<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
天使のアクセサリ作りを手伝って
●オープニング
アルマ通りにある酒場『白山羊亭』は、いつも冒険者で賑わっている。
「お待たせしましたー♪」
ウェイトレスのルディア・カナーズは、営業スマイルで食事をテーブルに運んでいる。
白山羊亭で特に客の視線を惹きつけたのは、小さいながらも背中に純白の翼があり、頭の上には小さな輪が光り輝いている少女だった。
「エルスさーん、3番テーブルにこれ運んでー!」
「はーい」
少女の名前はエルス。人々を幸せにするために天界からやって来た見習い天使である。
エルスはここで働いているのは、社会勉強のためである。
「ふぅ…やっとで終わった。エルスさん、良く働いてくれるから助かるわ」
「いえ……」
休憩中、エルスはアクセサリを作っていた。完成したのは天使の羽の形をしたブローチ。
「エルスさん、上手ー。ねえ、『天使アクセサリ』作って、ここで売ってみない?」
「私が作ったアクセサリを……売るんですか?」
これだけ出来がいいんだから、きっと売れるって! と言うルディア。
「でも、これだけは種類が足りないね。アクセサリを作ってくれる協力者を募集しようか? エルスさんが来てから、うちのお店が繁盛したんだからこれくれらいしても大丈夫だって」
たしかに、エルスが働き始めてから白山羊亭は繁盛するようになった。無意識のうちに、幸福にしようとする天使の力が発動されているのだろう。
これを活かせるのなら……と、エルスはアクセサリ作りの協力者を募ることに。
「あ、丁度良いところに来たね。あなたも一緒にアクセサリを作らない?」
●訪れた冒険者
「こんにちは、ルディア。ここはいつも賑わっていますね。あの……お腹がすきましたので、何か軽いものを用意していただけませんか?」
遠慮がちに注文するシヴァに「サンドイッチでいい?」と訊ねるルディアにそれで構いませんよと微笑んで答えるのは、女性と見紛う端麗な顔、紫紺の瞳、腰まである一つ束ねの長い艶のある黒髪をもつシヴァ・サンサーラ(しう゛ぁ・さんさーら)。
女性に良く間違えられるが、男であり、亡き妻の転生者を捜し放浪の旅を続けている死神である。
「お待たせしました。あの……お飲み物はどうしますか?」
シヴァにサンドイッチを差し出したエルスが、緊張気味に話しかけた。
「そうですね……紅茶をいただきます。おや? あなたは天使なのですね」
外見からしてすぐ天使とわかるのだが、シヴァはそう訊ねた。
「はい。ルディアさんのお店で働きながら、人間を幸せにする方法とこの世界の勉強をしているんです」
「そうですか。私も天使だったのですよ。もう随分、遠い昔の話になりますが…。自己紹介がまだでしたね。私はシヴァ・サンサーラと申します。あなたのお名前をお聞かせ願いますか?」
「私はエルスといいます。宜しくお願いします、シヴァさん。今、紅茶をお持ちしますね」
そう言うと、エルスは銀のトレイを抱えて一礼してカウンターに向かった。
シヴァがサンドイッチで腹ごしらえをしている最中、もう1人、冒険者が来店。
「キラキラアクセサリの反応が……。アクセサリか何かがあるのかな? あ、アクセサリ発見!」
小柄な少女が、シヴァに紅茶を差し出したエルスの服についている天使の羽のブローチをじっと見ていた。
「あの……このブローチがどうかしたんでしょうか?」
「アクセサリが好きなだけだから気にしないで。あ、あたし、スズナ・K・ターニップ(すずな・けい・たーにっぷ)っていうの。宜しくね。あなたの名前は?」
「エルスです、宜しくお願いします。ゆっくりお話したいのですが、仕事中ですので失礼します。ご注文は何に致しますか?」
そういえばお腹すいたなぁ……と、スズナは「摘めるものちょうだい」と注文した。
●アクセサリを作りませんか?
白山羊亭の忙しさが一段落したところで、ルディアは準備中のプレートをかけて休憩することに。
「エルスちゃん、お疲れ様。アクセサリ作りしてもいいよ」
まだ店に残っていたシヴァとスズナは、十分たちもアクセサリを作っても良いかと聞いたところ、エルスは「皆さんで一緒に作りましょう。そのほうが楽しいですし」と了承した。
「エルスちゃんはね、アクセサリ作りが上手なんだよ。作ったものが売れた時もあったほどなんだから」
それはすごいですね、と感心するシヴァに対し、上手く作れるかなと不安になるスズナ。
「スズナさん……でしたよね? アクセサリ作りですが、私も協力しますから安心してください。私は、自作のアクセサリを売って旅費を賄っていますから作りなれていますから」
「本当に、あたしにも作れるかな?」
コクンと頷くシヴァと、あたしも教えますと優しく微笑むエルス。
こうして、3人はそれぞれのアクセサリ作りが始まった。
スズナが手にしたのは、金色の針金だった。
「う〜ん、なかなか曲がらない!」
力まかせに曲げようとするスズナに「道具を使ってはいかがですか?」とシヴァがアドバイスするが「自分の手で作りたいの」と主張するスズナだった。アクセサリは、自分の手で作ってこそ価値があると思っているようで……。
「シヴァさんは、何を作るのですか?」
エルスからもらった天使の羽のブローチの欠片と小さな蒼い石を手にしたシヴァは、ペンダントを作ってみますと微笑んで答えた。
「できあがりましたら、皆さんに差し上げますね」
「あたしにもくれるの?」
瞳を輝かせながら聞くスズナは。勿論です、と答えるシヴァの言葉を聞くなり「やったぁ!」と大喜び。
シヴァが最初にとりかかった作業は、蒼い石を涙の形に加工すること。荷物から装飾品作りの道具を取り出すと、やすりを取り出して丁寧に、壊さないように慎重に少しずつ涙の形を作っている。
ズスナは、力まかせに曲げたり折ったりしながらも自作のアクセサリを一生懸命に作成しているものの大苦戦。
「なかなかうまくいかないなぁ。でも、頑張る!」
心配しながら、ルディアはスズナの作成状況を見ていた。
エルスは、今度はブローチではなくヘアピンを作成。ブローチの欠片を更に加工し、更に小さな羽を作っている。それをヘアピンに取り付ければ完成である。
「根気がいりますが、これをつけてくれる人の笑顔のためです」
心優しい天使でのエルスらしい作成方法だった。
●アクセサリ完成
ズスナ作のアクセサリは……何とも言えぬ奇妙な物体と化した。
いつも元気な彼女も、さすがにこれを見るといつものテンションが下がり、大きな溜息をついた。
「スズナさん、落ち込まないでください。個性的な作品ではないですか」
「そ、そうですか……?」
涙目でシヴァに聞くスズナに「この作品の名前だけど『天使の嘆息』っていうのはどうかな?」とルディアが助け舟を出した。
作品の印象が、天使の苦悩に見えたからそう名づけたのだろうか?
