<PCクエストノベル(4人)>
新たなる謎の探索 ―機獣遺跡―
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【2377/松浪・静四郎/放浪の癒し手】
【3370/レイジュ・ウィナード/蝙蝠の騎士】
【3429/ライア・ウィナード/四大魔術師】
【3434/松浪・心語/傭兵】
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機獣遺跡――
近日に発見されたばかりの、千年もの昔に失われたとされる機械文明のものと思われる海底遺跡の名である。
ソーン世界の建築とは遠くかけ離れた、平面的・金属的な外装。
また、内部にはゴーレムとは全く違う「戦闘機械」が無数に徘徊。その戦闘力と動きは強力かつ冷酷である。
エルザードの学者たちはこの戦闘機械を「機獣」と名づけ、その特異性と危険性から情報の隠匿に努めつつも、歴戦の冒険者達に対して内密に働きかけては、超危険的存在である遺跡と機獣の小規模調査を依頼している。
――……
心語:「と、いう情報を得てきた」
と、松浪心語は言った。
ここは通称「蝙蝠の城」――城主レイジュ・ウィナードとその姉ライア、さらに2人の友人であり、最近ではもっぱら給仕役を行っている松浪静四郎がいる。心語は静四郎の義理の弟だ。
レイジュ:「酒場で聞いてきたのか?」
レイジュは食事をする手を止めて、思わず心語を凝視した。
今は4人での晩餐の最中で、心語が何気なく話し出した内容が「機獣遺跡」なるものの話題だったのだ。
レイジュの問いかけに心語は首を横に振り、
心語:「傭兵ギルドの方面で――。今、ギルドの方で、学者たちによる調査手伝いの依頼が内密に出回っている」
ライア:「とても興味深い話ね」
ライアが口元をナプキンで押さえながらつぶやいた。
静四郎:「未知の遺跡……。これはまた、裏で大騒ぎになりそうな話でございますね」
空になっていたレイジュのグラスにフルーツスカッシュを注ぎながら、静四郎が静かに言葉を添える。
心語が兄に向かってうなずいた。
心語:「この機会に、行ってみようかと思う。未知の遺跡の探索……久々に腕が鳴る」
ライア:「あら、だったら私も行くわ」
ライアは心語に微笑みかけた。
ライア:「そんな遺跡になら、未知の魔術に関する何かがあるかもしれない――……ぜひ、行ってみたいわね」
レイジュ:「未知の魔術……」
ライアもレイジュも、魔術というものには強く思うところがある。千年もの昔に失われた文明の遺跡。そこにどれほどの価値があるか。
心語はウインダー姉弟を見て、
心語:「機械文明の遺跡らしいのだが……」
と少しだけ首をかしげた。
しかし、ライアは気にしていないと言いたげに、サラダを一口食べてから明るく笑った。
ライア:「どんな遺跡であっても、文明が残したものよ。魔術だってきっとあるわ」
レイジュ:「ライアは行く気なんだな」
ライア:「そうよ」
レイジュ:「……なら僕も行く」
手伝うから、とレイジュは姉にうなずいてみせた。ライアはにっこりと笑って弟の気持ちを汲む。
心語:「ということは一緒に行くことになるのか。それで――」
静四郎:「もちろんわたくしも行きますよ、心語」
兄を見た心語に、静四郎は笑いかけた。
静四郎:「皆様が行かれるというのに、わたくしだけ留守番というのは、寂しいものですからね」
こうして。
「機獣遺跡」4人一斉探索の計画が、その場で練られ始めたのだった。
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まず4人が行ったことは、エルザードの学者を訪ねることだった。
そもそも傭兵ギルドの方に話が来ているならと、心語の縁から学者をたぐり、あらかじめ問題の遺跡の知識と「機獣」について調べておく。
まだまだ分からない部分が多い。だからこそ調査中なわけだが。
