<PCクエストノベル(1人)>
お手伝いも全力で ―機獣遺跡―
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【2447/ティナ/無職】
その他
【NPC/クロア/学者】
【NPC/ナヤーハ/傭兵】
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機獣遺跡――
近日発見されたばかりの、海底遺跡の名である。
それはソーン文明にはない、ひどく平面的かつ金属的な造りの建物。
そして、
遺跡の中を闊歩するゴーレムとはまた違う不思議な戦闘機械「機獣」。
学者たちはこの遺跡の特異性から、隠匿に努めるとともに、内密に冒険者たちに働きかけて内部の調査を行っていた。
しかし中はトラップが多く、なかなか進まず、――……
クロア:「だから頼む。ナヤーハ、一緒に来てくれ」
天使の広場の隅で、これからいかにも調査にいきますという感じの服装をした男が女戦士に話しかけていた。
女戦士は腕を組んで眉をひそめ、
ナヤーハ:「その遺跡の噂は裏からあたしにも回ってきてるけどさ。あたし1人をボディガードに連れてくわけ? 自殺行為だよ」
クロア:「お前ほどのやつなら大丈夫だ!」
ナヤーハ:「買いかぶってくれるねえ」
女戦士の嘆息。
そして彼女は――ふと、こちらを見つめている1人の女の子の存在に気づいた。
全裸ぎりぎりの服装。いや、服装というより皮を適当に体に巻きつけただけのような格好。
大きな動物耳と尻尾。
一見で「獣人」と分かる姿。
そのくりくりとした目が見つめているのは、ナヤーハが腰にぶらさげていた道具袋だった。くんくん鼻を鳴らしている気がする。
ナヤーハ:「どうしたのお嬢ちゃん。お腹すいてるのか?」
その道具袋に、作りたての燻製がいくつも入っているのを思い出したナヤーハはその少女に声をかけた。
少女はためらいがちに、こくんとうなずいた。
ナヤーハは道具袋から肉の燻製を2つほど取り出し、少女に近づいて手渡した。
ティナ:「ありがと……」
たどたどしい口調で言いながら、少女ははむはむとそれを食べ始めた。
クロア:「おいナヤーハ! 獣人なんかに構ってないで少しは俺の話をだなあ――」
ナヤーハ:「うるさいな。人の勝手だろう」
ナヤーハは女子供に優しいタチだった。美味しい? と尋ねると、獣人の少女は素直にこくんとうなずく。
かわいい子だと思って、ぐりぐりと頭を撫でた。ぴくぴくと、大きな耳が動いた。
少女は食べるのを休んで、背の高いナヤーハを見上げた。
ティナ:「話、聞いてた。どこか、行く?」
ナヤーハ:「ん? んー……まあ、調査の手伝いをしろって言われてるんだけどねえ」
ティナ:「手伝う」
少女が突然口走った言葉に、ナヤーハはぽかんと口を開ける。
ナヤーハ:「え……と。何だって?」
ティナ:「食べ物、くれた。お礼、手伝う」
ナヤーハ:「………」
クロア:「おいおいよしてくれ」
クロアが両手を広げた。
クロア:「子供の子守をしてる余裕はないぞ?」
ティナ:「ティナ、子供じゃない!」
ナヤーハ:「ティナっていうのか」
ティナはうなずいた。
ナヤーハは真剣なティナの瞳を受け止める。
困ったように頬を撫でて。それから真顔で、
ナヤーハ:「ティナ、これから行くところはとっても危険なんだよ」
ティナはうなずいた。
ティナ:「ティナ、街の外で生きてきた。魔物、怖くない」
ナヤーハ:「魔物ではないんだけどね。……確かに根性はありそうだ。攻撃能力もありそうだし……」
クロア:「ちょっと待てナヤーハ、何だその流れは!?」
ナヤーハ:「あんたは黙ってな!」
