<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


いつか咲き誇る、蕾のために
 ジュディ・マクドガルは自室の部屋の明かりを消して、ベッドに膝をつき、開け放った窓から顔を出していた。心地良く冷たい夜風がジュディの前髪を揺らす。今夜は月が出ていない。空ではたくさんの星がキラキラと瞬いていた。どこか遠くからフクロウの鳴き声が聞こえた。なんとなく不気味だ。
 風も冷たくなってきたし、そろそろ窓を閉めようかな。
 そう思った時、コンコンとドアがノックされる音が聞こえた。
 ジュディはドアの方を振り返る。もう寝る時間なのに、誰だろう。ジュディは「はあい」と返事をする。
「私よ」
 その声はジュディの母であるクレア・マクドガルのものだった。
「お母様?」
 ジュディはベッドから降りると、部屋の明かりをつけた。ドアに向かう。
 ドアを開けるとそこには母の姿があった。
「お母様、どうしたの?私もう寝るところなんだけど」
 ジュディはクレアを見上げて、不思議そうに首を傾げた。
「お話があるの」
 クレアが言う。凛とした声だった。ジュディは不思議に思いながらもクレアを部屋に招き入れた。
 クレアはジュディのベッドに腰掛けた。ジュディにも隣に座るように促した。ジュディは言われるままにベッドに座り、クレアの顔を覗き込むようにした。
「お話ってなあに?」
「ジュディ、あなたはもう眠ろうとしていたのね」
 ジュディの目をじっと見つめて、クレアが言う。
「そうよ。だって、もうこんな時間だもの」
 規則正しい生活をおくることは大切だ。夜更かしをして朝寝坊するのは“悪い子”なのだと、ジュディはそう思っていた。
「そう」
 クレアは残念そうに言う。
「あなたが私の部屋に来るのを待っていたのに」
 ジュディは無言でクレアの顔を見つめる。もしかして、自分がクレアに何か頼まれ事をしていただろうかと考えてみた。しかし思い当たらない。
 クレアはジュディの目を真っ直ぐに見つめた。そして、静かに続けた。
「今日、花壇の蕾をひとつ駄目にしましたね」
 ジュディはどきりとした。
「隅っこの蕾だから気付かれないと思ったかしら。あなたは蕾を無理やり開こうとして、茎を折ってしまった」
「お母様、見ていたの!?」
 ジュディは昼間、花壇を見に行った。花壇には花の苗がきれいに並んで植えられていたが、まだひとつも花が咲かない。何色の花が咲くのだろう。ジュディは毎日楽しみにしていた。しかしなかなか咲かないので待ちきれなくなってしまったのだ。花の色を確かめたくて、無理に花を開かせようとしたのだ。
 力を入れすぎて茎が折れてしまい慌てたが、周りに人がいないことを確認してその場から逃げ出した。
 ジュディは逃げながら思った。きっと鳥がついばんで折ってしまったと思うだろう。黙っていれば自分がやったなんて気付かれないはず。
 誰にも見られていないと思っていたのに。ジュディは心臓がドキドキしていた。喉が渇いて、うまく言葉が出てこない。
「黙っていれば、自分がやったと気付かれないと思ったのですね」
「・・・・・・」
「ジュディ。答えなさい!」
 クレアは強い口調で言った。ジュディはびくりと肩を震わせた。
「・・・はい」
「花壇にいたずらしたのは悪い事です。でも、それを隠そうとしたことはもっと悪い事なのですよ」
「・・・はい」
 ジュディは頷いた。
 次に自分のすべきことは分かっていた。悪い事をしたら、罰を受けなければいけない。
 ジュディは立ち上がると、ゆっくりとスカートを脱いだ。それから下着も。スカートと下着をたたんで脇に置くと、ジュディは母親の膝の上にうつぶせになった。
 ジュディのお尻を見下ろして、母は何も言わなかった。時計が時を刻むこちこちという音が妙に耳につく。夜の屋敷は静か過ぎる。
 クレアが手を振り上げた。その手が空気を切る音が聞こえた気がした。ジュディはきつく目を瞑る。ばしん、と音がした。クレアが平手でジュディのお尻を叩いたのだ。肉が肉を打つ音が部屋に響く。
 クレアは続けて何度も何度もジュディのお尻を平手で打った。繰り返し。ジュディは涙をこぼして、痛みに耐え続けた。
 罰は通常は50回ほどだったが、この日は倍の100回を過ぎてもまだ終わらなかった。
 ジュディのお尻は真っ赤に腫れ上がっていた。熱を持ち、刺すように痛む。
 何度も腕を振り上げ平手を振り下ろすクレアは当然のことながら体力を消耗していた。しかし彼女は口をぎゅっと結んだまま、娘のお尻を叩き続ける。


