<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
『火星人がやってくる!?』
○オープニング
小麦を栽培して生活をしているのどかな田舎の村が、大騒ぎになっていた。
村から来た男の話では、大きな丸い円盤のような飛行物体に乗った火星人が村へやってきて、何かをしようとしているらしい。火星人が何を企んでいるかは不明だが、この事件で小さな村は大騒ぎ。
火星人とコンタクトをし、彼らが何をしようとしているかを明かし、村に混乱を与えない様、火星人たちに伝えるのだ。
そこはとてものどかな村であった。村の土地の大部分を小麦畑が占めており、家と家の間が何十メートルも離れており、たまに密集した住宅地があるぐらいだ。あちこちで酪農がされており、そばの農園では可愛らしい子羊が台地を駆け回っていた。
それだけを見れば、この村で火星人による騒ぎが起こっているとはとうてい、思えないのだが。
3人の冒険者達は、村の青年の案内のもと、飛行物体が残していったという、丸型の痕跡のある畑へと向かっているところであった。
「ミステリーサークル?火星人?面白そう〜♪私やります、頑張って火星人さんとコンタクトするよっ!」
アルメリア・マリティア(あるめりあ・まりてぃあ)は、まわりの田園風景を見回しながら好奇心に満ちた表情をしていた。
元々は森の中でひっそりと暮らす種族の彼女だが、外の世界への好奇心が抑えきれず、外の世界へと飛び出した。
そんな彼女にとって、明らかにソーンの世界とかけ離れた存在である火星人は、まさに好奇心の的であった。
火星人とはどんな種族なのだろう。タコに似た生き物と聞いているから、美形のイケメンお兄さんが空飛ぶ円盤から降りてくる事はないだろうが、この田舎の村の危機を救ったら、村人のイケメン男子が自分に惚れてくれて、そしてそれがきっかけで付き合い始めて、そしてそして‥‥アルメリアの妄想は噴水の様に頭の中で溢れかえっていた。
「この村の名物は、やっぱり小麦を使ったビールとかパンかな。私の姉に、お土産を買っていきたくて。ね、ジェイドックさんどうかなあ?」
「そうだな、後で土産屋を見てみるといい。さっき、小さな売店があったからな」
アルメリアとは対照的に、ジェイドック・ハーヴェイ(じぇいどっく・はーう゛ぇい)は静かに落ち着いた表情で答えた。
ジェイドックは昔聞いたことがある話を思い出していた。それは、ふとした弾みで火星人と争いになる話で、人類が大パニックに陥ってしまうのだが、この村にやってくるという火星人はどうなのだろう。ソーンの世界の住人に友好的なのか、それとも、自分達をバカにし支配しようと目論んで来るのか。実際にコンタクトしてみなければわからないだろう。
「調査は構わないのだがその前に一つ、約束してくれないか?」
案内の青年に、ジェイドックは落ち着いた声で話しかけた。
「人間しかいない小さな村だ。俺のことを珍しがるのは仕方がないと思う。姿形は俺も人のことは言えない。それでも俺はこうして言葉を交わし、意志を伝えられる」
この村の住人は人間だけしかおらず、ジェイドックの様な獣人は珍奇の目で見られてしまう。案内人の青年はエルザードに来ただけあり、そこまでジェイドックの姿に驚いてはいなかった様だが、村に着いた途端、ジェイドックは自分に村人の視線が集中しているのをすぐに感じ取っていたのであった。
「それは火星人達も同じだ。火星人達に悪意がない場合は、無闇に攻撃しないこと。彼らにだって、何か考えがあって村にやってきたのかもしれない。いいな?決して、早まって攻撃をしてはいけない。取り返しのつかない事になってからでは遅い」
「肝に銘じますよ。村人にそう言っておきますから」
案内人の青年は、真面目な顔でジェイドックに返事をした。
「まさか剣と魔法の世界に来て、火星人に会うとは思ってなかったぞ」
湖泉・遼介(こいずみ・りょうすけ)は、あたりの麦畑を見回し、どこかに火星人が潜んでいないかと探し回っていた。
今までいくつもの依頼を受け、解決に導いた遼介であったが、今回は随分と珍しい依頼だと、助けてあげなければ、という気持ちよりも火星人への興味の方が強くなり、この依頼への参加を表明したのであった。
