<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
緊急募集、使用人よ集え!
◇ Introduction ◇
《急募! 丘の上の屋敷で、すぐにでも働ける方》
そんな貼り紙が白山羊亭に舞い込んできたのは、客もあらかた捌ききった午後のことだった。
テーブルに着いている者と言えば、仕事が休みなのを良いことに朝から晩まで酒を煽るつもりのろくでなしか、買い物の帰りしなにお茶を一杯という女性達が数人程度だ。
そういう理由で今は閑静な店内を見回していた女は、問題の貼り紙を差し出しながらおずおずと言った。
「この貼り紙を、こちらに二、三貼ってもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、それは大丈夫だと思いますけど……どうして突然募集なんて始めたんですか? そういう所で働く使用人さんって、きちんとした教養のある方達ですよね?」
女の対応に出ていたのは、この店の看板娘であるルディア・カナーズだ。
くりくりの瞳を、今は多大な疑問と少しの驚きに見開いている。
曰く、酒場などという冒険者や荒くれ者が多く集う場所で、何故わざわざ人員を募集するのか、という疑問だった。
それに、貼り紙の束を抱えた女は、困ったように苦渋の面で答えた。
「それが……暫く別邸で過ごしておられた坊ちゃんがお帰りになられて。これがまた我が儘な方で、彼に振り回された挙げ句仕事を辞めてしまう使用人が後を絶たないんです。それで、そういった正規の使用人を雇うまでの間、日雇いでも良いので人手が欲しいと、執事のメイソンさんが」
「なるほどぉ」
つまりは、それほど人手に事欠いているのだろう。
「じゃあ、窓の外とカウンターの所に貼っておきますね」
「ありがとうございます!」
ルディアがそう言いながら貼り紙を受け取ると、女性はまさに輝くような笑顔で礼を述べた。
女が別の店へと駆けて行くのを見送ってから、ルディアはテープを持ってきてカウンターに貼り紙を貼り付ける。
果たして、我が儘少年のお守りを引き受けたいという奇特な人間は現れるのだろうか。
少女は一人、そっとため息をつきながら、呼ばれたオーダーに対応すべく店内を駆け回るのだった。
◇ 1 ◇
彼が情報を仕入れたのは、日が上がって暫く経ってからのことだった。朝日を存分に浴びて伸びをするのと同時、鳥の羽ばたきが聞こえて空を仰ぐ。
やってきた純白の鳥が彼へと伝えたのは、青年の姉と慕う人物が、この日とある邸へ赴いたことだった。
「兄さんが、丘の上の邸で使用人を? へぇ、緊急募集か」
まるで鳥が彼に話しかけてでもいるように、青年はふんふんと相槌を打つ。やがて鳥が羽ばたいて行くのを見送りながら、彼は鳥がやってきた時に口にくわえていた貼り紙を見た。
そこには邸の写る小さな写真と、幾つかの要点が綴られた文面。それによれば、とにかく人手が欲しいようで、年齢性別、更には種族すらも不問、と追記されている。僅かばかり眉を上げた青年は、ニッと笑って早速邸を目指した。
歩いても、そう遠くはない距離だ。程なく辿り着いた邸は派手でなくとも圧倒的で、長くここに建っているのだろうと想像に易い。
応接メイドに日雇い使用人の募集を見て来た旨を告げれば、今にも諸手を挙げて喜びそうな声の弾みようが伝わってきた。
通された応接間で応対に出てきたのは、燕尾服を着こなした痩身の老執事だ。
「お初にお目にかかります、わたくし、このクレスフォード邸を取り仕切る執事のメイソンと申します」
「チコです。今朝、こちらの出された貼り紙を拝見して参りました」
貼り紙を見せると、老執事は心なし嬉しそうに目尻を緩ませた。
「現在、当邸は少々人手が足りておりません。故に、少々大変な仕事もお任せすることとなりますが、よろしいでしょうか」
執事が尋ねると、チコと名乗った青年は軽く頷いた。作業の内容を聞き、適職に配置されるのだろうと踏んでいた彼だったが、次に老執事の口から出た言葉には、思わず頓狂な声を上げそうになった。
「見たところ、貴方は男性のようですね」
