<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
『襲撃された村』
○オープニング
偏狭にある小さな村から、一人の男が傷だらけになって黒山羊亭に助けを求めて転がり込んできた。
村は突然、3メートル程もある巨人達に襲撃されてしまったのである。抵抗する者は殺され、村の食料は奪われ、そして若い娘が数人巨人に攫われた。村はほぼ壊滅、攫われた娘達の安否はわからないが、田舎の村人達に巨人達に対抗できる力はない。
黒山羊亭のエスメラルダは、一刻も早くこの田舎の村に行き、巨人達を倒し娘達を助けて欲しいと冒険者達に依頼をするのであった。
冒険者達は一刻を争う、という事で、駿馬が引く高速馬車を借りその田舎の村へと向かった。
村へ到着した一行が目にしたのは、人々がかつて生活していただろう瓦礫の山が積み重なる廃墟であった。
「っちぇ。胸くそ悪くなる依頼だぜ」
馬車から降り立った虎王丸(こおうまる)が、この惨状を見て舌打ちをする。
人はわずかに残っているが、この村から活気はまったく消えてしまっている。あちこちで煙が上がって鼻を突く異臭が立ち込めている。その煙が、何を燃やして立ち込めているかは、想像がついた。
「辛いというよりも、これが現実なのかと思うだろうな。ほんの数日前まで、楽しく話していた友人や知人、家族を火葬しなければいけないのは」
ジェイドック・ハーヴェイ(じぇいどっく・はーう゛ぇい)が天に昇っていく灰の混じった煙を見上げていた。その煙の先に、茶色い岩山が見えている。それこそが、この惨状の原因である巨人どもの根城なのだと、ジェイドックは村人達の無念さと、攫われたという娘達がどれだけ恐怖しているかを感じ、心の中で静かな怒りを感じていた。
「あの岩山に巨人達がいるんだよね。女の人を助けて、巨人も出来れば倒して」
チコ(ちこ)は岩山に視線を向けた。ここからではよくわからないが、元々巨人が住んでいたわけでもないのだろう。
エスメラルダから聞いただけでは何とも判断し難いが、もし巨人達も切羽詰った状況であるのなら、救いの手を伸ばす事も考えても良いと思っていた。
「あまり調査に時間はかけられないが、ある程度の事は把握しておかねばならないな」
ジェイドックが村を見回した。わずかに残っている人々が、こちらを見つめている。情報収集の為、すぐそばの瓦礫の横に座り込んでいる年配の女性に話しかけると、女性は威嚇するような表情でジェイドックを見上げた。
「私は逃げやしないよ。どうせ娘もさらわれたんだ、あんたに食われようが、体を引き裂かれようが、どっちだっていい」
「待ってくれ、俺はエルザードから来たんだ。巨人を倒して、攫われた娘達を助けるためにな」
自分が巨人と間違えられるとは思えないが、それでも女性がジェイドックを敵としてみているその様子の原因は、やはり獣のこの姿であるからだろうか。新たな侵略者とでも思っているのかもしれない。
「ちょっと待ってよおばさん。ボク達は村を襲いに来たわけじゃないよ」
今度はチコが、中年女性に語りかけた。安心させる様に、笑みを浮かべながら。
「おばさんの娘さんを早く助けに行かなきゃ。だから、教えて欲しいんだ。巨人達の事を」
「あんな大きな怪物に、あんたみたいな細いのが勝てるのかい?そうとは思えないね」
チコの顔を見もせず、女性は岩山を見つめていた。
「あのさ、悪ぃけど、のんびりしている暇はねぇんだよ。早く攫われた娘達を助けに行かなきゃ、手遅れになるかもしれねえだろ!」
少々苛立った様に虎王丸が続ける。
「一刻を争うんだ。娘を助けたければな!」
それでも、女性は答えなかった。その表情から、すでに全てを失い望みまでもを捨ててしまった事が伺える。
彼女の娘がいるという、岩山だけを視界に入れて、まわりのものは全て拒否し、心はすでに絶望してしまっているのかもしれない。
「駄目だ、別の人を当たろうぜ」