「皆さん、よくそんなに落ち着いていられますね。未知の生き物がやってくるというのに」
依頼人の青年は、まったく怯えた様子を見せない3人に不思議そうな顔を浮かべていた。
ジェイドック、アルメリア、遼介の3人は過去にも一緒に依頼を受けており、お互いの能力も多少はわかっているつもりであった。駆け出しの冒険者ではないのだから、依頼人と一緒になって怯えることもないのだが、返って田舎ののんびりした人々にはそれが異様に見えてしまうのかもしれない。
「本当に何もない村だね。でもどこか懐かしいような気がするのは何でだろ?」
アルメリアが田舎道を歩きながら呟いた。
「アルメリアの故郷は、こんな感じなのか?」
遼介がアルメリアに疑問を投げかける。
「うんと、森の中だしちょっと違うけど。でも、こういう風景ってきっと、人を和ませる何かがあるんだよ」
「そういうもんなのか?」
アルメリアの言葉に、遼介が首をかしげた。
「そういうものなんだよ。あ。ね!こういう所には擦れてない素直系イケメンと、よそ者に冷たい頑固系のイケメンがいたりしない!?」
「何だよ、それ」
乙女の妄想にふけっているアルメリアに、遼介は眉を寄せた。
「よそものに親切に接してくれるイケメンは、私達に最初から友好的なの。でも、冷たいイケメンは最初は冷たいんだけど、私達のことを理解する様になってからは、ニヒルな笑みを見せて協力してくれる様になってくれるのよ」
「その火星人を目撃した者は、彼らのどんな行動を目撃したんだ?」
乙女妄想にふけっていうアルメリアを横目で見つつ、ジェイドックは依頼人に火星人の情報を尋ねた。
「まわりを観察し、すぐにまた円盤で遠ざかっていったそうです。だから、何か事件が起こったわけではないのですが。ほら、あそこです」
依頼人が指を指し示した。そこは麦畑だが数人の村人が集まっており、何かを眺めている様であった。
「うわ、本当に丸いあとだ!」
村人達が集まっているところへ一番に駆け寄った遼介が、大きな声を上げた。
「これが、そのミステリーサークルか」
ジェイドックは麦畑の前に立った。麦畑の中に、丸いくぼみの様なあとがくっきりと残されている。その部分は麦が押し倒されて丸い形を作っているのだが、どう見てもこの麦の上に何かが残っていたに違いない。やはり、その謎の円盤がここへ来ていたのだろう。
「また同じ場所に現れるとは限りませんが」
「ふむ。近場の麦畑に潜んで、火星人が来るのを待つべきか」
ジェイドックはどう火星人とコンタクトをしようか、この麦畑の丸いくぼみを見ながら、考えをめぐらせていた。
「このあたりでいいんじゃない?どこに来るかわからないから、どこかで見張ってないといけないし。夜になったら、このあたりで空を眺めていればそのうち来るはず!」
アルメリアも麦畑を指し示し、ジェイドックの言葉に意見を沿えた。
「そうだなあ。それしか方法はないよな。んじゃ、夜になるのを待つか?」
依頼人にそう言い、遼介は目の前にある丸い後をじっくりと眺めた。ミステリーサークル、と呼んでいるそうである。確かに、いきなりこんなものが出来ていたら、誰でも驚くだろう。
「ところでさ、依頼人の兄ちゃん。俺、昔火星人の話を聞いたことあるんだ」
「どんな話なんですか?」
かつて本や映画などで、火星人の話を見たことがあった。今回の参考になりはしないかと、遼介はその話を頭の中で思い出そうとしていた。
「火星人が人類の前にやってくるんだ。で、人々はその火星人の姿に驚きつつも、友好的に接して、交流をしようとするんだ」
うんうん、と依頼人は遼介の話の続きを待っていた。
「で、火星人が人々の前に現れるんだ。沢山の観衆の前に。それで」
ここまで話したところで、遼介ははっと息を呑んだ。
遼介が知っているその話の続きは、人類と火星人との交流が築き上げられようと思われた瞬間、火星人が光線を発射する銃を連発し、次々と人類をの命を奪い、火星人の侵略が始まる、という話であった。
その話のラストは、無力と思われた人間が火星人の弱点を着き、ついに火星人をやっつける、という話なのであるが。それを今、本当に火星人がやってくるこの村で、話すわけにはいなかった。そんな話をすれば、この依頼人はさらに怯えてしまうに違いない。
