<PCクエストノベル(2人)>


『遺された剣』
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【2303 /蒼柳・凪 (そうりゅう・なぎ) /舞術師】
【1070 /虎王丸 (こおうまる) /火炎剣士】
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虎王丸「もらったぁぁぁぁ!!!」
 ズンッ、と日本刀の切っ先が魔物の胸に突き刺さった。悲鳴を上げて崩れ去る魔物を一瞥して虎王丸がぐっとガッツポーズを決める。
虎王丸「よっしゃぁ!これで20匹目!」
蒼柳・凪「張り切るのもいいけど、目的を忘れないようにね」
 後ろに控えていた凪が虎王丸の無事を確認してほっと安堵しながらも、小さくため息をつく。
 二人は堕ちた空中都市にやってきていた。この遺跡には謎が多く、日々冒険者たちがお宝を求めてやってくる。しかし魔物やトラップも多く、危険性も高いため、まだ遺跡内部のほとんどが解明されていない。
 二人が今いるのは、冒険者たちによって探索され、マッピングされている最先端の場所。つまり、ここから先はまったくの未知の領域ということだ。正確にはこのあたり一帯はすでに探索が終わっていたのだが、つい最近隠し扉が発見された。
虎王丸「目的?」
蒼柳・凪「新しく見つかったこの先を探索するために、ここまで来たんだろう」
虎王丸「ああ。そういうやそうだったな!」
 思い出したと言わんばかりにぽんと手をうつ虎王丸に、凪が額に手を当てる。
虎王丸「こうしちゃいられねぇ!さっさと行こうぜ!!」
蒼柳・凪「おい、待ってって!!」
 この隠し扉の中には、すでに数人の冒険者たちが奥に入ったとの情報を二人は得ていた。
 お宝を別のやつらに渡すわけにはいかねぇ!と凪の言葉も聞かず虎王丸が、扉をくぐり走り出す。
 それを見て、凪も慌ててその後を追ったのだった。


 二人は廊下らしき通路を進んでいた。
 大理石のように磨かれた壁と床。黒く光るその床と壁は明らかに人為的なものであり、この静謐な雰囲気は高貴さ、まるでどこかの城の廊下を歩いているかのような感覚を思い起こさせる。
 扉をくぐってからすでに30分。薄汚い傾いた通路を抜けたかと思うと、突然一風変わったこの廊下が自分たちの前に姿を現した。どこからか漏れてくる明かりのおかげで周囲は何となく見えるものの、廊下ははるか向こうまで続いていて、どこまで続いているのか検討もつかない。
虎王丸「何なんだ、ここ。この遺跡にこんなところなんて今まであったか?」
蒼柳・凪「いや……でも、なんだろう。魔物もいないし、生き物の気配が感じられない」
 凪は能力「視界の野」を使い、周囲を絶えず見渡しているが、周りには何もなかった。トラップや魔物はおろか、部屋すらも見当たらなかった。ただ自分たちを先へ先へと誘う廊下だけ。それだけがただ永遠と続いている。
虎王丸「凪〜どうだ?お宝は見つかったか〜?」
蒼柳・凪「何もないよ。ここまで何もないなんて……おかしいと思わないか?」
虎王丸「あ〜?」
蒼柳・凪「だからさ、本当になにもないんだ。もうかれこれ30分は歩いたろう。歩いた距離から考えると遺跡のかなり奥まで来ているはずなんだ。それなのにトラップの一つも無いなんて」
虎王丸「よくわかんねぇけどよ。先に入っていったやつらが倒しちまったんじゃねえか?」
蒼柳・凪「それにしては戦いの後が無さ過ぎるよ」
虎王丸「じゃああれだ。不意をつかれて戦う暇もなく、一気に食われちまったとか」
蒼柳・凪「こ、怖いこというなよ!!」
虎王丸「なんだよ。びびってんのか。大丈夫だって、どんな化け物が来ようがこの俺が一撃で倒して……」
 
 ドォォォォォォン!!

