<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


『生贄の祭壇・後編』

○オープニング

聖都から遠く離れた小さな偏狭の村で、異変が起こっていた。事件は村の少女サナが、白山羊亭のルディアへ助けを求めてやってきた事に始まった。村の守護神であるママムーという神が突如現れ、若い娘を月に一度、新月の夜に生贄に捧げよと、言ったのだという。
生贄を断れば村に災いが降りかかる為、村の人々は断腸の思いで村の若い娘を生贄へと差し出すようになった。
エルザードにやってきたサナもまた、生贄により友人を失った犠牲者の1人なのである。サナの悲痛な助けを聞き、白山羊亭から3人の冒険者、フィリオ、ミッドグレイ、飛猿が村へと向かった。
 彼らは村で情報を集め調査をした後、女天使と姿を変えたフィリオを生贄とし、ママムーの生贄の祭壇へと捧げ、ミッドグレイと飛猿はその傍らで使者を待った。
 彼らの作戦通り、新月の夜、ママムーの使者はやってきてフィリオをさらい、森の奥へと飛び立った。
 祭壇のそばで見張っていたミッドグレイと飛猿も、ママムーの使者を追いかけ森の奥へと向かうのであった。



「そろそろ、ママムーの使者が来る時間かな」
「サナ、家の中に入りなさい。あの冒険者達に今は何もかもを任せよう。私達には、それしか出来ない」
 サナは父親に腕を引っ張られて、家の中へと入った。
 サナがつれてきたあの3人の冒険者達はどうなっているだろう。サナは彼らのことを思うと胸がいっぱいになる。
 彼らは、この村の者ではないし何の関係もないけれど、自分達の為にここへやってきてママムーとの接触を決めた。それだけに、彼らがママムーの怒りに触れ、犠牲になってしまったらと、サナは幼いながらも責任を感じずにはいられなかった。
 サナは、祈るしかないのだ。けれども、誰に祈ればいい?幼い頃から信じてきたママムーに祈るのか。生贄を要求し、村を悲しみに突き落としたママムー神に。
 彼らは、無事に戻ってくるのだろうか。



 月はなく空は闇夜のカーテンに覆われている。その空を、フィリオ・ラフスハウシェ(ふぃりお・らふすはうしぇ)はママムーの使者であるらしい、トカゲの様な生き物に抱えられて運ばれているところであった。
 どこかへ向かっているのはわかる。その先にママムー神がいるのだろうか。ママムーは自分を見たら何と思うだろうか。女性天使化している自分の正体を見破るだろうか。
 そんな事を考えながら、フィリオは自分の羽根を落としていた。他の二人が後をつける為の目印にする為だ。フィリオはトカゲに抱きかかえられたまま羽を落としていたのだが、トカゲはまったく気にしていない様子であった。自分を運ぶことしか考えてないのかもしれない。
 やがてトカゲは、森の奥地にある遺跡と思われる建物の中へと入っていった。フィリオは黙ったままトカゲに抱きかかえられていたが、その遺跡のあちこちに、魔法の道具と思われるものが置いてあることから、この遺跡に魔術を使うものが潜んでいるとわかった。
「生贄を連れてきたようだね」
 奥の部屋から、1人の女性が姿を見せた。どう見ても、20代後半と見られる凛々しい顔立ちをした女性である。黒いローブを着て、宝石にアクセサリーをつけている。
「この女は何だ?何故翼が生えている。どこから拾ってきたのだ」
 女性はそう言ったが、トカゲが返答しない事がわかっているらしく、それ以上は何も言わなかった。
「実験室に入れておけ。女たちには、私の可愛い息子達を産んでもらわねばならないからな」
 フィリオはそのまま、遺跡の奥に有る牢獄へと入れられてしまった。



