<LEW・PC迎春挿話ノベル>
謹賀新年・屋台村だもぅ
□Opening
いらっしゃいいらっしゃい。さぁさ、新春屋台村はこちらです。え? ここですか? はい、ここは、見ての通りの屋台村ですもぅ。
昨日まではなかった?
その通り、イベント商売でね、ここは正月のみの営業だもぅ。
ちょっと覗いてみてください。色んな屋台をご用意しています。おでん、綿菓子、林檎飴、ラーメン、射的、金魚すくいにヨーヨー釣り。大人はゆっくり温まり、子供は楽しく遊んだら良い。勿論、その逆もしかり。
年始のご挨拶に顔合わせ。パーティーなどにご利用ください。
え? 去年は鍋? ははは。毎年持ち回りでしてね。今年は、私が店主だもぅ。だから、屋台村にしたんですよ。え? ははは。今年はヘルシー路線だからね。肉料理はないよ。ヘルシー路線だからね!!
ささ、私の事などどうでも良い。
どんな遊びを楽しみますか?
□01
いつの間にか、見た事も無いような道に出た。
千獣は、ぼんやりと辺りを見回す。
「……?」
あれ、おかしいなぁ。
こんな道は知らない。来た事が無い。
もう一度、周りを見た。
その時、ぱんぱんと愉快な手拍子が響く。
「はいはい。いらっしゃいいらっしゃい。さぁさ、新春屋台村はこちらです」
目の前に、男が現われた。付けているエプロンは、白黒の特徴的な柄だ。
「……やたい……むら……?」
千獣は小首を傾げる。
なんだろう。良く分からない。
静かな千獣とは裏腹に、男はさらにテンションを上げた。
「そうだもぅ! 沢山ね、屋台があるんだよ? おでん、綿菓子、林檎飴、ラーメン、射的に金魚すくい。どうだもぅ? お嬢ちゃん、遊んで行きませんか?」
「……あそ、ぶ」
男が手招きをする。
誘いに乗って歩いて行くと、小さな店舗が見えた。男が、少しだけ扉を開く。覗いてみると、外観からは想像もつかないほど広い空間が広がっていた。
いくつもテントが張られている。
客を呼びこむ声。
人のざわめき。
湧き上がる歓声。
どこかで、しゃらんしゃらんと鐘が鳴る。
ああ、何となく、分かった。
みんな、楽しそうだ。それに、色々な匂いがする。沢山の品物が売り買いされているのだろう。
「ね? 期間限定。今しかないもぅ。さぁ、どうぞ」
「……う、ん」
男に促され、千獣は屋台村へと入った。
□02
屋台村に入ると、やはりとても広かった。どこをどうしたら、あんな小さな店舗にこれだけ沢山の店が入るのだろう。
色とりどりのビニールの屋根を眺めながら、千獣はふらふらと色々な店を見てまわった。
「はい、らっしゃいらっしゃい! どう、金魚、どう?!」
入口の男とお揃いのエプロンを翻し、威勢の良い男が千獣に声をかけた。
「……」
男は、先端に丸い紙のついた何か(……、武器? にしては小さすぎると思う)を振りながらニコニコと笑う。金魚と聞かされ、不思議に思った。千獣はぴたりと足を止める。
足元の水槽を見ると、赤くて小さな魚が大量に泳いでいた。中には腹と目が大きいものや黒いものも混じっている。けれど、そのほとんどが食料としては及第点に遠く及ばない小さな魚だった。これは……金魚だ。
千獣は男を見る。
男はにこやかに手にした丸い物を差し出した。
金魚を売っているのだろう。水槽の周りには、真剣な表情で子供達が座りこんでいた。欲しい金魚を選別しているのだろうか。
その時、千獣の足元に座りこんでいた子供の一人が、丸い紙を貼った武器で金魚を一匹すくいあげた。その動きは独特で、水面をスライドさせるように手首を引いた。すくいあげたと言うより、掠め取ったと言う方がしっくり来る。
「ほら、嬢ちゃんもやってごらん?」
「……」
