まる。
「あら、これは…」
背の引くい本棚の上に置かれた一冊の本。見つけたのは、ページを開いてプレイヤー登録すると、本の中に吸い込まれ書かれている物語を実際に体験できる本。
「そういえばレピアが」
このゲームの冒険談を話してくれたっけ。と、思い出し、急ぐ調べ物ではないことから、折角だから自分もチャレンジしてみようとプレイヤー登録をした。
――――Game Start...
本の中の世界。
まずは情報を仕入れよう。
■
少々まずいことになった。
再びこのゲームをしてみたはいいものの、ゲームの中で女王として登場しているのたが、如何せん以前のようにはいかなかった。
魔女王に国を奪われ、彼女が目覚めている間は石像として王座を飾る元女王として囚われていた。
眠っている隙に逃げ出そうと試みるが、目が覚めると強制的に王座へ転送される為失敗が続いている。
さてどうしたものやら…
■
「魔女王?」
エルファリアが街中で耳にしたお城の異変の話。
恐らくその魔女王を倒せばゲームクリアという事なのだろう。
思い立ったエルファリアは下準備も何もせず、そのまま城へと向かってしまった。
こういったゲームでは急がば回れが鉄則であると、セオリーを知らないエルファリアは意気揚々と乗り込んで行ってしまった。
魔女王を倒し、女王を救い出す勇者の役回りというのは悪い気分ではない。
物語によくある展開だけど、それに皆憧れる時期は多少なりともあるものだ。
物語だもの。
次の展開はこうだろう。
およそ想像できているにも関わらず、実際にそれを体験するとなると足取りも弾む。
「魔女王!覚悟なさい!!」
玉座の前に立つ魔女王。王座には女王の石像。
何処かで見たことのある。
「!?」
魔女王の真っ赤な唇がにぃっと弧を描く。
振りかざされた手から迸る魔力。
次の瞬間、倒すはずだった魔女王に倒されてしまったエルファリアが絨毯の上に横たわっていた。
「くっ……ど、して…」
勇者が倒されてしまう。窮地に立たされたエルファリア。
一歩一歩魔女王が足を進めてやってくる。
どうしよう、このままゲームオーバーになるのだろうか。
それとも、まさか…
意識が遠のく。
体がどんどん石化していく。
そして―――
声にならない声で叫んだエルファリアは、哀れ石像と化してバラバラに砕かれてしまった。
■
エルファリアの体は、頭部・胸部・腹部・下腹部・両手・両足の8つに砕かれ、城を守るゴーレムの材料やインテリアにされてようとしていた。
魔女王が就寝し、再び動き回れるチャンスが訪れたレピア。
玉座の前には砕かれたエルファリアの欠片。
動かぬ体のまま、玉座からその状況を終始見ていた。
このままではエルファリアまで本から出られなくなってしまう。
「待っててね、エルファリア…必ず元に戻してあげる」
そうしてレピアは動ける時間を利用して砕かれたエルファリアの部位を集め歩くことにした。
しかし、魔女王が寝ている間に全てを集めきるなど不可能。
途中で気づかれて更に砕かれてしまうかもしれないし、隠されてしまうかもしれない。
気づかれぬよう、そっと、少しずつ一箇所に集めなければ。
置かれた場所を探し、城内を歩き回るレピア。
見つけたところで、運んでいる最中に、何度も失敗しそうになりながらもレピアはエルファリアの部位を集めた。
そしてようやく八つに砕かれた部位を全て集める事が出来た。しかし元に戻す方法がわからない。
今度はそれを探さなければ、そう思った矢先。
「エルファリア…?」
砕かれた部位が光を放ち、たちどころに元の姿に戻ったではないか。
「――――レピア…?私…魔女王に倒されて……?」
「よかった!エルファリア!元に戻らなかったらどうしようかと……」
いとおしむようにエルファリアを抱き締める。
「二人でここから出ましょう」
二人でならきっと魔女王を倒せる。
■
エルファリアが元に戻った事によってか、魔女王が目覚めてもレピアの体は石化することはなかった。
玉座の間に現れた魔女王。
寄り添う二人をみて忌々しげにのたまった。
さては憎き光の勇者の子孫と光の魔法使いだな。そう指差される。
お決まりのような台詞だが、それもこれもゲームという世界ならではのもの。
勇者の子孫と魔法使い。
二人は力を合わせて魔女王に立ち向かう。
二人揃った力は以前とは比べ物にならないほどとなり、魔女王は苦戦を強いられる。
そして、遂に力尽きる時がきた。
ゲームクリアのファンファーレ。
周囲に靄がかかったようになり、エンディングテロップが空中に流れ始める。
――光の勇者の子孫と光の魔法使いが魔女王を倒し、世界に再び平和が訪れた――
「「!」」
眩いばかりの光に包まれ、目がくらんだ二人。
次の瞬間、目を開ければいつもの別荘の図書室。
開かれていたページには幸せそうな国のイラスト。
「何だかちょっと大変だったけれど、それはそれで面白かったわね」
と、笑うエルファリア。
「一度クリアしてるからって過信するものではなかったわ」
と、苦笑するレピア。
遊びの時間はこれにてお仕舞い。
二人が再び本の世界に行くかどうかは、それはまた別のお話…
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