<PCクエストノベル(3人)>


 永遠のメロディ

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【3166/蟠一号/歌姫/吟遊詩人】
【0929/山本健一/アトランティス帰り】
【3557/アルメリア・マリティア/冒険者】

【助力探求者】
なし。

【その他登場人物】
なし。
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 聖獣界ソーン、それは夢と現が交錯する不思議な世界。
 中央を成すのは聖獣が守護するといわれる、聖都エルハザードだ。花売りの少女から冒険者まで、街には実にさまざまな人々が暮らしている。吟遊詩人や冒険者といった、一箇所に留まらずに流れ生きる人も多く、旅先で得た知識や技術、商品が遠くから集まってくる。西に位置するクレモナーラ村はソーンでも楽器の名産地。人が口ずさむ喜怒哀楽の曲、楽器が奏でる美しい旋律、川や鳥たちが風に乗せる歌は訪れる者の心を優しく包み込む。
 蟠、健一、アルメリアの三人は連れ立ってクレモナーラ村を訪れていた。午前中の早い内に出発し、到着したのは太陽が空高く昇る頃。腹が減っては何とやらと、蟠たちはオープンカフェで昼食をとりながら店探しの相談をすることにした。
蟠:「天気も良いし、良かったわ。ちょっとしたピクニック気分ね」
健一:「そうですね。エルハザードは華やかですが、こちらはまた雰囲気が違って……。心が落ち着くというか、何か懐かしい感じさえします」
 テーブルへサンドイッチをメインにした昼食が運ばれてきた。中身は塩漬け肉の薄切りとレタス、トマトやきゅうりの野菜、ゆで卵といった手作りの具。アルメリアが選んだのはトーストで、林檎や夏みかん、さくらんぼを使ったジャムが添えられている。飲み物には新鮮なミルク、柚子茶、はちみつ入りの紅茶を頼むことにした。
蟠:「ボクはやっぱり素敵な弦楽器を探したいな。健一は?」
健一:「珍しい楽器があれば。微弱ですがこの村は精霊の気配がします。もしかしたら、風精霊や水精霊の加護がある楽器が見つかるかもしれませんから」
アルメリア:「今はまだ上手にできないけど、お土産に買って練習してみたいな〜。小さくて可愛い楽器がいい!」
健一:「大丈夫。音楽は心で奏でるものです。技術はそれについてきますよ」
 黒い瞳を細め、健一が微笑む。アルメリアは嬉しそうに笑って、これからどんな楽器に出会えるのかと心躍らせているようだ。
アルメリア:「……ん?」
 食事のお茶を飲み終えたところで、突然アルメリアがある方向へ視線を向けた。酷く真剣な顔をしてじっと一点を凝視している。
蟠:「どうしたの、アルメリアちゃん。もしかして、格好いい男の子でも見つけた?」
 冗談っぽい口調で蟠が話しかけるが、当の本人は答えない。健一と蟠はどうしたものかと顔を見合わせ、ひらりひらりと彼女の前で片手を振ってみた。
アルメリア:「大変ですっ、店長!」
 何の前触れもなく勢い良く立ち上がると、アルメリアは赤い瞳に熱を込め、先ほどまで見ていた方向へぴっと人差し指を向けた。
アルメリア:「私好みのイケメンを一名発見しました! ただちに捕獲……じゃなかった、お近づきになりに現場へ急行したいと思います!」
 指し示された方向にはちょうど、楽器を作っている職人たちの工房や販売を任されている店がいくつかある。反対する理由もないので、一行は勘定をすませるとさっそく歩き始めた。



