<東京怪談ノベル(シングル)>


お宝探しは楽じゃない!〜おいでませ、トラップへブン♪

その洞窟には噂があった。
曰く―その洞窟の最奥には隠された埋蔵金がある。
曰く―どこかの盗賊が集めたお宝が眠っている……などなど。
ともかくその奥に莫大な金銀財宝があるのは確かで、名のある冒険者たちが何度も挑みながら敗れてきた洞窟―だった。
なぜ過去形なのか?
それは今まさにそのお宝が眠る最奥の部屋にたどり着いた勇気ある冒険者が二人がいるからである。

「うわ〜ついに手に入るんだ。」
扉の前にたどり着いた冒険者のひとり・ミナヤンは目を細め、ホクホクの笑顔を浮かべて立っていた。
冒険者たちの間で有名になっていた難攻不落の洞窟。
最奥の部屋―この扉の向こうには金銀財宝で埋め尽くされているという話だ。
「金銀財宝、お宝たっぷり……いいな〜夢じゃないよね〜」
「夢はともかく、ここまであった罠を突破したのは誰のお陰か、あんた分かってんの?」
うっとりとするミナヤンを少々引きつったキャビィ・エグゼインの冷ややかな声が現実へと引き戻す。
そう、ここまでたどり着けたのは決してミナヤンひとりの力ではない。
街で誘ったもう一人・この黒曜石のように黒髪をしたやり手の盗賊キャビィの協力があればこそ、である。
「わ、分かってるよ〜あたし一人じゃ絶対に無理だった。キャビィクンがいなきゃ、ここまで来られなかったよ。」
ほんのわずか頬を引き攣らせ、慌てて言い募るミナヤンにキャビィは肩を落とし―やがて楽しそうに瞳を光らせて扉を見つめた。
確かにここまでたどり着くのは並大抵の苦労じゃなかった。
とにかくいたるところに仕掛けが施され、一歩歩くたびにトラップが発動するという手の込み具合。
ここを作ったのが超絶な人間不信の偏屈魔導師という噂はあながちではなく、間違いなく本当だったとミナヤンとキャビィは思い知らされた。

まず入り口。
普通に洞窟に入った瞬間、落とし穴が口を開け、さらにその上から隙間無く木製の杭が振ってきた。
あえて言おう。声を大にして叫ぼう。
「普通じゃない!尋常ではない!!」
ものの見事に声を重ねて絶叫し、息も絶え絶えにミナヤンとキャビィはなんとか外へ逃げ出し、再度入り口周辺を調べ上げた。
この場合、大抵どこかに解除があるはずなのだが見つからない。
さんざん探して、音を上げた二人が腰掛けた岩がべこんと凹み―数秒後、派手な爆音と業火ともに入り口の罠が全て吹き飛んだ。
「なんだこりゃぁぁぁぁぁっ!!」
「うっそぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
呆然と叫ぶキャビィとミナヤンだったが、これで中に入れると意気揚々と踏み込んで―さらなる罠が解除もなしに襲い掛かってきたのはいうまでもない。
あとはまさに罠の天国、罠の楽園。
大岩が針山状態で背後から転がってきて、全力ダッシュ。
そのまま部屋に閉じ込められたと思ったら頭上から多量の水が降り注ぐ。
窒息寸前になりながら、明らかに脆そうな壁をキャビィがぶち破って脱出。
一息つけたと思った次の部屋には床一面に引かれた大量の油。避けようとしただけで火花が飛び、一気に燃え上がる。
わぁわぁ言いながら、ミナヤンが巻き起こした風で火の海を割ってからくも脱出した…とおもったら、今度は着いた先の足場が無く、そのまま急転直下で落ちた。
怒涛の極致を越えた展開に気絶したミナヤンを脇抱えたキャビィが目の前にたまたまあった蔦を掴んだら、その瞬間、次の罠が発動。
ぎらんと目を輝かせた超巨大な蜘蛛に追い掛け回された。
どうにかやけに細長い小部屋に逃げ込んだところ、壁が迫ってくる罠が動き出す。
ちなみに出口は数十メートル先。
ようやく気がついたミナヤンが風の力を使って素晴らしい勢いで滑空し、完全に壁が閉じる前に飛び込んで事なきを得た。
「ど……どこまでふざけてるんだ?ここの洞窟を作ったっていう偏屈魔導師は!!」
「はうぅぅぅぅぅぅ〜ホントに怖かったよ。これ泥棒除けじゃない〜」
とことん生命の危険を無視しまくった凶悪な罠にキャビィは怒りの拳を震わせて、ミナヤンはぐったりと床にへたばってしまう。
ふとある噂を思い出し、ミナヤンは視線をあらぬ方向へ泳がせ、納得した。
なぜなら、ここを作った偏屈魔導師。けっこういい年したご老体でうっかり解除方法を忘れてしまい、しかたなく弟子達を放り込んで、隠したお宝を取りに行かせ―ことごとく失敗したという……らしい。
要するに凝りに凝りまくったら、使えなかった。ついでに弟子達が一斉に去ったとも言われてる。
なんとも間抜けた話だが、今ある危機は冗談無く怖かった。
「弟子達が逃げ出すのも無理ないね。師匠の命令だって、一文の得にもなんないで、こんなおっそろしい目あってまで取りに来るかってんだ。」
「うん、そうだね。あたしも弟子辞めて逃げるな〜でも、お宝はほしいけど。」
「そりゃそうだ。」
確かに危険だ。
ものすご〜く危険で命の危機を何回感じたか分からない。
でも、それでも二人はこの奥に眠ると言われる金銀財宝のお宝が欲しいと思う。
数々の罠を潜り抜けてこその宝探し。これこそ冒険者―否、冒険商人と盗賊である。
「まぁ、何はともあれ最奥のお宝部屋までもう少しみたいだね。」
しばらくしてどうにか体力が戻ったキャビィがわずかに変わった風の流れを感じ、嬉しそうに呟く。
それまで床にへたっていたミナヤンもそれに気付き、ぴくりと身体を動かし―勢いよく立ち上がった。
「ホントにもう少しみたいだね!あたし、ガンバる!」
むんと両手を掲げるが早いか、ミナヤンは残る道は闇の奥へと突き刺さる唯一つの道を駆け出した。
今までの疲れはどこへ行ったんだ、と一瞬問いたくなるキャビィだったが負けじとミナヤンを追いかける。