男に言われるまま、丸い紙の武器を受け取る。けれど、水の中を泳ぐ魚を捕るのなら、こんな武器は必要ない。
千獣が本気を出せば、水面を揺らす事無く、この腕一本で金魚を全て捕獲できるだろう。
ぼんやりと手渡された武器を握り締める千獣に、先ほど金魚を捕まえた子供が笑いかけた。
「お姉ちゃん、金魚すくい、知らないの?」
「……、う、ん」
千獣は素直にこくりと頷く。子供が手招きをするので、その隣にしゃがみこんだ。子供が、丸い武器を大きく掲げる。
「良い? 見てて?」
言うや否や、子供はきらりと瞳を光らせ水槽をじっと覗きこんだ。
狙いを付けて、群れになっている金魚に武器を滑らせる。先ほど金魚をすくった時に濡れたのか、紙はいつ破れてもおかしくない所まで来ていた。それでもなお、子供は果敢に水槽に挑む。
勝負は一瞬で決まった。
子供は二匹目の金魚をすくい上げたのだ。
「やったぁ! ね、コレで金魚をすくうの!」
「……う、ん」
つまり、この武器で金魚をすくえば良いのか。いや、そうだ! これは、金魚をすくう遊び……ゲームか。子供の楽しそうな笑顔にそう直感する。
「……あ、……破れ、た」
「まだまだ。全然ダイジョーブ。平気だよ!」
水に濡れたせいだろう、子供の持つ紙が破れてしまった。千獣が心配そうに指摘すると、子供は首を横に振って、頼もしい笑顔を千獣に返した。
要領は何となく理解した。
千獣は弱々しい武器を片手に水槽へ向き直る。
「じゃ……、行く、よ」
水の中を泳ぐ魚達の動きをしっかりと目に焼き付ける。一匹の金魚が、水面に浮上して来た。これだ、と、即断し武器を水面に滑らせた。
ぴちぴちと紙の上で跳ねる金魚。
隣で見ていた子供が、すかさず水の入った容器を差し出した。
「すっごーい! 凄いよ、お姉ちゃん!!」
千獣の早技に感動した、と、子供ははしゃぐ。
「ねぇねぇ、次はアレとって!! 出目金!!」
「……」
興奮した子供が指差したのは、かなり大きな躯体の金魚だった。一匹だけ、非常に目立つ。丸い体に大きな瞳。千獣は一目見て、手持ちの武器ではかなわないと看破した。
千獣の予測など知る良しも無い。ぐいぐいと、子供が千獣の服を引っ張る。その瞳は、期待に満ち満ちていた。
「あれ、は……」
「お願いっ!!」
無理だと、告げる事ができなかった。
千獣は、一つ息を吐き出し、意識を集中させる。
出目金が水面に近づいたところを狙う。勝負は一瞬。
「あっ!!」
子供がはっと息を呑んだ。
確かに千獣の武器の上で出目金が跳ねたのだ。
「……」
けれど、その勢いが紙を破る。
「あ、あー……」
出目金は、すくいあげられたことなど気にも止めていない様子で水槽へと戻って行った。
「……ごめん、ね」
千獣が申し訳なさそうに謝ると、子供は何度も首を振り千獣の服を握り締めた。納得したのだと思う。
結局、金魚は一匹しか捕れなかった。
店番の男がその金魚をビニールの巾着入れる。
大きく手を振る子供と別れ、千獣は金魚を覗き込んだ。こんな小さな水の中ではかわいそう。帰ったら、きっと川に帰してあげよう。
□03
貰った金魚をお供に、その後も色々な店を見て回った。
心に残ったのは、色々な面を売っていた店だ。かわいい動物や人間の顔が描かれたお面を、いくつも展示してあった。けれど、リアルな描写の物も紛れている。老人を模した顔は、笑っていたが恐かった。あれは、きっと、儀式用の装備に違いない。
それから、色々な菓子も見た。
ふわふわの綿菓子は、作っている行程が面白かった。店番の男が機械の中でくるくると棒を回すと、その棒にふわふわの綿がくっついていくのだ。聞くと、その綿が甘いお菓子らしい。驚きだった。