遺跡内にはトラップが多いらしく、そのため調査もなかなか進まない。また機獣もあまりに凶暴すぎて深入りできず、どんな種類がいるのか全貌が見えているわけではないらしい。
ライア:「かなりの用意をしていかなくちゃいけないかしらね」
そうは言うものの、あまり荷物を持ち込んでは対機獣戦の時に怖いのも事実だった。
4人でよく相談して、学者から得た情報を合わせて必要なものを選りすぐる。そもそも何のために遺跡を調査したいのかも考えれば、自然と持ち込むものは決まっていった。
今回は、心語が主に個人的に心の奥をくすぐられる「未知の遺跡の探索」が目的であり、
一方でライアは「未知の魔術」の存在が目的だった。
レイジュ:「現地では別行動になるかもしれないな」
それでもいざとなったら4人必ず協力することが暗黙の了解。
そして4人は、目的地へと足を向けた。
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海底遺跡、ということで、調査にはライアの作成した水中呼吸薬が必要不可欠だった。
それを飲み、4人で潜った先で見つけたもの……
機獣遺跡――
ソーン世界とはかけ離れた……建築。
元々ソーンの人間ではない静四郎と心語も、その遺跡を目にしてうなった。
静四郎:「随分と……奇妙な、何と言いましょうか、心を感じさせない遺跡でございますね……」
外見だけでも分かる。ひたすら続く平面。金属。そこに「生き物」の息吹は感じ取れない。
レイジュ:「どんな存在がこういう建物を必要としたんだろうか……」
レイジュは目を細めて遺跡を見つめ、思いをはせた。
金属。ソーンにも金属の建物はないわけでもない。けれどここまで硬質さは感じない。不思議な違和感だ。
レイジュ:「ライア。こういう技術を持つ文明だったんだ。『魔術』は必要としていなかったかもしれない」
ライア:「だからこそ、そこにあったかもしれない『魔術』に価値があるのよ」
ライアはまっすぐと金属の壁を見つめていた。
心語は太陽の位置を確認していた。海水で屈折した光を計算に入れて目を細める。朝早くに蝙蝠の城を出てきたつもりだったが、もうかなり日が昇っている。
心語:「あまりのんびりしている暇はなさそうだ。できればじっくり探索したい――2人は、外から遺跡を見るのだったな?」
とウィナード姉弟を見る。
ライア:「ええ」
ライアはうなずいた。彼女とレイジュは、その翼を使って上空に飛び、まず遺跡の全体像を外から見るつもりだった。
心語:「そうか。――俺たちは内部調査に行く」
静四郎:「入り口がひとつきりということはないでしょうから、どこかでお会いするかとは思いますが、お二方ともお気をつけて」
うなずいて、4人は二手に分かれた。
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遺跡内部はなぜか明るかった。窓はもちろん燭台もひとつもないのに関わらず、だ。
いや、燭台どころではない。
まるで太陽にまともに当たっているかのごとく、明るい。
静四郎:「何と不思議な……。一体どこから灯りが入っているのでしょう?」
心語:「そういうカラクリを発明できていた文明なのだろう」
心語は紙にマッピングの用意をしていた。
静四郎は分身を作り出していた。――猛禽類の隼。
この分身は知覚を共有できる上に、遠隔操作が可能だ。内部を調査させるにはちょうどいいだろう。
生み出した分身を先に行かせて、見えるものを感じ取る。
――どこまで行っても金属の壁。平面、平面、平面。直角。曲がり角さえ金属的。
心語:「トラップに気をつけなければ……」
心語は慎重に辺りを見渡していた。
静四郎ははっと隼を操作する。
すんでのところで、隼は壁から発射されたレーザーを避けた。
心語:「何かあったか?」
静四郎:「トラップにかかったようですよ。隼の質量でさえ反応するのですね……動くものに反応するのか、それとも……生命体に反応?」
心語:「生命体反応だとしたら、分身に反応するのはおかしいのではないか」