「それが、何か?」
「いえ、大変結構。それでは貴方には、今日一日、坊ちゃまの侍従として働いて頂きます」
「……え? ちょ、ちょちょちょっと待って侍従? そういうのって普通、きちんとしたなるものですよね」
思わず目を剥いたチコは、座っていたソファから身を乗り出した。食い入るように窺う執事の顔は、穏やかな表情を崩さない。
考えていることの知れない老執事は、驚愕に彩られた青年を見て悠々と告げた。
「ええ、はい。勿論坊ちゃまにも、幼い頃より付き従う侍従が一人おいでです。しかしその侍従が、つい先日体調を崩してしまいまして」
曰く、侍従本人は平気だと食い下がったのだが、万が一にも邸の子息へ粗相があってはならないと、執事の采配により休息を余儀なくされたそうだ。
つまり、チコは代理侍従となるのだが。
「侍従って、何をすればいいんですか。ボク、貴族の侍従なんて仕事したことないですよ」
いまだしっくりしない調子で尋ねた青年に、老執事は目元へ刻まれた皺を一層深くして笑った。
「そう難しいことはありませんよ。アンソニア様の身の回りの世話をしたり、部屋へ運ばれる備品のチェックなどです。それから……ああ、そうですね。もしも坊ちゃまが行き過ぎた行動に出た時は、お諫めすることも必要となりましょう」
なぁに、それほど重役ではございません。
飄々と笑って、老執事は言った。
それなら割と楽な職種なのだろう。アンソニアという少年を知らないこの時のチコは、そんなことを考えて引き受けたのだった。
◇ 2 ◇
「……って言ってたのに、これは一体どういうことだよっ!」
侍従相応の制服に身を包んだチコは、怒り心頭の様子で廊下を歩いていた。地響きでも怒りそうな大股の歩みは、しっかりと目的地へ向かっている。
ことの起こりは数時間ほど前。問題の少年と対面した時のことだった。
少年は酷く冷めた目で、チコの自己紹介を煙たそうに聞いていた。元より他人に特別干渉をしないチコだ。相手が自分をどう思っていようと、それはそれとして上辺の付き合いをすることは簡単である。
しかし今回は、仕事として引き受けているのだ。読んで字の如くアンソニアに付き従わなければならない青年は、少年がどこへ行こうともその後ろ姿を見逃すことはなかった。
何度かチコの目を盗んでどこかへ行こうとしていたようだったが、その度にチコは少年の後を追いかけたのだった。
たとえば、「リボンタイを変えたいからこの服に合うタイを選んでよ」と言われれば、少し目を離した隙にドレッサールームから出て行く少年の姿があったし、「この花、この部屋には似合わないよね。今すぐ取り替えのメイドを呼んできて」と言われれば、少年が勝手に部屋を抜け出さないようにすぐ側の部屋の控えの使用人を呼んだ。
それが数回繰り返された後に、少年が告げたのは、これまた他愛もない我が儘だった。
『そうだ。あなた、人に張り付いてるだけが脳じゃないよね。お使いくらいはできるでしょ? ピエレットのクッキー買ってきてよ』
少年の言うことには、彼の気に入りの菓子店へ行って、今すぐにクッキーを買ってこいとのことだった。往復三十分程度の道程だったが、これも仕事の内だと割り切ったチコは、金子を預かり街へと向かった。
一日限定数しか売られないというクッキーを、死闘と大差ない激戦区から勝ち取り、帰ってきた青年だったが……。
「部屋に居ないって、もしかしてボク、撒かれたってこと!?」
怒りのままに部屋を飛び出したチコは、手当たり次第に近くの部屋を探して回っているのが現状だ。
扉をノックし、開いては誰も居ない部屋を後にする。
すれ違う他の使用人達に聞いて回って、漸く一階西側で目撃したとの情報を得た所である。
荒々しくドアを開けては、閉じるを繰り返していた時だった。
「チコ?」
静かな声音が、突如彼の名を呼んだ。耳に馴染んだその声に、チコは反射的に振り返る。
そこには、彼がこの邸に来るべくして来た理由となる人物が居た。
黒漆の髪に、夜色の瞳が覗く人影。浮かぶ微笑には、光よりも闇の気配が寄り添うその人は。
「兄さん!」
