<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


【人形師が夢を語る頃】ストン

□Opening

 聖獣界の片隅で、一人の人形師が亡くなりました。
 彼が残した物は、三体の人形と遺言書。
 遺言書には、こうあります。

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 私は世界の滅びを見てみたい。人々が恐れおののく瞬間を感じたい。
 私はこの黒い欲望を抑える事に疲れてしまった。
 だから魂を込めて人形を作った。

 頑丈なストンは私の瞳を原動力にするだろう。
 鋭いシザーは私の髪を原動力にするだろう。
 身軽なペパーは私の血液を原動力にするだろう。

 ああ、私の人形達よ舞い踊れ。最早ここに枷は無い。
 ああ、私の人形達よ世界を滅びに導くが良い。
 その時私は蘇る。
 そして私は世界の滅びを見るのだ。
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 人形師の遺体には瞳がありません。髪は無造作に切り取られていました。奇妙な事に外傷はあれど血痕は一切見つかりません。


 人形師の死。
 噂の集まる聖都では、最近この話題で持ちきりだ。人形師が残したとされる遺言書は、複写されビラのようにばら撒かれている。連日、噂好きの女性はあれやこれとこの話題に花を咲かせたし、賭け事好きの若者は件の人形が現われるのかと賭けをして楽しんだ。
 今日この日この時まで、平和に楽しんだ。

 聖都から少し離れた小さな村で、大きな大きなゴーレムが暴れていると、駆け込んできた客が叫んだ。
「いや、暴れてるなんてもんじゃねぇよ」
「落ち着いて、詳しく話してみて?」
 ルディアは客に水を勧めながら、冗談事では無いと肌で感じる。
「落ち着いて……られねぇ。遠くから見ただけだが、アレは、二階建ての家くらいあった。それが……ひ、人を踏み潰して……ああ、子供も、いたのに……家も、木も、踏み潰して……。いや、身体だけを踏み潰していたんだ。……の、残った頭を光が包んで……。瞳が……瞳を……。あの村は、おしまいだ……。それに、こっちに向かってる……向かってるんだ! 見た、俺は見た。ゴーレムの頭に、あの、人形師の刻印が刻まれていたんだ!」
 上ずった声でまくし立てる客の顔は真っ青だ。
 ルディアはすぐに、巨大なゴーレムの討伐を呼び掛けた。