静四郎:「そうかもしれませんが……」
静四郎は悩みながらも、さらに隼を前に進めていく。
分かれ道を見つければ両方の道に少しだけ進めてみて、片方が行き止まりだと分かってから改めて違う道を行く。
分かれ道や曲がり角の天井には、目玉のような奇妙な物体がいくつも設置されていた。それに発見されるとすかさずレーザーの発射。
あるいは天井から降ってくる槍。慌てて避けると、床が開いて槍はそこに吸い込まれていく。床はすぐにカシャンとしまり、廊下は硬質な静けさに再び包まれた。
静四郎:「道はそれほど……複雑ではありませんね。今のところ分かれ道もほとんどない」
心語:「こういう建物の造りの理由は決まっている。建物の美しさを保つためというのもあるらしいがこの遺跡では考えにくいから……敵が侵入してきた時に、挟み撃ちにするためだ」
静四郎:「なるほど……」
心語:「背後の敵は俺が見張ってる。心配ない」
心語は生まれながらの戦士だ。その辺りのぬかりはない。
静四郎:「しかし、機獣には気をつけませんとね……」
――壁のレーザートラップのある箇所へと彼らもたどりついた。
静四郎:「どうやってあの光線をくぐりぬけましょうか」
心語:「簡単だ。ただひたすら走り抜ければいい」
静四郎は苦笑して、「仕方ありませんね」と覚悟を決めた。
2人で同時に行くのは危険だ。隼で感知した、レーザートラップのある箇所を心語に伝え、1人ずつ駆け抜けることにする。
まず先に心語が。
小柄な体にひそんだ果てしない運動能力で、その場を駆け抜ける。水の圧力などお構いなしだ。
レーザーは彼の行き過ぎた後を走る。――当たらずに抜けることが可能。
静四郎:「わたくしの足では大丈夫かどうか分かりませんが……」
心語:「待て」
心語は兄を制した。慎重に壁に近づき、レーザーが発射された部分を観察すると、おもむろに背に負っていた大剣まほらを引き抜き、
心語:「はっ!」
壁に叩きつけた。
レーザー発射部が破壊された。心語は手を差し出してみる。危ないですよと静四郎が言う前にそこからもうレーザーが出ないことを確かめ終わると、次のレーザー部分へと移り同じことを繰り返した。
合計8個あったレーザー発射部はすべて破壊された。
心語:「意外と弱い造りだ」
もう大丈夫、と兄にうなずいてみせる。
静四郎は念のため走り抜けた。……レーザーが出ることはなかった。
ほっと一息ついて、
静四郎:「ありがとうございます心語。でも、無理はしないように」
心語:「無理したつもりはないんだが」
心語は滅多に出ない表情を少し困ったように動かして、ぽり、と頬をかいた。
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ライアとレイジュは水の中で翼をはためかせ、遺跡を外側から把握しようとしていた。
レイジュ:「大きいな……今まで見つからなかったことが不思議だ」
ライア:「海底だもの。それにこの辺りの海域はあまり船も通らないのよ」
レイジュ:「確かに」
2人、離れないようにしながらじっくりと眺めていく。
ライア:「小部屋はないかしら。そういうところに置いてあると思うのよね」
レイジュ:「小部屋か……あそこはどうだろう?」
レイジュが指を指す先、無機質な形の建物の外観からでも分かる出っ張りがある。
ライア:「興味深いわね。行ってみましょう」
ライアが建物へと泳ぎだす。レイジュはその後を追った。
その小部屋へは、直接入ることが可能だった。
ライア:「当たりだわ」
ライアは嬉しそうに壁を見つめた。
壁、というのは正確ではない。そこは本棚だ。透明なガラスか何かの向こうに、書物がたくさん並んでいる。
レイジュ:「ライア。うかつに触らない方がいい」
ライア:「触らなければ始まらないでしょ。――これはガラスかしら? よく海水の圧力に耐えているわね」
レイジュ:「この遺跡からして、ただのガラスじゃないんじゃないかと思うが……」