お菓子と言えば、甘い物だけでは無い。
芋をスパイラル状に切り広げ油で揚げた食べ物も見た。香ばしい匂いに誘われて覗いたのだが、その見た目にも惹かれた。元々は拳程の大きさの芋だったのに、串に刺さった芋菓子は両手を広げるくらいの長さに広がっているのだ。
「はいよ、チーズ味。熱いよ、ゆっくりお食べ」
「……う、ん」
それを、千獣は購入した。
手渡された芋を眺め観察する。
揚げたてなので、熱い。油と芋の匂いが何とも香ばしく食欲をそそった。そして、芋にかかるチーズがとろりとろけている。何とも、美味しそうだ。
歩きながら、一口かじる。
「……」
口の中に広がる濃厚なチーズの香りが心地良い。
けれど。
「あ、……つ、い」
とても、熱かった。自然に、口を開け空気を吸い込む。口の中を冷まそうと、はふはふ言いながら芋を頬張る。二口、三口と食べているうちに、食べやすい温度になった。
歩きながら、周りを見てみる。
母親に手を引かれた子供が大きな林檎のお菓子をかじっていた。
大人の女性があの大きな綿菓子をニコニコと食べている。
千獣と同じように金魚を連れている人もいた。
すれ違う人は皆楽しそうだ。
ああ、やっぱりここは楽しいところなんだ。妙にそれが嬉しかった。いつになく、気分が高揚するのが分かる。でも、この高揚は、戦う時のものじゃない。きっと、そうだった。
□Ending
「ああ、お嬢ちゃん、どうだい、楽しいもぅ?」
色々見ながら歩いていると、千獣を屋台村へ呼び込んだ男に出会った。
楽しいし、美味しい。
千獣はこくりと頷く。
うんうんと、男も満足げだ。
その顔を眺めていたのだが、千獣は、そうだと顔をあげた。男は不思議そうに首を傾げる。
「?」
「人間、は、どこか、行くと、帰る、とき、何か買っていく……」
何と言っただろうか。
確か……。
しばらく考えた、後、ぽんと手を打った。
「そう、お、みやげ……おみやげ、買って、帰る……」
「ああ、お土産だもぅ。色々あるよ。沢山買って行くと良いもぅ」
男は何度も何度も頷いた。
千獣は隣で指を折る。
ええと……。
「森の、みんなに……それから……」
それから……聖都の友達、遠くの友達……。片方の手の指を折っていたのだが、すぐにそれでは足り無くなった。慌てて、金魚の巾着を腕に通しもう片方の手を用意する。
あの人とこの人と……。沢山の顔が思い浮かんだ。その度に、指を折る。
結局、両手におさまり切らずに、お土産の数は両手からあふれ出てしまう。そうなってはじめて、アレ、と首を傾げた。
「……人……大切な、人……友、達……いっぱい」
「そうだもぅ。沢山、いるんだねぇ」
うん、と、男に何度も頷き返す。
沢山、沢山、いっぱいいる。最初はいなかった。でも、今はいっぱい。自分にも、いつの間にか、こんなに沢山友達がいるのだ。
「……何か……うれしい、ね……」
手のひらをしっかりと握り締め、千獣は小さく微笑んだ
<End>
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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千獣様
明けましておめでとうございます。いつも、ご参加有難うございます。
お任せをいただいた部分は、千獣様と一緒に屋台を回っているような気分で書かせていただきました。いかがでしたでしょう。指折り友達を数え、指では足りなくなるって良いですね。私まで、嬉しくなってしまいました。
それでは、今年もよろしくお願いします。
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