 くれぐれもご注意を。
 頑丈なストンはあなたの瞳も原動力にするでしょう。彼はただ大きく踏み潰すだけではありません。
 どうか瞳にお気をつけ下さい。


□01
 ルディアの呼び掛けに応じて、最初に現われたのは長い髪の少女千獣だった。
「その……、光、は、どんな、もの?」
 白山羊亭に駆け込んできた男に、瞳を奪う光について確認する。
 確かに。
 瞳を奪う光は、決まったところから発射されるものなのか。それとも、別の次元から召喚される物なのか。規模は? 勢いは? 少しでも情報は多い方が良い。
 ルディアも千獣の言わんとしている事を感じ取り、男に説明を促した。
「ああ。見たままを言うぜ? 光は……あの光は……。そう、ゴーレムの背中から、シャワーのように降り注いでいた。背中の……どの辺りから出ていたかは、すまない、分からなかった」
「シャワーのようにね。ゴーレムは大きいんだから、上の方から放出されるならかなり幅があるんだろうね」
 興奮する男の言葉を補うように、ルディアが助け舟を出す。なるほど、背中からと言うことだけでも、分かれば良い。千獣はその情報を噛み締めるように頷いた。
「子どももお構いなし、か……気分の悪い相手だ」
 ビースターであるジェイドック・ハーヴェイは、表情こそ大きく変わらなかったものの、吐き捨てるように呟いた。
「それは今も村を襲っているのか? それとも、村を通過してここに向かっているのか?」
「え……あ」
 おろおろとする男に、ジェイドックは訊ねる。
 今も村を襲っているのなら村人の非難や安全確保が最優先だ。村を通過しているのなら、すぐに応戦できる。
「そうだな。もし村を通過しているのなら私もすぐにゴーレムを討ちに向かう」
 ルーンアームナイトのアレスディア・ヴォルフリートも、ジェイドックと同じ思いなのだろう。
 真摯な瞳を男に向けた。
 男は、二人からの視線を感じ、考えるように俯く。
 それから、力なく首を横に振った。
「いや、あの村は……。多分、もう……。俺も、かなり遠くから見ただけだが……動いている人間は……居なかった」
 その絶望的な状況をどう伝えたら良いのか。
 男は戸惑いと悲壮が混じった表情を浮かべた。
「で、他に気付いた事は? 踏み潰したのは足を使ってか?」
 赤い髪の青年レイジュ・ウィナードは人形師の遺言が書かれたビラを手にしている。
 すでに町で人形師の噂を耳にしていたようだ。少しでもゴーレムについて情報を得ようと男に訊ねる。
「あ、ああ。そうだ。足だ。でも、ああ、そうか。その、大きく足をあげて踏み潰す……んじゃ、ないんだ。普通に歩くように踏みつけてるみたいだ。それから……。ああ、手だ。邪魔になる家や木は手でなぎ払っていた。家が、砂遊びで作った城みたいに崩れて行った」
「それが、こちらにむかっているんだな。スピードは分かるか?」
「……。速くは、ないと思う。なんせ、俺が逃げて来れたくらいだからな。ゆっくりと、だが、確実にこちらへ向かってる」
 レイジュは何の表情も浮かべず、じっと男を見た。興奮しているが嘘を言っていない。事実を誇大して語っているようにも見えない。男の情報はほぼ正確だと思って良いだろう。
 さて、魔石錬師のAngelica(アンジェリカ)は顎に指を当て成り行きを見ていた。
「君も、手伝ってくれるんだよね? ぼやっとしてるよ、瞳を食べられちゃうよ?」
 ルディアは腰に手を当てアンジェリカをせき立てる。
「瞳……? ああ、確かに力がある物ではある、な。だが、俺の瞳など、誰も欲しがるはずもない」
「ええー。そおかなー?」
 むぅと眉を上げるルディア。
「えっと、でも、手伝ってくれるんだよね? 本当に、用心してよ?」
「いいだろう、協力してやる。ゴーレムにも興味があるしな」
 アンジェリカの青い髪がゆっくりと揺れた。
 人形師の望んだ世界の終わりとは一体どういうものなのだろう。
 一同は暴れるゴーレムの討伐へと向かった。