蒼柳・凪「今のは……!?」
 廊下に響く重音が耳に響いてくる。どうやらこの先で爆発か何かが起こったようだ。
 足を止める凪とは反対に、その爆発音を聞く否や、虎王丸は背中の刀を手に先へと走り出していた。
蒼柳・凪「と、虎王丸!?どこに行くんだ!?」
虎王丸「決まってんだろ!どうせ先に行ったやつらが何かと戦ってんだ。お宝をみすみす渡すわけにはいかねぇ!!」
蒼柳・凪「だから、ちょっと待ってって!一人じゃ危険すぎる!」
虎王丸「なら、さっさと来いよ!先行ってるぞ!」
蒼柳・凪「……ったく、もう!」



 5分ほど走り続けた二人の前に現れたのは、一つの大きな扉だった。高さ5メートルの重層の黒い扉。僅かに開かれたその隙間からは何やら人間の声が聞こえてくる。
虎王丸「お宝はどこだぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
 扉に蹴りをかまして押し開けた虎王丸が部屋に乱入し、それに凪も続く。
蒼柳・凪「何だ、ここ……」
 二人の目に入ったのは、ずらりと並ぶ楕円形の大きなカプセルだった。部屋の左右の壁は、そのカプセルで端から端まで隙間無く埋め尽くされ、そのカプセルの上には巨大なパイプらしきものが連結している。
蒼柳・凪「虎王丸!あそこ!」
 男の後ろ、その床の上には二人の人間が血を流して倒れているのが見える。
虎王丸「おい、大丈夫か?」
蒼柳・凪「しっかりしてください!一体何があったんです?」
 倒れているのは男性と女性が一人ずつ。どちらも腹部や胸に大きな斬撃の跡があり、出血が激しかった。
虎王丸「助かるのか?」」
蒼柳・凪「……わからない。でもやるだけのことはやってみるよ」
女性「……て……」
蒼柳・凪「しゃべらないで!」
 凪の制止の声にも構わず女性は何かを伝えようとしている。
女性「……に……げて」
虎王丸「何だって?」
 がりっとかすかな物音がした。
 突然の物音に二人が正面を見ると、そこにいたのは丈1メートルほどの奇妙な剣をもった一人の男だった。黒い剣で刃が途中から二又に分かれており、鍔元には異様な、なんだろう宝石だろうか、それらしきものが埋め込まれている。表情はなく、目は白目をむいており、見るからに危なそうな感じの雰囲気をまとっている。
 男は二人を認めるなり、突然襲い掛かってきた。
虎王丸「おいおい、いきなりかよ」
 しかし、虎王丸は男の斬撃を片手で受け止めると右足で男の鳩尾を蹴り飛ばした。
 相手の反動もあり、相当の威力を持った虎王丸の蹴りである。普通なら気絶するほどの威力をもっている。
 むくりっと男が何もなかったように起き上がる。
虎王丸「なかなかタフじゃねぇか」
 再び襲い掛かってくる男に対し、虎王丸は同じようにその剣を受け止めると、次は強烈な回し蹴りを男の側頭部に叩き込んだ。首の骨が折れるほどの勢いである。
虎王丸「……まじかよ」
 しかし、男は何事もなかったように起き上がると、諦めることなく虎王丸の頭目掛けて刃を振り下ろしてくる。
 あまりのしつこさに虎王丸も嫌気がさし、持ち前の刀で男の刃を受け止めると虎王丸は力を込めると剣をはじき返した。
虎王丸「ちょっと痛い目見てもらうぜ!」
 その瞬間、虎王丸の刀の表面を炎が包み込んだ。
 虎王丸が男の懐へと刀を振るい、その瞬間に炎が男の体に引火する。
 さすがの男もこれで倒れるだろう、そう思い虎王丸が刀を納めようとした瞬間、
蒼柳・凪「虎王丸!!」
 凪の言葉に反射的に虎王丸は後方へと跳んだ。その一瞬後、黒い床に男の刃が突き刺さる。
虎王丸「な、なんだ、ありゃぁ……」
蒼柳・凪「あれは……」
 炎に燃える男の体をいくつものチューブが蛇のようにその体に巻きついていた。どこから出ているのかとその発生源を探すとそれらは、男のもつ黒い剣から次々と飛び出していた。
虎王丸「……うっ!?」
蒼柳・凪「虎王丸?」
虎王丸「……嫌な臭いがしやがる」
 鼻を押さえる虎王丸が、眉をひそめて男のもつ剣へと視線を向ける。
 キキッと何かを引っかくような音が剣から鳴った。それと同時に現れたのは『瞳』だった。
