<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


『伝説の魔術師(後編)』

「俺が本物だ!」
「いや、俺が本物だー!」
 同じ顔をした少年が、叫んでいる。
 服装も、ホクロの場所まで一緒である。
「こ、この前異空間に来た時には、異空間に連れ込まれた者同士で戦って、勝ったら脱出できたんだ」
「今度は俺と戦えってことかよ?」
「いや、俺が本物だから、俺とってことか?」
「違う、俺が本物だから、俺とだろ? てか、本物じゃない方がいいってことか?」
「いやまて、今回は偽者を消せっていってたし」
「そうか、偽者を倒せばいいんだ。ってことは、お前を倒せばいいんだな!」
「違うだろ、偽者はお前だから、お前を倒せばクリアだ!!」
 そんなことを言い合いながら、2人のダラン・ローデスは睨みあった。
 同行者達は、呆れ顔で2人のダランを見ている。
 とにかく、なんらかの答えを出さなければ、先には進めないようだ。

「うっわー、すごいわね、全然見分けつかない。なんかさあ、あいつの言うとおりにすんの癪だし、もういっそあんた達2人で行動しなさいよ。1人よりか2人の方が便利だって絶対。魔法も2人分だし、セールの時2店いっぺんに回れちゃうし。やっだ、超便利じゃない!?」
 一瞬あっけにとられていたレナ・スウォンプだが、事態を理解すると、普段どおりの明るい声を上げたのだった。
 その言葉に、虎王丸も考え込む。
「うーん、二匹とも連れて帰って、一匹は荷物持ち、もう一匹は肩たたき機に……それもなかなか。っていや、騒がしすぎるだろ、ダランが2匹もいたら」
「複製の方法次第じゃ区別できんが、魔力を乱して崩壊を試みるか?」
 ステイルの発言に、2人のダランは同時に飛び退いた。
「壊すなーっ!」
「いや、別に後遺症はないぞ。ただ、成否はともかく人に対しては酷い乗り物酔い程度の実害があるがな」
「やだー! 吐くぞ。吐いたものみんなにぶちまけるぞー」
「そうだそうだー!」
 2人のダランは仲の良い双子のような反応を示す。
「2人共連れて帰るのが一番だと思うんだけどなあー。でも嫌なのか。まあ確かに、自分そっくりの他人がいる気持ち悪さも分からないでもないわね」
 そう言うレナは少し惜しそうな顔をしている。レナとしては“荷物持ちに肩たたき!”という虎王丸の案に超賛成だというのにっ。
 ウィノナは複雑な表情で、ダランを見ている。
 トリの表情には変化はない。皆の様子を観察しているようであった。
「記憶なんかもコピーした偽者だと考えても、演技してるんだったら、微妙な性格の違いなんかがあるかもなー」
 そう言って虎王丸は両方のダランに笑みを浮かべながら、こう言ったのだった。
「よう、ダラン。白山羊亭のルディアと黒山羊亭のエスメラルダなら、どっちが好きだ。同時に答えろよ」
「「ルディア」」
 2人は同時に言葉を発した。即答だ。
「んー、じゃあ、ここにいる、ウィノナとレナならどっちが美人だと思うよ?」
 その言葉にレナとウィノナは思わず一瞬だけ目を合わせた。
「そんなの、レナに決まってんじゃんか」
「そりゃ、レナだろ」
 これまた同時にダランは言った。
「なんて正直な子なの」
 レナは2人のダランの頭を撫でる。ウィノナはグサリと傷ついた。
 しかしその後の言葉に、ちょっと救われる。
「ウィノナは美人って年じゃねーし、これからそうなるかもしんねえけど」
「美人と可愛いの区別くらいつくぜっ」
 2人のダランがそれぞれ発言をした。そのどちらもダランの素直な言葉のように聞こえる。
「うーん、両方本物っぽいよな。元々アイツはさ、どちらかが本物だつってねえ訳だから、偽者ってのはこの二匹以外にいるんじゃね? ほら、今の魔術師だって3人いたじゃん」
 虎王丸の言葉に、ダランとダランは複雑な表情で顔を合わせる。
「そうねえ」
 レナはダランを撫でながら、実は魔力の状態を探っていた。しかし、違いは感じられなかった。
「偽者じゃなくて、分離した可能性もあるわね。消すというよりは融合して元に戻す方がいいかも?」
 ステイルもウィノナもそれぞれダランに触れ、体内の魔力の状態を探った。
 ウィノナはダランに魔術を使うよう指示を出すが、その際の魔力の流れも2人共同じであった。
 使い方も全く同じ……同じ人物としかいいようがない。
「だけど、キミは」
 ウィノナは気づいた。
 2人の力の流れは同じなのだが、普段ウィノナが接しているダランとは、何かが違う……。極端に魔力が少ないのだ。
