<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
『旅の果てに』
●インドゥーラ
堕ちた都市を離れて半年。
レッドとレベッカの姿は、遠く東方の地にあった。
戦でもあったのだろうか。周辺には破壊の傷跡も残されている。だが、人々には活気があるように見えた。
「この先の情報を仕入れておいた方がいいかもね……」
レベッカの小さな呟きに、レッドも頷いた。
ここに至るまでにも、山賊退治など幾つかの冒険を繰り広げては来たが、激戦を潜り抜けてきた二人にとっては余裕のある旅路だった。しかし、戦争の只中を抜けるとなれば話も違ってくる。
「とりあえず、今夜の宿を探そう。町まで来て野宿もしたくないしな」
二人の格好はこの町では目立ちすぎた。いかにも余所者という風体に、周囲から視線が寄せられる。
とりわけ、レベッカは人目を引いた。
この地方の女性達はあまり肌を露出させない衣装が多い。すらりとした脚を見せながら歩くレベッカには、あまり好意的でない視線も寄せられていた。
「僕でこれだったら、ジルなんか大変だっただろうね」
苦笑交じりに呟くレベッカ。
確かに、二人の共通の友人であるジル・ハウは鍛え上げられた肉体を惜しげもなく晒してはいるが。
異なる文化圏に入ったのだと、認識を改めておかないとトラブルの種になる。
アトランティスでも東方に足を延ばしたレベッカの教訓だった。
だが、この地は彼女が思っている以上に格差が生じていたのだ。
「空いてないってさ」
「そんな馬鹿な。どうみたってガラガラじゃないか……」
三軒目の宿にも断られ、肩をすくめるレベッカに首を捻るレッド。
「うーん。次は俺が交渉してみようか」
旅の間、交渉事は大概がレベッカの担当であった。
彼女は人に好かれる性質だし、旅慣れているからでもあったのだが、どうも勝手が違うようだ。
「そうだね……ん?」
ふと気がつくと、町の外れの方で何やら諍いが起きているようだった。
数人の男達が、よってたかって一人を突き飛ばしているようだ。
男達の格好からすると、恐らくは兵士か何かに相当する様子であった。無用のトラブルを避けるため、口出しを避けていた二人であったが、度の過ぎる暴力に見て見ぬ振りも出来なくなった。
「待て。それ以上やったら、そいつ死ぬぞ」
止めに入ったレッドの姿を見て、胡散臭げな視線を送る兵士達。
「余所者は黙ってろ。こいつらナーガはなぁ、殺されたって仕方がないような事をしてきたんだよ!」
そう言って一人の兵士が槍を振り上げる。
穂先の突いたそれを振り下ろせば、もちろん只では済まないだろう。
シュッ!
しかし、兵士がそうするよりも早く、一陣の風が舞った。
槍が半ばから寸断され、呆然とする彼らの眼前に落ちる。レベッカが抜き打ちで放ったソニックブレードだ。威力こそアミュートを纏っている時には遠く及ばないが、剣技として使える程度にまでは修得している。
「き、貴様らぁっ!」
心中で溜息を一つ漏らし、レッドは前に出た。
二人で旅をするようになって知ったのだが、レベッカは意外と後先考えずに正義感を振るう癖がある。それはどうも、彼女が親友と旅をしていた頃の名残らしいのだが。
もっとも、レッドとて騎士としてこの状況を見過ごすつもりも無かった。
「な……!?」
兵士達が動くよりも早く、拳を腹に突き立てていく。
剣を抜けば大事になるし、そもそもこの程度の相手など、レッドにとっては赤子の手を捻るようなものだ。
瞬く間に全員を叩き伏せ、倒れていたナーガを助け起こす。
よくよく見てみれば、まだ少年と言ってもいい年齢だった。
「おい、大丈夫か」
「あ、ありがとうございます……」
彼が少年を助け起こす間に、レベッカが僅かに立ち位置を変えた。周囲を警戒する動きだと、無意識に感じ取る。
視線を上げると、辺りには町の人々が集まってきていた。
「あんた達……とんでもない事をしてくれたな……」
「疫病神はとっとと出て行っておくれ!」
「ようやく町も落ち着いてきたというのに……!」
レベッカと顔を見合わせる。
町の住民たちの好意的とはいえない視線。
過剰ともいえるような反応をいぶかしむ間もなく、二人はその場を立ち去ったのであった。
●パラディン
とりあえず、少年を部落まで送り届けることにした二人だったが、道すがら幾つか話を聞きだすことが出来た。
この地方では、かつて反乱を起こした一人のナーガがいた為に、ナーガの部族は支配階級の底辺にあるらしい。
「えーと、僕らはパスティスがいた部族の村を探しているんだけど、知ってるかな?」
それはファラの名であり、職位を示すものでもある。
パスティスとは考古学者や歴史を伝える者を意味し、どの部族にでもいる者ではないらしい。
ナーガの間では、かなりの知識階級といえるだろう。
「パスティスがいた部族はまっさきにパラディン達に襲われたよ……。生き残りは殆ど山奥に逃げ込んでいるはずさ」
少年はクーヤと名乗った。
インドゥーラ地方では独自の神を祭る国が急速に覇権を伸ばしており、近隣諸国を併合しているとの事だ。
ナーガ部族の中でも歴史や竜信仰に詳しいパスティス達は、精鋭部隊によって狙われたのだという。
「あそこがおいらの村だよ」
山間の小さな村だった。
二人はとりあえず、一夜の宿を借り、翌日にでもパスティス達の詳しい行方を聞こうと考えていた。
だが、事態は思っていた以上に深刻だったのである。
●黄金の炎、白銀の風