工房の主人:「いらっしゃい。おや、どうしたんだい。そんなに息をきらせて」
アルメリア:「あの、おばさん。このお店に格好よくて私好みな美青年がいらっしゃいませんかっ」
 カウンターで部品の手入れをしていた女主人は大層驚いた顔をしたが、作業の手を止めて人好きのする笑みを浮かべた。
 此処は店と工房が一緒になっていて、奥が職人たちが働く作業場になっている。
工房の主人:「いやー、残念ながら見ての通り。今はあたし一人さ。何かご入用かい、お客人」
蟠:「あの、楽器を探しているんです。音だけでなく、見目にも美しい……」
健一:「此処でしか作っていない珍しい楽器があれば、それを見せて頂きたいのですが。それと……」
 健一が後ろを振り返ってみると、アルメリアは店の棚に並べられた雑貨に夢中のようだ。女主人は二人の要望を聞いて少し考えると、恰幅の良い身体を揺らして店の奥へ引っ込んでしまった。
アルメリア:「か、可愛い……」
 職人は皆手先が器用らしく、楽器の他に小物を作っている人もいる。昼寝中の猫が彫られた小箱、木彫りのうさぎと三日月がついた首飾り、大きな鳥の白羽がついたペンに、淡い色の花模様をあしらったブックカバー。一つ一つ手作りの品で、基本的に一点物のようだ。手に取ってみていると品を作った職人の温かな心が伝わってくるようで、アルメリアは顔をほころばせる。
 健一と蟠も、待っている間店内を見ることにした。エルハザードでもみた覚えのある弦楽器や、縦笛横笛といった一般的なものから、どう演奏して良いかわからない物まである。
蟠:「それにしても、さすがクレモナーラ村。ここまでの品揃えは見たことがないわ。質、量共に聖都の店に引けをとらない」
健一:「それでも、店に出しているのは一部でしょう。良い楽器は持ち主を選ぶ。気難しい楽器たちが、きっと店の奥に眠っているに違いありません。主人も今それを探しているのでしょう。僕たちに相応しい何かを」
アルメリア:「わ、店長さん見て! これ、私も見たことあるよ。オカリナって名前なんでしょう。旅の人がいつか吹いてくれたの。凄く柔らかくて優しい音が出るんですよ〜」
 棚に飾られていたのは深い碧色をした、両手に収まるくらいの楽器だった。蟠と健一は壁際からトン、と背中を離してオカリナを見に行く。窓から柔らかな日差しが入り、青い空に白い雲が流れていくのがちらと見えた。今日もしも無事に買い物が済んだら、外で演奏してみるのも良いかもしれない。
蟠:「私も聞いたことはあるけれど、実際に触ってみるのは初めて。ひんやり冷たくて気持ちいわ。んー、素焼きみたい」
アルメリア:「ここから息を吹き込むんだよね。どんな作りになってるんだろ。あれ、意外と難しい……」
 アルメリアが記憶の糸を辿り、息を吹き込んでみるがどうしても音が不安定になってしまう。素朴な音は他のどの楽器にも似ていない。どれにしようと思い悩んでいたが、結局これをお土産にすることに決めた。
工房の主人:「すっかり待たせちまったね。ずっと前に仕舞い込んだままだったから、ちょっと探すのに手間取っちまって。お待たせ。お客人、こんなのはどうだい」
 奥から戻ってきた女主人に呼ばれ、まだ買う物が決まっていない健一と蟠はカウンターへ歩み寄る。そこには二つの楽器が仲良く並べられていた。
工房の主人:「こっちはうちの自信作……なんだが、こいつはちょいと独特の癖があってね。良い音を出すんだが、使いこなせる人間がなかなかいなくてずっと眠ったままだったのさ」
 蟠は導かれるようにしてその楽器を手に取る。洋梨を半分にしたような形で、胸に抱えるとちょうど良い大きさだ。触れると木の温もりが感じられる。美しい曲線を描く輪郭、ぴんと張られた何本の弦。名は聞かなくてもわかる。リュートだ。
工房の主人:「そっちのお客人には此方。ケーナって名前だ。どうだい、ちょっと触ってみなよ」
 続いて健一に差し出されたのは、竹で出来た縦笛だった。見た目は地味な方で、飾りといえば、歌口に三色の糸が巻かれているくらい。
健一:「塗装はしていないんですか」
工房の主人:「あぁ、それはしていないんだ。見た目はどうしても地味になっちまうんだが、使えば使うほど手に馴染む。作った職人が頑固でね。楽器は見た目より音が命だって。もしヒビ割れ防止に、っていうんなら無料で塗装させてもらうが……」
健一:「いえ、このままで構いません」
 少し迷った後、健一は塗装を断りそのままの状態で貰い受けることにした。
 強度は多少下がってしまうだろうが、一つの楽器が自分の手で花開き美しい音色を奏でてくれるのなら、それは喜び以外の何物でもない。