 頻繁にダランの魔力の状態を見ていたウィノナには、それが分かった。でも、どう説明すればいいのかが分からず、ただ訝しげな眼でダランを見ることしかできなかった。
 一通り、皆が調査をした後、トリが口を開く。
「まず、どちらも偽物である可能性はあるんでしょうか」
「なるほど、それもありえるわね」
 そう言うレナ、そして皆の前でトリは淡々と発言を続ける。
「次、どちらも本物の場合。どちらか一方を殺せばいい。残った方を時間と慣れが本物にしていくでしょう。最後、どちらか片方が偽物の場合。これは少し考える必要がありそう。しかし、本物を殺してしまっても、これまた時間と慣れが偽物を本物に仕立て上げていくでしょう。それに、殺した方が本物だと解れば、「これが本物だ」と言えばクリアです」
 トリの発言に、場が一瞬凍りついた。
「ああそうね、貴方はそういう人だったわ。……情って言葉知らないのかしら?」
 レナが思い出したかのように、そう言った。
 以前、同じように異世界に閉じ込められた時、トリは一切の情を表さず、冷徹な行動をとったのだ。
「知っていますよ。でも、理解出来ないんです」
 そうトリは淡々と答え、言葉を続けた。
「もし、どちらかが本物で、どちらかが偽者である場合。今までの経験上、大きな術を使わせ、制御できない方が本物なのではないでしょうか。……「こちらが本物だ」と言った瞬間、もう片方と擦り返られる気配があるのなら、その魔力を歌か鎌で断ち切りましょう」
「制御できない演技をする可能性と、この場で制御できない魔術を使わせることは、危険を伴うだろう。本物を判別した途端の干渉はありえるが、攻撃の類いは真偽が確実になってからにしてくれ」
 ステイルもトリに合わせたのか、淡々とした口調で意見を述べた。
「ええ、わかっています」
 トリはそう言って、笑みを見せた。
 ――人間は騙し騙され恨み恨まれ生きる生き物であるべきだ。そのほうが楽しい――
 トリの中のそんな感情が、表情となって現れた。
 これはなかなか面白いゲームだ。
「……ダランくんと親しいと胸を張って言えるお方、あなたに任せますよ」
 悔しげな表情で、ダランを見るウィノナの顔が、トリは得に好きだった。
 ジェネト・ディアという人間の策略に、この場にいる者達がどう対処するのか、どんな結末を迎えるのか。 
 願わくば、素敵な歌になる物語であるように。
「ええと、分かっているのは、ジェネト少年?はあたし達をテストしているってこと。そしてこれは「さて、2人のうち、どちらが本物だと思う?」という質問。そして「偽者を消せ」と命令してきた」
 一同、レナの言葉に頷く。
「んで、馬鹿なヤツは不要だとか言ってるわけだよ。本物と偽者を見極めるだけなら、色々手段があるだろ? そう簡単なもんじゃねぇだろうし、アイツは「どちらかが偽者」で、「どちらかが本物」だとは言ってねえから、目の前のダランが両方本物って可能性も、両方偽者って可能性もあるわけだ」
 虎王丸の言葉に頷き、レナが続きを語る。
「とりあえず、偽者を消せば出られるんだろうけど。前回の時も彼のシナリオどおりに動いた結果、元の世界に戻れたしね。となると……」
 皆が一斉にダランを見た。
「可能性として一番高いのは、両方同じだというのなら、両方偽者ってことだな。2人とも本物だったら、消すことはできないし」
 虎王丸のその言葉に、2人のダランが後退る。
「では、ヤツの思惑通りではなく、こちら主導で外に出る方法を考えてみる。皆は迷わない程度に探索を続けて、この空間に他にダランの本物や偽者が存在しないかどうか探ってくれないか?」
「わかった」
 ステイルの言葉にそう答えて、レナはダランの腕を引っ張った。
「他にもいるといいわね。3人になったら、もっと便利よー!」
「ううううっ」
 ダランは半泣き顔だった。
「消されたくないのなら、私が数体貰ってあげましょうか? 可愛がってあげますよ」
 トリの穏やかな笑みを浮かべた言葉に、ダランは震え上がった。
「やだーっ。便利に使われるのも、実験に使われるのもやだー!」
「実験になど、使いませんよ」
 トリが手を伸ばすと、ビクリと震えてダランは虎王丸の後ろに隠れた。
 その様子が、トリにはとても心地よかった。
「俺、役立たずだってわかってるし。増えてもしょうがないんだよ……」
「だよな……片方じゃなく、皆の両方の足を引っ張るなんてことに……」
 2人のダランの小さな呟きがウィノナの耳に入る。
 ダランらしい言葉だ。この2人は、ダランの心を持っている。
 そう感じて、ウィノナはなんだか切ない気分になった。

