<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


逃げない勇気と祝福の晴れ
 夜遅く、ジュディ・マクドガルは母であるクレア・マクドガルの部屋を訪れていた。
 読書をしていたクレアは読みかけのページに手を置いて、部屋の入り口に立ったままのジュディに優しく微笑みかける。ジュディは硬い表情をしていた。
「どうしたの?こっちへいらっしゃい」
「はい」
 ジュディは母親の方へと歩み寄った。クレアは読みかけのページに栞を挟んで本を閉じた。
 ジュディは俯いていた。床ばかり見ている。クレアはジュディの口から言葉が発せられるのをじっと待っていた。
 やがてジュディは思い切ったように顔を上げた。
「あたしは今日、お母様に言われていたお庭の掃除をさぼりました」
 はっきりとした声で言う。
「今日は山に遊びに行こうって朝から決めていて、掃除は帰ってからやればいいと思っていたの。でも結局夕方まで遊んでしまいました」
 クレアはジュディの言葉を静かに聞いている。
「それから、あたしはこの前、悪い事をしたのにそれを隠そうとしました。その事もきちんと反省したいの。だから」
 ジュディは突然スカートを脱ぎ始めた。続いて下着を下ろす。可愛らしいお尻があらわになる。スカートと下着を脇に置き、ジュディは言った。
「お仕置きをして下さい」
 その声は少し震えていた。これから与えられる罰は正直言って怖かった。しかしジュディは決意したのだ。

 先日の事。悪い事をしたのにジュディはその事を誤魔化そうとした。しかしクレアはそれを見抜いて、ジュディに罰を与えた。
 そして厳しい罰の後の母の抱擁。温かい言葉。自分への想いを、愛情をいっぱいに感じたジュディはもう逃げないと決めたのだ。
 自分の罪は自分のものだ。向き合わなければいけない。もう逃げない。

 ジュディがクレアの膝の上にうつ伏せになると、クレアは平手でジュディのむき出しのお尻を叩いた。ばしんっ、と高い音が部屋に響く。続けざまにクレアはジュディのお尻を叩き続ける。ジュディは歯を食いしばって痛みに耐えた。
 実はお仕置きをされるのは今月だけで3度目だ。ジュディは自分のさぼりぐせや、失敗をしてしまううっかりさが嫌になる時がある。
「悪い事をしてしまったら、反省が必要なのよ」
 以前、クレアはジュディにそう言ったことがある。
「反省することで、少しずつでいいの。ゆっくりでもいいから、あなたが成長できることを願っているわ」
 母の期待に応えたい。そして自分自身のためにも、罪を悔いて反省することから逃げたくないと思った。


 ジュディは自分がした事を正直に懺悔したが、それでお仕置きが軽くなるわけではなかった。ジュディの左右のお尻をたっぷり100回叩いて、クレアはようやく手を止めた。お尻は真っ赤に腫れ上がり、ジュディは痛みに震えていた。
「お仕置きは終わりです」
「はい」
 ジュディは涙を拭いながら体を起こした。お尻が痛くて、自分の失敗が悔しくて、涙がこぼれる。
 クレアはそんなジュディを優しく抱きしめた。
「ジュディ、偉いわ。よく耐えたわね」
 癖の強い金色の髪をそっと撫でた。
「お母様・・・!」
 ジュディはたまらなくなり、クレアの胸に顔をうずめた。痛みのために流した涙とは違う涙が頬を伝う。
 縋り付いてくるジュディの頭をクレアは優しく撫で続けた。
 ジュディは母に抱きしめられながら思う。自分はこの人に見守られて叱られることで、成長していくのだと思った。そうありたいと心から思った。


 翌朝の事。その日はどんよりとした雨雲が空を覆っていた。
 ジュディはクレアによって屋敷の広間へと連れて行かれた。
「ここで何かするの?」
 ジュディは不思議に思い、母を見上げた。するとクレアは、
「あなたにはまだ反省が必要です。スカートと下着を脱いで、お尻をこちらに向けなさい」
「・・・今、ここで?」
「そうよ。今、ここで」
 ジュディは戸惑った表情でクレアを見上げる。しかしクレアは毅然として、真っ直ぐにジュディを見下ろしていた。強い意志を感じさせる瞳。
 その瞳に見つめられ、ジュディは覚悟して服を脱いだ。壁の方を向いて、クレアにお尻を向ける。
「服は私が預かります。良いと言うまで、屋敷のみんなにお尻を見てもらいなさい」
 クレアの厳しい言葉がジュディの耳に響いた。
「わかりましたか」
「・・・はい。お母様」
 ジュディはきゅっと唇を結んだ。

 懺悔の時間にクレアにお尻を見られるのとは訳が違う。屋敷の中には女中たちがいる。みんなにお尻を見られるのだ。お仕置きをされて真っ赤になったお尻を。

 一番初めにジュディの姿を見た女中は、驚きのあまり息を飲んだ。痛々しいその姿を見ていられなくて、窓の外に目を向けた。どんよりと暗い空から、雨が降り出していた。
 それからジュディは何人もの女中たちにお尻を見られた。あまりの恥ずかしさに身震いする。
 それでも逃げ出さずに耐えられたのは、ジュディの決意の強さと、クレアへの信頼だった。それがジュディを支えていた。
 ジュディは足が震えてしまわないようにぐっと力を込めた。


