<LEW・PC迎春挿話ノベル>
ザ・雪合戦
●序
正月から、雪が降った。
ふわふわと舞い降りる白い雪は、新年に相応しい。地面に優しく舞い落ち、積もり、辺りを真っ白に染めていく。
真っ白に真っ白に……たっぷりと。
「……良く積もりましたねぇ」
ぽつり、とエディオンは呟いた。エディオンが店を構えている石屋エスコオドから近い場所にある、開けた野原は雪に覆われて真っ白だ。
足を踏み出すと、ずぼ、と大きく凹んだ。
「これだけあると、雪合戦とかしたら楽しそうなのですが……」
エディオンは呟いた後、自分の店に帰ってから張り紙を作成する。
「折角ですから、開催しちゃいましょう。賞品も用意して」
ぶつぶつと言いながら、店内を見回す。そして、展示された中からキラキラと光る石を手に取った。
「これにしましょう」
石の名札には「幸せな夢を見る石(一回限り)」とあった。
●参加者
雪を掻き分けつつ、千獣(せんじゅ)はエスコオドを訪れた。ドアを開けて中を覗くが、がらんとしてしまっている。
「エディオン……いない……の?」
声をかけても中から返事は無い。千獣は小さく「お礼……いいたかったのに」と呟きながら、ぱたん、とドアを閉める。
「おや、千獣さんじゃないですか」
エディオンの声がし、千獣はそちらを見た。声のするほうには、大きな雪像が立っている。大きな、三角形のおにぎりのような形をしている。
「何を……してるの……?」
「雪合戦の準備です」
「雪、合戦……? そういえば、以前、やった事が」
千獣は、記憶を辿る。確か、雪の玉を沢山作って、それを相手にぶつけていくゲームではなかったか。
ただ、雪像は無かった気がする。
じっと三角形を見つめる千獣に、エディオンは「ああ」と気付いて笑う。
「雪をぶつけ合ったら寒いので、雪像に攻撃してもらおうかと思いまして」
「相手の、雪、像?」
「そうです。やりますか?」
千獣は「やる」と答え、それから何度も「雪像、雪像」と呟いた。頭にインプットするかのように。
「それじゃあ、公平にするために、僕が雪像を作りますので、店内で待っていてください」
「一人で、大丈、夫……?」
「はい。こう見えても、体力に自信がありますから」
にっこりと笑うエディオンに、千獣は「でも」と呟く。一人で雪像を二つも作るのなんて、大変ではなかろうか。
「なら、千獣さんにはお仕事です。きっと他にもいらっしゃいますから、店内を暖炉で暖めておいてください」
エディオンの言葉に、千獣はこっくりと頷く。エディオンは「宜しくお願いしますね」といい、再び雪像作りにとりかかった。
「相、変わらず……だな……」
千獣は小さく呟き、店内へと向かった。暖炉に火を入れ、店内を暖めておくという仕事をしておくために。
「雪像を作ると言ったら、気を使わせちゃうかもしれませんね」
エディオンは心配そうにしていた千獣を思い出し、ぽつり、と呟くのだった。
年の瀬に挨拶へ行った際、新年には楽しい事がしたいとエディオンが言っていたのを、アレスディア・ヴォルフリートは思い出した。
「一体、何をする気なんだろうな」
アレスディアは呟き、辺りを見回す。エスコオドに向かうまでの山道は、真っ白に埋まってしまっている。
「まさに、銀色の世界だな」
ざく、ざく、と雪を掻き分けつつ進んで行くと、エスコオドの屋根が見えた。次いで、妙に大きな三角形のものも。
「何だ、あれは」
怪訝に思い、近づいて行くと、三角形の足元にエディオンがいた。エディオンはあたりの雪をかき集め、その三角形のオブジェをパンパンと叩いていた。
「何をしているんだ?」
「ああ、アレスディアさん。年末に言っていた事ですよ」
エディオンはそう言いながら、手を休める。アレスディアは「楽しいこととかいう?」と尋ね、再び三角形を見る。
「……確かに、楽しそうだが」
「あ、これを作ることじゃないですよ。これだけたくさん雪が降りましたから、雪合戦でもしようかと思いまして」
「一人でか?」