クロアを一喝してから、ナヤーハはティナの頭を再度撫でた。
ナヤーハ:「確実に怪我するよ。それもいたーいのを何度も。いい?」
ティナ:「ティナ、怪我なんか怖くない。自然に治る」
ナヤーハ:「……そうだろうね、自然で生きてきたっぽそうだもんね」
ぽん、とティナの頭を叩き、
ナヤーハ:「あたしはナヤーハ」
ティナ:「ナヤー、ハ」
ナヤーハ:「あっちが学者のクロア。はっきり言ってあっちのが弱い」
ティナ:「クロ、ア?」
クロア:「どういう意味だ!」
ナヤーハ:「うるさいんだよ、普段運動もろくにしないくせに」
クロアがじたばたと暴れる。ティナが「ナヤーハ、クロア」と何度も繰り返す。
ナヤーハ:「一緒に来るんだね? ティナ」
ナヤーハは真顔でティナの顔を覗き込んだ。
クロアが、
クロア:「ナヤーハ!」
と悲痛な叫びを上げる。
ナヤーハ:「うるさいな、この子が来るならあたしも行ってやってもいいって言ってるんだよ」
――ナヤーハがなぜそんな気まぐれを起こしたのかは分からない。
だがティナは深く考えなかった。彼女にとっては、目の前の人は、食料という生きるために大切な大切なものをくれた恩人でしかないのだ。
ティナ:「行く」
きっぱりと言った。
ナヤーハが微笑んで、
ナヤーハ:「じゃあもう少し食料を買ってこよう。腹ごしらえだ。――あの遺跡に行く前に体力マンタンにしておかなきゃね」
クロア:「おい、まさか――」
ナヤーハ:「当然金はあんた持ちだよ。調査依頼をしてきたのはあんただろ?」
クロアががっくりと肩を落とす。
ナヤーハはティナの肩を抱いて、さっさと商店街へと向かった。
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機獣遺跡は海底遺跡である。ゆえに、水中でも呼吸が出来なくてはいけない。
クロア:「僕が研究して作った薬がある。時間制限はあるが、相当の時間もつ」
ナヤーハ:「あんたのそういう頭脳は感心するよ」
クロアが差し出した丸薬を、ナヤーハはティナにも分けた。
ティナはこくんとそれを飲み込んだ。苦かった。けれど野生に生きるティナにとって「苦さ」は必ずしも敵ではない。
ナヤーハ:「実際に、どれくらい効き目はもつんだい」
クロア:「ざっと3時間」
ナヤーハ:「……3時間でどれだけ調査できると思ってるんだか……」
クロア:「うるさいな!」
クロアは顔を真っ赤にして怒鳴ったが、ナヤーハはどこ吹く風。
ティナに向かって、泳げるかどうか確認した後、
ナヤーハ:「ティナ、じゃあ一緒に行くよ。潜るんだ。道案内はクロアの仕事だけどね」
ティナ:「うん」
ナヤーハとティナは同時に海中に飛び込んだ。
遅れてクロアが、慌てて飛び込み彼女たちの前へ回った。
クロアに導かれてたどりついた遺跡――
それを見た時、ティナは不思議な建物だと思った。
ティナ:「なに、この家?」
ナヤーハ:「家……じゃないと思うけどね」
クロア:「家じゃないことは確かだ。ああいや、書斎のような部分も発見されているようだが……」
ティナ:「へんな家」
どこまでも平面的で金属的な壁が続く。
草と遊び木々と慣れ親しみ水に清められて生きるティナには、こうも硬質な存在というものが信じられない。
クロア:「出入り口はいくつか発見されている。――あそこが一般的に出入り口として使われている」
クロアが一点を指差した。
そこは確かに扉になっていて、いかにも「入り口」然としていた。
クロア:「僕が持っているマップに、この入り口からしばらくまでの情報は載っているから、ここから入って、その先を出来る限り伸ばしたい」
ナヤーハ:「別の出入り口から入るとマップが訳分からなくなるわけだね」
