<東京怪談ノベル(シングル)>
『天使か小悪魔か』
悪は滅び去り、辺りには静けさが戻っていた。
悪のロリコン戦隊と勇猛果敢に戦った女勇者達は、聖都エルザードに凱旋した。
しかし、一人だけ。
聖都に戻らなかった少女がいた。
依頼人であるダラン・ローデスは後始末に走り回っており、少女が残っていることに気付いてはいなかった。
「疲れたです……」
ふらふらと少女が向った先は、完成したばかりの旅館であった。
「宿って書いてあるです。あそこでお仕事させてもらって、リディアも泊めてもらえるよう、お願いしてみるです」
はあはあ荒い呼吸を繰り返しながら、早足でちょこちょこ歩いて旅館にたどり着く。
「いらっしゃいませ〜」
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませ!」
男性の声が響いている。
挨拶の練習をしているようだ。
「ん、しょ……です」
リディアは体当たりするように、ドアに身体を押し付けて、体重をかけてドアを開いた。
「あ……うっ」
力を入れすぎて、リディアは旅館の中に転がり込んだ。
旅館の従業員達の唱和が止まる。
「突然ごめんなさいです。リディア、ここで1日働きたいです。働いて、泊めてもらいたいです」
倒れた姿勢のまま、少女は目にいっぱい涙を溜めて、男性達を見ていた。
男性従業員達は目を見開き、呼吸を忘れてしばし呆然としていた。
「だ、大丈夫ですか!」
一人がリディアに駆け寄ると同時に、他の従業員達も一斉にリディアの元に駆け寄った。
リディアは男性従業員に、ひょいっと持ち上げられ、ぽんと床に立たされた。
「ありがとです。よかったです。ここの皆さんは、善良な人達です」
「そうだよ、えっとリディアちゃん。どうして働きたいのかな? まだオープン前だから、お仕事ないんだよ」
「そうなん……ですか」
リディアは途方に暮れてしまった。
聖都まで戻る体力はない。今日食べるものも、寝る場所もないのだ。
涙を溜めて、うるうる見上げるリディアに、大きな大きな手がいくつも差し伸べられ、リディアの頭をなで、身体を抱き上げた。
「はううう、その泣き出しそうな顔。食べてしまいたいくらい可愛い」
「兄貴、これは迷子ってことで、俺達がもらっていいんですよね?」
「客じゃないから、手ぇ出してもいいだろ」
「いや、順番だ。皆で見つけたんだからな!」
「それじゃ、時間ごとに……」
男達が相談を始める。
リディアは優しいロリコンさんの胸に、必死にしがみついていた。
「お願いです。リディアを、一晩泊めてくださいです」
「そんな! 一晩とはいわず、ずっとここにいていいんだよ〜」
ロリコンさんは、リディアの背を優しく優しく撫でてくれた。
リディアはその優しさと温もりに包まれて、幸せな気持ちでいっぱいになった。
「リディアちゃん、いい子だね。疲れてるんだよね、何がしたい?」
「リディア、戦ったので、汚れてるんです。擦傷もあるんです。だから、お風呂に入りたいです」
ごくり。
男が唾を飲み込んだ。
「そ、そそそそれじゃ、最初は俺の時間ってことでっ」
リディアを抱いていた男が、突如猛ダッシュをする。
リディアは振り落とされないよう、ぎゅっとそのロリコンさんに捕まっていた。
ロリコンさんは、リディアを脱衣所で下ろすと手を伸ばしながら、にこにこと優しい笑みを浮かべてこう聞いてきた。
「リディアちゃん、一人で脱げるかな? お、おじさんが手伝ってあげようか?」
「一人で脱げます。だけど、手伝ってくれたら嬉しいです」
そうリディアが言うと、ロリコンさんは手を震わせながら、リディアの服に手をかけて、脱衣を手伝ってくれた。
「さーて、一人じゃ危険だし、おじさんも一緒に入っちゃおうかな、はははははー」
「一緒に入ってくれるですかっ」
リディアは目をキラキラと輝かせる。
男はまた、唾を飲み込んだ。
「リディア、背中まで手が届かないから……」
リディアは汚れのない白い背中をロリコンさんに向けた。
「背中、洗ってほしいです」
「も、もちろんだとも!」
そう言って、ロリコンさんはリディアと共に浴場に入り、リディアの背をごしごしと洗ってくれた。
「あふふふ、くすぐったいです。やめてくださいですっ、きゃっ」
頬をこすり付けられ、リディアはきゃあきゃあ声を漏らした。
「そ〜れそ〜れっ」
ロリコンさんは、リディアの背に水をかけて、手で丁寧に泡を落としてくれた。
リディアはとてもとても嬉しくて、くるりと振り向いてロリコンさんに目を向けた。
「露天風呂に入りたいです。でも、リディア身長低いので、溺れちゃうかもです。一緒に、入ってくれるですか……?」
「も、ももももちろんだよ」
ロリコンさんがリディアに手を伸ばしたその時。
「交代の時間だ!」
次なるロリコンさんが、浴場に現れた。
最初のロリコンさんは、ガクリと床に手をついた。
次なるロリコンさんと一緒に、リディアは散歩に出かけた。
子供用の浴衣を着せてもらい、おやつの大きな大きなキャンディを貰って、ロリコンさんに手を引かれながら、邂逅の池へ出た。