「まさか。ここを訪れた方で、チームに分かれてもらおうかと。僕は、審判です」
「ふむ……雪合戦か。それは、楽しそうだ」
エディオンの提案を聞き、アレスディアはこっくりと頷いた。「私も、一つ参戦させていただこう」
「是非。それじゃあ、僕は準備をしますので、店内で待っていてください」
「何か手伝おうか?」
「いえいえ、公平にするためにも、僕一人で準備しなければいけませんから」
エディオンはそう言い、手をひらひらと振った。アレスディアは「分かった」と頷き、店内へと向かっていく。
店の煙突から、暖かそうな煙が立ち昇っていた。
雪を掻き分け、煙の立っている方へ、ジェイドック・ハーヴェイは向かっていた。
町からこの山の方を見たとき、煙が立ち昇っているのを見た。この雪の中、たき火をしているわけではなかろうと、町のものに訪ねた。すると、町の人は笑いながら「エスコオドさんじゃない?」と答えたのだ。
話を聞けば、石屋を営んでいるのだという。何でも、珍しい石を売っているのだとか。
「そういえば、掲示板に張り紙がありましたよ」
町の人の情報に、ジェイドックは礼を言って掲示板へと向かった。そこには、雪合戦を開催するとの情報が書かれている。
「なるほど……勝利の報酬は、幸せな初夢、か」
張り紙を見ながら、ジェイドックは小さく笑んだ。
「初夢くらいは、いいものを見たいしな」
ぽつりと呟き、山へと向かい始める。参加してみるか、と付け加えつつ。
そうして、山道から開けた所に出た瞬間、三角形のオブジェと雪だるまのようなオブジェが立っていた。
「……あれは、何だ?」
呆然と眺めていると、オブジェを作っていたエディオンがジェイドックに気付き、近寄ってきた。
「参加者さんですか?」
「ああ。いい初夢を見れると聞いて」
「勝ったら、ですよ」
悪戯っぽく念を押すエディオンに、ジェイドックは表情を綻ばせる。エディオンは「それじゃあ」と言って、煙の立ち昇っている店を指差す。
「準備を終えるまで、店内で待っていてください」
「準備?」
「はい。公平にするために、僕が準備をしますから」
ジェイドックは「分かった」と頷き、店へと向かう。
小ぢんまりと佇んでいる、エスコオドへと。
サクリファイスは、大きな紙袋を抱えて、エスコオドへと向かっていた。町の掲示板を見て、参加しようと思ったのだ。雪合戦か、と呟いた後、小さく笑う。
「初夢が賞品というのも、面白そうだ」
ざく、ざく、と踏みしめる雪は白くて冷たい。紙袋は決して軽くは無いが、後を思えば苦ではなかった。
ざく、と一層大きな音がし、開けた場所に出た。あたりを見渡すと、一面の銀世界が広がっていた。
「これは……凄い」
確かに、何か雪遊びをしたくなるな、とサクリファイスは笑う。町とは違い、積雪を邪魔するものがほぼいないからこその風景だ。
「あなたも、参加者さんですか?」
不意に声をかけられてそちらを見ると、そこにはエディオンが立っていた。
「あなたが、エディオンか」
「はい。雪合戦のために、準備をしています」
サクリファイスは「そうか」と頷き、それからエディオンに向かい合う。
「ちょっと相談があるんだけど」
「はい、何でしょう」
「季節柄、折角だし……雪合戦が終わった後に、皆にお汁粉でも振舞おうと思っているんだ」
「お汁粉ですか。それはいいですねぇ」
「だろう? 材料は持ってきたから、場所だけ貸してもらえれば嬉しいんだが」
サクリファイスの申し出に、エディオンは「是非」と言って微笑む。
「店に台所がありますから、自由に使ってくださって構いませんよ。暖炉もありますから、とろとろと煮込めるはずです」
「そうか。なら、使わせてもらおう」
「はい。そちらの用意が出来るくらいに、恐らくこちらの用意も終わりますから」
エディオンがそう言って見つめる先には、オブジェが二つ並んでいた。
三角形と、二段の雪だるま。そう、見える。
サクリファイスは「分かった」と頷き、エスコオドへと向かっていく。
