<PCクエストノベル(2人)>


遺跡探索は永遠の中のひと時 ―機獣遺跡―
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【2377/松浪・静四郎/放浪の癒し手】
【3434/松浪・心語/傭兵】

【NPC/アーデル/学者】
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 機獣遺跡と呼ばれる場所は、思いの外興味深い所だった。

静四郎:「心語。また行きますか?」

 松浪静四郎は、義理の弟に尋ねる。
 弟、心語はこくんとうなずいた。

心語:「……気になる点が……多すぎる……。……兄上も……少し、興味を持たれたのではないか……?」
静四郎:「さすが、見抜かれてしまいましたか」

 静四郎は元来気性が優しく、戦い等を好むタチではない。が、遺跡には興味を引かれた。
 謎だらけの遺跡。
 機獣と呼ばれるおかしな魔物。
 静四郎は先日ともに機獣遺跡へ行った友人からもらった、水中でも呼吸のできる丸薬がまだ残っているのを確かめ、

静四郎:「行くなら早い方がいいですね」
心語:「……兄上の、体力が……回復しているなら……すぐにでも……行く……」

 静四郎は分身を飛ばして遺跡調査を行っていた。
 分身がダメージを受けると、それは静四郎にとってもダメージとなって返ってくる。そのため、静四郎自身は一度もトラップに引っかからず、また機獣の攻撃も受けていないが、それなりの疲労をしていたのだ。
 静四郎は、「大丈夫ですよ」とにっこり笑った。

静四郎:「これでもわたくしは丈夫なんです、心語」

 心語はいつも動かない表情を、ほんのわずかに和らげた。

心語:「では……行こう……。機獣遺跡へ……もう、一度……」

 ■■■ ■■■

 海中遺跡である機獣遺跡。
 友人からもらった丸薬がなければ、まず呼吸が出来ない。

静四郎:「あのお二方にはまたお礼を言わねばなりませんね」

 言いながら、静四郎は丸薬を口に放り込んだ。
 隣で心語も丸薬を口に含み、そして海の中へと飛び込んだ。

 圧力の強い海の水をかきわけて、下へ下へと向かう。
 一度行った場所だ。間違えることもない。
 そして――今回も、無事たどりつくことができた。

 エルザードでは浮いている、ひどく金属的で平面的な建物、機獣遺跡。
 相変わらず冷たく鈍く、そして無機質な印象を受けた。
 兄弟は崩れた入り口に降り立った。

静四郎:「やはり、今回も灯りがともっていますね……どういう仕組みなのでしょうか」
心語:「……そういうところも……合わせて……調べて……いきたい……」

 弟の言葉に、兄はうなずいた。
 今回も遺跡に深入りするつもりはない。ただ、前回の調査で気になったところの再確認をしたいだけだ。
 そこのところは、事前に兄弟で相談を重ねていた。
 心語は入り口をチェックする。――感知システムはないか。

心語:「……こんな……場所なら……まず、入り口に……感知システムがあるはず……」

 前回は気にしていなかったが、それは重要な点だ。
 入り口に感知システムがあるなら、この遺跡は入り口に何かしらを感知した時点で動き出すようになるのかもしれない。
 静四郎も同じように天井を仰いでみたり、足元をよく見つめたりする。
 ――平面的で金属的な入り口。
 監視『目玉』は、よく見れば見つけられる。

心語:「……兄上……あれだ……」

 心語は斜め上を指差した。
 静四郎がそれを伝って視線を動かすと、小さな小さな丸い水晶玉のような何かが、角に埋め込まれていた。右と、左に1つずつ。確かに、周りから浮いている。

静四郎:「今でも、作動しているのでしょうか……」
心語:「……分からないが……」

 遺跡内部の機獣やトラップはまだ作動しているのだ。予断は許されない。

心語:「……どの道、もう……映されてしまっているな……」

 心語は腹を決めたように「……中に、入ろう……」と兄を促した。

 内部は相変わらず。金属の壁が続き、まっすぐと道が伸びている。
 静四郎は、平面的な廊下が続くのを目を細めて見つめ、分身を生み出した。――猛禽類、鷹。
 鷹に先行探索させ、トラップの復活や機獣が襲ってくるのを事前に把握できるようにする。
 心語は先日書いたマップを取り出していた。

