<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『月の旋律―希望<青い石>―』

●明るい、部屋
 太陽の光が射し込む、明るい部屋だった。
 ドアの前には警備兵が2人立っており、警戒はされていたけれど……。
 その部屋は普通の客間であり、牢獄ではなかった。
 待遇も悪くはないらしい。
 ルイン・セフニィは、テルス島の領主ドール・ガエオールの許可を得て、彼の娘ミニフェ・ガエオールの夫として島に潜伏していた、フラル・エアーダと面会を果たしていた。
「……」
 彼はルインを見ても何も語ろうとはしない。
 ドールに聞いたところ、現在でもこの男はアセシナートの研究員であることを否定しているという。
「貴方がフラル・エアーダであることは、多くの者が証言しています。といいますか、様々な手段で吐かせました」
「君も……ファムル・ディートを知っているんですよね? それなら何故、私を敵とするのですか? 私が所長だと教え込まれていたアセシナート兵がいたかもしれません。でも、私はアセシナートとは無関係です」
 また、ミニフェはこの男を信じたいと思っているらしい。
 彼女の感情は、惚れ薬によるものだろうか。……多分、それだけではなく。本当に彼は彼女の前で、優しい夫だったのだろう。
 そして、今でも本当の顔を見せることはないから。
「分かりました」
 変換体――二十歳前後の女性の姿のルインは、付き添いの警備兵に目配せをすると、1人でフラルに近付いた。
「……近付く、な」
 ソファーに座っていたフラルが立ち上がる。
「座ったままで構いません。拷問などは考えていませんから、ご安心ください」
 軽く微笑んで、素早く近付くとルインはフラルの腕を引き、もう一方の手を彼の額に当てた。
 デジタル・エレメントであるルインの能力の1つ――精霊手を発動し、フラルの脳の機能を狂わせる。
 目を激しく揺らすフラルに、ルインはゆっくりと問いかける。
「島の地下で……何を研究していたのですか?」
「……キャンサー……宝玉……」
 彼の答えに、ルインは首を縦に振る。真意はともかく、関わりがあったことはやはり事実だった。
「聖獣キャンサーとは会いましたか?」
「……一度も、見て……ない」
「では、地下に巣を作っていたキャンサーをどのように利用しましたか?」
 既にフラルの目は虚空一点を見つめており、感情の感じられない顔をしていた。
「宝玉、作るため……だけに。力、得るため……。即死、魔法……」
 話に聞いていたフェニックスの時と同様に、やはりキャンサーのエネルギーを凝縮させ、力を操る道具を作り出そうとしていたようだ。
「作っていた宝玉の制御方法は?」
「……まだ、研究中。もう少し……」
 ルイン達が研究施設を制圧したのは、研究を終える前であり、総指揮官であると思われるザリスが関与するよりも前であった。
 ルインは大きく溜息をついて、フラルを開放した――。

 反動で意識を失った彼をソファーに寝かせて、ルインはドールとミニフェが待つ応接室へと戻った。
 特にミニフェの方が不安気な目で、ルインを立ったまま待っていた。
「ギランは……あの、人は……」
 彼女の口から出た名前、ギランとは、フラルが名乗っていた偽りの名前だった。
 ルインは静かに首を左右に振った。
「アセシナートの者に間違いはありません。ただ、アセシナートに与する者達もそれぞれ理由があって与しているわけですから。貴女が本当に騙されていただけなのか、愛されて……いなかったのかは、私にはわかりません」
 そうとだけ、ルインは告げて。
 ガエオールに目を向けた。
「地下の研究所では、キャンサーのエネルギーを凝縮させて、人を死に至らしめるような非道な道具を作っていたようです。ですが、完成間近に制圧をしたため、道具は完成に至らなかった模様です」
 ルインは、自分が手にしている石のことについては、語らなかった。
 島においておいても、禍の元になるだけだ。制御する手段もないのだから……。
「それでは、私はこれで……。お世話になりました」
「こちらこそ、君達にはお礼のしようもないほど世話になったよ」
 ガエオールは穏やかで優しい笑みを浮かべて、ルインを見送った。
 その日のうちに、ルインは船で島を出ることにした。
 ……随分と復興も進み、島は柔らかな風で覆われていた。

●王との約束
 聖都エルザードに戻ったルインは、そのままの姿で衛兵に事情を話し聖獣王への謁見を求めた。
 数時間待たされるも、応接室にてその求めは果たされた。
 事情が事情故に、王には最低限の護衛しか付き添ってはいなかった。
 自分が知る範囲のことで、報告をしていなかったこと全てを聖獣王に報告をした後、今回の件についても説明をする。
「アセシナートの研究員……島の所長であった男、フラル・エアーダから、目的について聞き出しました。尤も既に得ていた情報より詳しい情報はさほど聞き出せませんでしたが……残念ながら私の知識では、彼の研究を理解することまではできませんから」
 言って、ルインは道具袋から石を取り出した――キャンサーの力の結晶石。石は鈍く青く光っていた。
「私が時々力を加えて制御してきました。この石を完全なもに聖都の技術でできますでしょうか?」
「赤い宝玉の時も、全てを把握することは不可能だった。この石についても、手に負えはしないだろう。だが、封印は可能だ」
 ルインや、優れた魔術師であれば、制御しながら持っていることも可能ではある。
「このまま、私にお預けいただくことはできますか?」
「ううむ……。もとより、その宝玉は余のものではない。聖都に悪影響を及ぼさぬというのなら、余が引き取らずとも良いだろう」
「そうですか……。では、加工だけでもお願いできますでしょうか? とりあえず杖状にしていただければと思います。加工の際には勿論立会い、石が暴走しないよう制御いたしますので」
 ルインの頼みに聖獣王は首を縦に振り、配下の者に有能な職人を手配するよう指示を出した。
「それから、これは別のお願いなのですが……。監視付きでも構いません。このエルザード城内の開放されている部屋や、資料庫などに立ち入る権利を私にお与えいただけませんでしょうか?」
「まだ何か調べたいことがあるのかね?」
「はい……知りたいことは、沢山ありますから」
 ルインの言葉に、聖獣王は軽く笑みを浮かべた後、深く頷いた。
「監視付きで構わないのなら、聖都の民と同じだけの行動、及び今回の事件に関係のある資料の閲覧は許可しよう」
 ルインは頭を深く下げた。
「ありがとうございます」

 その数日後、ルイン立会いの元、金属製の杖に青い宝玉を埋め込む作業が行われた。
 不安定な状態ではあるが、キャンサーの宝玉付きの杖が完成しルインに渡された。
 危険な武器である為、きちんと完成させるべきか――。
 それとも、封印してしまうべきか。
 方法を考え壊してしまうべきか。
 この石は、キャンサー達の命の塊でもあるために、すぐに答えは出せそうもなかった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3677 / ルイン・セフニィ / 女性 / 8歳 / 冒険者】

●NPC
ドール・ガエオール
ミニフェ・ガエオール
フラル・エアーダ
聖獣王

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
月の旋律後日談、―希望―にご参加いただき、ありがとうございました。
実は石に関しては、ルインさんが持ち帰るという展開は考えていませんでした。
石をどうするのかは、今すぐ決めていただく必要はないかと思います。

いつもありがとうございます。
またお目に留まりましたら、よろしくお願いいたします。