チコが驚いた様子でとある一室から出てくるトリ・アマグに駆け寄った。男性のような体付きをした、女性のような雰囲気の漂う人物だ。その手には、妙に小難しそうなタイトルの本が山と抱えられている。
彼女がここで臨時使用人として、今日一日働いていることを元より知っていたチコである。
会えればいいとは思っていた青年は、思いもかけない遭遇に目を輝かせた。
「まさかキミに会えるとは思いませんでした。こんな所で、どうしたんですか」
「兄さんがここに居るって聞いたから、ボクも今日一日臨時使用人として働いてみようかなって思って来たんだよ。それで、今はこの家の坊ちゃんの侍従をやってるんだ。でも撒かれて。さっきから捜してるんだけど……兄さん、知らない?」
首を傾いだトリへ、チコはこれまでの経緯を簡潔に話した。するとトリは薄く笑って、本を押さえる手で階上を指差す。
「つい先程、部屋へ戻りましたよ」
「ウソ!? まったく、あっちに行ったりこっちに行ったりちょろちょろと!」
歯噛みしながら踵を返して、チコは気もそぞろにトリへ別れを告げて駆け出した。
◇ 3 ◇
元来た道を辿って、ノックもなしに開いた少年の部屋には、案の定探していた少年の姿があった。
「一体どこに寄り道してたの。まぁ、クッキーはきちんと買って来られたみたいだし、良いけどね。早く紅茶を淹れてくれる?」
彼は偉そうにソファへ沈み込んで、テーブルに置かれたクッキーの封を切っている。
わざわざ方々を走り回ったチコは、脱力と共に扉口へと座り込む。子供の我が儘に振り回されている自分が、何故だか急に馬鹿らしく思えてきたのだ。
(あくまでも、相手は子供だよ)
チコは自分にそう言い聞かせ、少年に向き直る。
「まったく、お坊ちゃんは紅茶の一つも淹れられないの?」
小憎たらしい子供には、少々の皮肉を交えて仕返しをしつつ、青年はテキパキとお茶の準備をこなした。
茶葉の量も蒸らし時間もきっちり計った筈なのに、少年は口を付けた瞬間に顔をしかめてカップを置く。
「不味いんだけど。紅茶の一つも淹れられないのはあなたの方じゃない」
「キミさ、友達いないでしょ」
少年のため息にため息で返すと、アンソニアは突然押し黙ってチコへ憤りの視線を投げた。図星だったのだろう。彼の瞳の中にあるのは、屈辱と羞恥の炎だ。
ソリが合わない。目通りしたその時から、青年は直感的にそう感じている。
それでも仕事だからと押さえ込んできた怒りは、不意に自分の口から漏れた言葉を盾にした。
「謝りませんよ。ボクはメイソンさんから、キミが行き過ぎた行動に出たら制してくれって言われてるもん。これも仕事の内だし」
敬語と素が混じる言葉遣いは、恐らく義務感と少なからずの不快感が生んだものだった。
――だが。
「……仕事、仕事、仕事。大人はみんなそればかりだ。巧妙に騙して、嫌いな人間へ笑顔を向ける」
微かに。ほんの微かに吐き出されるよう聞こえた声は、落胆の色を灯して部屋の中に染み込んだ。
まるで雨水が地へ染み込むよう、自然に落ちてきた言葉は、けれどチコの中で、意味を理解する前に別の感情へと変わる。
今まで感じていた、少年への怒りではなくて。
「それじゃあ、独りよがりじゃない」
青年は、呆然とそう呟いた。
そう、怒りを通り越した呆れの感情が、チコの中でどんどん肥大していく。
我が儘ばかりを言えば、人が離れていくのは当然で。
仕事以外に、情を寄せようとは思わない。仕える者がこれでは、自分でなくてもそう思うだろう。
「呆れた坊ちゃんだよね。言ってることとやってることが矛盾してる。もういいや、ボクは降りるよ」
「降りるって……あなた、たった今自分で仕事だって言ったばかりじゃ」
「付き合ってらんないもん」
すっぱりとそう言い置いて、青年は踵を返した。臨時侍従の証だと、メイソンから渡されたタイを毟り取りながら部屋を出る。
興醒めしたとでも言いたげなチコの後ろ姿を、無感情な瞳で見つめていた少年のことなど、彼は知る由もなかった。
◇ 4 ◇
綺麗に畳んだ制服を差し出すチコから、それを受け取ったメイソンは苦笑しながら口を開いた。
「然様で。やはり坊ちゃまの心は動かせませんでしたか」