クロア:「そういうことだ」
ティナ:「敵、どんなのがいる?」
ティナの問いに、クロアは頭をかいて、
クロア:「機獣と呼ばれているんだが、色々種類がいるらしくてね……全貌がつかめない。弱点も今のところ分かっていない」
ナヤーハ:「あたしたちに死ねって言ってるようなもんだけどねえ」
クロア:「お前の腕を見込んだんだ。頼むよ」
ナヤーハ:「はいはい。ティナ、気をつけて。無理して戦うんじゃないよ」
ティナ:「ティナ、大丈夫。きじゅう? それ、死体もいるか」
クロア:「ああ……そうだな、機獣の残骸があると研究に役立つのも確かだな」
ナヤーハ:「荷物持ちはあんたがやんなよ」
クロアががくんと首を落とすのをよそに、ナヤーハは入り口へと手をかけた。
ティナ:「ティナも開ける」
ナヤーハ:「ありがと」
2人で押し開ける重い扉――
中は。
なぜか、明るかった。
まるで太陽の光がまともに入っているかのようだ。
ナヤーハ:「窓もないのにねえ」
クロア:「この仕組みはまだ分かっていない。奥まで行けば分かるかもしれない」
ナヤーハ:「3時間でどこまで奥に行けると思ってるんだか……半分は帰る時間なんだよ」
クロア:「……分かっているよ」
ティナ:「………」
ティナはくんくんと鼻を鳴らした。
不思議だ。遺跡内ももちろん水で満たされているというのに――嗅覚が利く。その証拠にナヤーハとクロアの匂いがはっきりと分かる。
ティナ:「ティナ、鼻が利く。役立つか?」
クロア:「機械文明だからなあ……匂いなんてあるかな」
ナヤーハ:「見つかるのは前冒険者の腐り落ちた死体の匂いだけかもね」
クロア:「やめてくれ!」
ナヤーハは声を立てて笑ってあぶくを立てながら、前に歩き出した。
ティナはその横にぴったりとついた。
クロア:「地図で分かっている部分はもういいんだ。走ろう」
ナヤーハ:「あ、そう。……確かここトラップも多いんじゃなかったっけ?」
クロア:「少なくとも確認されてマッピングされている場所のトラップは前任者が破壊している」
ナヤーハ:「ははーん……まあいいや。ティナ、走るよ」
ティナ:「うん!」
ティナは両手を下ろして四つんばいになり、四つ足で走り始めた。
ナヤーハ:「うわっと。そうか、獣人だっけ」
クロア:「早いよ! ちょっと待って!」
どんどん加速して小さくなっていくティナの後姿に、クロアが大声を上げた。
心配しなくても、分かれ道でティナは止まった。
ティナ:「どっち行く、正解?」
クロア:「ええとここは左だな」
ティナ:「左」
聞くなり再びティナは四つ足で左の道を走り出す。
人間2人は慌てて少女を追うはめになった。
おかげで移動時間は大分短縮されたのだが――
ナヤーハ:「ティナ。いつ機獣が出てくるか分からないから、体力は温存しておくんだよ」
ティナ:「体力? ティナ、まだ疲れてない」
ナヤーハ:「……日常的に走り回ってる子と比べてもしょうがないか」
ナヤーハは肩をすくめて苦笑する。幸いナヤーハも傭兵のはしくれだ、まだまだ体力はある。
問題はクロアだった。
クロアはぜいぜい言いながら、壁によりかかって休んでいた。
ナヤーハ:「ったく、情けないんだから」
クロア:「仕方……ない、だろ……!」
しかしそこは学者根性。無理やり体を壁から離し、
クロア:「さあ、そろそろマップにない、未知の世界だ……」
ナヤーハ:「……そういうの知的好奇心が光った目なのかもしれないけど、ちょっとアブナイ目とも言うよね」
クロア:「うるさいと言ってるんだ!」
クロアは前に進もうとする。
ティナ:「待て!」
ティナは制止の声をかけた。
クロアが立ち止まった。同時に、ナヤーハが腰の剣に手をかけた。彼女の意識が緊張する。
