<PCクエストノベル(2人)>


〜大賢者の魔道書〜


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【冒険者一覧】

【3434/ 松浪・心語 (まつなみ・しんご) / 異界職】
【3573/フガク (ふがく) / 冒険者】

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 松浪心語(まつなみ・しんご)は、旅の支度をすると同時にフガクに声をかけた。
 友人が、ムンゲの魔道書を読みたいと言ったのを聞き、世話になっている礼に探そうと伝えたのである。
 ただ、今回の探索地は、その規模からも、内容からも、ひとりではきつい場所だった。
 そこで、同族の義兄に声をかけることにしたのである。
 フガクは、ひとつだけ条件をつけた。
 『魔瞳族は同行しないこと』、たった一点これだけを守ってくれれば同行する、とフガクは申し出ていた。
 フガクとしても、はるか昔に心語と冒険をする約束をしていたので、冒険自体には行きたかったのだが、因縁のある魔瞳族とだけは、同じ空気も吸いたくなかったようだ。
 そこで、心語は自宅のあるエバクトの村を出て、フガクのいる「海鴨亭」に立ち寄った。
 

フガク:「で、地図は?」
心語:「いや…まだだ…用意は…聖都でしようと…」
フガク:「ま、賢明だな。少なくとも、エバクトよりはこっちの方が品揃えはいい」
心語:「仮にも…聖都…だしな…」
フガク:「そうそう。それに、情報もね」
心語:「俺は…何を…?」
フガク:「教会に行って、聖水を多めにもらってくるように。俺はその間に、地図もそうだけど、情報、道具、いろいろ揃えて来るからさ」
心語:「同行しなくて…大丈夫…なのか…?」
フガク:「たぶん、この都なら、俺の方が効率良く回れるよ。常宿にしてるくらいなんだしね」
心語:「そ…そうか…」
フガク:「ま、俺と一緒なんだから、大船に乗った気持ちでいろって。お前を、危ない目には、絶対遭わせないよ」
心語:「…」


 フガクは、自分の皮袋をひっくり返し、道具の点検をする。
 それを見て、心語も同じように袋の中身をあけ、足りないものを精査してもらった。
 その上で、聖都でもとても目立つ大きな塔を持った、大聖堂へと赴いた。
 巡礼者や礼拝者が多く、かなり並ぶことを余儀なくされる。
 こればかりは、急いでも仕方がないと踏んで、心語は列に並んだ。
 一方フガクは、聖都の商店街へと足を向けた。
 地図を売っている露店をいくつか回り、今回の目的地である「ムンゲの地下墓地」の地図を物色する。
 だが、地図はどれも不正確で、フガクは買うのをためらった。
 ギルドに寄って、さらに正確なものがないか、確認することにする。
 ギルドにはたくさんの情報が寄せられているが、中にはもちろん、有料のものも多くある。
 その情報の代償に、命が支払われたものも多くあるので、情報料の一部はその遺族に支払われたりもするのだ。
 壁に貼られた、ギルド主宰の探索依頼リストを見ながら、「ムンゲの地下墓地」に関するものがないかどうかも確認する。
 もし、同時に消化できるなら一石二鳥だからだ。
 だが、残念ながら、この時期に「ムンゲの地下墓地」に関する依頼は、一件もなかった。


フガク:「おっかしいなー」
ギルドの受付:「何がですか?」
フガク:「いや、『ムンゲの地下墓地』ってさ、あんなに有名な場所なのに、なーんで依頼が一件もないのかなって思ってさ」
ギルドの受付:「最近あの場所は、アンデット系のモンスターが出ることで有名なんですよ」
フガク:「あ、やっぱり?」
ギルドの受付:「そうなると、かなりの準備と人員が必要になりますからね」
フガク:「そうだよなー戦うことが前提だと、大掛かりになるよな」
ギルドの受付:「そうですね」
フガク:「じゃ、探索だけの場合って、戦わない方がいいってことだよね?」
ギルドの受付:「そうですね…ただ、アンデット系のモンスターの場合は、宝を守るように言いつけられている場合もありますから、準備は念入りにして行った方が無難でしょう。あとは、中で騒いだりしなければ、そうそう襲われることはないと思いますが」
フガク:「…じゃ、俺は間違ってつい、笑わないようにしないとねー…」


