<東京怪談ノベル(シングル)>


『吸収特訓』

「やだ。絶対いやだっ!」
 霧の森から帰還して数日後。ルイン・セフニィはダラン・ローデスを誘い、王城が見える丘へと連れ出していた。
 しかし、一緒に魔術の訓練をしようと誘った時にはとっても乗り気だったダランだが、いざ実戦してみようという段階になって、駄々をこね出した。
「なんでよ」
「絶対無理だって、そんなの!!」
「無理かどうかはやってみなきゃ、わかんないでしょうが!」
「いーやーだ!!」
 ダランは頑としてルインの修行案を拒み続ける。
 先日、霧の森でダランは周囲の魔力を吸収する術をルインに見せてくれた。
 その方法を習ったルインは、その先に進みたくなったのだ。
 全方位から吸収する方法と、前方から吸収する方法が出来るのなら、今度は――。
「特定の魔法に対する吸収行為だってできるはず!」
「そりゃできるかもしんねーけどさ、攻撃魔法は無・理!! 俺はお前と違って、か弱い人間なの、にーんーげーん!」
「わかってるよ、そんなに強力な魔法放ったりしないってば」
「あのさー」
 ダランはその場に座り込み、ルインにも座るように地面を指差した。
 仕方なく、ルインはダランと向かい合って座った。
「俺が吸収したのは、魔力であって、霧自体じゃないんだ。霧を作り出していた魔力を吸収したことで、霧も消えたんだ」
「わかってるよ」
「うん。例えば攻撃魔法でなんらかの現象を呼び起こした場合、現象を生み出す為に消費した魔力は消えてるだろうし、その現象自体は魔力吸収じゃ消せないってわけ。例えば魔法で火をおこしたら、魔力が消えたって火自体は消えねーだろ」
「わかってるよ」
 ルインの返事に、ダランはバンと地面を叩いた。
「じゃあ、意味ないだろー!?」
「あのねー」
 ルインは面倒になりながも、一応説明をすることにする。
「攻撃魔法にも色々あるじゃない。今回試そうとしているのは、エネルギーそのものを放出するタイプの魔法。魔力を吸収しちゃえば、消えるタイプのだよ」
「だから、魔力を消すためには集中をして魔力を感じ取る必要があるだろ? エネルギーの放出なんて、一瞬じゃねーか、どうやって吸収しろってんだよ!」
「身体に触れた途端、吸収するんだよ」
「身体に触れたら、ダメージ受けるだろ!」
「受けながら吸収するんだよ」
 当然のように言うルインの言葉に、ダランはあんぐりと口をあけた。
「いてぇじゃねーか!」
「だから慣れるまでは最弱の魔法にするってば」
「冗談はやめてくれー! 絶対やーだーーーーーー!!」
 こんなカンジで、もう数時間経っている。
 いい加減、ルインも観念した。
「わかった。それじゃ、ダランが魔法を放ってくれればいいよ、ボクの修行に付き合ってくれるってことで」
「そ、それは、俺に弱いもの虐めをしろと?」
「誰が弱いって〜?」
 にっこり笑って、ルインはダランの頭をぺしぺしと叩いて立ち上がる。
「じゃ、放ってみてよ」
 ルインはダランと少し距離を置いて、構えをとった。
「うーん」
 ダランは頭を掻いてちょっと迷った後、ルインに手を向ける。
「水流弾」
 ダランの手の中に小さな水の玉が生み出され、ルインに向かって放たれる。
 ルインはそれを手を開いて受け止めようとするが……。
「うわっ」
 水の弾はルインに直撃し、服が濡れてしまった。威力はかなり抑えられていたようであり、ダメージは大したことがない。
「今のは空気中の水分を凝縮して、放つって技なんだけど、もし魔法吸収が成功したって、水浸しにはなるんだぜ? 炎だったらヤバイと思うから、水にしたんだけど……」
「そっか……」
 といいつつ、ルインは突然プロミネンスバスター(最弱)をダランに放つ!
「ぎゃっ」
 ダランはルインの攻撃を腕に受け、尻餅をつく。
「不意打ちとは卑怯だぞっ」
 なんだか涙まで浮かべてルインを見ている。
 男のクセに情けないなーと思いながら、ルインはダランに手を差し出した。
「で、今のはエネルギーだけの放出を心がけたんだけど、吸収できそうだった?」
「無理!」
「……」
 なんだか蹴り飛ばしたい衝動に駆られる。
 だけど我慢をして、ルインはまた一歩譲ることにする。
「それじゃ、ダランの側を通過するように放つから、吸収試してみてよ」
「絶対、絶対絶対、当てんなよ!?」
「もちろーん」
 にっこり笑って言うが、慣れてきたら当てる気満々だった。
 再び、ルインはダランの魔法を受ける。
 次第にずぶ濡れになっていくが、構わず続けさせ、少しずつタイミングを覚えていく。
 ただ、魔法からの魔力吸収はとても効率が悪いことも知る。魔力の量を増やしてもらったとしても、一瞬で吸収できる魔力の量は変わらない。訓練していけば、増やすことが出来るだろうが、限界もあるだろう。
 最終的には、純粋なエネルギー系魔法は受け流せたら最高なのだが……。
「やっぱ早くて無理だ」
 ルインのプロミネンスバスターからは、ダランは全く吸収を行えないようだった。
「でも……一応試してみるか。あのさ、一度だけ、一度だけ一番小さい威力で俺の手に向けて放ってほしいんだ」
 そう言って、ダランは左手を前に出し、自分の薬指に嵌められている指輪を見た。
「じゃ、行くよ」
 返事はなかったが、ルインは最弱のプロミネンスバスターをダランに向けて放つ。
 すると……。
 放たれたエネルギーに、ダランの手が弾かれる。
「……いってーーーーーーえっ!」
 数秒遅れてダランは反応を示し、手を抱え込んだ。
「なんかちょっと吸収できたみたいだけど、やっぱ無理だ攻撃魔法は。ぜってぇぇぇー無理だ、二度とやんねー、ちくしょ……っ」
 ダランは手に息を吹きかけながら、弱音を吐いていた。
「ねえ、今何したの? 一瞬痛み感じてなかったみたいだけど?」
「ん、魔法具使ってた。魔法に関しての集中力を高めるやつ。その代わり、他のこと一切考えられなくなるんだけど」
 魔法具の力を借りても、ダランには攻撃魔法からの魔力の吸収は難しいようだった。
「とりあえず、診療所行く?」
 ルインはしゃがみこんでいるダランに手を差し出した。
「つーか、お前の方こそ身体腫れてんじゃねーか!」
 ルインの白い肌にも沢山の痣が出来ていた。
「こんなの全然平気ー! ボクの方が先に会得しそうだね」
「その前に身体壊れるぞ?」
「じゃあ、お互いの体が壊れないように回復魔法でも覚えてよ、ダラン」
「う、うーん、そうだよな……って、お互いにって?」
 慌てるダランに、ルインはにこにこと笑みを浮かべた。
「お互いにーねーふふふ」
「もー、勘弁っ!」
 ダランはルインの手を振り払い、バタバタと走り去っていった。
 どうやらダランの怪我は大したことないようだ。
 ルインはのんびりその後を追うことにした。


●ライターより
川岸満里亜です。
攻撃魔法からの吸収は高度すぎてダラン・ローデスには無理のようです。
ルインさんとダランの術では概念の違いもあるようですので、どうかお許しください。
ルインさんの方は何かしらコツがつかめたと思いますので、今後の冒険に役立ててください。
お馬鹿な少年で申し訳ないですが、またお付き合いいただけたら幸いです。
この度はご注文ありがとうございました。