 一方、ミッドグレイ・ハルベルク(みっどぐれい・はるべるく)と飛猿(ひえん)は、飛んでいったママムーの使者とフィリオを追いかけて、暗い森の中を何も言わず移動していた。
 あちらは空を飛んでいる為、かなりの速度で移動してしまい、一時期は見失ってしまったのだが、フィリオ自分の羽根を飛行中に落としてくれているおかげで、その羽を頼りについていくことが出来た。
 暗闇でも、フィリオの天使の羽根は白くぼんやりと目立つので、その後行き先に迷うことはなかった。
 やがて2人は、川の上流にある小さな滝へと辿り着いた。羽根はその滝のそばにある道に落ちており、他には見当たらない。間違いなく、このあたりにフィリオ達はいるはずだ。
「ここにママムーがいるのか?」
 ミッドグレイが滝を見上げた。黙っていれば、聞こえるのは滝が落ちる音だけだ。神というものが、滝のそばにいるのかはわからないが、フィリオがここへ来たのは間違いないだろう。
「使者が出入りするかもしれない。しばらく様子を見るか?」
 ミッドグレイがそう提案したので、飛猿はそれに同意し、岩の陰に隠れ2人はしばらく滝の様子を伺っていた。
 だが、聞こえるのは滝の音だけで、別の何者かがやってくる様子はない。
「俺が偵察に行って来る」
 しばらくして、飛猿は滝を見上げているミッドグレイに提案した。
「そうだな。あの滝には何かがあるような気がするが、昼間ならともかく今は夜だ。ちゃんと調べた方がいいだろうな」
 飛猿はあたりに意識を飛ばしながら、慎重に滝のある岩壁を登っていく。忍者なので、壁を登る位簡単な事だ。
 滝の幅は7メートル、高さは10メートル程の大きさがある。岩壁を伝って流れ落ちており、そのまわりには雑草がこびりつくように生えている。
 飛猿はその岩のわずかな窪みや出っ張りに足をかけて上がっていく。滝の水しぶきが雨のように降りかかってくるが、飛猿には何の問題もなかった。
 滝のすぐ横に、人が乗れそうなサイズの出っ張った岩があった。飛猿はそこに上がり立つと、聖獣装具から黒い糸を伸ばし、滝に絡みつかせて、滝の水を数秒間だけ盗んだ。盗んだところから一瞬水が消えて、滝の裏側が見えるようになる。
「ん、これは?」
 飛猿は、滝の裏に道がある事に気づいた。そして、フィリオが落としたと思われる白い羽根が、入り口の脇に落ちている。彼がこの奥にいることは明らかだ。
 飛猿は滝の道を奥へ進み、中の様子をを伺った。奥へ行く一歩道になっているが、途中脇に入る道があった。
 音を立てずに覗き込むと、そこには牢獄のような鉄の格子があり、暗闇で何かが蠢いている。もしかしたら、フィリオかもしれない。
 さらに飛猿は、牢獄を離れて奥の道を進んだ。急に明かりが漏れ出し、書斎の様な部屋に辿り着いた。覗き込みをしている状態ではよくわからないが、誰かがいるようであった。魔術の研究室にも似た部屋で、それは明らかにママムー神とはかけ離れているものであった。滝を一度降り、飛猿はすぐにミッドグレイの元へと戻った。
「滝の裏側に道があって、部屋がある。牢屋の様なものもあった。奥にママムーの使者がいるのは間違いない。入り口にフィリオの羽根も落ちていた」
「それなら、さっさと言ってあの迷惑な神をどうにかしないとな」
「そうだな」
 ミッドグレイの言葉に、飛猿が頷いた。
「ママムー神など、あそこにはいない。おそらく、ママムーを名乗る何者かがいるのだろう。俺が偵察をした範囲では、そんな感じがした」
「だろうな。神がこんな滝の裏に部屋を作るとは思えない」
 ミッドグレイは苦笑し答えた。飛猿が先導し、ミッドグレイは岩場をよじ登っていった。飛猿とは違って忍者ではないが、聖都エルザードの自警団で、身のこなしが軽く、高いところに上っていく事は得意なのである。
 2人は何の問題もなく滝のそばまで辿り着いた。
「水は俺が盗むから、その間に入るぞ」
 飛猿は再び聖獣装具から黒い糸を伸ばした。
「と、この水は役に立つかもしれない」
 飛猿は滝の水を盗み、その流れ落ちる水を一度束縛し水を持っていた入れ物へと入れ、ミッドグレイを中へと入れた。
 ひんやりと、そして湿気を含んだ心地の悪い空気が二人を包み込む。不快な気分になる場所であった。
 このどこかにフィリオと、そしてママムー、いや、マママムーを名乗る何者かが潜んでいるはずだ。



