<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『探索に出よう〜目的の違う探索〜』

 底無しのヴォー沼。
 ワグネルはこの場所に、何度も訪れたことがある。
 この沼には、いくつもの伝説がある。
 昔、この地は盗賊のアジトであったとか。
 とある富豪の財宝が隠されているとか。
 宝石好きの妖精たちの住処であったとか。
 真相は兎も角、この沼の底には金銀財宝が眠っているという噂が絶えない。
 盗賊ギルドに身を置き、冒険で生計を立てているワグネルには実に興味深い場所であり、調査や探索を何度も行なっているというわけだ。
 ただ底なし沼というのは、非常に危険な場所である。
 潜った者の大半は地上に戻ってこないという。
 それがまた変な噂を広めた。
 つまり、地下に都市があるのではないか、などという。
 僅かな生還者は何も語ってはくれない。

 ワグネルは今回、沼の中に入るつもりはなかった。
 今回は他の理由でこの地を訪れたのだが……。
「よう、兄ちゃん、また来たのかー。どうだい土産に1つ」
 露店の男性に声を掛けられる。
 観光地の如く冒険者が訪れるため、このあたりには露店も多い。
 とはいえ、この男性のように土産物屋を開いている店は滅多にない。
「いらねぇよ。帰りは荷物が多いだろうからよ」
 そう言って、手を振って立ち去ろうとしたが、ぐいっと腕を掴まれてしまう。
「そんなこたーいわずに、この宝石なんかどうだい? 潜って取ったってことにすりゃーいいんじゃん」
 男が差し出したのは、宝石……のようなガラスの玉であった。
「そんなもん持って帰ったら、いい笑い物だ。ま、帰りに余裕があったら寄ってくからよ」
 ワグネルは苦笑しながら、男の腕を払う。
 周囲には、声や看板を立てて、仲間や情報を募っている者もいる。
 ワグネルは今回、仲間を探すつもりもなかった。明らかに目的が違うからだ。
 情報は十分集めてあり、必要な道具も全部そろえてきた。
「……ああ、やっぱそうか」
 ワグネルは沼地を見て、苦笑をした。
 冒険者が潜る場所は様々であるが、今回ワグネルが行きたい場所は、沼の底ではなく……対岸だった。
「向こう側に薬草がわんさか生えてやがる」
 目では見えるのだが、空を飛ぶ手段でもなければ、たどり着けそうにない。
 その他、沼を渡る以外、たどり着ける手段はない。
 ロープを投げて届く位置に、木も生えてはいない。
 船を浮かべても、沈んでしまう。
 つまり歩いてたどり着ける場所ではなく、泳ごうとしても沈む。
 さて、どうすべきか。
 とりあえず、ワグネルは付近に生えている薬草を抜きながら、考えはじめる。
 沼には害虫が生息しているという情報を得ているが、必要な解毒剤もそろえてある為、害虫に刺されても大丈夫ではあるが。
 湖と違い、この沼の泥は重い。
 万が一、沼に落ちた場合、命綱だけでは這い上がれない可能性が高い。
 対岸の土の状態も分からない。
 軽く唸りながら、ワグネルは大きな石を手にとって、対岸に向かって投げてみる。
 石は、対岸の土にずぶっと嵌る。
「ダメな、こりゃ」
 ワグネルは一か八か対岸に跳ぶという方法を断念する。あの状態では着地した途端、地盤が崩れて沼に落ちてしまいそうだ。
「ま、地道に採ってやるさ」
 ワグネルは鞄の中から、自作の道具を取り出す。
 ロープの先に、熊手のような刃物をつけた道具である。
「あらよっと!」
 それを対岸に向けて投げつけ、薬草を引っ掛けて絡ませ、引き抜く。
 なかなか上手くはいかず、何度も何度もその動作を繰り返す。
 次第に、腕がだるくなってくるが、この程度で諦めるわけにはいかない。
 自分の特技といったら、こういう細かい作業や、軽業であり、勇者として崇められている人々のような秀でた剣術も、魔術もありはしないのだから。
“力が欲しい”“自分には力がない”
 そう思っているであろう、少女のことをふと思い出す。
 しかし、あの小女は生まれつき、体内に膨大な魔力を持っているという。
 釣の要領で薬草を引き寄せながら、ワグネルは小さく苦笑した。
(力、持ってるじゃねえか)
 自分のようにアイテムを持たずとも、体内にエネルギーを秘めているというのは……なんだかワグネルにとっては、不思議であった。
 火薬を持って歩かなくても、爆発させる力が体内にあり、剣を持って歩かなくても、剣を生み出す力がある。
 魔術の類いはどうも理解ができない。

 日が暮れるまで薬草を採り続け、一人で持ち運べる量の薬草を確保した。

    *    *    *    *

「お帰りー!」
 診療所に顔を出すと、少女が元気よくそう出迎えてくれた。
「俺はここの主じゃねえぞ」
「へへへっ、でも最近、よく薬草持って来てくれるじゃん。ワグネルもパパの息子になっちゃいなよ!」
「息子って年じゃねぇだろ」
 笑いながら、薬草が入った籠を手渡すと、少女――キャトルはよろよろとよろけた。
 転びそうになるキャトルの背に腕を添えて、彼女と共に、研究室に歩く。
 台の上に薬草を広げると、キャトルは「わーっ」と歓声を上げた。
「ワグネルは凄いね、どうしたら一回でこんなに採れるんだろ……」
 飛行の術を持っている人物ならもっと採れただろう。そう思いもしたが、口には出さなかった。
「魔術使えるわけじゃないのに、爆発起こせるし。色々なこと知っていて、色んな技術もってて……うーん」
 突然、キャトルは考え込んだ。
「足で情報を集め、頭で分析をし、己の能力を知り、それを最大限に活かす。そういうことだ」
 ワグネルは薬草を種類ごとに分けながら、そう呟いた。
「うん、そうなんだね。それが必要なんだね……」
 キャトルは感慨深そうにそう言って笑顔を見せた。
「あたし、やっぱりワグネルの弟子になりたいなー。ワグネルの生き方好きだし。ワグネルみたいに、生きたい……」
 言葉は語尾に向かって小さくなった。
 少し、遠くを見るような目で、キャトルは僅かに笑みを浮かべていた。

※本日の成果
シシュウ草/3株
ミンカ草/1株
その他薬草/24株

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2787 / ワグネル / 男性 / 23歳 / 冒険者】
【NPC / キャトル・ヴァン・ディズヌフ / 女性 / 15歳 / 魔力使い】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
こちらの場所は前後編を予定していましたが、以前にも行ったことがあるとのこと&あまりに準備万端でしたので、1回で探索終了とさせていただきました。
今回はワグネルさんが良く知っている薬草狙いとして書かせていただきました。魔法草は少なめになっていますが、一般的な薬が沢山作れる分の薬草を入手できているとお考え下さい。
発注ありがとうございました!