□02
「頑丈なストン、だったか? 固いダイヤは砕けない、なんて、誰が言うか」
 アンジェリカの言葉に、千獣が首を傾げた。
「……え、と?」
「ダイヤモンドを砕く方法が、あると言うのか?」
 代わりに、アレスディアがアンジェリカを見る。アレスディアは全身漆黒の衣服を身に付けていた。相手の大きさを考え、黒装で攻撃を避けながら戦うつもりだ。
「力を蓄積させればむしろ、スポンジよりも脆いものになる」
 きっと、アンジェリカに考えがあるのだろう。アレスディアはそう考え、じっと次の言葉を待った。
 アンジェリカは顎に手を当て、一つ呼吸をおく。
「要するに……絶大な力を持ってしてひびでも入れてやればいいのだ。どんなものもその弱みから崩れ落ちる。俺は援護をするよ、力仕事はキミ達に任せるさ」
「なるほど、絶大な力、か」
 アンジェリカの物言いには全く引っかかる事無く、アレスディアは素直に頷いた。
 その隣で……。
「う、ん……全力、で、戦う、よ」
 千獣はしっかりと頷いた。
「一足先に行って、様子を見る」
 そろそろ、件の村に近づいてきた。人の気配はなく、どこか廃墟を思わせる香りが漂いはじめている。レイジュは一言断りを入れ、蝙蝠にその姿を変えた。
 蝙蝠の姿ならばゴーレムに見つからず探索ができるはずだ。
 すいと風に乗り、レイジュはゴーレムに向かって飛びたった。
「遮蔽物は……、意外と多いな」
 遠目からでも良く分かる。ジェイドックは戦う場所の確認をしていた。
 遮蔽物に身を隠しながら応戦する事になるだろう。瞳を奪うという光も脅威だが、巨体その物も十分に脅威だ。
 それはそうと、ジェイドックはちらりとアンジェリカを見た。
「近くから援護をするなら、一緒に行くか?」
 ジェイドックの武器は銃なので、ゴーレムに近接しなくても良い。援護をするのなら、一緒に行動した方がリスクも少ないだろう。
「その提案は、朝起きてガラスのコップを覗き込む日常を想像しろと言われるくらいは妥当だな。まぁ、否定する要因は一つも見当らない」
「……えーと。つまり、一緒に行くんだな?」
 ジェイドックは、ややげんなりとした様子でアンジェリカを見返した。
 遠くでがらがらと何かが崩れ落ちる音が聞こえる。
 どうやらゴーレムのストンが近づいているようだった。

□03
 ゴーレムは、派手な音を立てて民家を破壊していた。
 聞いていた通り二階建ての家程の大きさで、太い胴体と短い足、長い手。頭は割合小さく、額の部分に人形師の刻印が大きく施されてあった。
 蝙蝠姿のレイジュは降り注ぐ家屋の破片を縫うように飛び、一通り辺りの様子を観察する。
 ゴーレムの通ってきた跡はすぐに分かった。
 今そうしているように、自身の前にある障害物を力任せに排除したのだろう。まっすぐ一直線の道ができていた。ゴーレムの作り上げた道の先をうかがうと、踏み潰された死体が無残に折り重なっている。なるほど、どの遺体も上半身、特に顔の辺りは綺麗に残っている。綺麗に、そこに何もなかったかのように、瞳だけないのだけれども。
(全て力任せに潰しているというわけではないのか)
 飛びながら、レイジュはゴーレムの攻撃方法を考える。
 単純に全てを潰すような攻撃なら、あんな風に遺体の一部が綺麗に残っているのは不自然だ。それよりも、もっと複雑な動作ができると考えたほうが良い。少なくとも、狙って下半身だけ潰す事ができるほどには正確な攻撃ができるのだろう。加えて、家屋を一撃で大破させる、あのパワーだ。
『ごおおおぉぉぉぉぉぉぅ』
 その時、何の前触れもなくゴーレムが吼えた。
 背の部分にいくつも光が走り、一部が変化した。走った光の筋を境目に、ゴーレムの背中が割れていく。そして、割れた部分から細いパイプが現われ、束ねられる。パイプは短く、おそらくゴーレムを正面から見たらパイプは見えないだろう。束になったパイプがきらきらと輝きはじめた。
 変化は数秒。
 パイプの先端に光が集まり始めた。
 レイジュはすぐに判断しゴーレムから距離を取った。そして、瓦礫の影に身を滑りこませる。
 男が見た光とは、アレのことだろう。
 思った通り、パイプの先から光が放出される。
 その光は辺りの遺体にむけられたものではなかった。

『おおおぉぉぉぉぉぉ』
 ゴーレムの咆哮。
 その足元から、駆け上がるような影が見えた。爪を獣のそれに変えた千獣だ。
 千獣は、放たれた光を浴びないように、ゴーレムの身体に取り付いた。光が消えはじめた事を確認し、ゴーレムに爪をかける。
 ぎしりと嫌な音がして爪が弾かれた。
 気にせず、さらに硬い胴体に爪を引っ掛ける。獣の爪を以ってしても、ゴーレムの胴体に取り付く事ができただけ。大きな傷は付ける事ができない。
 ただ、ゴーレムの胴体を登る形になった千獣は、ゴーレムの足の下、ゴーレムが通ってきた道の先を見てしまった。
 いくつもの遺体。
 もう、生きている村人はいない。
 だれもいないから、ぜんりょくでたたかえる。
 千獣は胸の中に生まれた悲しみも湧きあがる怒りも無視して冷静にゴーレムを蹴りつけた。バランスを狂わせ、仲間が攻撃できる隙を作る。
 今は戦わなければならない。
 それだけだった。