「あれは、何なんだろうな」
不思議なオブジェを思い返し、ぽつり、と呟くのだった。
●開会
エディオンに呼ばれ、参加者達は外へと出る。すると、二つの大きな雪像と、鍋蓋くらいの大きさの板が、二つずつ置かれているのが目に入ってきた。
「まずはチーム分けしますね。ええと、Aチームが千獣さんとジェイドックさん、Bチームがアレスディアさんとサクリファイスさんです。勝手にチーム分けしてしまいました」
「構わん。むしろその方が、手間が省ける」
ジェイドックの言葉に、他の皆も頷く。
「ルールを説明しますね。雪玉を作って相手にぶつけるのですが、雪玉はあの雪像に当ててください。より崩れた方が負けです」
「雪像……あれ?」
二つの大きな雪像を指差し、千獣が尋ねる。向かって右側に三角形、左側に二段重ねの雪だるまのような雪像がある。
「右のがAチーム、左のがBチームです」
「そこは、選べないのか」
アレスディアの問いに、エディオンは「すいません」と頭を下げる。
「一応、チーム名にしていますから。強度は変わらないと思いますので」
エディオンに言われ、改めて皆が見る。なるほど、三角形はAに、二段重ねはBのように見えなくも無い。
「ターン制にしまして、攻めと守りできっちり分けます。攻めの時は雪玉をぶつけ、守りの時はあの板で守ってください」
「随分、小さいな」
サクリファイスが板を見ながら言う。
「両チーム、2回ずつ攻撃と防御をしてもらいます。特殊能力は、一度だけなら使って良いですよ」
「攻撃と防御、どちらでもいいのか?」
ジェイドックの問いに、エディオンは「はい」と頷く。
「勿論、全く使わなくても構いません。他に、質問はありますか?」
「自前の剣や盾は使って良いのか?」
アレスディアが、自らの剣と盾を出して尋ねる。
「一応、能力使用扱いにさせてください。戦力に差が出てはいけませんし」
「なら、俺のこれも能力扱いだな」
ジェイドックはそう言って、二丁のリボルバー銃を見る。
「殺傷は駄目ですよ?」
銃を見て、エディオンが念を押す。
「大丈夫だ、雪玉を装填するからな」
ジェイドックはそう言って、小さく笑う。
「魔断は使えないからな……となると、この翼か」
サクリファイスがポツリと呟いた。千獣はぴくりと耳を動かし、小さく「翼」と呟く。
「空から……か」
ばさ、と動くサクリファイスの翼を千獣がじっと見つめる。空からやってくるだろう雪玉対策を、考えているのかもしれない。
「他に質問が無ければ、それぞれ位置についてください」
エディオンが言うと、各雪像へと向かっていく。いよいよ、雪合戦が始まるのだ。
●1ターン目
「では、1ターン目、Aチームからの攻撃です」
丁度真ん中くらいの位置に、エディオンは立って声をあげた。Aチームである千獣とジェイドックが、それぞれ雪玉を手にする。
「能力は使うのか?」
ジェイドックの問いに、千獣は首を横に振る。
「使うなら……次の、ターン」
「気が合うな。ならば、今回はただただ雪玉を投げつけるだけだな」
二人は顔を見合わせ、こっくりと頷く。
一方、Bチームの二人は雪像の前で、板を握り締めていた。
「能力は、どうする?」
アレスディアの問いに、サクリファイスは首を横に振る。
「防御ではなく、攻撃で使おうと思う。私の能力といえば、この翼くらいだから」
「なるほど、空からの攻撃だな」
「そういう、アレスディアはどうするんだ?」
サクリファイスの問いに、アレスディアは雪像を見上げる。
「本当は、盾を使おうと思っていたんだが、できなかったからな……。次のターンの防御で、使おうかと思ってる」
なるほど、とサクリファイスは頷く。そうして、二人同時に板を大きく掲げる。
少しでも、相手の攻撃から雪像を守ってやらなければ。
「AチームさんもBチームさんも、いいですか?」
エディオンの問いに、四人がこっくりと頷く。それを見て、エディオンはポケットから笛を取り出して、口にくわえる。
「用意、スタート!」
ピー!