 数日後。雨雲はすっかり消え去り空は快晴だった。ジュディは屋敷へと続く道を走っていた。
 ドアを開け屋敷に入ると、一目散にクレアの部屋へ向かう。
「お母様、ただいま」
 ジュディは弾むような明るい声で言った。
「お帰り、ジュディ。早かったわね。今日は街へ遊びに行くと言っていたけれど」
「そうよ、街へ行ってきたの。あのね」
 ジュディは跳ねるようにクレアに駆け寄った。
「街であたしの噂を聞いたの。なんて言われていたと思う?」
 ジュディはクレアの答えを待たずに、
「あたし褒められていたのよ!」

 屋敷でのお手伝いや日頃の態度などについて、好評の噂が街で立っていたのだ。ジュディはその事がとても不思議だった。自分は今月に入り3度もお仕置きを受けたのに。
 しかしよくよく考えてみれば、屋敷の中でジュディがお仕置きを受けていることを、街の人間は知らないのだ。お仕置きを受け反省したジュディが努力していることだけが伝わっていたのだ。
「お母様。ありがとう」
 ジュディはクレアの膝に手を置き、言った。
「お母様がお仕置きをしてくれるおかげで、あたしは褒められるような人間になれたのよ!」
 心から喜んでいるジュディを見て、クレアは目頭がじんと熱くなった。自分がしていることに迷いがなかった訳ではない。悩みながらも、それが彼女のためになるのだと信じて厳しくしつけた。こうして自分に感謝の気持ちを伝えてくれる娘を見て、クレアは心底嬉しかった。
 クレアはジュディの手に自分の手を重ねる。
「お仕置きじゃなくて、貴女の努力がそうさせたのよ」
 クレアはそう言うと立ち上がり、クローゼットから1枚の洋服を取り出した。
 それは淡い水色のワンピースだった。クレアが若い時に着ていた物だが、丁寧に保管していたのでどこも傷んではいない。
「あ、そのお洋服・・・」
「以前あなたがこの服をとても素敵だと言っていたから、いつか着せてあげようと思っていたの。お手伝いとか、本当に良く頑張ってくれているから、これはご褒美よ」
 しかしジュディは浮かない顔をしている。クレアは不安になった。
「もしかしてあまり好きじゃなかった?」
「違うわ!」
 ジュディは慌てて言った。
「前に見た時から、ずっと着てみたいと思っていたの。でもよく考えたらあたしには似合わないような気がして。もっと大人っぽく・・・お母様みたいにならないと」
 それを聞いて、クレアは微笑んだ。
「大丈夫よ。着てみましょう。ね」
 クレアはジュディを着替えさせると、鏡の前に立たせた。
 そのワンピースはジュディに良く似合っていた。金髪が良く映えて、アクセサリーなどつけなくても十分魅力的だ。
 しかしジュディは自信がなさそうに背中を丸めている。

「ジュディ、ここに座って」
 クレアはジュディを椅子に座らせると、化粧道具などが入っている引き出しの方へ歩いて行った。必要な道具を選んで、ジュディの元へ戻って来た。
 まずは、ジュディの髪をくしでとかし始める。
「あたしの髪って癖が強いのよ。くしでとかしたくらいじゃ何も変わらないと思うけど・・・」
「大丈夫。任せておきなさい」
 クレアの細い指がジュディの髪に触れ、器用に動き回る。生え際の髪を持ち上げられると、首元が涼しくなった。すーすーするので、ジュディはつい肩をすくめた。
「こら。動かないの」
「はあい」
 ジュディはくすくすと笑った。自分で触っても平気なのに、どうして人に触られるとくすぐったいんだろう。
 そういえば、前に母に髪の手入れをしてもらったのはいつだったろう。幼い頃は毎朝髪をとかしてもらっていたのに、今では1人で出来るようになった。
 少しずつ成長するというのはそういうことなのかな。


「さあ、出来たわ」
 クレアはジュディを再び鏡の前に連れて行った。鏡を見てジュディは驚いた。
 いつも下ろしている髪はピンでとめられ、キレイな髪飾りが添えられていた。
「どう?」
 ジュディはクレアを振り返る。
「素敵!」
 ジュディは歓声を上げた。
「とっても素敵だわ!まるで自分じゃないみたい!」
 ジュディは嬉しさのあまり、勢い良くクレアに抱きついた。
「どんな格好をしていてもあなたはあなたよ。自信を持ちなさい」
 クレアの言葉にジュディは頷いた。
「お母様、この格好でもう一度出かけて来てもいい?」
「いいわよ。行ってらっしゃい」
 クレアに見送られて、ジュディは意気揚々と外に出た。

 跳ねるように歩きながら、ジュディはくるりと回ってみた。ワンピースの裾がふわりと揺れる。
 なんて素敵なんだろう。こんなに素晴らしいご褒美をもらえるくらいに自分は向上してきているのだ。
 ジュディは笑顔で街へと向かう。その笑顔は快晴の空に負けないくらいに、晴れ晴れとして輝いていた。