翌日の早朝、レッドは周囲に異様な気を感じて飛び起きた。
「囲まれてる……」
隣では既にレベッカが目を覚ましており、窓から外を観察していた。
レジスタンスの頃のような暮らしはしていないとはいえ、敵意などを感知するすべについては今でも自信があったつもりだった。
その二人に感づかせず、ここまで接近しただけでも並みの部隊でないことが窺える。
レベッカは既にシルバーアミュートを手にしていた。
それは、本来は堕ちた都市でジェイクに届けられたものであったが、一線を退く事を決意していた彼が、旅路につくレベッカに送ったものであった。
二人のもとに、寝巻き姿のクーヤが飛び込んできた。
たどたどしく伝えるところによると、昨日ふもとの町で兵士に狼藉を振るった者を匿った罪で、村を焼き討ちするという事であった。
「な……!」
レベッカが息を呑む。
しかし、既に数本の火矢が家の幾つかに放たれ始めているようであった。
事態は一刻を争う。
「レベッカ、俺が敵の頭を抑える。その間に村人を連れて山の方に脱出してくれ」
「分かった!」
反応は早かった。
お互いに信頼を寄せている二人である。力量を知った上で言っているのだ。
シルバーアミュートを纏ったレベッカが、クーヤを連れて飛び去るのを見ながら、レッドはコマンドワードを唱えた。
「竜の力と炎の精霊よ、我のもとへ!」
真紅の鎧に身を包み、彼は一直線に駆け出して行った。
逃げ惑う村人達を誘導しながら、レッドは村の外へと進む。火矢を構えている兵士達を片っ端から倒していった。
とはいえ、まだ致命傷を避ける程度の余力はある。
しかし。
「ほぅ! 貴様が狼藉を働いたという戦士か!」
圧倒的な存在感。
レッドにはひと目で判った。こいつが『頭』だと。
「運が悪かったな。この十二天が一人、火天アグニス様が近くにいる時に反乱を企てるとは」
「待ってくれ。確かに、兵士達を止めたのは俺だ。だが……」
「問答無用!」
アグニスと名乗った男が小さな武器をかざすと、瞬時にその身に神々しい鎧を纏った。
まるでアミュートのように。
「貴様にも理由はあるのだろう。が、大義を果たす身にあっては聞くわけにはいかぬ。苛烈な制裁と恐怖こそが、我が立場ゆえ」
炎で生み出された短槍ほどもある双刀。
それをかざしてアグニスが迫る。
「くっ……!」
その勢いに、レッドもフレイムソードで応じた。
気を抜けばこちらがやられる。それほどの相手だった。
「大義だと……どの面下げてその台詞を吐くつもりだ!」
「我が神の教え……我が国の法律……それこそが大義だ!!」
猛烈に繰り出される攻撃を前に、レッドがたたらを踏む。
よもや、これほどの使い手がいきなり現れるとは思っていなかったというのもある。
「『ライトニングダーツ』!」
周囲に雷の矢が降りそそぐ。周囲に展開していた兵士達がばたばたと倒れていく。
その一瞬の隙をついて、レッドは距離をとった。
「ありがとう、レベッカ」
自身も炎の翼を展開し、宙に舞う。
この戦いは本意ではない。レッドはこのまま逃げるつもりだった。
「待て!」
「すまんがこの場は退かせてもらう」
空中からフレイムショットを連発し、撹乱する。
(恐らく、あいつは俺と同じタイプだ……目くらましにしかならんだろうが)
レベッカも周囲に『ライトニングダーツ』を放って、高度をとる。
敵の兵士達を釘付けにし、二人は悠々と飛び去っていった。
「レベッカ、村のみんなは?」
「何とか無事に脱出したよ。でも、追っ手がかからなきゃいいけど……」
彼女も自分の軽率な行動から起きた事態には胸を痛めているようだ。とはいえ、相手の反応が尋常でなかったのも事実である。
(まるでマキシミリアン統治下のバの国みたいな……)
レッドは首を振った。
長い戦いの記憶が蘇りそうになったからだ。
だが、嫌な予感は彼の心を捉えて離さなかった。
了
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3098/レドリック・イーグレット/男/29歳/精霊騎士
【NPC】
レベッカ・エクストワ/女/23歳/冒険者
※年齢は外見的なものであり、実年齢とは異なる場合があります。
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■ ライター通信 ■
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どうも、神城です。
東方編の開幕となりました。最強になった途端、次のシリーズ冒頭でいきなり苦戦するのはお約束というものですw
レベッカとの仲は普通に恋人同士といったところです。もっとも、彼女はあまり人前ではべたべたするタイプではないので、それほど変わったようには見えないのですが。
オーラ魔法の復活については、ナーガ族の医療士を見つけ出せれば、あるいは何とかなるかもしれません。以前と同じになる保障はないのですがw マスターはそれほど甘くないのですよ、くっくっく……。
派手に開幕したわりに、次に窓開けるのがいつになるのか未定なわけですがw
まぁ、気長に待っていてください。
個別にたくさん持つと、また二の舞になりますしね。少人数1シナリオが理想なんですが、さて。
それでは今回もありがとうございました。
またお会いしましょう。
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