 一向はダランを連れて、3つの部屋を再び見て回った。
 しかし、どの部屋にも、ジェネトやダランは無論、生物は存在しなかった。
 歩きながら、虎王丸はダランにちょっかいを仕掛けたり、趣味や、好みの女の子について、片方ずつに聞いてみるのだが、やっぱり同じ答えが返ってくる。
 この2人が本物から分離した存在で、他に分かり易い本物がいた方がやりやすいのだが……。
「でもさ、偽者でもいいじゃない。だって、ダランと同じ性格してるんでしょ? ってことは、少なくても悪人じゃないわけだし。普通に人間として生きればいいのよ。世界には双子だって三つ子だって七つ子だって存在するのよ! 髪型を変えれば、1号と2号の判断つくわけだし!」
「1号、2号って……」
 レナの言葉に、ダランは涙目であった。
「そういえば」
 トリが声を発した。
「以前、異空間に連れてこられた時は、実体で来たのでしょうかね?」
 その言葉に、レナとダランが考え込む。
「あの時、皆一緒にいたんだっけ?」
「ううん、別々の場所よ。別の場所にいたものが、突然異空間に引き込まれて……戻った場所は、元いた場所」
「てことは、精神だけ引き込まれた可能性もあるってこと?」
 ウィノナの言葉に、トリ、レナ、ダランが頷いた。
「突然目の前から消えたとか言われたことないし。一人でいる時を狙ってんのかもしれねーけど」
 ダランの言葉を聞き、レナが当時の状況を思い出す。
「そうそう、眠っていた時よ、連れてこられたのは」
「あうん、俺もだ」
「私もです」
 レナの言葉に、ダランとトリが続いた。
 どうやら、以前は精神体のみ連れてこられたようだ。ただ、目覚めた後も肉体に疲れが残っていた気もする。
 そして今は……。

 ステイルは一人、中央に留まると、意識を集中し現在の自分の状態、この場所の状態について調査をする。
 自分自身に至っては、特におかしなところはない。何者かの干渉があるわけでも、体と精神が離れた状態であるわけでもない。
 そして、この空間だが――。
「構成的な弱点はない。完璧といっていいだろう。しかし、空間を制御している力はさほど強くはないようだ」
 長い時間。そう、数日、数ヶ月の時間をかければ、自分は抜け出すことが可能だろう。
 しかし、実体であるのなら、他の連れは飲まず食わずで長く生きることは不可能だ。
 だが最終手段ではあるが、魔術で肉体の機能を一時的に止めるといった方法もある。
 とにかく、絶望的な状況ではないことは、自分も仲間達も理解していた。
「そうだな、もう少し制御が弱まれば」
 自らの力で脱出し、自分達を閉じ込めた相手の元に、転移することも可能だろう。
 それにはやはり……。
 ステイルは再び力の状態を探った後、皆を大声で呼んだのだった。

「ここから出る方法だが」
 皆を前に、ステイルが説明を始める。
「無理矢理出るためには、長い時間が必要だ。しかしだ、あの男の指示通り、偽者を消した後であるなら、あの男は必ず何か俺達に干渉をしてくるはずだ。そのチャンスを狙えば、皆で同じ場所へ出ることが可能だろう。手段だが、この魔法陣を扉とする」
 見れば、ステイルの足の下には、彼が描いた魔法陣が存在していた。
「なるほど」
 そう言って、レナはダランを見る。そして、もう一度2人のダランに触れた。
「やっぱり、この2人……実体じゃないわね。ダランの実体もどこかに存在しているはず。彼の精神と記憶を利用して、作り出した仮初の存在ってところかしら。偽者というには精巧すぎるけど」
 レナの言葉に、ウィノナが頷いた。
 何かが違う。ダランが薄いという感覚を、ウィノナは逸早く受けていたから。
「……ボクが、やるよ」
 ウィノナがそう言って、ダランに近付いた。
「ウィノナ? お、俺本物だぞ? 本物だからな!?」
 そう言うダランの前に立ち、ウィノナは「ごめんね」と小さく呟いた。そして、物質消滅の印を描く。
「ウィノナーっ!」
 目の前のダランが、悲壮な声をあげ――消え去った。
 ウィノナは唇を噛んで、拳を固めた。
「そろそろ飽きてきましたからね。もう一つの幻は私が消しましょう」
 そう言ったトリを止める者はいなかった。
 逃げようとするダランをつかみ、トリが鎌を打ち下ろした。
 叫び声を上げて、ダランが消滅する。
 途端、空間が歪んだように思えた。
「虎王丸、俺を使え! 俺を鍵として扉を開け」
 ステイルが声を発する。その先に、人の姿のステイルはいなかった。存在していたのは1本の刀。
「お、おお」
 ダランが消えたことに、軽いショックを受けていた虎王丸だが、ステイルの言葉に従い、刀を拾い上げた。
 拾い上げた刀から、声が発せられる。
「異空間を断ち切り、元の世界へ戻る。自分達の手でな」
「了解!」
 虎王丸は刀を振り上げると、魔法陣に向けて、思い切り振り下ろした。
 魔法陣に、亀裂が走る。――歪みが生じていく。
 亀裂の中には、柱が見えた。建物の中のようだ。
「じゃ、先に行くわ」
 真っ先に、レナがその穴に飛び込んだ。魔女のレナは感覚的にその扉が元の世界に続いていると理解ができた。
 ウィノナが真顔でその後に続き、トリは穏やかな顔でウィノナに続く。
 虎王丸はなんとなくダランが消えた場所を振り返った後、刀と共に、扉へと飛び込んだ。