最後の道はまともだった。
本当にまともだった。
ひたすら真っ直ぐな―されど延々と続く長い、壮絶に長い長い道。
これまで受けてきた罠の数々が嘘のように思えるほど平穏だった。
しかし、ただただ長いだけの道というのは、かなりふざけた罠は無い。
走ること2時間。
魔力と体力を使い果たし、へろへろに成り果てたミナヤンとキャビィがその扉にたどり着き―今に至る。
幾多の冒険者たちを退けてきた洞窟の罠を乗り越えて、見たこともないお宝たちにお目にかかれる。
あっけないほど簡単に扉の鍵を開けたキャビィの手が心なしか震えていた。
歓喜と感動に染まったミナヤンが小さな身体に残った力を精一杯使い、観音開きの扉を押し開けた。

金と銀の入り混じった煌びやかな輝きが扉の隙間から滲み出し、暗い洞窟の道をゆっくりと照らし出す。
これ以上ないくらい目を見開いて、その光景をミナヤンは見た。
無造作に置かれた金貨と銀貨の山、山、山。その上に打ち捨てられたように突き刺さる豪奢な飾りのついた剣に宝冠。
手のひらから零れ落ちそうな大きなルビーにエメラルド。
真珠とサファイアに飾り立てられたダイヤの指輪にネックレス。
まさに夢に見た光景がそこに広がっていた。
「わぁ〜い、お宝だぁ、お宝だぁっ」
「ああっ、これで一生遊んで暮らせるぅ!!」
「すごい、すごい、すごい。これなんて魔法が込められた剣だよ〜ものすごく高く売れそう〜」
「こっちのトパーズ、値打ちもんだ〜あ、これなんてすごく」
金銀財宝で満ち溢れた部屋に思いっきり飛び込んで、喜びまくるミナヤンとキャビィ。
帰りはどうするかなんてすっかり忘れたが、どうにか街に戻り、二人は幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。終わりよければ全てよし。