 ギルドが発行している「ムンゲの地下墓地」の地図は、かなり詳細に描かれていた。
 さすがギルドである。
 無論、その値段も結構張るが、命には代えられない。
 フガクは、財布の中身と相談して、危うく突っぱねられそうになったが、「死ぬよりはマシ!」と財布に言い聞かせて、その地図を購入した。
 それから、商店街を歩いて、馴染みの道具屋に行き、食料といくつかの薬草を買う。
 特に毒消しは多めに手に入れた。
 墓地はアンデットモンスターも怖いが、毒を持った生き物も大勢いる。
 その居心地の良さから、何故か蜘蛛が多いのも特徴だ。
 今回は、敵に悟られないことも目的のひとつであったから、松明を買うのはやめた。
 その分、荷物が減ったので、水袋をひとつ買い、酒を詰めてもらった。
 ちょうど同じ頃、心語も多めに聖水を手に入れて、「海鴨亭」に戻って来ていた。
 ふたりで荷物を分担して持ち、剣の具合も確認する。
  
 
フガク:「一応、持ち物、再確認しとけよ。あぁ、これはここに吊るして、で、こうしとく、と。そうすれば、すぐ使えるからな」
心語:「相変わらず…手際がいいな…」
フガク:「そりゃね。伊達に死に損なってないからなー」
心語:「それは…自慢する…ことでは…ないだろう…」
フガク:「言うようになったね、お前…」


 「ムンゲの地下墓地」は、聖都から北西の位置にある。
 途中までは街道を歩き、いくつかの村に泊まった。
 無論、近付けば近付くほど、その情報は濃いものに変わり、最近はあまり人が行かなくなっていることもそこで聞いた。
 心語とフガクは、ムンゲの地下墓地の入り口に立つ。
 入り口は既に朽ちかけていて、その異様な雰囲気を更に盛り上げる役割を立派に果たしていた。
 この地下墓地に葬られているのは、その昔、魔術史に偉大な功績を残したと言われている、伝説の大賢者ムンゲと、その一党であるという。
 地図によると、いくつもの部屋に分かれており、ムンゲの棺は、一番奥となっていた。
 フガクは心語に後ろを任せ、聖獣装具「三眼兜(スリーゲイズ)」をかぶった。
 そして、その低い入り口をくぐるようにしながら、中へと入る。


フガク:「見るからにって感じだね…」
心語:「ああ…」
フガク:「ま、墓地なんだから当たり前か。それにしても雰囲気ありすぎ」
心語:「確かに…」
フガク:「俺が先に立って歩くから、お前は後ろを警戒してろよ。あと、上にも注意な」
心語:「わかった…」