 あまり掃除をしていないのか、その部屋には薄く埃が積もっていた。
 ドアを開けると、エントランスが見えた。
 元の世界の別荘の中だ。
 レナはほっと息をついて、振り返る。
 仲間達が続々と同じ場所に戻ってきた。
「……で、ダランもここにいるって考えていいのよね?」
「ああ、すぐ近くだ」
 その返答は、レナの足下から響いてきた。
「…………」
「…………」
 レナも一同も、一瞬言葉を失った。
 次の瞬間、爆笑が沸き起こる。
「な、なんでそんな姿なのー。あはははははははっ、お、お腹痛いっ」
「ちっちぇー、かわえー。お前、ステイルだよなあ?」
 虎王丸が屈みこみ、小さな少年の頭をくりくり撫でた。
「触るな」
 少年は無表情で抵抗し、ぶかぶかの服を引き摺って、一人部屋のクローゼットの中に入っていき――子供服を着て、戻ってきた。適当な服を今の自分サイズに作り変えたらしい。
「ちょと魔力を使いすぎただけだ」
 特に動揺もみせずに言う子供――ステイルの姿に、皆の中にまた笑いの渦が沸き起こった。
「って、皆、笑ってる場合じゃないって」
 ウィノナがドアの外を見回すが、人影は無い。迂闊に飛び出しては、また異空間に引き込まれてしまう可能性がある。
「魔力を辿ってきたから、間違いなく、ここさ」
 内心ちょっぴり傷つきながらステイルは、指をくいくいっと隣の部屋に向けた。
 しかし、その姿はやっぱり可愛らしくて微笑ましく思ってしまう。
「教えてくれて、ありがとねー、ステイルちゃん」
 レナはしきりにステイルの頭をナデナデしている。
 ステイルはレナの手を振り払うと、ちょこちょこと(本人的にはすたすたと)、隣の部屋へと向う。
 隣室へのドアは、レナがあけた。
 途端、拍手が響く。
 部屋の中にいたのは……老人であった。笑顔を浮かべながら、手を叩き続けている。
「お見事。敷地外に飛ばすつもりだったのに、この場に現れるとはね」
 笑みを浮かべる老人とは対照的に、一同の目は険しかった。
 老人の後ろ、ベッドに眠っているダランの姿がある。
「そいつが本物だよな? ……寝てる、だけだよな? 返せよ」
 虎王丸が老人を睨む。
「ああ、深く眠ってるだけだ。無論、返すさ」
 老人がすうっとベッドから離れると、一同ダランに駆け寄った。各々の方法でダランに触れ、彼が本物であることを確かめる。
「キミのほうがボクやダランよりもよっぽど愚鈍で探究心・向上心無しだよ」
 厳しい声を上げたのは、ウィノナだった。
「外に興味を持たず、他より強い力を持ったかもしれないだけで、人より偉いと思い込んでいる。そんなキミの知識なんて、廃れてしまっても誰も困りはしないよ、絶対!」
 ダランや友の姿が消えることを、誰よりも恐れていたというのに、結局ウィノナは自分自身の手で、ダランの姿をしたモノを消したのだった。胸が、とても痛かった。
「君はとても素直だね。だけれど、見聞きしたこと、五感で感じられること、自分の力で調べられることが全てではない。それはほんの一部でしかないんだよ。大人になるにつれ、分かっていくだろう」
 偉そうに。この姿が本当の姿だとしても70年ほどしか生きてないだろうに。……そうステイルは思ったのだが、今の自分の姿では全く説得力がないので、口には出さなかった。
「私はこの近辺から動くことはできない」
 老人はそう言って、動いた。
 しかし、足を動かすことはなかった。床を滑るように、動いたのだ。
「私は体の大半を失っているんだ。数十年前にね」
「それが本当なら同情はするけど、だからといって無差別に人間で退屈しのぎをしないで欲しいわ。一体、あんた何者なのよ」
 レナの言葉に、老人は少し笑った。
「私の名はジェネト・ディア。昔は同胞に賢者と呼ばれていた。作り出した異空間は全て私の世界だ。退屈しのぎ……それは、決して間違いではない。動揺する人々を見るのは楽しいからね」
 言って老人がトリを見る。トリはもちろん頷いた。笑顔を浮かべて。
「だけれど、言っただろ? 私はテストをしている。私の後継ぎになれる人物を探しているんだ。今まで、私のテストを完璧にクリアしたものはいない。……しかし、どうやら君達は、全員で答えを導き出すことができるようだね。賢者として必要な資質全てを持つものはいないが、全員なら、或いは……」
「じゃあさ、あたし達を後継者にするってこと? あたしは別に後継者にはなりたくないんだけど、魔法は知りたいなー。あの異世界に飛ばす魔法とか、偽ダランを作り出した魔法とかね! 応用次第では、分身の術とかできそうじゃないー!? クリアしたんだから、もちろん教えてくれるんでしょ?」
 老人は微笑んでレナを見た。
「そうだね、君は探究心と向上心を持っている」
「ダランだって、もってるぞ。今回一番ひでぇ目にあったんだし、俺等の代表として、ダランに何かくれてやれよ」
 虎王丸はダランを揺すったり、叩いたりしながら、顔だけ老人に向けてそう言った。
「しかし、私の力は封印されていてね。その封印を解かねば、教えてあげることもできない」
「それは嘘だろ。あんたは十分力を持っている。そうして今度は俺達に封印でも解かせようっていうのか?」
 子供の姿をしたステイルの言葉に、老人は満足そうに微笑んだ。
「やっぱり君達は見識力を持っている。その力が一番必要なんだ」
 老人は部屋の隅に移動し、棚の中から一枚の紙を取り出した。
「宝の地図だ」
 その地図を、一同覗き込んだ――瞬間、周囲が真っ白になった。