心語:「……前回、壊した……トラップ……復活……している……だろうか……」
静四郎:「そこもまた未知数ですからね」

 静四郎は前回トラップがあった場所にも気を配るつもりだった。

 兄弟はゆっくりと歩く。
 鷹はばさばさっと先を行く。
 ――先行する鷹が、第一トラップの場所までやってきた。
 前回、壁から光線が発射された場所だ。
 静四郎は、鷹と共有している視界を確かめて小首をかしげた。

静四郎:「おや……心語が先日壊した跡が、残っていますね」
心語:「……本当か……?」
静四郎:「ええ。この分だとトラップは復活していないのでは……」

 話している内に、彼らもトラップの場所へたどりついた。
 静四郎は陸地にいる時あらかじめ拾っておいた小石を、1個ずつトラップのある場所へと投げ入れた。
 ――反応、なし。

静四郎:「一度破壊すると、復活しないようですね……」
心語:「……破壊した……場所を……、よく……見てくる……」
静四郎:「気をつけて!」

 自分が愛刀「まほら」で思い切り破壊した壁の赤いランプ部分を、心語は近づいてよく見ようとする。
 破壊された赤い、機械の目玉。
 心語は首をかしげる。

心語:「……トラップは……何に、反応して……作動していたのだろうか……」

 先日の時は、心語は並外れた身体能力を駆使して、光線の中を駆け抜けた。
 動くものに反応していたのだろうか?
 それとも熱反応だろうか?
 さらに心語からも生物反応は出るだろう。……生物に、反応するのか?
 いずれにしても、壊れてしまっているトラップからはそれが解析できない。
 心語は後方で待っている兄を振り返った。

心語:「……もっと先に……行こう……兄上。……破壊、していない……トラップも……あったはず……」

 静四郎はうなずいた。

 分身、鷹が先行する。マップの通りの道筋。変化はない。

心語:「……中が、変化したりする……ことは……ないようだ……」
静四郎:「そこまで発達した文明だと、とてもすごいことですね」
心語:「……しかし……何があるか……分からない……」

 実際、この遺跡は未知数すぎる。エルザードの人間は「機械」というものにそもそも慣れていないのだ。
 異界、という穴から入り込んでくる他の世界の人間がいなければ、機械という存在そのものもまだ知られていなかったかもしれない。
 自身異界人である静四郎は、複雑な面持ちで金属の建物の中を歩く。――彼の世界でも、まだ「機械」はなかったが。

 鷹はすいすいと進む。やがて、分かれ道にたどりついた。
 瞬間、静四郎ははっと鷹を滑らせる。赤い光線。
 天井斜め上から、赤い目玉――のような機械――がぎょろっと目を動かし、鷹の動きを追い光線を放ち続ける。

静四郎:「角の罠は残っている……。生物反応? 動作反応? 熱――」

 静四郎は分身をいったん消した。
 そして角までたどりつくと、弟とともに壁際に隠れ、目玉に見つからないようにしながら様子をうかがう。
 先ほどのトラップの所で拾い直していた小石を、ぽいと投げ入れてみた。
 じゅっ
 空中で、小石は光線に焼かれて消滅した。

心語:「……どうやら……動くものに……反応している……」
静四郎:「そのようです」

 心語は「まほら」を、その角の目に向かって投げつけた。
 根元から破壊。がしゃん! と派手な音を立てて赤い目玉が落ちてくる。
 丸いそれは落ちても形を保っていた。案外丈夫だ。
 心語が慎重に近づくが、それは光線を放つ機能を失ったようだった。

心語:「……兄上……これも持ち帰ると……いいかもしれない……」
静四郎:「そうですね」

 静四郎は赤い目玉をそっと抱え上げ、持ってきていた大きな皮袋に入れた。

静四郎:「自動修復するにも、根元から絶ったのですから、まず大丈夫だと思いましょう」
心語:「……気を……つけて……」

 鷹をもう一度生み出す。先行探索――
 と。
 鷹の耳が、がしゃんがしゃんと異様な音を聞き取った。
 静四郎は鋭く弟に言った。

静四郎:「機獣が近くに来ているようです……!」
心語:「……まっすぐ……こちらに……向かって……?」
静四郎:「足音が大きくなります。そのようです」
心語:「……となると……やはり入り口の……感知システムが……侵入者を知らせているか……」