やはり、という部分が引っかかりはしたが、チコは最早それすらも煩わしそうに返事を返す。
「坊ちゃんにいびられて使用人が大量に辞めたって? 今ならその使用人達の気持ち、少しはわかるかもね」
彼女達は多分、仕事がつらくて辞めたのではない。
あの場所に居ることで、無意味な日々を送っている気がしたのかもしれない。
だってあの少年からは、感謝の念が伝わってこないから。
(まぁ、上辺だけの感謝だって、無意味なものだとは思うけどさ)
言外に「もう沢山だ」と告げた青年は、寂しそうな笑みを浮かべた老執事を見据えた。彼が何故それほどに、あの少年を擁護するのかがわからなかったからだ。
けれど考えたところで、それは無意味な行動でしかないだろう、とチコは思う。打ち切られた思考は、しかしメイソンの呟きによって尚も彼の中にあり続けた。
「あの方は、不器用な方ですね。子供故の矛盾を抱えた、可哀相な方なのですよ。幼い頃から籠の鳥であったあの方は、自らを現す術を持っておられない」
「……他人に興味、ないから」
「――貴方も、難しいお年なのですね」
老執事が、僅かに優しい色味を混ぜて笑った。
その笑みがチコの深層に響くことは決してないが。
何故だか人間であり、自分の何分の一しか生きていないこの老人は、自分よりも遙かに長い年月を生きているのではないかと思ってしまった。
年の功、というのだろうか。伊達に執事をやっていないらしいメイソンは、確かな観察眼を持っていたようだ。
あらゆること――たとえばその言葉の裏だとか、笑顔の綻びを探そうとする訝りだとか――を考えた青年は、しかし結局何も言わないままに踵を返す。
「短い間ですけど、お世話になりました」
儀礼的な挨拶を残して、応接間を出て行こうとするチコに、「あぁ、まだお給金の換算が」と引き留めようとする老執事。青年は「要らない」と一言だけ返して、邸を出た。
結局、楽しそうだと思ったことも束の間。もう二度と、ここへ来ることはないだろうと、振り返った邸の門前で……。
チコは、ふと視界の端に、忙しく飛び回る鳩の群れを見た。
人の邸へ、何羽もの鳩が一ヵ所に集まっているのは珍しい。餌でもやっている者がいるのだろうかと、何気なく視線を遣った先に、彼は居た。
つい先刻、飛び出してきた部屋の主。矛盾を抱えた、未熟な子供。
その子供は横暴で、自分勝手な振る舞いばかりをする癖に、何故だか鳩達は、自らその少年の肩に腕にと止まっていた。
野生の生物は敏感だ。その者が悪意ある者なのか、それとも善意で出来た者なのか、本能的に嗅ぎ分ける。無論、危害を加える者だと判断した場合には、あのように懐くことなどあり得ない。
二階のテラスに次々やって来る鳥達へ、少年が落とすのは寂しげな視線だった。
何故、あのような瞳をするのだろうかと思う。
部屋を抜け出した時も、さっきだって、彼は自ら望んで一人になろうとしていた。それなのに、まるでその瞳は寂しいと叫ぶように訴えている。
本当に、矛盾した人物だ。
奇妙な感覚に眉根を寄せたチコだったが、彼の瞳を遠い昔に何処かで見たような気がして息を呑む。
いつだったか、暗い場所。まるで温もりを乞うように見つめた瞳に……。
「あぁ、そっか」
静かに涙を流しながら、夜に泣いた自分の瞳に似ていた。
人を疑いながら、子供故に上手い世渡り方法さえ覚束ない少年。見ていて苛付いたのは、同族嫌悪に似た感情ともどかしさのせいで。
無意識に漏らした少年の名前に、アンソニアは鳩達へ向けていた視線を眼下へ落とした。
途端、視線がかち合って、少年はハッとしたように息を呑む。
まるで見られたくない所を見られたとでも言うように、慌てて部屋の中へと引っ込もうとしたアンソニアへ、チコは笑いもせずに言葉を投げかけた。
「兄さん以外を好きになることなんてないけどさ、キミがそう生きるって決めたなら、悪くないんじゃないの?」
テラスの向こうまで届くように、青年は声を気持ち張り上げる。
別に少年の矛盾を認めたわけでも、好意を持ったわけでもないけれど、何となく、それだけは言える気がした。
好きじゃないけど、悪くはない。唇に乗せてみれば、その気持ちはすとんと真っ直ぐにチコの中へ落ちてくる。妙に馴染む言葉だった。