ライアがそこに手を触れようとするのを、レイジュは止めた。そして代わりに自分が触れる。
何も起こらない――
レイジュ:「トラップなしか……不気味だが」
ライア:「このガラスを壊してしまったら中の本が濡れてしまうかしら」
ライアはひたすら本に興味を示している。
レイジュはレイジュで、とても気になっていた。
レイジュ:「背表紙の文字さえ読めない。解読に時間がかかりそうだ」
ライア:「千年もの昔の文明だもの。それにこの文明はあまりにも私たちと違いすぎるわ」
ライアは部屋を見渡していた。
やはり硬質。
椅子らしきものはある。革製などではもちろんない。金属色にきらりと水中で光っていた。
机もある。こちらも鈍く銀色に光る。
ライア:「海底に沈んでいたわりに……さびていないのよね」
レイジュ:「本も古そうに見えない。中身は知らないが」
弟の言葉に、ライアは再び本棚を見やる。
近づいて、一考。
取っ手がついている。そこを引っ張れば開くのだろう、きっと。
ライア:「濡れるかしら……泡を作ってそこに閉じ込める方法ならうまくいくかしら?」
レイジュ:「これだけ大量の本を持って帰るのか?」
ライア:「……そうよね。狙いをしぼりましょう。どれが魔術に関する本だと思う?」
レイジュ:「………」
背表紙の文字が読めないのだから、選び出すのは無茶な話だ――
とは、レイジュは思わなかった。
さっきからずっと本を眺めていた彼は、下の方にあった数冊に目をつけていた。
レイジュ:「ライア、この3冊……何か、感じないか」
ライア:「………」
ライアは視線を下ろして弟が示した3冊の背表紙を見つめ、大きくうなずいた。
何かがある。
何かを発している本だ。力ある本。
ライア:「これを狙いましょう」
ライアは大きな泡を生み出す。レイジュは姉の呼吸に合わせて、本棚の取っ手に手をかけた。
姉弟は呼吸を合わせ――
レイジュが戸を開き、ライアがすかさず泡を本に押し当て包みこみ、本棚から引き出した。
ライア:「うまくいったわ」
急いで本を机に運ぶ。
表紙に、魔法陣のような不思議な紋様が描かれていた。
ライアは何となく、その紋様を指でなぞってみた。瞬間、机の上に輝きが満ちた。
ぱらり、と表紙が自然に開いた。
姉弟はごくりとつばを飲み込んだ。
レイジュ:「これは……」
読めない文字。しかしそれとともに様々な図形。紋様。
そして繰り返されている言葉。
ライア:「城に帰ったらじっくり研究しましょう」
ライアは本を閉じた。閉じる瞬間にさえ圧力を感じた。
泡に包まれた状態のまま、レイジュが袋に入れて持ち運ぶ。
ライア:「さあ次の部屋を探しましょうか――」
と彼女が弟を促したその時。
ガシャン……
無機質な音がして、ライアたちが入ってきた建物の外側の扉から、四つ足歩行の機械が――3体、現れた。
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静四郎:「何かきます……!」
心語:「機獣か?」
静四郎:「今、隼を――」
静四郎が前方に意識を集中していたその時、心語ははっと後ろを振り返った。
ガシャン ガシャン ガシャン
四つ足歩行の、獣のような存在が、いつの間にかそこにいた。
金属。体が金属で出来ている。いや、金属とは言わないのだろうか? とにかくあれは何だ、あれは、
機獣――?
心語:「後ろからも来た……っ」
兄に警告の言葉を発すると、自分は「まほら」を構える。
静四郎がはっと振り向いた。
静四郎:「前から来るものと同じ……!」
心語:「……挟まれたか」
心語は舌打ちする。これはまずい。
とにかく何かをされる前に攻撃に転じなくては、自分はともかく兄が危険だ。
心語はすぐさま大剣を手に目の前の異様な魔物に切りかかった。
ガキィッと手のしびれるような衝撃とともに、機獣の足が折れた。
――思ったより装甲は硬くない。硬くないが――
ジジ、と妙な音を立てて首のような部分が動き、目玉のように赤く光る部分が心語を捉える。
レーザーと同じ――!