虎王丸がそう提案すると、チコとジェイドックは同時に頷いた。
「そうだね。この人の娘さんも助けてあげたいけど、この状況で話をしてくれっていうのは、酷な事かも」
3人は村を歩き、穴を掘っている数人の男達に状況を聞く事にした。男達のそばには、野菜などを運ぶ為に使われるリヤカーがあり、その荷台には布がかけられているが、白くて丸い物がはみ出ていた。ジェイドックはその荷台から顔を背けると、男達に尋ねた。
「エルザードから来た。巨人を倒し娘達を取り返して欲しいと、依頼があったのでな」
「もしや、ハネスが?」
男達はそういって、顔を見合わせた。
「ハネス?」
「ハネスは助っ人を呼んでくると言って、巨人達に殺されそうになりながら逃げたんだ」
「そうか、あの黒山羊亭に来た男は、ハネスというんだな」
と、ジェイドックが答えると、男達はすがるような視線でジェイドック達を見つめた。
「それなら、大体話はわかっていると思う。巨人達は村を襲撃してあと、食料を根こそぎ奪い、逃げおくれた若い娘を数人拉致し、あの岩山へ向かった。あそこは動物や植物が住む場所で、我々もたまに狩りに行ったりするんだが」
「狩り?それなら、岩山の地図はないか?」
ジェイドックがそう尋ねると、別の男が地図を手渡した。
「きっとそう言うと思い、地図を用意しておいた」
「ねえ、その巨人達は何か言ってなかった?」
荷台の中身が、穴の中に流されて行くのを見ながら、今度はチコが尋ねた。穴の中は、すぐにその白い破片でいっぱいになった。カラカラと乾いているそれは、どう見ても骨であった。
「あとは、巨人がどんな様子だったか」
「巨人達は人間の言葉は話さない。少なくとも、村を襲ったやつらは、吼えた様な声を出すだけだ」
「言葉は話せないのかあ。それなら、獣みたいなものなのかな」
骨の上にかけられていく土から視線を戻し、チコは息をついた。
「友達が欲しいとか、向こうも飢えているとか。もしそういうのがあるのなら、どうにかしないとと思ったけど」
「おいおい、そんな甘いもんじゃねえだろ?」
虎王丸がチコに呟いた。
「どこから来たんだか知らねえが、さっさとやっちまった方がいいと思うぜ。さっきの、ばあさんみたいなのを増やしたくなきゃな」
「腹が減ってどうしようもないので襲撃したのなら、まだ可愛げがあるがな」
地図に目を落とし、ジェイドックが答える。
「むしろ、同情の余地もない奴の方がわかりやすくていいけどな!思い切りやれるしよ!」
ジェイドックに続けて虎王丸が答えた。
「遅くならないうちに、早く行こうぜ」
「そうだな」
ジェイドックは頷くと、再度村人達に振り返った。
「それから、攫われた娘は何人か教えてもらえないか?人数がわからないと、娘達を見つけてもそれで全員いるのかどうか、確認できないからな」
「娘は3人だな。巨人1人が、娘1人ずつ連れて行くのを確認している」
「わかった。虎王丸、チコ、そろそろ行くぞ。必ず、娘を取り返すから安心してくれ」
ジェイドックがそう言うと、チコが後ろを振り返り、ちょっと待って、と二人を止めた。
「また巨人が来るかもしれないからね。村も守らなきゃ」
チコは魔法を唱え、村を温度の違う空気の層で覆った。すると、村の奥にもう一つ村の影が現れ、本物の村は空気の層に覆われてゆがんでしまった。
「これで、本物の村は隠れたはずだよ。それから、もう1つね」
チコは、完全に埋められた先程の穴の前に立ち、魂を安らげる鎮魂歌を歌った。すでに犠牲になってしまった人を蘇らす事は出来ないが、せめて死後安らかに眠ってくれるように。チコはそう願い、自らの歌に思いを込めた。
3人は村を出て岩山と足を踏み入れた。赤茶けた土は乾ききっているが、まったく不毛の地と言うわけでもなく植物が生え、時折鹿の様な生き物が横切っていくのが見えた。
「村人の地図を見たが、それほど入り組んでいるわけでもないのだな」