笛の音と共に、Aチームの攻撃がスタートする。千獣とジェイドックは両手に雪玉を抱えて、Bチームの雪像へ向かって玉を投げつける。
千獣は「雪像、雪像」と小さく呟きつつ、ジェイドックは「ふんっ」と気合を入れながら。
Bチームの二人は板を抱え、襲い掛かってくるそれらの玉を少しでも避けさせる。
アレスディアは「盾が使えれば」と呟く。身にまとっている鎧装が、動きを阻む。サクリファイスは「翼を広げる、は駄目か」と小さく呟き、板を掲げる。
そうしている内に、ピピー、という笛の音が再び響く。時間にして、およそ3分ほどだろうか。
「じゃあ、続けてBチームからの攻撃です」
エディオンの言葉に、Bチームの二人は体についた雪を払う。そして、Aチームの二人は、それぞれ板を手にする。
「雪まみれ……なりそう」
「そうだな。実際、なっていたからな」
板を手にしながら、千獣とジェイドックが覚悟をしたように言い合う。
「じゃあ、私は空から」
サクリファイスはそう言い、雪玉を手にする。とにかく持てるだけ。
「ならば、私は攻撃しつつも手が空いたら雪玉を作っておこう」
アレスディアが言うと、サクリファイスは「分かった」と頷いた。先程雪まみれになったことも手伝い、闘志に燃えている。
「それでは、スタート!」
ピー!
エディオンの笛の音と共に、サクリファイスは地を蹴る。大きく翼を広げ、雪玉を持って上空からAチームの雪像を狙う。
「空……」
千獣はサクリファイスを見て呟くと、板を持ってサクリファイスの向かう方へと行く。
「おい、どうする気だ?」
「空、から、危ない……」
サクリファイスを指差しながら言う千獣に、ジェイドックは「なるほど」と言って、にやりと笑う。「ならば、こっちは俺が相手だ」
アレスディアは雪玉を投げ、ジェイドックをひきつける。その間に、サクリファイスは空から眼下の雪像めがけて雪玉を投げつける。
「くらえ……!」
上空からの雪玉は、高さがある分勢いが増す。それを「駄目」と言いながら、千獣が板を振りかざす。
ぼふっ。
上空から攻撃のいくつかは、千獣の持っている板ではなく、千獣の体にぶつかる。身を挺して守っている、に近い。
「まだまだ!」
サクリファイスは、千獣のいない場所を狙って雪玉を落とす。途中で雪玉無くなれば、アレスディアの所に戻って雪玉を受け取ってから、再び空へと翔ける。
ピピー!
そうこうしているうちに、終了の笛が鳴る。サクリファイスは「残念」と呟き、Aチームの方へと帰っていく。
「大丈夫か?」
雪まみれになっている千獣を、ジェイドックが尋ねる。千獣はこっくりと頷き、雪を払う。
「雪まみれだな、お互い」
千獣を心配するジェイドックも、雪でいっぱいだった。
「お疲れ様」
Aチームの方に帰ってきたサクリファイスを、アレスディアが出迎える。
「ダメージ、与えられただろうか」
「見た感じ、あちらの雪像の方がちょっと崩れている感じがする」
アレスディアの言葉に、サクリファイスは二つの雪像を見比べてみる。なるほど、ほんの少しではあるが、Aチームの雪像の方が崩れているように見える。
「それでは、五分後に2ターン目を始めますね」
エディオンはそう言いながら、各チームに暖かな紅茶を配る。温かな紅茶は、雪まみれになった両チームにほっとした空気をもたらすのだった。
●2ターン目
一息ついた後、エディオンが「それでは」と声をかける。
「2ターン目を始めましょうか。今度は、Bチームの攻撃からにしましょう」
エディオンの言葉に、アレスディアとサクリファイスが顔を見合わせて頷きあう。
「じゃあ、Aチームが守りだな」
ジェイドックはそう言い、千獣を見て頷く。
「準備は良いですか?」
エディオンの問いに、両チームが頷く。
「では、スタート!」
ピー、という笛の音が鳴り響く。それと同時に、アレスディアとサクリファイスが雪玉を雪像に向かって投げつける。
「能力は使わない、真っ向な勝負だ!」
アレスディアの言葉に、サクリファイスがこっくりと頷く。
「私は、1ターン目で能力を使ってしまったからな。純粋に力勝負だ」
二人の攻撃を見て、千獣とジェイドックが顔を見合わせる。
「さっき……サクリファイスは、能力、使ってた……」
「ああ、だからアレスディアは能力を使うと思ったが……真っ向勝負か」
二人はこっくりと頷きあい、板を使って防御をする。二人とも、能力は使わない。攻撃へと温存しているのだ。
だが、アレスディアも能力使用を残している。つまり、二人の攻撃を能力によって阻まれてしまう可能性がある。となれば、今の攻撃を少しでも守っておいた方がよい。
気合を入れて投げてくる雪玉を板で防ぎつつ、時に避けていく。といっても、千獣は自ら辺りに行く方が多いが。
「ぶふっ」
「あ」
そんな中、千獣が受け止め切れなかった雪玉が、ジェイドックに当たる。おかげで、ジェイドックの顔が真っ白な雪に覆われてしまった。
ピピー!