心語はかがみこんだ。一瞬前まで彼がいた場所を、赤い光線が走りぬけた。
かがみこんだ体勢から一気に大剣を振り上げる。
機獣の懐をまともに破壊し、機獣は倒れた。
静四郎:「心語、前から10体以上来ます……!」
心語:「く……」
心語の耳にも、前方から来る無機質な足音は捉えられた。
心語:「そのまま前方の機獣との距離を把握しておいてくれ!」
言っている間にも、後方からさらに機獣が2体、3体と増え始めていた。
静四郎:「見たこともない魔物……魔物とさえ呼んでいいかどうか分かりませんね。心語、前方からの機獣の数は増えています!」
心語:「今はまだ遺跡の入り口に近い! 戻ろう!」
心語はすかさず思考を切り替えて、後方から来た数匹の機獣に切りかかった。
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ライア:「これが機獣……!?」
驚きの声をあげながらも、ライアは魔術を駆使して海水を操り、機獣の赤い瞳を惑わした。
レイジュはレッドジュエルを振るう。吸血剣たるレッドジュエルも、今回は相手に血など通っていないので関係がない。
そんな効果は期待していない――。それよりも、振るうことで生じる衝撃波の方が重要だ。
2人には決め手がなかった。どんどんと増えてくる機獣に追い込まれ、遺跡から逃げるどころか内側へ入ってしまった。
機獣の赤い瞳のレーザーが海中を照らす。
姉弟は距離を取ろうとひたすら魔術と衝撃波を放って逃げ道を探していた。
レイジュ:「く……っあとの2人は無事か……!?」
ライア:「何とか2人と合流できればいいのだけれど……!」
ふいにレーザーがレイジュの足をかすめた。
レイジュ:「っ……!」
熱い。直接当たっていないのに痛烈な痛みがある。魔術で言えば火炎系の痛みだろうか、いやそれとも違う、何だこの痛みは――
直接当たったらどうなるのか、想像するだけでぞっとした。
レイジュ:「ライア、とにかく逃げるぞ……!」
ライア:「左からも来るわ……!」
前から左から。後ろは壁。となれば右しかない。
ライアは左からの敵を海水を乱して混乱させ、レイジュは前方の敵を衝撃波で足止めし、2人で右方向へと向かう。
どんどんと数が増えてくる。
海水の中なのにはっきりと足音が聞こえる、重厚感のある音。しかし一方でどこか空洞な、金属質の音。
ガシャン ガシャン
ガシャンガシャンガシャンガシャン
重なり合う音がだんだんと耳に重たくのしかかってくる。
赤い光線が飛び交う。ライアの悲鳴。レイジュがはっと姉を見ると、ライアの左手に火傷のようなミミズ腫れ――
レイジュ:「ライア……!」
ライア:「だ、大丈夫よ」
ライアは右手だけで魔術を放ち、機獣の意識をそむけようとする。
レイジュは歯噛みした。このまま逃げるのはいいが、逃げた先にまだいる可能性が高すぎる。完全に囲まれたらどうする? 突破できるのか――
いや。
そんなことを考えている暇はない。とにかく逃げろ、逃げるしかない。
曲がり角を曲がると、一本道になった。廊下は広いが機獣の赤い光線の他に、壁からも光線が放たれてくる。
しまった、トラップ――!
レイジュ:「ライア! 壁に気をつけろ!」
ライア:「ああ、もう! どこもかしこも光線だらけね!」
レイジュもライアも服がちりちりと焼け始めていた。距離を取っても敵が遠距離攻撃をしてくるのでは意味がない。だからと言って近づいたら今度はどんな攻撃をしてくるのか。
レイジュは姉の様子を見ながらひたすら後退する。
と――
ライア:「もう、後ろは分かれ道だわ……!」
ライアが悔しそうに言うのが聞こえて振り向いたレイジュは、確かにそこにある分かれ道に舌打ちし、そしてそこに見える大量の機獣の姿にぞっとした。
その時――
視界の端に見えたのは、傷ついた隼――……
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静四郎:「ライア様たちがこちらへ来ます……!」
心語:「2人は無事か?」
静四郎:「かなりお怪我をなさっているようですが……」
トラップにかかりダメージを受けている隼が、ライアとレイジュの姿を捉えた。2人の服はぼろぼろになりつつある。そして2人は大量の機獣に追われている。
静四郎は隼から伝わってくる苦痛に耐えながらも、
静四郎:「心語、あなたもそれ以上の怪我をしたら危険です……!」
心語:「俺は平気だ。……2人をここまで導いてほしい。合流したら俺が囮になる」
静四郎は戦士の顔になっている弟の姿に、息をのんだ。
こういう時の弟は何を言っても無駄だ。危険なことはするなと言いたくても、状況がそれを許してくれない。
心語は遺跡の出入り口方面の機獣を相手に大剣で戦っていた。武器が武器なだけにリーチは長いが、赤い目玉の光線は距離を問わない。その上、複数の敵の中に飛び込むものだから近距離の攻撃――突然体から飛び出す針や熱を持ったこてのようなものなど、多彩な攻撃をまともに食らう。
弟が傷ついていく。それを目の前にしながら、けれど。
静四郎は意識を切り替えて、ウィナード姉弟に向かって隼を飛ばせた。
ウィナード姉弟は、自分たちにまとわりつく隼を見てようやく思い至った。
そうだった。静四郎には分身を作る能力があるはず――
ライア:「静四郎さん? 静四郎さんならちょっと一回転してくださる?」
隼は弧を描いて空中を一回転した。
姉弟は安堵する。――松浪兄弟が近くにいる!