「でもまあ、そんな悪い奴らじゃないよ!」
そう言って遼介は笑って誤魔化した。
「しかし、その火星ってどこにあるんだろうな。俺らの住んでいる世界ってさあ、確か」
「火星人がやってくるのは夜だったな。今のうちに、出来ることを準備しておくのがいいだろう」
ジェイドックが小麦畑から、アルメリアと遼介の方へ視線を移し言った。
「じゃ、俺、牛乳を集めてくる」
「牛乳?貴方が飲むの?」
アルメリアが首をかしげる。
「そうじゃない、やつらは牛乳で酔っ払うって聞いたことがあるんだ。本当かどうかはわからないけど。無理やり飲ませるわけじゃないけど、あった方がいいかもしれない」
「じゃ、私も準備に行くっ!」
やたらに顔を輝かせながら、アルメリアが飛び跳ねた。
「毛布を2人分。夜まで待機しているのだから、冷えないように」
「聞いていいか?何で2人分なんだ?俺達は3人では」
不思議そうな表情でジェイドックが聞き返す。
「やだな、決まっているじゃない。イケメンお兄さんと私の分よ。2人で星の降る夜空を眺めて、素敵な晩を過ごすの」
アルメリアが空を見上げながら瞳を輝かせているので、ジェイドックは何と答えて言いかわからず、依頼人に話を振った。
「それでは、後は俺達で調査を続ける。今夜は畑の方に、人が近づかないようにしておいてくれ。万一、誰かが巻き込まれてはいけないからな」
「わかりました」
依頼人は小さく頷くと、3人に頭を軽く下げて村の住居の方へと戻っていった。
「あ、待ってくれ、俺、売店へ行く!」
遼介が後を追うと、さらにそこにアルメリアが続いた。
「私も毛布買わなきゃ!買うのは1枚にするわ。オケメンと1枚を2人で使う方が、密着出来てナイスよ!」
「イケメンよりも火星人の方の準備を、しないといけないと思うがなあ」
小走りにかけていくアルメリアの後姿を見て、ジェイドックが1人呟いた。
3人は、このあたりでも一番大きな畑の脇ある小屋に隠れ、待機をしていた。
ジェイドックは小屋から顔を覗かせ、空の様子を伺っている。アルメリアはイケメンを探したのだが、結局見つからなかったので、がっかりしながら1人で毛布に包まっていた。遼介は牛乳を樽に詰めて部屋においておき、今は腹ごしらえのサンドイッチを口にしていた。
「今夜は現れないか?」
田舎である為、星空はとても住んでおり、エルザード等では決して見られない小さな星も、肉眼で見えていた。
「綺麗な星。イケメンと愛を語りながら、見たかったのに」
「だから、今はイケメンよりも火星人だろー!」
まだ諦めていないアルメリアに、遼介がそことなく突っ込みをいれる。
「火星人よりも、イケメンを探す方が大変なのよ?」
アルメリアも遼介に反論をする。
「あまり騒がしくするな。火星人がもし今来たら」
「ジェイドックさん、あの星、動いてない?」
アルメリアと遼介のやりとりに言葉を投げかけたジェイドックは、アルメリアが指差す方向に顔を向けた。
星の間に、わずかに動いている星があった。それはゆらゆらと揺れている様であったが、だんだんと光が強くなっていくのを、3人ははっきりと確認した。
「まさか!」
驚きの表情で、アルメリアが声を上げる。
「火星人が、やってきた!」
遼介はさらに大きな声を上げた。
「ついに来たか。皆、落ち着いてな」
ジェイドックは小さく息を吸い込むと、その光の動きをじっと視界に焼き付けた。光はみるみるうちに大きくなり、夜空に丸くて光る、不思議な物体が出現した。
「わあ、すげえ!」
遼介が一歩踏み出し、光の円盤が麦畑に降りてくる様をまじまじと見つめていた。機械音にも似た音が、あたり一面に響いていた。3人は小屋の中で待機し、円盤の動きを追っていた。
「手を振ってみようか。こっちが友好的だって思ってくれるかも!」
「いや、待ってくれ。様子を見た方がいい。それに、あの大きな円盤に潰されたら、ひとたまりもないぞ。念を入れて行動した方がいいからな」
小屋から出ようとしていたアルメリアを、ジェイドックが引き止める。やがて、光の円盤は畑の上に降り立って、機械音もしなくなった。円盤は麦畑の上に降りて動かなくなっていた。
「止まった。どうするつもりだ」
円盤の動きを警戒しながら、ジェイドックが小声で囁く。