 ぐらりとゴーレムの巨体が揺らいだところへアレスディアが駆け込んできた。踵の裏を狙い、槍を繰り出す。まずは動きを止めなければ。思惑通り、ゴーレムの体が片方に傾く。
 しかし、ゴーレムは器用に片腕を地面につけて体勢を素早く立て直した。それどころか、反動を利用してアレスディアに拳を叩き付ける。
 寸でのところで向かってきた拳を避けたアレスディアは、一息もつく事無く地面を蹴った。
 次の一撃をゴーレムが構える。
 その目の前を、千獣が横切った。背に大きな翼を生やしている。
 一瞬、ゴーレムの注意が千獣に移った。アレスディアはその隙を見逃さない。ゴーレムの足元に素早く滑りこみ、もう一度踵を狙う。
『ごおおおぉぉぉぉぉぉぅ』
 ゴーレムが吼えた。

「やはり、瞳を狙っているようだな」
 人の姿に戻ったレイジュは、ハンカチで目隠しをしながら、冷静に状況を判断する。
 また、あの光が降り注ぐだろう。
 素早く動けば避ける事は可能。
 光の放出は長時間続かない。
 一度光を放出すれば、次の光まで数分間を置く。
 分かってしまえば、ある程度対処可能。
 目隠しをしても、ゴーレムの動きや仲間の位置は超音波で把握できる。
 レイジュは吸血剣・レッドジュエルを取り出し念を送った。大剣の刃の根には、真紅の瞳。ゴーレムが瞳を狙うというのなら、これを使う事ができる。
 魔法生物ならばどこかに動力源があるはずだ。
 レイジュはゴーレムと千獣、アレスディアの位置を確認しながら、大剣を構えた。

「そう。夕焼けを赤いと感じる人間が大半を占める道理と同じくらい当たり前に、あのゴーレムにもあって然るべき物がある。つまり、動力源とについて、だが」
 瓦礫の物影に身をひそめ、アンジェリカはじっとゴーレムを観察していた。
「同感だ。動力部へ集中砲火を浴びせたい。それはどこか分かるか?」
 隣で、ジェイドックが銃を構えながら先を促す。多少回りくどい言葉使いだが、こちらが質問をすればきちんと答が返ってくるのだということが分かった。
 アンジェリカは、顎に当てていた指をすっと伸ばし、光の束を指差した。
「アレだ」
 やけにはっきりと言い切る。
 それに、今までにない、簡潔な指摘だった。
「……。いや、アレは光を出すパイプだが」
 アンジェリカの言葉に驚きながら、ジェイドックはゴーレムの背のパイプを注意深く観察する。光が集まり、放出された。仲間は、上手く光をかわした様だ。
「空の色がどこまで空色かどこから溶けているのかを考えるよりはマシだろう。頭脳の回転を少しだけ早めてみることだ。あのゴーレムを作った人形師はそれを考えた」
「つまり?」
「……つまり、ゴーレムの身体のどこを探しても硬い表面しか見えない。関節部分もご丁寧に強力な繊維と魔法で保護されている。唯一、内側と外側を繋ぐのがあのパイプの稼動部分。もし動力源を埋め込むのなら、あそこから出し入れするのが一番手間がかからないだろうな」