ティナ:「足音、聞こえる。たくさん」
ナヤーハ:「ああ、気配が。妙な気配が」
クロア:「機獣か……!?」
水の中でなんで足音が聞こえるんだ、とつぶやいた後、クロアはナヤーハの後ろに隠れた。
ナヤーハは面倒くさそうにクロアを見る。
ナヤーハ:「あんたを護りながらか……厄介だね」
クロア:「こうでもしなきゃ本気で真っ先に死ぬのは僕だろう!」
ティナ:「ティナが2人共護る!」
ティナはナヤーハより前に出た。
ナヤーハ:「ティナ、無理を――」
ティナ:「来る!」
脳裏をつんざくような音がして、赤い光線がその場を走った。
ナヤーハ:「!!!」
ナヤーハはクロアを引っ張って避けた。ティナはひらりと光線を避けて、前に突進した。
ナヤーハ:「ティナ!」
ティナの目の前に現れたのは、四つ足歩行の奇妙な機械――
全5体。瞬時に判断したティナは、一番近くにいた機獣に飛びかかった。
かたつむりのように、ぴょんと飛び出した赤い目玉のような部分がある。そこに噛み付いて。
ばきっと、歯に衝撃が走った。――折れる。
けれど、こんな衝撃を歯に何度も与えていては歯がもたない。
爪を振り上げようとした時、他の数体がティナに向かって赤い目玉を向けた。
ティナ:「―――!」
ティナは持ち前の鋭い身のこなしで、すべての視線から逃れた。目玉から赤い光線が放たれる。チー、チー、といやに耳につく音がする。
ナヤーハが飛び込んできた。剣を振り下ろす。機獣は、案外あっけなく真っ二つになった。
ナヤーハ:「装甲は弱いんだね。ただ、攻撃方法が――」
クロア:「目玉が動いているぞ、気をつけろ!」
言われて、とっさにティナは近場の目玉に爪を走らせた。
ばきりと折り取る。ナヤーハの剣も赤い目玉を数本まとめて折った。
残った数本の目玉が、2人に向かって光線を放つ。
ティナはナヤーハに体当たりをするようにして弾き飛ばし、避けさせた。
ナヤーハ:「あいたた……ティナ、もうちょっと優しくね」
ティナ:「―――! こいつ、角ある!」
ティナが角と称したものは、正しく言えば突然機獣の体から飛び出した太い針状のものだった。
しゅんしゅんと出たり入ったり、回転もしている。まともに当たったらそれだけで大怪我だ。
回転しているとなると、爪のような素手で折り取るのは難しい。
ナヤーハ:「あれはあたしに任せなよ、ティナ」
ナヤーハが剣を次々と振り下ろした。
ばきばきと、回転する「角」が折れて飛ばされていく。
ティナはここぞとばかりに「角」をなくした機獣の胴体に爪を叩きつけた。
細腕だが、腕力はある。ぐしゃり、と機獣の体がひしゃげる。ビー、と音がして、そのままその機獣は止まった。
残りの機獣はナヤーハが叩き切った。
場が、にわかにしんとなる。
ナヤーハ:「追撃陣はいない……かな、今のところ」
ナヤーハは息をつく。
ナヤーハ:「あの赤い光線は厄介だね。角も接近戦では危険だ」
ふと見ると、クロアがいつの間にか取り出したノートに猛然と何かを筆記していた。
ナヤーハ:「……どうしてノートやらペンやらが水中で使えるわけ?」
クロア:「この遺跡が見つかって以来、魔術師に作ってもらったこのノートとペンは僕ら研究者の中では必須なんだ」
ナヤーハ:「それはいいけど、戦ってる最中も書いてたりしないでよ。あんたが危ないんだから」
ティナ:「これ、きじゅう?」
ティナは口を挟む。ちょんちょんと動かなくなった機械たちを手で触りながら。
ナヤーハ:「多分ね。そうなんだろ? クロア」
クロア:「うん。それは今のところ一番発見されている機獣だね。胴体からはさっきの螺旋角の他に焼きゴテが出てくる」
ナヤーハ:「そういう情報は先に言いなよ……」