「で、その巨人の根城ってのはどこにあるんだ?」
虎王丸はあたりを見回した。ここに本当に巨人がいるのかと思うほど、静まり返っていた。
「さすがにそこまでは村人はわからないだろうが、窪みみなっている場所がいくつかあり、借りの出た者はそこでキャンプをすると言っていた。おそらく、そういう場所にいるのではないだろうか。わりとこのそばみたいだぞ」ジェイドック地図から顔を上げるとは耳をそばだてて、まわりの音を聞くことに集中した。
風に乗り、べちゃべちゃという音が聞こえてくる。生肉の、血が滴る臭いがジェイドック鼻を突いた。
「わ、この臭いって!」
チコの鼻にも、その臭いが届いたようであった。
「間違いねぇ。やつらだ!」
3人が考えた事は同じであった。3人は確実に巨人の住処へ近付いているのだ。
「あの大岩の裏側から声がするな」
ジェイドックの言う通り、目の前にある大きな岩の裏側から、やたらと大きく太い笑い声が聞こえてきた。良く聞いても聞き取る事は出来ない為、自分達とは違う言葉を話しているのだろう。あたりには血なまぐさい臭いが漂っていた。
「接近を気づかれれば娘を盾に取られる可能性もある。出来れば、娘達を確保できる位置に接近するまでは、巨人達に気づかれたくないが。少し様子を見てみる。せめて位置関係等は知りたいからな」
「俺も確認しておく。やつら、調子に乗っているみてえだからな」
ジェイドックと虎王丸、そして後からチコも一緒になり、3人は岩の陰から物音を立てずに覗きんだ。
3人の前に、ちょうどよく草が生えておりので、視界は少し遮られているが、向こうからは見つかりにくいのは幸いであった。岩場の手前に、筋肉隆々の巨人が3人座り込み、村から奪ったと思われる食料や、どこからか捕まえてきたのか、鹿の様な生き物の生肉を貪っていた。
その巨人の奥に、怯えた表情の娘が3人いるが、その白い足は無残にも深い傷をつけられ、血が流れていた。おそらくは、娘が逃げられないようにわざと怪我を負わせたのだろう。
「ひでぇことしやがる」
虎王丸が再び舌打ちをした。
「静かに。見つかっちゃうよ」
チコがそっと、虎王丸に答えた。3人は一度岩場を離れると、作戦を練りこんだ。
「やはり、娘を先に確保したいな。その上で、巨人を退治したい。酒盛りでも始めてくれていれば、隙ができるんだが」
「お酒を奪っているかわからないないけど、どうにか隙をつきたいよね」
チコは岩山を振り返り、ジェイドックに答えた。
「俺にひきつけて戦いてぇが、娘達をどうにかしないとな」
虎王丸が答えると、再度チコが言葉を返した、
「ボクなら回復の魔法が使えるから、彼女達の怪我も治してあげられるよ。だから、ボクが彼女達を助けようと思うんだ」
「ふむ。なら、チコが娘達を助けて安全なところまで逃がす。俺と虎王丸であの巨人を退治、だな。あとはタイミングだ。やつらが油断した油断している時に、先制攻撃を仕掛けたいが」
ジェイドックがそう言った瞬間、娘の叫び声が空気を揺らした。
3人はすぐに再度岩陰から顔を覗かせた。宴会を終えた巨人達が、娘達の服を剥いでいる姿を目撃した。今にも、娘達に覆い被さろうとしている。その表情までは見えなかったが、荒い息遣いだけが聞こえてきた。巨人達が何をしようとしているか、すぐに想像がついた。
「おい、もう考えている時間はねぇぜ!戦闘開始だ!」
ジェイドックは巨人達の後ろの岩に、反対側から登り始めた。
「今は娘達に気がいってるはずだ」
「ジェイドック、岩の上までいけるんなら、これを上から巨人の頭にぶつけてくれ。油が入っている」
虎王丸はジェイドックに、村へ行く前から用意していた、油の入った瓶を手渡した。ジェイドックはそれを受け取ると、岩の上によじ登り、虎王丸とチコが配置についたのを確認してから、裸にした女性の足の間に入ろうとしている巨人の頭部目掛けて投げつけた。
とたんに、巨人のうなり声が響き、ジェイドックの方へと巨人の達の視線が注がれる。