隼が2人に尾を向けた。そして、分かれ道のある一方へと姿を消した。
ライア:「レイジュ、あっちだわ……!」
レイジュ:「分かった」
レイジュは気合をこめて、特大の衝撃波を放った。
機獣たちの足が止まる。その隙に背を向けて、姉と共に翼を広げて飛んだ。
隼が導いてくれた方向に入るには、さらにひとつ機獣グループを突破しなくてはならなかった。
ライアが痛む左手を押して、全開で魔力を放つ。
海流にのまれて機獣たちが流されていく。
ライア:「案外体が軽いんだわ」
言いながら、ライアは弟と共に隼が曲がっていった道へと入った。
自分が導いたとおりにウィナード姉弟がついてきたことに、静四郎はほっとした。そして、
静四郎:「心語。もうじきお二方が着きます」
心語:「分かった」
心語は目の前の敵をあらかた片付けると、今度はウィナード姉弟が来る予定の方向へと走りだした。
静四郎も後を追う。姉弟の姿は間もなく見つかった。
ライア:「静四郎さん、心語君……!」
レイジュ:「心語! そんなに怪我をして……」
心語:「気にするな」
心語は姉弟の傍らを通り過ぎ、その向こうからやってくる機獣に向かって突っ込んでいく。
心語:「俺が囮をやる。今の内に逃げろ!」
心語の書いたマップは静四郎の手にあった。静四郎はウィナード姉弟にそれを渡し、
静四郎:「わたくしたちは後からゆきます。この地図通りに行って、この出入り口から出てくださいね……!」
ライア:「2人共!」
機獣に攻撃される心語を見て悲鳴じみた声をあげたライアだったが、しかし唇を噛んで渡されたマップをさっとチェックする。
ライア:「レイジュ、行くわよ!」
魔力を再び全開に。海流を操り、己と弟の体を載せて飛行速度を加速させ、一気にマップの出入り口へと飛ぶ。
道中、心語が片付けたのだろう、倒れて動かない機獣で溢れていた。
姉弟の後ろを、静四郎の隼が追いかける。
そして、2人が無事遺跡の外へ出たことを確認すると、
静四郎:「心語!」
呼びかけに応えて飛びのき、こちらへやってきた弟の手をつかむと、瞬間的な精神の集中――
空間跳躍。
そして、兄弟は出口へと……
■■■ ■■■
全員疲労していた。
が、何とか遺跡からはできるだけ離れようとした。
ライア:「……ふう、噂に違わないわね」
ため息をつく姉の体に傷が多いことが、レイジュにとって自分の不甲斐なさを思い知らせるような悔しさとなった。
静四郎はひたすら心語に護られていたため怪我こそ少ないが、隼が受けたダメージは自分にも苦痛となって現れていた。
静四郎:「お疲れ様……」
労わる口調で隼に言って、それを消すと、彼はふうと息をつく。
心語の怪我は一番ひどかった。血が流れ、海の中で出血がひどくなっている。
静四郎:「心語。早く海から出ませんと……」
心語:「分かってはいる」
治癒能力の高い種族とは言え、危険だった。心語がどこかぼんやりしているのはすでに危険信号かもしれない。静四郎は慌てて弟の体を支え、海上に向かって泳ぎだした。
ライア:「レイジュ、大丈夫?」
レイジュ:「僕は平気だ。……本も無事だ。ライアこそ……」
ライア:「私はレイジュが大丈夫なら平気よ」
ライアは弟に向かってにっこり笑った。
こうして4人の、初めての機獣遺跡探索は終了した。
彼らが触れた部分は、まだまだ入り口付近にすぎない。それでもこれだけのダメージ。
この先を行こうとすれば、相当の覚悟がいるのだろう。だが――
ライア:「……やってみせるわ。未知の魔術のためなら……」
レイジュ:「ライア……」
心語:「俺も負けてばかりではいられないな」
静四郎:「……心語、無理はしないように」
彼らの心は折れない。
どんなに高い壁であっても、決して折れることはない――……
<了>
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