彼の一言を耳にしたのか、少年は駆け込んでいく足をすぐに止める。
恐る恐る振り返る少年の様相がおかしくて、チコは思わず笑ってしまった。
それだけ。ただ、それだけだ。
後は手を振ることもなく、未練一つない邸へと、青年は背を向ける。
すべては、長々と続いていく人生の中の些細な一ページだとでも言うように。
◇ Outro ◇
「変な坊ちゃんだったよ」
チコが、盛り場の一角で水を一気に飲み干して言った。
本来の仕事である詩歌を歌う合間、休憩中での会話だった。
彼の言葉に、トリは薄く笑ったまま口を開く。
「変な、ですか」
「うん、変な。でも、子供らしいって言えば、子供らしいのかなぁ」
いつもは快活な青年が、首を捻りながら呟くからだろうか。光の宿らないトリの瞳に、うっすらと興味の色が浮かんだ。
「チコが誰かを気に止めるとは、珍しいですね」
彼女がこぼしてやはり水を煽ると、チコは慌てて首を横に振る。
「まさか! 気に止めるってわけじゃないよ。ただ、兄さんも昨日、あそこで働いてたでしょ?」
だから何となく話題を持ち出したのだと、青年は弁明なのか事実なのかもわからない答えを返した。
彼がどう返そうが、トリにとっては知ったことではないのだろうか。始終微笑んだまま時折頷いて相槌を返したトリは、しかしふと、くつりと思い出し笑いをする。
「いいえ、彼は正常でしたよ。少なくとも、恐怖という感覚はとても」
「え? 兄さん、何か言った?」
「何でもありません」
夜の喧騒に紛れて、俄に呟かれたトリの言葉は、チコの元までは届かなかったらしい。尋ね返した彼へ、トリは今度は首を振って席を立つ。
手にした楽器を持ち上げて、また彼女の出番が始まることを報せる。
「行ってらっしゃい、兄さん」
「ええ、行ってきます」
互いに何事もなかったかのように返して、チコはトリを見送った。
そうしてその日の記憶もまた、幾百幾万の月日の中に消えていくのだろう。
◇ Fine ◇
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3619 / トリ・アマグ / 無性 / 28歳 / 歌姫/吟遊詩人】
【3679 / チコ / 男性 / 22歳 / 歌姫/吟遊詩人】
【NPC / アンソニア・クレスフォード / 男性 / 15歳 / 貴族】
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■ ライター通信 ■
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トリ・アマグ様、チコ様。
初めまして、こんにちは。
この度は、「緊急募集、使用人よ集え!」への参加依頼ありがとうございます。
両PC様とも個性のあるキャラクターで、参加NPCとどう絡ませようかと構成に熱を入れました。
別々のエンカウントでも可ということでしたが、折角の面識のあるPC様同士とのことで、どこかで絡ませたく、結果こういった形の作品となりました。
一日の中で、それぞれ微妙にずれたり重なったりした時間軸での、個別の物語となっております。
今回は終章が同じで、それ以外を個別文章にする、という初の試みでしたので、筆者自身、始終ドキドキしながら書かせて頂きました。
以下個別コメントとなります。
チコ様。
お兄さん(お姉さん)大好き! な設定が実に美味しく、これは絶対作中で絡ませたいな、とこの物語の中でも二人の会話シーンを盛り込ませて頂きました。
プレイングに「同族嫌悪的なものが〜」と書かれていたので、アンソニアとはちょっと刺々しいやり取りになってしまったかな、と思いますが、万人が万人、気に掛けてくれる人ばかりじゃないんだよ! という、再確認(作者にとってもNPCにとっても)のできる内容になった気がします。
それでは、再びのご縁があることを願って、ライター通信を締めさせて頂きます。
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