 ゴーレムの動力部分を探していたアレスディアも、薄々それに気がついていた。
 どこを見ても、硬い表面に覆われている。何一つ突起物がない。鼻さえも形作られていない。それなら、大切な動力部分は内側にあるはずだ。
 そして、唯一、その内側と外側を繋ぐのが、あの光を放出するパイプというわけ。
 ちらりと空を飛びゴーレムをかく乱している千獣を見た。
 千獣も自分も今のままではあのパイプの束を攻撃するのは難しい。なにしろ、それが現われるのは、瞳を奪う光を放つ時だけ。光を避ける事はできても、光に向かって駆け上がる事はできない。せめて、光が自分に向かわなければ攻撃も可能だが……。それはすなわち、近接する他の仲間に光が向かうかもしれないという事。
 それでは、このまま力押しで硬いゴーレムを砕くしかないのだろうか。
 アレスディアは光の放出を終えたゴーレムに向かって槍を構えた。

 光が収まるのを確認して、レイジュは地面を蹴った。
 そのまま空中でレッドジュエルを構える。できるだけ大きく、ゴーレムの気を引くように、ゆっくりと。
 はたして、ゴーレムは足元のアレスディアへの攻撃を止め、ぶんと大きく腕を振り上げる。
 そうだ。
 同じ瞳ならば、濃厚な力が篭っている方が良いだろう?
 次の光の放出まであと少し、レイジュはゴーレムの攻撃を際どい所で避けながら空を飛び続けた。

「……どこかのゴーレムは頭に刻まれた文字を一文字削ることで、崩れ去ったりしたが……こいつはそういうことはない、か」
 ジェイドックは軽口を叩きながらゆっくりと狙いを定めた。
「生命でも塵でも違いは文字だけだというのに、一体どこからそんな遊びを思いついたのか理解はできないな。勿論、人形師の刻印を狙っても無意味だ」
 アンジェリカはジェイドックの隣で呆れたように口の端を持ち上げる。
 他の仲間が近接戦闘をしているのなら、あの光を出すパイプを撃ち抜くのは離れている二人のうちのどちらかが適切だと考えた。
 そして、ジェイドックが銃を構えているのなら、自分は攻撃する必要はない。
 インターバルを置いて、再びゴーレムの背中が割れはじめた。
 ジェイドックは全ての精神を指先に集め、引き金を引いた。

 ぱんと弾けるような音がいくつも聞こえた。
 今までレイジュへ向かっていた光が突然軌道を変える。
『ふ……おぉ……ぉぉ……お』
 ゴーレムの声色が変わった。
「ッ……避けろ」
 そこへ、アレスディアの掛け声。レイジュはすぐに身を引きゴーレムから距離を取る。
 攻撃のチャンスはここしかないと、一瞬で判断したアレスディアが漆黒の突撃槍『失墜』を投擲したのだ。槍はまっすぐゴーレムの背から伸びるパイプへ向かい、勢い良く貫いた。
『あ……ぁぁ……あ――』
 今までどんなに殴っても突いても揺らぐ事がなかったゴーレムが身体を振るわせる。
 苦しげに背へ手を回す様子はまるで人間のようだった。
「まだだ」
 光はすでにない。
 レイジュはパイプの根元、ゴーレムの内部へ大剣を突きたてる。
『……、……、………………』
 ひゅーと、何かが聞こえた気がした。
 千獣がゴーレムの頭から殴りつけると、がらがらとゴーレムの身体が崩れはじめる。
 最後に一度だけ内部が青白く光った。
 青白い光は、空に昇る。
 すっと一本、光の柱が出来上がったみたいだった。
 けれど、それも一瞬。ゴーレムは完全に沈黙した。

