<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
『探索に出よう〜魔法草狙い〜』
底無しのヴォー沼から戻ったワグネルは、ファムル・ディートの診療所に薬草を置き、今度は魔法草に関しての本を借りると、ろくに休息も取らず、ミラヌ山に向けて出発をした。
道中の馬車の中で、ファムルとキャトル・ヴァン・ディズヌフが描いたと思われる図鑑を開いてみる。
キャトルも一緒に行くことを望んだのだが、薬草の選別や調合の準備など彼女にはしなければならないことが沢山ある為、役割分担と言いくるめ、診療所に置いてきた。
魔法草は、どこでも生えている草ではない。
かといって、一見して魔法草だと判断できるものは少数であり、殆どは雑草と見分けがつかない。
魔力を持った魔法使いであるのなら、触れてみれば、それが魔法草なのか、そうではないのかを容易く判別できるらしい。
しかし、ワグネルはその方法を行なえない。
だからこそ彼は考える。だからこそ、鋭い識別力が身についていく。
麓の集落で軽く食事を取った後、山に向けて歩き出す。
季節的な理由と、最近探索を行なっている者がいないせいか、細い道は草に埋もれてしまい、とても歩き辛かった。
帰りの為に、草を踏み潰し、道を作りながら登っていく。
「お……っ」
いずぞやの池には、動物達が集っていた。
ファムル達とこの場所にやってきた頃を、懐かしく思う。
あの時は……キャトルが変な罠を仕掛けて、待ち構えていた。
随分昔のことのように感じる。
今日は狩り目的で来たわけではなく、池の中の水草にも用はないので、そっと迂回してもっと奥へと進むことにする。
キャトルの話では、彼女達が暮していた場所から彼女の実家まではさほど離れていないらしい。
ただ、一般人はたどり着けないようになっているとか。どうやら、魔法的な仕掛けが施されているらしい。
その道に迷い込むとちょっと面倒そうなので、なるべく避けた方がよさそうだ。
図鑑を見て、付近に魔法草が生えていないことを確認すると、ワグネルは木に手をかけて、急な坂を跳び上がりながら、登っていった。
強い陽射しの射し込む場所へと出た。
「お、あったあった」
岩の隙間に、魔法草と思われる草が見えた。
手を伸ばして引き抜いてみる。
魔法草に間違いはないだろう。
ワグネルは背負ってきた籠の中に入れて、肩にかけていた手ぬぐいで額の汗を拭った。
「農作業してるみてぇだぜ……」
あまり格好は良くないが、この格好が一番楽で効率がいい。
岩の隙間に生えるこの魔法草は、崖の方に行けば、もっと沢山入手できそうである。
ワグネルは道なき道を歩き、ロープを木に巻きつけ、自分の身体を縛ると、崖の下へとゆっくり下りだす。
この程度の崖ならば、崖下まで下りても、自力で登ってこれるだろう。
下りながら、崖の隙間から顔を出している緑色の草を片手で引き抜いて、後ろへ投げる。
引き抜く際に力を入れすぎると、体勢を崩しかねない。また、がけ崩れの危険性もある為、細心の注意が必要であった。
危険な場所に、一人で来ることは慣れているが……。
この場所に自分が行くということを、成り行きでキャトルに話してある以上、予定通り戻らなければ、彼女が自分を探しに来て……。
「崖下で俺を見つけようものなら、何も考えず崖にダイブしそうだよな、アイツ……」
苦笑しながら、ゆっくりと下り、崖下に到着する。
付近に生えている薬草を一通り採ると、手についた土を払い、再び岩に手をかけた。
1日弱の探索を終えて、ワグネルは麓の集落へと戻る。
荷物を組みなおすと、やはり大した休息も取らず帰路についた。
馬車の中で仮眠を取り、早朝には聖都に到着を果たす。
真直ぐ、診療所へと向うと、診療室の窓からキャトルの顔が覗いていた。
「おかえり、ワグネルー!」
手を振って、笑顔で迎えてくれる。
なんだかワグネルは複雑な気分だった。
「早起きだな。徹夜なんてしてねぇだろうな?」
「ちゃんと眠ったよ〜。あたしの身体は老衰してるから、朝は早く目が覚めるんだよ」
笑いながらキャトルはそう言った。
ワグネルは苦笑しながら、籠をキャトルに手渡す。
「おおっと……」
よろけるキャトルを支えながら研究室に入り、薬草を広げてみた。
「ううーん……」
キャトルは薬草を見るなり、腕を組んで唸り出した。
「なんだ? 魔法草じゃなかったか、これ」
ワグネルは薬草を一株摘み上げた。
「いや、そうじゃなくてさ……。なんで魔法の心得もないのに、正確に魔法草採れるかなあ」
「図鑑がありゃ、誰だって採れるさ」
「うーん、そうかな。やっぱり、ワグネルは凄いね」
キャトルのその言葉には、返答に迷ってしまう。
何も凄くはない。
この魔法草を採ったのは自分かもしれないが、手に入れたのは誰だ?
必要だと思わなければ、採らなかったものだ。
個々の力など、高が知れている。
彼女は魔力だけではなく、こうして自分や、他人を動かす力を持っている。
無論、外見の魅力やカリスマだけではなく。
彼女自身が、努力をすることで、自ずと手助けをする人が集ってくる。
これもまた、彼女の“魔力”なのだろう。魔法的力ではない、魅力という魔力だ。
「ちょっと、ワグネル? 何か考えごとしてる? 疲れてるのかなー」
沈黙をしていたワグネルに、キャトルが心配そうな目を向けていた。
「いや……ただ、お前は贅沢者だな、と思ってな」
「贅沢?」
「あれもこれも欲しいくせに、重荷にも感じている」
言葉の意味が分からず、キャトルは軽く眉を寄せた。
しばらく考えた後、キャトルはこう言葉を発した。
「ワグネルは軽いよ。だから、安心できる。あたしがいなくなったら、少しは悲しんでくれる? だけど、あたしがいなくなっても、ワグネルは変わらない毎日を送るだろうから。だから、安心して言いたいこと言える。――好きになれるんだよ、お兄ちゃん」
キャトルは滅多に見せない、照れくさそうな顔を一瞬だけした。
「さて、どんな薬ができるかなー。あー、ファムルがいたら、小躍りしそうな薬草もあるよ〜っ」
哀しみを秘めた目で、彼女は元気に振舞っていた。
眩しく輝いて見える彼女だが――同時に、果敢なく消え入りそうにも感じられた。
※本日の成果
サクサ草/2株
リクラ草/5株
マイヌ草/4株
シシュウ草/13株
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2787 / ワグネル / 男性 / 23歳 / 冒険者】
【NPC / キャトル・ヴァン・ディズヌフ / 女性 / 15歳 / 魔力使い】
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■ ライター通信 ■
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ライターの川岸満里亜です。
引き続きの探索、お疲れ様でした。
沢山薬が作れそうです。
ご所望の薬がありましたら、お申し付けください。ファムルがいないので、開発はできないのですがっ。
発注ありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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