まるでそれを見計らっていたかのように、エディオンの笛の音が鳴り響く。
「それでは、次にAチームの攻撃です」
待ってました、といわんばかりに千獣とジェイドックがぐっと雪玉を握り締める。そして、アレスディアも。
「よーい、スタート!」
ピー、とエディオンの笛が鳴り響く。
それと同時に、アレスディアは剣と盾を手にし、構える。
「相手は、能力を使った攻撃をしてくるだろうからな。油断は禁物だ」
「そうだな。しかも、二人とも、だからな」
アレスディアの言葉に、サクリファイスが頷く。どのような攻撃が来ても、対処できるように。
一方、ジェイドックは雪玉を2丁のリボルバー銃に込める。一丁6発まで詰められるため、合わせて12発ある。
「連射、させてもらおうか」
ジェイドックが向かおうとすると、後ろから千獣が「待って」と声をかけてくる。振り返ると、そこに千獣の姿は無い。
大きな、白い、雪玉がある。
「獣の力で、雪玉、作った……」
千獣はそれを持ち上げ、ぶん投げる。まるでボーリングのように。
「来た……大きい!」
向かってくる巨大な雪玉を見て、サクリファイスが声をあげる。「あれを喰らったら、雪像なんてひとたまりもない」
焦るサクリファイスに、アレスディアは「大丈夫」と声をかけて小さく笑う。
「一度だけならば、防げる」
アレスディアはそういうと、剣をぐっと握り締めて「絶対防御!」と声を上げる。その途端、雪像を中心にした盾が形成される。
とはいえ、それは目には見えない、不可視の盾。見た目には、何も無いようだ。
「もらった……!」
千獣の雪玉が雪像に向かってくる。ジェイドックはそれを見て「なるほど」と頷き、リボルバー銃を構える。
「俺が、止めを刺させてもらおう」
――ばんっ!
千獣の雪玉は、雪像に到達する前に何かに衝突し、砕けた。アレスディアの張った、絶対防御の盾に阻まれたのだ。
「防御、したんだな」
ほっとサクリファイスが息を漏らすと、隣でどさ、と音がした。そちらを見ると、アレスディアが膝を突いて崩れていた。
「大丈夫か?」
アレスディアはゆっくりと「大丈夫、だ」と答える。「いつもの事だ」とも。
「それよりも、雪像を」
「……分かった」
サクリファイスが板を持って頷くのを見、アレスディアは倒れる。絶対防御の反動が来てしまったようだ。
「なるべく、防ぐ」
サクリファイスが呟くのと同時に、ジェイドックがリボルバー銃を構える。
「雪玉ははじかれたが、お陰でもう怖くないぞ!」
ジェイドックは叫び、パンパンパン、と連射をする。千獣は「あ、そう、か」と頷く。
二人が恐れていたのは、能力使用を残していたアレスディアの防御だ。だが、それは先程の千獣が大きな雪玉を当てることによって相殺させた。ならば、既に阻む事ができるのは、サクリファイスの板だけだ。
「速い!」
サクリファイスは板で阻もうとするが、それよりもジェイドックの連射の方が早い。あっという間に雪像に雪玉の銃弾が埋め込まれていってしまった。
ピピー!