 鍔元の宝石と思っていたものが砕けた跡からでてきたそれは生き物の眼球とまったく同じものであり、それは一度二度、周囲を見渡すと、意志をもっているように二人へとその視線を投げつけた。
虎王丸「凪、下がれ!!!」
 虎王丸が叫ぶと同時に、男は疾風のようにせまり、刃を振り下ろした。
 それを受け止めた虎王丸が、ぎっと奥歯を噛む。
虎王丸「くっ……」
 先ほどのまでとはまったく違っている。その速度も、力も、まったく別人のものである。
 あまりの力に押し負けつつある虎王丸が、懸命に刀に力を込め、押し戻す。
 虎王丸の様子を嘲笑うように剣の瞳がぎろりっと視線を向ける。
虎王丸「こ……の……」
 それに何か異様な悪寒を感じた虎王丸が体中の力を振り絞る。
虎王丸「気持ち悪い目を向けてんじゃねぇよ!!!!」
 咆哮と共に虎王丸は男の剣を押し返すと、その懐に一撃、刃を横薙ぎに一線叩き込むと、その場から離れた。
蒼柳・凪「大丈夫か!?」
虎王丸「ああ、なんとか……それにしてもありゃ、一体なんだ?」
 虎王丸の炎に体中を燃やされる中、男とは違う別の悲鳴が炎の中から飛び出してきた。
???「ギィイイイィィッィィイイイィ!!!」
虎王丸「あの剣が叫んでるのか……?」
蒼柳・凪「まるで生きているみたいだ」
虎王丸「どうする、逃げるか?」
蒼柳・凪「いや、倒れてる人たちをこのままにはしておけない。それにあの男の人も助けなきゃ」
虎王丸「助ける?どうやって?」
蒼柳・凪「おそらく、あの剣が男の人に憑依してるんだ。なら、あの剣だけを破壊すればいい」
虎王丸「破壊するって、簡単にいうけどそう簡単なことじゃないぜ」
 男を包む炎が消えつつある。それを眺めながら、凪がすっと立ち上がった。
蒼柳・凪「接近して俺と虎王丸で二方向から攻撃をしかける。少々の危険は覚悟しないと」
虎王丸「……わかった。死ぬんじゃねぇぞ」
 ついに男を束縛していた炎が掻き消えた。それと同時に武芸の達人の神霊を自分に憑依させ、転がっていた剣を手にした凪は虎王丸と共に男へと向かっていった。
 もはや敵は男ではなかった。人形のように操られて動くその姿は動く屍と言ってよい。奇妙な叫び声をあげて襲い掛かってくる黒い剣、それが二人の敵であった。
 片方が攻撃を引き付け、もう片方が剣へと攻撃を仕掛ける。二方向からの攻撃は確実に剣へとダメージを与えていく。
 二人が自分に攻撃を絞っていることに気づいたのだろう。瞳が一際大きな叫び声をあげた。
 その瞬間、男の体を巻いていたチューブが周囲のあらゆるものにめり込んだ。
 床に、壁に、並びおかれたカプセルに侵食したそれは、その物質のもつ何かを吸い上げていく。
 それにしたがって男の手に握られた黒い剣が、みるみる内に巨大化し、成長していった。
虎王丸「化け物が!!」
 高さ4メートルにもなったそれが大きく周囲へと振り回される。それを避けた二人だが、部屋中にあったカプセルはまるでバターのように軽々と横に切り裂かれてしまう。
 だが巨大になるということは、裏を返せばリーチが長くなり、隙ができるということだ。
蒼柳・凪「虎王丸!」
 間合いを取っていた凪が、そう叫ぶと一気に男へと駆けた。当然それを討とうと瞳が凪の頭目掛けてその大剣を振りおろす。それを予想していた凪は紙一重のところで避けると、男の足元で剣を振るった。
 瞬間、足もとの床が砕け散り、男の体勢が崩れた。
 その隙を狙って、虎王丸の炎の刀が剣の鍔元、瞳のど真ん中を貫いた。
???「ギィィィッイイイィ!!!」
 悲鳴を上げ、もだえ苦しむ瞳。
 渾身の力を込めて、虎王丸は刀を剣へと押し込んでいく。
 しばらくして、悲鳴は消えさった。
 残ったのは炎に包まれて黒い炭となった剣の残骸であった。

 その後二人は倒れていた二人と剣に憑依された男性を抱えて遺跡を後にした。
 何があったのか聞いたが、三人は何も覚えていなかった。ただ一つ、覚えていたのはあの剣はカプセルの中に入っており、憑依された男性はその剣からある声を聞いたということだった。
 ただし、その言葉が何だったのかまでは覚えていないという。
 釈然としないものを心に残しつつも、遺跡から無事帰れたことにまずは安堵の息をつく凪と虎王丸であった。