ティナは機獣の残骸で一番破損が少ないものを背に載せた。
そしてクロアの元へとことこと四つ足で歩いていくと、
ティナ:「はい」
がちゃっとクロアの前に置いた。
クロア:「………」
ナヤーハ:「約束通り、荷物持ちはあんただよ」
クロア:「……帰りにしよう。ここに置いておけばいいだろ」
クロアはノートとペンをしまって、機獣の残骸を廊下の端に置いた。
クロア:「さて、先に進もうか」
学者は胸を張って言う。傭兵はため息をついた。
ティナが、張り切って廊下を走り出した。
ティナの感覚なら、機獣が近づいてくればすぐに察して止まるだろう。そう判断したナヤーハは、ずんずん先に行くティナを止めなかった。
ティナは例によって、分かれ道になると立ち止まる。
ティナ:「どこ行く?」
クロア:「……ここからはもうマップがないんだよな……」
分かれ道をマッピングしながら、クロアがぼやく。
ナヤーハ:「棒倒し代わりに剣でも倒す?」
クロア:「浮力が邪魔だろう」
ティナ:「ティナ、左。左に何かある」
言うなり、ティナは左の道へと迷わず進む。何があったというわけでもない。野生の勘だ。
ナヤーハ:「あ、ちょっと待ったティナ――」
追いかけたナヤーハとクロアは、その先にあったものにごくりとつばを飲み込んだ。
ドア――だ。
クロア:「部屋か……?」
ナヤーハ:「開けるよ」
ナヤーハは慎重にドアの取っ手に手をかけて、ガコンと重いそれを開いた。
そこに――
無数の、機獣がいた。
とっさにナヤーハが構える。しかしティナが首を振って、
ティナ:「このきじゅう、動いてない」
クロア:「……エネルギーを入れる前の機獣か……!?」
クロアが興奮のあまり部屋に飛び込んだ。
先ほどの機獣と同じ型はもちろん、他にもクロアの情報にない機械がずらっと並んでいる。
部屋の中央には円錐が立ち、鈍く銀色に光っていた。その下の方は機械となっている。
その部分に近づくと、たくさんのボタンがそこにはあった。
クロア:「これは……下手に操作しない方がいいか……」
ナヤーハ:「勝手に機獣にエネルギーが充填されたら困るからね」
クロアは急いでノートに筆記を始める。部屋の様子、機獣の姿かたち。
時間がかかっていた。ティナとナヤーハは興味深く部屋を見渡しながら待っていた。
やはり窓はない。
けれど明るい。
天井を見てみるが、壁と同じで金属質なだけだ。
ふと――
ティナは、ナヤーハの服の裾を引っ張った。
ティナ:「ナヤーハ。あれ」
ナヤーハ:「ん?」
ティナが指差す先、
天井の隅に――ぶらさがっている、目玉のようなもの。
ナヤーハ:「………!! クロア、もしどこかの動力源が動いていたら監視されているぞ!」
クロア:「え?」
言われてようやくそれの存在に気づいたクロアは青ざめた。
クロア:「い、いや、もうこの建物には支配者がいないのだから邪魔者を処分する方式は――」
ナヤーハ:「動いているだろう! 現にエネルギーの充填済みの機獣は侵入者を問答無用で襲うんだ!」
ナヤーハは腰にとりつけていた小さめの鎖鎌を放って、その目玉を破壊した。
しかし、
カシャン……
カシャンカシャンカシャン
あれだけ装甲が弱いのに、なぜ浮力に押されず足音が聞こえるのか――
謎の、機械が。
部屋の入り口から、ぞろぞろと姿を現した。
ティナ:「―――!」
ティナはクロアを突き飛ばして奥へとやる。
ナヤーハは剣を構えてすぐさま切りかかった。
今度は先ほどの機獣とは違うものもいる。二足歩行の、ゴーレムのような、人間をかくかくにしたような形の機獣。しかしその両目と額にあるツブがやはり赤くて。
二足歩行機獣の、赤い3つの光が光った。
瞬間、3つの光線が走った。