……なんて、あっさり決まるほど、世の中そんなに甘くはない。
確かに扉を開いた。
それは金銀財宝が眠ると言われる奥の部屋の扉だった。
なのに、喜色満面のミナヤンを出迎えたのはぬらりと輝く乳白色のでっかい牙が四本。
ガチンという派手な音ともに上下に閉じられた口にミナヤンは頬を赤から青へと一気に変化させ、彼女を抱え込んだキャビィが絶句する。
それはそうだ。
なにせこのでっかい牙。優にキャビィの背ぐらいの大きさがあり、ついでにその背後でぎらぎらと輝く鱗が無数に見えた。
思わず二人は抱き合い、息を飲んだ。
扉の向こうに待っていたのは―のしりと鎌首をもたげた巨大蛇・バシリスクやらワームなどなど。
つまり、ありとあらゆる爬虫類型魔物のご一行様がお出迎えしてくれたのである。
「う……うっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」
「に、逃げろぉぉぉぉっ〜」
いらっしゃ〜いとばかりに飛び掛ってきたバシリスクの一撃を避わし、絶叫とともに凍りついたミナヤンの腕をがしりと掴み、来た道を猛ダッシュで逃げ出そうとしたキャビィの眼前でさっきまで大きく開け放たれていた扉が光速でバタリと閉まった。
どこからともなく流れるお決まりの呪われたテーマ。
唖然とするキャビィの背にワームがお決まりとばかりに炎を吐き出す。
「茫然自失しないでよ〜キャビィクン」
「そ、それはこっちの台詞だ!」
自らを奮い立たせるように返すキャビィだが、明らかに声は震えてた。
気持ちは分かる。当然である。
艱難辛苦を乗り越えて、やっとたどり着いた噂の洞窟で待っていたのは魔物たちの大歓迎。
信じられない。というか、信じたくない。
何が悲しくてこんな目に合わなきゃいけないの、と半泣き状態になりかけながら、それでもミナヤンはキャビィの手を握って部屋中を風で滑空し続ける。
炎の息、氷の息、毒息、毒針、締め上げ―ありとあらゆる攻撃をしまくる魔物たち。
どこまでも、どこまでもしつこい攻撃にミナヤンが目を回す。
「だぁぁぁっ、しっかりしろっ!あんた!!」
「ふきゅぅ〜」
魔力を使い切ったのか、場違いなほど可愛らしい声を上げて床に落ちるミナヤンにキャビィは慌てて襟首を掴む。
ここで気絶なんてされたら仲良く魔物たちのランチ―もしくは、ディナーにされてしまう。
それだけはごめんだった。
ミナヤンにもそれは充分分かっていた。
分かっていたが、限界だった。
あえなく床に落ちたミナヤンとキャビィにバシリスクたちがここぞとばかりに群がる。
―もうダメだっ!!
目を回したミナヤンの小さな身体を抱きかかえ、キャビィは身を叩くした。
と、音もなく、床のパネルが消えうせ―二人は暗闇の中へと放り出され―次の瞬間、凄まじい激流に飲まれた。

後はスリル満点、真っ暗闇のウォータースライダー。
上に下に左右回転しまくり、唐突に眩い太陽の光へとたたき出された。
盛大な水音とともに肌に感じる優しい暖かさにミナヤンとキャビィは恐る恐る目を開け―呆然となる。
そこそこの深さを持った清らかな水を称える小さな泉。のんびりと草を食む小動物の群れ。
柔らかで深い緑を抱えた木々。
命がけの場面から一転、穏やかを突き抜けた呑気な光景がそこにはあった。
「な、なに?」
「た……助かったってこと?」
訳もは分からず、泉に浸かったままへたり込んだ二人の目にぽつんと置かれた御影石の碑が一つ。
そこに刻み込まれた文を読んだ瞬間、呑気な森で炸裂したのは怒りのオーラ。

―悪銭、身につかず。一攫千金を狙うなんざ百年早いわ、ザマミロ〜By偉大なる魔導師様

「何が偉大なる魔導師だっ!!嫌がらせだろうがぁぁぁっ!」
「あれだけ苦労したのに……そんなぁぁぁぁぁ〜」
夢にまで見たお宝は夢で終わった。
ぶつけどころない怒り爆発のキャビィの横でミナヤンの悲痛な叫びがしばらく響き渡ったのは言うまでもない。
でも、無事だっただけよしとしましょう?冒険者さん。

FIN

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■   登場人物
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【3688:ミナヤン:女性:15歳:冒険商人】
【NPC:キャビィ・エグゼイン】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、緒方智です。
ご依頼頂きありがとうございます。お待たせして申し訳ありませんでした。
さて、今回のお話はいかがでしたでしょうか?

罠を潜り抜けた洞窟の奥で待っていたのは金銀財宝ではなく、魔物の群れ。
なんだか可哀そうな展開でしたが、無事だったので良しとしましょう?
この偏屈魔導師さんも本当に危ない目にはあわせないようだったみたいでした。
でもお宝の真相は藪の中。

ご満足いただければ幸いです。
また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。