「まぁ、こんなこともあるさ……」
諦めが早いスズナだったが、エルスは「この作品、お店に飾りませんか?」とルディアに提案した。
「こ、こんなのでもいいの!?」
「個性的な作品じゃない。お客様ウケすると思うな。あたしもエルスさんの意見に賛成だよ」
エルス、ルディアの計らいで、スズナのアクセサリは白山羊亭に飾られることになった。
その頃、シヴァは涙の形に仕上げた蒼い石に艶出し用のニスをつけ、両サイドに欠片で作った天使の羽を取り付けた。
後は、ニスが乾き、天使の羽がくっつくのを待つだけとなった。
「シヴァさん、アクセサリ完成したの?」
「後はペンダントチェーンをつければ感性です。スズナさん、作品が白山羊亭に飾ってもらえるようになって良かったですね。私は、あなたの作品はあなたの元気な部分が表現されているのが良いところだと思いますよ」
「本当!?」
「ええ」
アクセサリ作りの名人ともいえるシヴァに褒めてもらえたのが嬉しかったのか、スズナはジャンプして大喜び。
話しこんでいる間、アクセサリのニスが乾き、羽がくっついたを確認したシヴァは、ペンダントチェーンを取り付ける作業にとりかかった。
「私のアクセサリも完成しました。名前は『エンジェル・ティアー』、天使の涙と名づけます」
ルディア、エルス、スズナを自分のもとに呼び寄せたシヴァは、3人にペンダントをつけてあげた。
「これ、もらっていいの?」
「ええ、良くお似合いですよ」
わぁい! と喜ぶスズナ。
「ありがとうございます、シヴァさん。これ、大切にします……」
「エルスさん、これからも天使として人々を幸せにしてあげてくださいね」
はい、と笑顔で返事するエルス。
「あたしまでもらっちゃっていいのかな?」
「構いませんよ。あの……申し訳ないですが、それを代金代わりにするのは駄目でしょうか?」
遠慮がちに訊ねるシヴァに「今回は特別だよ」と大目に見てくれたルディアだった。
●アクセサリ完成・後日談
白山羊亭のカウンター付近に置かれたスズナのアクセサリは、客の目を惹いた。
「ルディアちゃん、あの置物面白い形してるね。誰が作ったの?」
「元気な天使が作った作品、とだけ言っておきます♪」
そういうと、ルディアは次のテーブルに料理を運んだ。
ルディアとエルスは、シヴァ作のペンダントをつけて今日も忙しなく働いている。
客達は、2人の可愛い天使を見たような気分で食事を摂った。
スズナは、その後アクセサリを上手く作れるように特訓することを誓った。
「今度こそ、上手に作って見せるからね!」
頑張れ、スズナ!
シヴァは、露店を開き『エンジェル・ティアー』をはじめとするアクセサリを売り始めた。
エンジェル・ティアーは好評で、あっという間に売れた。
「これで、暫くは懐が暖かいですね」
店仕舞いすると、シヴァは再び妻の転生者を捜す旅に出た。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3487 / スズナ・K・ターニップ / 女性 / 15歳(実年齢18歳) / 冒険者】
【1758 / シヴァ・サンサーラ / 男性 / 27歳(実年齢666歳)/ 死神】
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ライター通信
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氷邑 凍矢です。
このたびは『天使のアクセサリ作りを手伝って』にご参加くださりありがとうございました。
>スズナ様
アクセサリ作り、ご苦労様でした。
プレイングでは「奇妙な物体」と書かれておりましたが、私としては個性的な作品だと思います。
それ故、白山羊亭のオブジェとして飾らせていただきました。
アクセサリ作りの腕が上達することをお祈りしております。頑張ってください。
>シヴァ様
シチュエーションノベル以来ですね。お久しぶりです。
アクセサリを作って旅費を賄っているだけあり、綺麗なアクセサリを仕上げてくださいましたね。
プレイングに参加者にプレゼントとありましたので、ルディア、エルスにもプレゼントしました。
プレゼントされた方々は、喜ばれたことでしょう。
これからもアクセアリ作りに精進してください。
またお会いできることを願いつつ、締めくくらせていただきます。
氷邑 凍矢 拝
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