千獣とジェイドックが今一度雪玉を作ろうとしたその瞬間、エディオンの笛が鳴り響いた。試合終了の合図だ。
「……終わったのか」
その音と共に、アレスディアも目を覚ます。そうして、ゆっくりと二つの雪像を見てみる。
二つは、同じくらい壊れていた。最初は辛うじて分かったAとBの形が、すっかり分からなくなっている。
「どう……なの?」
千獣がエディオンに尋ねる。エディオンは「そうですねぇ」と言いながら、二つの雪像を比べる。
「若干、本当に少しですが……Aチームの方が残っている気がします。ほら、何処と無く三角だった感じがありますし」
エディオンに言われ、皆は雪像を見つめる。なるほど、Aチームの方は三角形の形が何処と無く残っているが、Bチームの方は雪の塊のようになってしまっている。
「最後の連射が、効いたみたいだ」
サクリファイスはそう言い、肩をすくめる。すると、ジェイドックは笑って「そうは言っても」と口を開く。
「最初の、巨大雪玉を防がれなかったら、もっと圧倒的な差があったと思うんだがな」
「それじゃあ、皆さん。後は店の方に行きませんか?」
エディオンの提案に、皆は一同に頷いた。雪まみれになっていたし、周り全てが雪に囲まれているため、風がちょっと吹くだけで、寒かった。
●閉会
とろり、とした液体が、お椀に注がれる。甘い香りをしているそれは、温かそうな湯気を立ち昇らせており、見ているだけでほっとするかのようだ。
「お汁粉、いい具合になってるみたいだ」
サクリファイスはそう言って、お椀にお汁粉を注いでいく。
「白玉、入れようかな」
トッピングとしておいてある白玉や栗を見て、アレスディアが呟く。
「両方入れてもいいんじゃないか?」
お椀を受け取りつつ、ジェイドックが言う。
「お餅も、ある」
トッピングの栗をお椀に入れつつ、千獣が言う。
「お茶も用意しましたよ。あと、塩昆布も」
にこにこと笑いながら、エディオンが皆にお茶と塩昆布の入った小皿を配る。
「お汁粉、おいしそうですね」
「上手くできてよかった。台所を貸してくれて、ありがとう」
サクリファイスの言葉に、エディオンは「とんでもない」と笑う。
「こういうの、いいな。遺恨無く、テーブルを囲えて」
ジェイドックはそう言って、トッピングの全てをぽんぽんと入れていく。
「温かいものは、ほっとする。本当にありがたい」
アレスディアは、ふうふうとお汁粉を冷ましながらそういった。その隣で、千獣がおいしそうにお汁粉を口にしていた。
「冬らしくて、いいですね。疲れた時には、甘いものがいいともいいますし」
エディオンはそう言った後、石を二つ取り出す。柔らかな虹色の光を放つ石だ。
「これが、賞品の石です。素敵な初夢を見て下さいね」
石をそれぞれ、千獣とジェイドックに手渡す。二人は嬉しそうに、また珍しそうに石を見つめた後、互いの健闘をたたえるように顔を見合わせて頷きあう。
アレスディアとサクリファイスは、そんな二人に拍手を送る。勝負としては負けてしまったが、楽しかった事に変わりは無い。
「皆さん、今年も宜しくお願いしますね」
にっこりと笑いながら言うエディオンに、四人は頷く。暖かな空気に包まれた店の窓からは、崩れてしまった二つの雪像が見えた。
その二つの雪像に、空から優しく雪が舞い降りていた。それはまるで、互いの健闘を称えているかのようであった。
<新しい年の始まりを迎え・了>
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 2470 / サクリファイス / 女 / 22(22) / 狂騎士 】
【 2919 / アレスディア・ヴォルフリート / 女 / 18(18) / ルーンアームナイト 】
【 2948 / ジェイドック・ハーヴェイ / 男 / 25(25) / 賞金稼ぎ 】
【 3087 / 千獣 / 女 / 17(999) / 異界職 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
明けましておめでとうございます。お待たせしました、霜月玲守です。
このたびは新春ノベル「ザ・雪合戦」にご参加いただきまして、有難うございます。いかがでしたでしょうか。
各雪像のHPを100とし、皆様に書いていただいた1〜6までの数によって数値を加減していきました結果、残HPはAチームが15、Bチームが10となりました為、Aチームの勝ちとさせていただきました。おめでとうございます。
少しでも楽しんでいただけていたら、幸いです。今年一年、皆様にとって素敵な年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。
それでは、今年も宜しくお願いいたします。
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