    *    *    *    *

 一瞬にして、一同は森の中にいた。
「や、やられた……」
 ガクリとレナが地に手をついた。
「悔しーっ! 宝って言葉で惑わすなんてっ!」
 老人が差し出した地図には魔法絵が描かれていた。見た瞬間に転移の魔法が発動し、一同は外へと強制的に飛ばされたのだった。
「あっ」
 ウィノナは、横たわったままのダランの姿を発見した。
 駆け寄ってみると……。
「地図、もってんじゃん」
 虎王丸がダランの手から地図を取り上げる。
「もう一度覗いたら、どうなるのでしょうね? 案外、本当に宝の場所が描かれているかもしれませんよ」
 トリはとても楽しげに、地図に手を伸ばす。
「いや、今はやめておこう」
 吐息交じりに、ステイルはそう言って、背伸びをして虎王丸の手から地図をとった。この姿のままでは、何かが起きても対処ができない。ステイルは地図をダランの腕の中へ返した。
「じゃ、ダランを運んで別荘に行き、今日はそこで休もうぜ」
 虎王丸の提案に、全員が賛成する。
 もう、あの老人の姿はないだろう。
 しかし、この近辺のどこかで、老人――ジェネト・ディアは自分達を見ている。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【3619 / トリ・アマグ / 無性 / 28歳 / 歌姫/吟遊詩人】
【3428 / レナ・スウォンプ / 女性 / 20歳 / 異界職】
【3654 / ステイル / 無性 / 20歳 / マテリアル・クリエイター】
【1070 / 虎王丸 / 男性 / 16歳 / 火炎剣士】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】
ジェネト・ディア(滅びた村の賢者(魔道術師))

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■         ライター通信          ■
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伝説の魔術師(後編)にご参加いただき、ありがとうございました。
個性溢れる見解や、行動ありがとうございます。
皆様の行動により、ジェネトの予想を超える結果になりました。
書き手としても、謎かけ等に気づいていただけて、とても嬉しかったです。
またお目に留まりましたら、どうぞよろしくお願いいたします。