「リディア、こうして白馬の王子様とデートがしたかったです。あなたはリディアの王子様ですか?」
純粋な瞳で見上げられ、比較的若いそのロリコンさんは、ちょっと赤くなりながら、しゃがみこんでリディアの頭を撫でた。
「やっとお会いできましたね、姫君っ」
そう言って、ロリコンさんは突然リディアをふわりと持ち上げた。
「あっ、高いです。怖いですっ、下ろしてですーっ」
リディアは足をばたつかせたが、下ろしてはもらえなかった。
くるくると回されているうちに、リディアの心にも余裕が出てきて、叫び声が笑い声に変わっていた。
その後ぎゅっと抱きしめられて、リディアは本当に本当に幸せだった。
「私の姫〜っ。もう放さない、君は僕のものだーっ」
「苦しいです、王子様ーっ」
王子の深い愛情に、リディアは押しつぶされそうだった。
「交代だーっ。てぇーい!!」
しかし突如、リディアの身体は別の腕につかまれて、王子様はどこかに飛んでいってしまった。
髪の長いロリコンさんと、リディアは美味しい食事を食べた。
ロリコンさんは、魚の骨をきれいにきれいにとって、リディアに食べさせてくれた。
「スープ、熱いです」
「それじゃあ、おじさんが冷ましてあげるよ」
そう言って、ふーふー息をかけて、スープも冷ましてくれる。
こんなに、こんなにも大切にされたことが、今まであっただろうか。
リディアは胸が熱くなった。
「リディアも、リディアもみんなの分を、ふーふー冷ますです。そして、皆の役に立つです」
「そ、それはなんたる幸せっ。リ、リディアちゃん、冷ました後はおじさんの口まで運んでくれるかい?」
「もちろんです」
「リディアちゃんが飲んでるそのスープでもいいかい?」
「もちろんです」
リディアはふーふー息を吹きかけると、満面の笑顔でスープをロリコンさんに差し出した。
「ではいただ……」
「俺のもんじゃ!」
「いや、俺が!!」
「そろそろ、俺の時間だろーが!!」
だけど、ロリコンさん達は、なぜか喧嘩をしだし、スープは床に零れてしまった。
「やめてくださいです。やめてくださいですーっ」
リディア哀しくなって、必死に叫んだ。
「ごめんごめん」
「スープならまだいくらでもあるから」
「おじさん達はリディアちゃんがいてくれれば、それだけで幸せなんだよ」
リディアはロリコンさん達に囲まれて、沢山沢山お話しを聞かせてもらった。とてもとっても楽しい食事の時間を過ごした。
食事を終えた後、後片付けを手伝おうとしたリディアは、年配のロリコンさんにひょいっと持ち上げられた。
「さーて、もう寝るじかんでしゅよ〜」
「リディア、お手伝いするです……」
目を擦りながら、リディアは言った。
「お手伝いは明日してもらうでしゅよ〜。リディアちゃんはもうお眠でしゅよ〜」
「はい……眠いです」
お姫様抱っこをされながらリディアが連れて行かれたのは、従業員達の部屋であった。
その真ん中のベッドに、リディアは寝かされる。
「大丈夫でしゅよー。手を出したりはしませんでしゅよー。それは少しずつ、時間をかけてぇ、ぐふふふふ……」
リディアは小さな手で、ロリコンさんの手の指をつかんだ。
「一人にしないでくださいです。お願いです……」
小さな明りの中、リディアは思い瞼の下、真剣に訴えた。
「一緒に、寝て欲しいです」
「!!!!?」
ごくりと唾を飲み込んで、男がダイブするかのように、リディアのベッドに入ってきた。
「もー我慢できないでしゅー。食べちゃうぞー」
ベッドの中、男はリディアをぎゅっと抱きしめた。
誰かに抱きしめられてねむるなんて、本当に久しぶりだった。
ずっとリディアは一人だったから。
ひとりぼっちで生きてきたから……。
* * * *
翌朝、リディアが目を覚ますと、その部屋のベッドがリディアのベッドを真ん中にして、全部くっついていた。
交代でリディアを抱きしめてくれていたらしい。
すぐ側に、昨晩とは違うロリコンさんの顔があった。
そのロリコンさんのほっぺたにキスをして、リディアはベッドから下りた。
「リディア、親切なロリコンさん達とお会いできて、本当にうれしかったです。凄く凄く楽しかったです」
皆が起きる前にリディアはその部屋を出て、一晩のお礼に、スリッパを1つ1つ丁寧に並べた。
「皆疲れて寝てるです。起こさないようにしないとです。うんしょっ」
掃除道具入れにあったモップを取りだして、玄関をお掃除して、それからリディアは出発した。
「リディアも聖都に凱旋して、報告するです!」
リディアはぱたぱた走り出す。
早く皆に伝えよう。
この地の悪は全て滅び去り、今は善良なるロリコンさん達が、優しくて温かい憩いの場を作り出してくれていると。
●ライターより
ライターの川岸満里亜です。
この後、目を覚ましたロリコンさん達がリディアちゃんを求めて泣き叫ぶ姿が目に浮かびますっ。
可愛らしいお話をありがとうございました!
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