それに伴って四速歩行の機獣も次々とかたつむりのような目玉から光線を放ち出す。
ナヤーハ:「あっつ……!」
ナヤーハの足と腕にかすり、ナヤーハは体勢を崩した。
ティナ:「ナヤーハ!」
ティナは突進して、四つ足歩行の機獣を突き飛ばしながら、二足歩行の機獣にタックルする。
やはり装甲が弱いらしい。機獣の胴体はべこんとへこんだ。
ティナはその首を狙って腕を振り上げ、爪を走らせる。
勢い込んで、機獣ごと床に倒れこんだ。
首は殺げなかった。機獣の3つの赤い光が再び光る。
ティナは避けずに、爪で機獣の顔を引っかいた。
ばきばきばき、と赤い部分が破壊された。
ナヤーハ:「ティナ、後ろ!」
ナヤーハは叫びながら、ティナを狙っていた四つ足機獣の目玉を切り飛ばす。そして次々と機獣を叩き切り、蹴り飛ばし、破壊していった。
ティナに上に乗られて、二足歩行の機獣がばたついている。その足を、ティナはがりっと引っかいた。
爪が痛い。
しかし今日は、手伝うと決めた。
足の次に胴体。何度も何度も引っかくと、やがてビーと音がして、機獣は気が抜けたように動かなくなった。
ナヤーハ:「ティナ」
ナヤーハが、一部爪がはがれて血だらけになったティナの手を取る。薬草を取り出して貼り、その上から細い包帯で巻いた。
そして背後に振り向くと、
ナヤーハ:「クロア、残念ながら今日の探索はここまでだ。ティナが限界だ」
ティナ:「ティナ、まだやれる!」
ナヤーハ:「ティナ。嬉しいんだけど、ティナが傷ついてまでやることじゃないんだよ」
それに――、とナヤーハは微笑んだ。
ナヤーハ:「クロア。この部屋をティナが見つけてくれただけで大きな収穫だったろう?」
クロアはおそるおそる円錐の後ろから出てくると、えへんと咳払いをして、
クロア:「うん。ああ。……ティナ、ありがとう」
ティナ:「………」
ティナはナヤーハとクロアを交互に見る。
ティナ:「ティナ、役に立った?」
ナヤーハがにっこり笑った。
ナヤーハ:「それはもう、これ以上なくね!」
■■■ ■■■
せっかくだからと二足歩行機獣をナヤーハが背負い、元来た道を帰る。
クロア:「次はこの3つの分かれ道の右と真ん中を調べなきゃな……」
クロアはぶつぶつ言ってその分かれ道から離れると、帰る途中の道で廊下の端においやっていた四つ足歩行の機獣の残骸を両手に抱えた。
ナヤーハ:「かろうじて、泳げそうだね」
装甲は軽い。しかし強力な兵器。
装甲が軽くなったのは、見知らぬこの文明の発達ゆえだったのだろうか。
3人は建物から出ると、屈折して見える太陽の光に向かって泳ぎだした。
まぶしい。
やはり、建物の中の明るさとは違う。
やがてざぶんと、3人は海面に顔を出す。
――きれい。
ティナは思った。陽光を反射して輝くさざなみが優しくティナたちを包んでいる。
指が痛かった。
けれど、充実感があった。
陸に上がった時、ティナは言った。
ティナ:「次も、手伝う」
ナヤーハが笑った。
ナヤーハ:「頼りになるね、ねえクロア」
クロア:「……そうだねえ、お金さえくわなければ……」
ティナの食事代のことを言っているのだが、ティナはきょとんと首をかしげた。
ナヤーハ:「馬鹿言うんじゃないよ。食事代だけじゃなくてちゃんと報酬もらうからね」
クロア:「ぐ……っ。そ、その代わり今度も付き合え!」
ティナ:「ティナも、ティナも!」
ティナははしゃいで2人の腕に抱きついた。
海水で冷たく冷えた2人の腕は、それでもなぜかぬくもりがあって、
ティナは思った。――こんなニンゲンなら、好きだな、と。
<了>
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