「火星人達が、降りてくるかもしれない」
円盤の壁面に急に穴が開いたかと思うと、その中から、たこの様な生物が姿を見せた。全身赤色のその生物は、マッシュルームのような形の頭部を持ち、頭の下から細い触手が幾本も生えており、体に何かの機械を装着していた。その機械は常に作動している様であったが、円盤から出てきた全員が身に着けているので、衣服みたいなものなのかもしれない。
「す、すごい!」
アルメリアはようやく言葉が口から出た。
見たことない生物が、今目の前にいるのだ。ソーンの世界で見るどこ生物よりも奇怪な姿をしており、しかも高度な文明を持っているというのだ。
「頭がすげえ!頭良さそうだよな。何を話しているんだろう」
遼介は恐怖心よりも好奇心が勝り、すぐに火星人に話しかけてみたい衝動にかられていた。
火星人たちはお互いに何かを伝え合っている様であったが、3人のいる小屋には少し距離があるので、何を話しているかまでは、わからなかった。
やがて、火星人の1人が村の中心部へと歩き出した。触手をくねくねと動かして移動している様子は、何とも奇妙であった。
「あ、まずい、このままだと村の方へいっちゃうぞ!」
「よし、行こう。やつらとコンタクトするんだ」
慌てている遼介を落ち着かせるかのように、ジェイドックはゆっくり小屋のベンチから立ち上がった。
「皆、行くぞ。くれぐれも、やつらに警戒させるような事はしないように」
ジェイドックの言葉に、アルメリアと遼介は同時に頷いた。
3人は警戒されないよう武器を隠し小麦畑に出て、火星人の方へと近づいて行った。円盤は近くで見るとより大きく見えて、村の闇夜の中でもまるで大きな月でも置いたかのように、ぼんやりと輝いていた。一体、どの様な仕組みになっているのだろうか。火星人の1人が振り向き、こちらを向いた。
「こ、これは?」
ジェイドック、遼介、アルメリアの3人は、急に頭の中に勝手に言葉を叩き込まれたかの様な感覚を覚えた。
「『お前達はこの土地の者か?』だって。わあ、凄い!頭の中に言葉が浮かんでくる!」
アルメリアが感心した様な顔を見せた。3人の頭の中に、言葉が勝手に入ってくるのである。今までにない、不思議な感覚であった。
「もしかしてこれは、テレパシーというやつか?やつらは、テレパシーで会話をするかもしれない」
それでも落ち着いた態度で、ジェイドックはどう行動しようかと慎重になっていた。今見ている限り、すぐに戦いを仕掛けてくるとも限らないが、油断は禁物だ。
それに、余計なことを考えてはならない。テレパシーを使う相手なら、こちらに思考も読み取ってしまう可能性があるからだ。
「我々はよその町の者だ。村人に依頼され、お前達に会いに来た」
ジェイドックは真剣な顔つきで言葉を頭に浮かべた。
「火星人さんの中に、イケメンっている?」
何故か、アルメリアの頭の中にそんな言葉が浮かんでしまった。うっかり、本音が出たのだろうが、思考を勝手に読まれてしまうのは、少々問題があるものだ。
「牛乳たくさんあるけど、飲まないか?」
遼介は遼介で、また別のことをうっかり考えてしまった。すると、さらに火星人の言葉が遼介の頭に叩き込まれてきた。
「『牛乳、飲みたい』だって。って、ええ、まさか!」
遼介の方へ、火星人の1人がやってくる。遼介が小屋から牛乳を持ち出し、それを火星人に渡すと、火星人は一気にそれを飲み、赤い体がさらに赤くなっていった。
「本当に酔っ払うんだな」
ふらふらと酔っ払っている火星人を見つめ、今まで火星人に押され気味だった遼介は安心したような表情を浮かべた。
「それで、お前達の目的は何だ?村人がお前達の事を恐れている」
ジェイドックがそう尋ねると、再び頭に言葉が入ってきた。
「『我らは、この村を観光しに来ているだけだ』だと?つまり、観光しにきてただけなのか?」
ジェイドックは拍子抜けした。確かに、火星人たちはこのあたりを探索するだけで、他に何かをしようとはしていない。
「観光なの?この村の人たちは、貴方達を怖がっている様だったけど」
今度はアルメリアが、火星人へ尋ねた。
「『お前達はこの土地の者ではないのか。我々はこの土地が大変気に入り、観光したいと思い、こうしてやってきたのだ。村人はわれらを怖がっている様だが、何もしていない』何だか、悪い人たちではなさそうね」