工房の主人:「ところで、お客人。さっき見た男って、もしかして青髪でちょっと目付き悪い奴じゃなかったかい。背がちょっと高くて」
アルメリア:「うん、そうそう。遠くからちらっと見ただけですけど、カッコイイ人でしたよー!」
 アルメリアから話を聞いた工房の主人は、此処ではないどこかを見るような遠い目をして、ふっと柔らかく笑った。
工房の主人:「多分それは……あたしの息子さ。そうか、帰って来てたのか。そういえば、今日はあの子の誕生日だったねえ」
蟠:「それはおめでとうございます。それで息子さんはどちらに? せっかくですからお祝いの言葉を……」
工房の主人:「――広い世界を見てまわるんだって。威勢良く飛び出したはいいけど、運悪く旅先で事故にあっちまってね。もう五年も前のことさ」 
 悪いことを聞いてしまったかと顔を見合わせる三人に、工房の主人は豪快に笑って湿った空気を飛ばした。
工房の主人:「お客人にする話じゃなかったね。さあさ、今日は最高の天気だよ。外に出てさっそく演奏してみたらどうだい」


 村の中央に位置する広場は皆の憩いの場となっている。
 テーブルでカードゲームを楽しむ人々、音楽家を目指して楽譜と睨めっこする若者、木陰で昼寝する猫。休日の広場はそこだけゆっくりと時間が流れているようで、慌しく賑やかな聖都とは違った雰囲気を三人は肌で感じる。
蟠:「すみません、ちょっと場所を貸して頂いてもよろしいですか」
村人:「あぁ、此処は皆の場所さ。空いてる場所は好きに使うといい」
 アルメリアの手には淡い緑色をしたオカリナ。健一は譲り受けたばかりのケーナに微笑み、蟠はリュートを大切そうに旨に抱える。
 工房の主人は、息子がお客人を連れて来てくれたのかもしれないと少し寂しそうに笑って、楽器の代金を受け取ろうとしなかった。息子の代わりに楽器たちに旅をさせてくれと、広い世界を見せてやってくれとそう頼むのだった。
蟠:「では……始めましょうか。あの空の向こうまで、この曲が届くように」
 三人はそれぞれの楽器を手に、音を紡ぎ曲を奏で始める。選んだのはソーンでも比較的有名な子守唄だ。
 アルメリアが主旋律を、健一がそれを低くなぞり蟠が背景を描いていく。
 いつもの休日を思い思いに過ごしていた村の人々も、いつしか手を止めて音の生まれる方に目を向け始めた。耳を傾け、そしてもっと良く音の粒が聞こえるように、目を閉じる。まるで皆夢を見ているようだった。暖かく穏やかな、それでいて泣きたくなるような懐かしさ優しさがある。
 高く低く、空気を震わせた音はヒトの心をも震わせているようだった。
 深い皺を刻んだ老人の顔から、一筋の涙が零れ落ちる。何を思い出し、誰を想っているのだろう。色褪せた記憶の中に、二度と戻らない日々を見ているかのかもしれない。
 最後を彩る音が響いた後、拍手が一つ。だがそれは人々の手によって、無限とも思える強い拍手になっていった。懐かしいあの日を思い出させてくれてありがとう。とても優しい気持ちになれたと、いくつもの感謝と賞賛の言葉が贈られた。命が有限であると理解しているからこそ、人々は想いを音に変えて世界に残そうとする。後に続く人々へ、魂の一片を伝えようとしているが如く。

アルメリア:「あの息子さんにも届いてますよねっ、きっと」
健一:「えぇ、大丈夫。届いてるはず。喜んでくれていますよ。――それじゃ、帰りましょうか。僕たちの居場所へ」
 帰り道、そう言って三人が見上げた空は、燃えるような赤い夕焼け色の空だった。
 今日も明日もこれからもずっと、世界はこんなにも美しい。いつか死んで、また世界に生まれ落ちることができたなら、もう一度こんな空が見たい。言葉にはせず、小さな願いをそっと胸に抱き、三人は家路を進むのだった。


■ライターより■
クエストノベル、ご参加ありがとうございます。お届けするのが遅れてしまい申し訳ございません。
如何でしたでしょうか。少しでもお楽しみ頂ければ幸い。
それではまた何処かでお目にかかれることを願って……。