「くらいな!!」
虎王丸は岩陰から飛び出し、白焔を打ち込んだ。彼ら虎の霊獣人特有の炎が、その油でさらに炎上し巨人の頭を包み込んだ。
「炎ならボクだって負けないよ!」
さらに続けて、チコが指をかざし、巨人達の体を魔法の炎で包み込んだ。
「早く!こっちへ逃げて!」
その隙にチコは、地面に倒れている女性3人を起こし、応急処置として回復魔法を施し、すぐに巨人達のいる岩場から遠ざけた。
女性達は裸であるが、今はそれを気にしている場合ではないだろう。胸や太ももに、巨人につけられた傷はあるが、そちらの傷はそれほど深くはない為、あとから回復する事は出来る。
間一髪で、巨人達に暴行を受ける前に助ける事は出来たが、それでも彼女達は心に深い傷を負ってしまった事には違いなかった。
「今、すぐに回復してあげるからね」
チコは岩場から十分に離れた場所まで来ると、女性達の体を優しい光で包み込み、その傷を完全に回復させた。女性達は何も言わなかったが、涙を流してチコに怯えた表情を見せた。
助けられた事と、村を襲撃された事、巨人達に捕まり暴行をされそうになった事、それらが次々と降りかかり、頭はまともに回転しなくなり、言葉も話せないほどになってしまったのだろう。
「大丈夫。あの巨人達はボクらでやっつけるからね。ボクが村まで着いていってあげるから、安心して」
「有難うございます!」
女性達はチコに涙を流したまま叫んだ。今は、それだけ言うのが精一杯だろう。チコは言葉で返す代わりに、女性達に笑顔を返した。
「娘達を助けたからな!あとは思う存分やれるぜ!」
虎王丸は限定獣化で足と腕を獣化させて、手前にいた巨人へと接近した。巨人が金属の丸太の様な武器を急に振り上げたので、虎王丸はすぐにそれを回避した。
が、すぐ横にいた巨人が虎王丸に強烈な蹴りを食らわしてくる。体に重い衝撃が走った。
「こんなものでやられる俺様じゃねえ!」
獣化した腕で巨人を引き裂いた。とたんに、巨人の咆哮が轟く。
「お前達のせいで、村1つが悲しみに陥った」
ジェイドックはサンダーブリットを巨人の膝目掛けて撃ちだした。それが巨人の動きを鈍らせ、巨人は抵抗する様に腕を振り回した。鋼の様な肉体のおかげで、致命傷を与える事は出来ないが、動きを封じるには十分なダメージであった。
暴れてこちらへ走ってきた巨人に尻尾を捕まれそうになたが、巨人の足にサンダーブリットをさらに撃ち込み、動きを封じた。暴れた巨人の腕が後ろの岩に当たり、硬い岩盤にひびが入った。
確かに力は凄いがただこちらを攻撃してくるだけで、戦略の様なものが見受けられないところを見ると、それほど知能は高くないのかもしれない。欲望のままに村を襲い、娘も欲望に従うままに襲おうとしたのだろう。それならば、あの力にさえ気をつければ、それほど苦労する相手ではないかもしれない。
「一気に畳み込むぜ!」
虎王丸は、わざと巨人をひきつけて、強化した腕で喉元を狙った。危険度は増すが、その分相手に的確にダメージを与える事が出来る。
先程蹴られた場所が痛むが、幾度の戦いを潜り抜けてきた虎王丸にとっては、大した怪我ではない。
巨人の1人が虎王丸にひきつけられ近付いて来た。手には大きな棍棒を握っている。それを振り下ろすギリギリまで、虎王丸は巨人を引きつけ、寸前で避けて獣と化した腕を巨人の喉下へ目掛けて引っかき、殴りつけた。
鋼の体を持つ巨人と言えども、喉の部分の皮は薄い様で、虎王丸は喉を引きちぎる感触を腕に感じた。
巨人の体が揺らいだ時、ジェイドックがサンダービーストで頭を狙い打ちにし、その巨人は地響きを立て地面に倒れ、そして動かなくなった。
「よし、次だぜ!」
虎王丸はそのまま、すぐ横にいた巨人に狙いを定めた。
一方、ジェイドックは巨人の圧倒的なパワーに振り回されるものの、サンダービーストで足を狙ったおかげで、動きを鈍らし、その行動を確実に封じ込めていった。獣人特有のしなやかさを生かし、巨人の攻撃をかわしながら、さらにサンダービーストを撃った。