□04
「破壊を目的に生み出されたもの、か……」
 崩れ落ちたゴーレムの残骸を見て、アレスディアがポツリと呟いた。
「やはり、さっきの光が原因だな。動力炉が見当らない」
 ゴーレムを調べていたレイジュが立ち上がる。今後のためにもゴーレムの構成を把握しておきたかったのだ。人形師の遺言を読み返すと良く分かる。きっと、ゴーレムは他にもいるはずだ。
 関節部は頑丈な繊維と強化の魔法を組み合わせて作られている。
 表面にも硬い金属が使われているし、これも、魔法である程度強化されている。
 内部は、関節を駆動させるポンプとパイプがぎっしりと詰まっていた。
 けれど、一番重要な、動力の要の炉がないのだ。瞳を蓄積していたはずの何かも失われている。ゴーレムの機能が停止すれば、あの青白い光が動力炉を消し去るように仕組まれていたとしか思えない。
「……本当の敵はこのゴーレムではない。このゴーレムを生み出した者、だ」
 アレスディアも、レイジュと共にゴーレムを調べた。
 けれど、普通のゴーレム人形を思わせる部品しか残されていないのだ。
「澄んだ湖に青い葉を浮かべるよりも絶対的に、人形師の思う世界の終わりに一歩近づいた、か」
 どこか突き放したように嘲笑のような笑みを浮かべるアンジェリカ。
「終わりに近づいたのが嬉しいみたいだぞ」
 ジェイドックがそうたしなめる。
 すると、アンジェリカは驚いたようにジェイドックを見上げた。
「世界の終わりは、俺も見てみたいさ。しかし、この世界だろうと自分自身だろうと終わった瞬間にはもう視点はなくなる」
「……まぁ、そうだな。世界が終わったら、それで終わりだな」
「そう。世界が終わるなら、それを見てみたい気もするが。……つまり、人形師の言う世界の終わりの解釈を知りたいと言うことだ」
「……」
 それは、人形師自身にも言える事だろう。
 世界が終わるときには自分も終わってしまう。すると、世界の終わりを認識できない。現状、人形師はすでに終わっているので、世界の終わりを彼は体感できないのだが……?
 さて。
 皆がゴーレムを調べたり人形師について議論していたりする横で、千獣はもくもくと崩れた村の瓦礫を集めていた。直せるところは直せば良い。綺麗に片付けたら、新しい家も建つだろう。
 ただし、同じ人々はもう帰って来ないけれど。
 何故、と言う疑問でもない。どうして、と叫びたいわけじゃない。
 胸の奥でちろちろと、怒りの炎が燃えているだけだった。

□Intermission
 青白い光の先で誰かが笑った。
 お帰りなさい、僕の瞳。
 無事たどり着いた事は褒めてあげる。
 けれど、これじゃあ駄目さ。
 僕は山ほど殺せと言っただろう?
 目に付く人間も、逃げる人間も、寝ている者も泣いている者も。勿論、邪魔する者もさ。
 そう。
 予想以上に、抵抗する力があったと?
 ふぅん。
 まぁ、いいさ。
 次はもっと上手くやる。やってもらうよ?
 だから、ここで、ゆっくりおやすみ。
 僕の可愛いお人形さん。
<To be continued>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3087 / 千獣 / 女 / 17 / 異界職】
【2948 / ジェイドック・ハーヴェイ / 男 / 25 / 賞金稼ぎ】
【2919 / アレスディア・ヴォルフリート / 女 / 18 / ルーンアームナイト】
【3370 / レイジュ・ウィナード / 男 / 21 / 異界職】
【2774 / Angelica / 男 / 16 / 魔石錬師】


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■         ライター通信          
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 この度は、依頼へのご参加有難うございました。まずは、ゴーレムの討伐お疲れ様でした。シリーズシナリオですので、そのうち次のシナリオも公開予定です。そちらもどうぞよろしくお願いします。

■千獣様
 こんにちは。いつもご参加有難うございます。
 戦いになれば、怒りや悲しみで動転したり力が発揮できなかったり、そういうことを抑えて戦うのではないか、と思いながら書かせていただきました。
 いかがでしたでしょう。
 それでは、また機会がリましたらよろしくお願いします。