 ふたりは完全に中に入ると、一切の音を消した。
 足音すら消すことが出来るのは、ふたりとも傭兵上がりだからである。
 戦場で無音が保てなければ、それは即座に死を意味する。
 フガクは、三眼兜の能力である暗視能力を使い、周囲をゆっくりと探索した。
 今回の目的は「ムンゲの魔道書」である。
 余計な場所を探索して、魔物たちにやられるのは予定外なのだ。
 いるいる、とフガクは思いながら、肩をすくめた。
 あちこちに、大型の蜘蛛や、ゆらめく影が存在した。
 だが、それは崩れた壁の向こう側だったり、堅く閉じられた扉の向こうだったりした。
 今のところ、急を要するような場面はなさそうだ。
 三眼兜と地図のおかげで、ほとんど迷わずに済みそうだった。
 何度か立ち止まって、フガクは辺りをきちんと調べた。
 そして、地図に描き込んで行く。
 仮に、帰りに戦闘に巻き込まれた場合、行きと同じ道をたどって、すんなり出られることは必須条件なのだ。
 今回はなるべく逃げたいのだ。
 心語の愛剣「まほら」では、この狭い墓地のあらゆる場所を壊しかねなかったし、聖水も無限にある訳ではない。
 戦闘を前提とするなら、それ相応の――それこそ神官クラスの――人間をパーティーに組み入れて来なければ、無謀と言われても否定は出来ないだろう。
 フガクはたまに、心語の気を探って、ちゃんとついて来ているか確認した。
 同時に、前方にも気を配って、ムンゲの棺のある場所に近付いているかどうかも見通した。
 そして、ふたりは何とか敵に感づかれることなく、最奥部までたどり着いたのである。
 フガクは一度、心語を振り返って、その扉を指差した。
 心語は腰に結わえていた聖水の小瓶を外して、フガクに渡す。
 それを右手で受け取って、フガクは左手で棺のある間の扉を押し開けた。
 その瞬間、中から煙のようなものが吹き出して来た。
 思わず心語の頭を押さえて、フガクは地面に伏せた。
 よく見ると、それはどうやらアンデットモンスターではなく、土ぼこりのようである。
 ほっとして、少し開いた隙間から中をのぞくと、広い広い場所に、ぽつんとひとつの棺が置かれていた。
 その棺自体はとても豪華で、黒曜石で出来ていた。
 しかし。
 フガクは近寄って、少し落胆した。
 どうやら既に荒らされ尽くした後のようだ。
 棺を飾っていたらしい宝石類は、すべて根こそぎ削り取られている。
 おそらく、この棺の間も、何かしらの大物モンスターが守っていたのだろう。
 だが、それらもだいぶ前に倒されていて、ここには魔物の気配すらなくなっていた。
 フガクは三眼兜で、その洞窟様の棺の間をゆっくりと見回した。
 すると、壁の一画に、小さな四角い穴を見つけた。
 無論、一見するとそこは壁なのだが、何かの力で隠されていたようだ。
 フガクは心語を手招きすると、身振りだけでここに隠し穴があることを告げた。
 そして、自分のショートソードをその穴の周囲に突き立てると、ボコッと音がして、そこに穴が現れた。
 中には、数枚の羊皮紙が入っていた。
 既に経年劣化で、黄ばんではいたが、文字は何とか読めそうだ。
 ふたりには読めない字であったが、友人なら解読できるかも知れない。
 ふたりはそれらを丁寧に丸めると、皮袋の中に納めた。
 そして、ムンゲの棺に、改めて向き直ると、敬意をこめて頭を下げる。
 古代の偉大な賢者に、安らかなる眠りを――言葉には出さないが、その気持ちはその一礼にこもっていた。
 ふたりはその墓地を急いで出た。
 下手に魔物に見つかると厄介だからだ。
 
 
フガク:「ふう〜〜〜〜息が苦しかった〜〜〜〜」
心語:「…何も…」
フガク:「ん?」
心語:「何も…起きなかったな…」
フガク:「当たり前だよ。俺たち、音なんかほとんど出してないんだからさ」
心語:「…そうだな…」
フガク:「ま、他の部屋にまだお宝があるのかも知れないけど、ここはちょっと勘弁願いたいね〜」
心語:「そんなに…?」
フガク:「命がいくつあっても足らないって、こんな場所。魔物の巣窟、でもお宝も微妙ってね」
心語:「…宝も微妙…?」
フガク:「ムンゲの棺の間が荒らされてたっしょ?ってことは、もう他の場所も、相当荒らされてるってことなんだよ。それにこの地図!こんなに詳細に描けるってことは、誰かがもう探索してるってことでもある。ま、もしかしたら隠し部屋とか、まだ見つかってない場所もあるかも知れないけどさ、余程の追加情報がない限り、俺はここはパスかもな」
心語:「…なるほどな…」
フガク:「じゃ、帰るか?ひとまず近くの村に立ち寄ってさ、メシでも食って行こうぜ。つっかれたぁ〜〜」
心語:「…」



 ふたりは数日後、無事聖都に戻って来た。
 心語は、古い羊皮紙を受け取り、筒に納めて、エバクトに持ち帰る。
 後は、これを友人に手渡すだけだ。
 ほっと一安心して、心語は友人の許へ出掛ける仕度を始めたのだった。
 
 
 〜END〜
 
 
 〜ライターより〜
 
 いつもご依頼ありがとうございます!
 ライターの藤沢麗です。

 今回は戦闘に慣れているおふたりということで、
 墓地の戦闘もあるかと思っていたのですが、
 回避の方向で進まれるということでしたので、
 傭兵の能力で切り抜けて頂きました。
 さすが、という感じですね!
 こういう時、フガクさんの聖獣装具は本当に役に立ちますね!
 ダンジョン系は必須アイテムだと思います!
 まあ、ギルド依頼ではないので、
 貧乏はちょっと、回復しないようですが…(笑)。
 
 それではまた未来の冒険をつづる機会がありましたら、
 とても光栄です!

 このたびはご依頼、本当にありがとうございました!