「どんな力自慢も当たらなければ意味がない」
ジェイドックはそう言いながら、さらに巨人の頭に狙いを定めた。
「よく狙えよ。狙うっていうのは、こうやるんだ」
「力だけじゃ俺達には勝てねえんだよ!」
ジェイドックの攻撃のあとに、虎王丸は白焔を放ち、巨人は地面に倒れてうめき声を上げ、その声は間もなく聞こえなくなった。
「あと1人だ!」
「いくぞ、虎王丸!」
すでにジェイドックの攻撃でその巨人の手足は封じられていた。虎王丸が獣化した腕で殴りかかるために巨人に近付くと、突然巨人の服が炎で燃え上がり、巨人は地面に転がり火を消そうと暴れた。
「女の子達は、無事に村へ帰ったよ!」
チコはそう言って、さらに魔法の詠唱を始めた。
「これで最後なんだね。ボクも応戦するよ」
「よっしゃ!じゃ、行くぜ?」
虎王丸は気合を込め、巨人に近付いた。ジェイドックは再度サンダービーストを構え、チコは魔法の狙いを巨人に定めた。
「行くぜっ!」
虎王丸の合図の元、ジェイドックがサンダービーストで巨人の頭を狙い打ちにし、その反動で巨人がよろめいたところで虎王丸が、獣化した腕で巨人の喉を狙い、虎王丸が離れたところで、最後にチコが炎で巨人を包み込んだ。
巨人の悲痛にも似た咆哮が響き渡り、そしてあたりは静寂に包まれた。
「巨人達を倒せたのはいいけど、あの村、これから色々大変だよね。村人も、女の子達も、沢山傷ついてしまったよ」
帰りの高速馬車の中、チコが目を伏せた。
巨人を倒した3人は、一度エルザードへと戻り、エスメラルダに事件の報告をし、そして聖都の機関に説明をして村の支援をしてもらう事にした。巨人を倒しても、村の復興までは3人ではとても出来ないからだ。
「村の生き残りを、聖都や周辺の村とかで引き取ってくれるようにも頼まなきゃな。エスメラルダさんに協力してもらわねえと」
虎王丸も、馬車の天井を見上げて答えた。巨人を倒し、娘達も助けたはずなのに、心の底から喜べないのは、村があまりにも悲惨な事になってしまったからであろう。
「ボク達が最初に会ったおばさん、娘さんを送り届けたらとても喜んでいたよ。有難うって何度も言われた。ご主人は犠牲になったけど、娘が戻ってきてくれて、それだけが生きがいになったと、そう言ってた」
チコは、村に娘達を連れて戻った時の様子を思い出しながら言う。絶望にあった村で、攫われた娘達が戻って来たことがどんなに勇気付けられた事だろうか。チコは、それだけでも良かったと感じたのであった。
「あの村には早く元気になってもらわなければならないな。俺達の力が必要になった時は、すぐに駆けつけるように準備をしておかなければ」
静かにジェイドックが答えた。
「それに、エスメラルダのところにいる男、ええと、ハネスだったか。彼にも巨人を退治した事を早く伝えてやらないとな」
高速馬車の窓に、聖都の影が見えてきた。
凶暴な魔物や悪しき心を持った人間は、まだまだこの世界に多く存在する。あの悲劇となった村の人々の様な弱い存在を守るためにも、冒険者達の力はこれからも必要とされるのだ。(終)
◆登場人物◇
【2948/ジェイドック・ハーヴェイ/男性/25/賞金稼ぎ】
【3679/チコ/男性/22/歌姫・吟遊詩人】
【1070/虎王丸/男性/16/火炎剣士】
◆ライター通信◇
ジェイドック様
いつも有難うございます。WRの朝霧です。
今回は悲惨な面を前面に出しましたので、かなりシリアスな内容になったのではないかな、と思います。ジェイドックさんはいつもの様に、パーティーの中の冷静なお兄さん、という形で描いてみました。戦闘も情報収集も冷静ですが、この悲惨な状況に静かに怒りを感じ、巨人を徹底的に倒した、という流れにしてみました。
楽しんで頂ければ幸いです。ご参加、どうもありがとうございました。
|
|