アルメリアが笑顔を見せた。
「イケメンはいなかったけど、何とかお友達になれそうじゃない?」
火星人は一歩3人へ近づいてきた。それはどこか、好意的な感じにも見えた。
「『我々はこの土地の様に、美しい緑に憧れている。我々の住む場所にはこのようなところはないからだ。しかし、我々が近づこうとすると、村人は怖がって逃げてしまうのだ』か。ああ、そうか。つまり、村人が勝手に怖がっていただけなんだな」
ジェイドックはようやく理解した。つまり、この火星人は単に観光でこの村へ来ていただけなのだが、他の生物を受け入れない村人が勝手に彼らのことを勘違いをし、騒ぎを大きくしてしまったのだ。
「言いたいことはわかる。だが、ここは村人達の土地であり、ここにあるものは全て村人達のもの。扱いに注意してほしい。お互い様だがな」
「村人のためだ、よそへいってくれない?」
遼介もジェイドックに続けてテレパシーを送った。会話を重ねていくうちに、うまく理解しあえるかもしれないと、ジェイドックは思っていた。火星人たちはお互いに顔を合わせていたが、やがて3人の頭に同時に語りかけてきた。
「『この村の者が怯えているなら仕方があるまい。よそへいくことにする。だが、その前に頼みたいことがある』か。何だろうな」
「せっかくの観光するのを、妨げてしまったんだもの。何でも聞いてあげましょうよ!」
アルメリアはこの時でも明るく元気に返事をした。
「きっとあいつら、頭がいいし思考がわかるから、俺達が何を話そうとしていたかすぐにわかったんだろうな」
遼介は村の畑のわきの道を歩いていた。静まり返った村に出た月は、やたらに明るく感じた。
「村人に言えば、火星人を受け入れたんじゃないかな?何だか、ちょっと気の毒よ」
アルメリアはそう言って、大きな月を見上げた。
「他種族がなかなか受け入れられない村だからな。火星人たちは本当に観光目的だったんだろうが、こういう村での受け入れは難しいと思う」
ジェイドックも空を見上げた。
すでにあの光る円盤はいない。火星人たちの最後の頼み、牛乳を大量に積み込み、どこかへ飛んでいってしまった。彼らは、この村よりももっと素晴らしい観光地を、見つけただろうか。
「俺も少々気の毒だと思ったが、今後のためだろうな。村と火星人たちの間で問題があってからではな。もちろん、どんな種族でも受け入れるのが理想だが、現実はそうもいかないだろうから」
火星人たちも、この村では歓迎されないことを理解したのだろう。この村では受け入れられなかったが、他のところでもっと楽しい思い出を作ってもらいたいと、思わずにはいられない。
「あんなに友好的なやつらなら、光線銃頼めばよかったかなあ」
「武器を貰いたいなんて言ったら、きっと乱暴な人だと思われるよ。私なら、イケメンお兄さんをくれる様に頼むけどね?」
どっちもどっちな事を言う2人の様子がどこかコミカルで楽しく、ジェイドックはようやく笑顔を見せた。
自分達が村で恐れられていることを知り、すぐに引いていった火星人たちは、村人達よりも紳士的であるのかもしれない。その心は姿の問題ではないのだと、今回の件で学んだのであった。
次に会った時は、友人になれるかもしれない。丸い円盤が消えた星空を眺め、3人はそう思ったのだった。(終)
◆登場人物◇
【2948/ジェイドック・ハーヴェイ/男性性/25/賞金稼ぎ】
【1856/湖泉・遼介/男性/15/ヴィジョン使い・武道家】
【3557/アルメリア・マリティア/女性性/17/冒険者】
◆ライター通信◇
アルメリア様
初めまして。発注有難うございます。WRの朝霧です。
アルメリアさんは、何と言ってもイケメンお兄さんだったので、今回のシナリオではかなりイケメンという言葉を入れてみました。アルメリアさんのどこか可愛らしい雰囲気が出ていればいいな、と思っています。
今回は火星人達が出て行ってしまいましたが、次回は火星人との交流、なんていう話も面白いかもしれませんね。
それでは、どうもありがとうございました。
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