 心語は「まほら」を構える。

心語:「……予定通り……数体の機獣は……持ち帰る……」

 静四郎は鷹をこちらへ寄せる。
 足音が、だんだん近くなってくる。
 心語が前に出る。まほらはきらりと鋭い光を放つ。
 やがて――
 視界に、異様な姿の『魔物』が。

静四郎:「結界を張りますよ」

 静四郎は鷹を消した。
 そして、両手を広げて念じ――『幻の盾』を生み出した。不可視の障壁。
 いかなる攻撃も無効化するこの障壁が、しかし3分しかもたないことを、心語は知っている。
 結界で護られているのは兄だけでいい――
 心語は飛び出した。機獣、と呼ばれる存在の群れに向かって。
 5体。
 瞬時に数を把握し、敵のかたつむりの目のようにぎょろっと飛び出した赤い目玉が放ってきた光線を避ける。
 目玉の動きさえ気をつけていれば、光線は避けられる。
 あとは近づきすぎることで、奴らの体に内蔵されている直接攻撃用の武器が飛び出さないようにすればいい。
 幸い、まほらのリーチは長い。
 心語は思い切り愛刀を振るった。べきべきべき、と音を立てて、2体ほどのかたつむりの目が折り飛ばされる。

心語:「……必要なのは……頭と……足……」

 かたつむりの目はなるべく残しておきたい。そんなに数は持って帰るつもりがないから、残りは処分してもいい。
 狙うは胴体。
 平面的に四角いその部分に、まほらを叩きつける。
 ばきゃ、と体は呆気なく破壊された。こいつらの装甲が案外弱いのは、前回の経験で知っていた。
 おそらく、光線で遠距離攻撃が出来るため、直接的な攻撃には強く作っていないのだろう。
 ふいっと体を回転させ、その勢いでまほらを振るい、残りも次々と破壊。
 直接攻撃用に、体からコテや針を突き出そうとしていた機獣たちは、それが力を持つ前に力尽きた。
 5体。数が少なくて助かった。心語は廊下に崩れた機獣たちの首と足を叩き折り、持ち上げる。
 ふと、この機獣は犬のようだと思った。
 犬にかたつむりの目を持たせたらこんな風だろう、と。

心語:「……何かしらの……モデルは……あったのかもしれない……」

 つぶやきながら、兄の所に戻った。
 兄は皮袋の入り口を開いて待っていた。そこへ集めた機獣の首と足をがしゃがしゃと入れ、

心語:「……さあ、今回の……調査は……終わり……か……」
静四郎:「そうですね」

 『幻の盾』が消滅する。
 静四郎はほっとしたようにため息をついた。

 念のため静四郎を先に出入り口に向かわせ、心語が背後を護りながら、兄弟は遺跡を出る。
 出入り口で、心語は感知システムを見上げた。

心語:「……破壊、しておいた方が……いいだろうか……」
静四郎:「念のため、ですね」

 心語はまほらを、2つの水晶のような部分に投げつける。
 パキン、とガラスが割れるような音がした。

 それから2人は急いで陸地へ戻った。
 ――学者に約束を取り付けてある。持って帰った諸々のものを解析してもらわなくては。

 ■■■ ■■■

アーデル:「いやあ、助かったよ」

 アーデルという名の学者は、松浪兄弟が持ち帰った物を見てしみじみとそう言った。

アーデル:「あそこの資料は貴重なんだ……僕も、お金がなくて傭兵を雇うことが出来なくてね」

 松浪兄弟は、己たちの興味で遺跡の探索をしている。従ってアーデルから礼金をもらう必要がない。

静四郎:「分かることはありますか?」

 静四郎はアーデル宅の、大きな机の上に置かれた戦利品を眺めながら尋ねた。
 アーデルは、本人の言の通りお金がないため、機獣遺跡に関しては学者仲間から何とか情報を聞き出して研究しているというあんばいだ。
 それが、ようやく本物の遺跡の物質を手に入れられたのだから、大喜びで兄弟の前でそれらをいじくっている。

アーデル:「機械に関しては中々のものなんだよ、僕は」

 アーデルは軽口を叩きながら、機獣のかたつむりの目をついと撫でた。
 切断された部分を見て、ふむふむとうなずく。ドライバーやら電池やら、静四郎たちには普段縁のないものがアーデルの手元に並んでいる。