 ジュディが何か悪い事や失敗をしてしまったら、夜に罰を受ける事になっている。
 その日の怠惰や失敗を母に告げ、自らお尻を出して母の平手を受ける。懺悔の時間。
 罰は厳しく、痛みは辛いものだった。
 しかしジュディはそれを受け入れなければならない。
 その日課が出来たのにはある理由がある。

 ジュディには、母の厳しさに反発していた頃があった。クレアはジュディが悪さをしなければ優しい母親だったが、ジュディを叱る時はとても厳しかった。言葉で叱るだけではなく、体罰を与えた。ジュディは母に叱られるたびに、激しい痛みと悔しさに涙した。
 厳しすぎる母に反感を持ち、どうして優しくしてくれないのか、私のことが嫌いなんじゃないかと心が揺らいだ。
 しかしある日、ジュディは母の独り言を聞いたのだ。
 1人きりで自室で思い悩んでいたクレア。
 クレアはけしてジュディが嫌いだから厳しい罰を与えているわけではない。ましてや自分のストレス発散のためなどではない。
 憎まれてもいい。恨まれてもいい。それで娘が立派な大人になれるのなら。
 思い悩みながらも、ジュディのために心を鬼にして罰を与えていたのだ。
 そのことを知ったジュディはとても恥ずかしくなった。

 母の愛情を疑うなんて、自分はなんて浅はかで愚かな事をしたのだろう。
 これからは進んで罰を受けよう。
 母の愛情に応えたい。
 自分が今よりもっともっと素晴らしい人間になれるように。
 立派な大人になれるように。


 悪い事をした時は自ら進んで懺悔して、罰を受ける。そう決めたのに。
 ジュディは隠し事をしてしまった。懺悔を怠ったのだ。
 ジュディは罰が怖かった。痛いことが嫌だった。だから悪い事をしたのにそれを隠してしまった。そんなジュディの気持ちをクレアは痛いほど分かっていた。けれどクレアはジュディに罰を与える。それがジュディのためなのだから。


 その夜の罰はたっぷりいつもの倍以上与えられた。
 おしおきが終わり、クレアは手を下ろした。ジュディのお尻は強烈な痛みに震えていた。ジュディのきつく瞑った目から流れ落ちた涙がベッドに染み込んでいた。
 ふと、ジュディは優しく髪を撫でられるのを感じた。驚いて目を開ける。
「ジュディ、よく耐えたわね」
 優しい声。ジュディは体を起こし、母の顔を見た。大好きな母が穏やかに微笑んでいる。
 それを見て、ジュディは再び大粒の涙を流した。クレアはジュディの頭を優しく撫でた。
「お母様」
 ジュディは母の胸に縋り付いた。
「ジュディ、あやまちを犯してしまったら、悔いて反省しなければいけないの。そうしなければあなたは駄目になってしまう。他人の痛みを感じられず、優しさを持たない、寂しい大人になってしまう。私はあなたに幸せになって欲しいの」
 その言葉に、ジュディは何度も頷いた。
「お母様、私、悪い事をしたのにそれを隠すだなんてとんでもない事をしました。お母様に言われなければ私・・・」
「大丈夫よ。あなたが悪い事をしたら、私はいつでも叱ってあげます」
 クレアはジュディをぎゅっと抱きしめた。
「愛しているわ。ジュディ」
 ジュディは母の匂いを、ぬくもりを、胸いっぱいに吸い込んだ。


 次の日ジュディが目を覚ますと、レースのカーテンから陽光が差し込んでいた。鳥のさえずり。木漏れ日。朝が来たのだと感じる。
 ジュディは昨夜泣き腫らした目をこする。
 着替えを済ませてリビングに行くと、クレアがソファに座っていた。
「ジュディ、おはよう」
 クレアは穏やかに微笑んだ。
「おはよう。お母様」
「ジュディ、こちらへ来なさい」
 クレアは立ち上がると、廊下に出た。ジュディは後についていく。
 ジュディが連れて行かれたのは屋敷の広間だった。
「ジュディ、お尻を出しなさい」
 クレアに言われ、ジュディは目を丸くした。
「壁の方を向いて、こちらにお尻を見せなさい」
 ジュディはしばらくの間ためらってもたもたしていたが、ようやく覚悟して、言われるままにお尻を出した。
 お尻は昨夜の罰の名残で、まだ真っ赤になっていた。
「お尻が真っ赤になっているのはどうしてなのか。昨日、自分が何をしたのか。思い出しなさい。そしてよく反省なさい」
 母の厳しい声に、ジュディは頷いた。
「はい。お母様」
 真っ赤になったお尻を見られている恥ずかしさで、足が震えそうだった。
 しかしジュディは母を恨んではいなかった。辛い罰も、愛情を感じられるからこそ耐えられる。
 これがいつか自分自身のためになる。
 罰を受け続けよう。
 母の愛情をたっぷり注がれて、いずれ大輪を咲かせる。
 その日まで。