心語:「……胴体も……持ち帰った方が……よかったか……?」
アーデル:「それはそうだけどねえ」

 それは難しいんだろう? とアーデルは理解を示す。心語はうなずいた。

心語:「……胴体を……破壊せずに……倒すのは……難しい……」
アーデル:「ということは、少なくともこの機獣に関しては胴体に動作回路があるわけだな」

 ごらん、とアーデルは首の切断面を見せてくる。
 中身に詰まっているのは、何本ものコード……赤や青に色分けされ、固められ、つながっている。

アーデル:「おそらくこのコードでその、光線? が出るように伝達されるんだ。話を聞いて判断するに、胴体だね、命令機能がついているのは」
静四郎:「何に対して反応しているのでしょう? こちらの赤い目玉トラップはおそらく動くものに反応したようなのですが」
アーデル:「そうだねえ」

 アーデルはトラップの方の切断面を見る。そちらもコードが詰まっていた。

アーデル:「……コードの配線の仕方がまったく違う。同じ赤い目玉なのだけれどね。機獣は、おそらく動かないものにも反応するのではないかな」

 松浪兄弟は顔を見合わせた。そう言えば、そういう部分について確認していない。
 アーデルはコードを何かに繋ぎ、回路を復活させようとしているようだ。

静四郎:「気をつけてください。光線は危険ですので……」
アーデル:「うん、分かってる」

 自作の回路に繋ぎ、電池を入れる。そして、スイッチを入れた。
 パリパリパリッと音がして、かたつむりの目玉の先が輝いた。

アーデル:「うーん、この調子だと光線が出る状態にまで簡単に修復できてしまうな……」

 アーデルは嬉しそうだ。

静四郎:「その機獣は、自立行動型ですか? 遠隔操作型ですか?」
アーデル:「うん? ああ、自立行動していたのじゃないかと思うよ。足の切断面からしてみてね」

 アーデルは、今度は機獣の足を持ち上げる。
 切断面に詰まったコードの意味は、静四郎たちには分からなかったけれど。
 ただねえ、とアーデルは眉を寄せた。

アーデル:「首の方でも分かるのだけど。どうも、動力がね……胴体にあるのだろうけれど、一体動力が何なのかが分からなくてね」
静四郎:「その、電池、と同じようなものではないのですか?」
アーデル:「うーん、電池で動くから似たようなものなのだろうけれど、機獣1体動かすにも大量の動力が必要なわけで。それに一口に『電力』と言っても、生み出す方法は太陽や水と色々あるからね」
心語:「……水……」

 心語がふいにつぶやいた。

心語:「……あの……遺跡が……海中にあるのは……沈没したから……か……?」
アーデル:「そう言われてるね」
心語:「……沈没しても……電力というのは……生み出せる……ものなのか……?」
アーデル:「―――」

 学者が絶句する。
 静四郎が弟を見て、ぽんと手を打った。

静四郎:「もし電力を起こす装置の動力源が水だったら、海中でも変わりないでしょうね」
心語:「……そう……思う……」

 しかし心語は、自分で言いながらもしっくりこないようだ。腕を組んで、首をかしげている。

心語:「……しかし……動力を……俺たちは見ていない……動力が切れたら……どうなるか……それも……知らない……」
静四郎:「そうでした。一体どれくらいの長さ、動いていられるのでしょうね」

 静四郎はあごに手をかけてうーんとうめく。
 学者も腕を組んで、難しい顔をしていた。

アーデル:「……いい質問をありがとう。これは今後も調査が必要だな」
静四郎:「アーデルさんは、遺跡に行けるとしたら、何を調べたいと?」
アーデル:「そうだな……」

 アーデルは虚空に視線をやってから、

アーデル:「やはり動力。どうやって動力を機獣に入れているのか。あるいは様々なトラップがどこの動力を使っているのか。動力装置の場所を知りたいね」

 松浪兄弟は、その言葉を胸に刻んだ。

 海底に沈む機獣遺跡。その謎はいまだ解かれず、危険信号を鳴らしながらも冒険者たちの心の奥底をくすぐらずにいられないのだった。


 ―FIN―

ライターより--------------
今回もありがとうございます、笠城夢斗です。
前回は、心語さんのしゃべり口調を間違えてしまい申し訳ありませんでした。
色々と間違えてしまいすみません。
またお会いできれば光栄に思います。