 ママムーの使者に連れてこられ、フィリオは1人牢屋の中に入りあたりを見回した。
 自分以外の人影はない。村で聞いた話では、すでに何人かの少女達が生贄として捧げられたというが、彼女達はあの魔女の犠牲にすでになってしまったのだろうか。湿った空気が身を包み、あまり良い心地はしなかった。実際の自分は男だから、魔女すらも自分を女だと思っているようだ。
 だが、自分は女になったといっても、天使の姿をしている。普通の娘とは違うと思われていないだろうか。そんな事を考えているうちに、ママムーの使者、いや、部下のトカゲ戦士を連れてあの魔女がやってきた。
「儀式の準備は出来たよ。さあ、そこから出な。儀式の生贄になってもらおう」
 生贄になるには変わらないのかもしれない。ただ、それがママムーではなく、このどこからかやってきた魔女に対する事だけは違っていたが。
「私は生贄になどなりません」
 フィリオはきっぱりと魔女に言った。
「ママムー神様の怒りを鎮める為にここへ来たのに。神の名を語る不心得者!偽りの裁きを起こしたのも、あなたなのですか!」
「何だお前は。偉そうな口を聞くところを見ると、ただの娘じゃなさそうだ。何者だ、その姿は」
「私は天の使いで、ここへやってきました。ママムー神が怒っている事を聞いて、それを鎮めに来ました。私が天使である事は、貴方もわかっているはずです」
「天使だと」
 魔女は叩きつけるようにフィリオを睨み付けた。
「天使なら子供を産むことは出来ないか?いや、逆に試してみたい。天使からどんな怪物が生まれ出るのか」
「私に子供を産ませようとしているのですか。話は聞いています。他の娘達をどこへやったのですか」
 フィリオは、なるべく多くの情報を聞き出そうとし、魔女に問いかけた。
「他の娘なんてとっくに儀式に使ったよ。最も、失敗して怪物は生まれなかったし、娘も腹も犠牲になってしまったけれどな」
 それは、生贄となった娘がすでに犠牲者となりこの世にもう存在していないことを意味するのだろう。フィリオの中に、怒りがうまれ出て溢れそうになる。
「村で信仰されているママムー神の名をかたるなど、何てこと!」
「村人なんて単純なもんだからな。だからこそ私には都合が良い。この魔力でちょっと電撃を起こせば、神の裁きの雷と思い恐れおののく」
 魔女は馬鹿にしたような目でフィリオを見下ろした。何の為かはわからないが、この魔女は女性の腹を使い何か別の生物を生み出そうとしている。自分も女のくせに、同じ女性達の痛みなどわからないのだろう。もはや、魔女は形だけ人でも人間ではなく、心を失い暴走している魔物と言ってもいいだろう。
「さあ!天使だか何だかわからないが、儀式は整った。お前の腹を使わせてもらう!」
 トカゲ戦士が牢を開け、フィリオは無理やりに引っ張りだされた。そして、生贄の儀式に使うらしい魔法陣のところまで連れて行かれる。
 フィリオは魔法陣の中央に立った時、魔女に視線を向けた。それまであった恐怖の表情はなくなっており、悪しきものに天罰を加える天使そのものの表情であった。いや、今までの同様したり怒ったり、怖がったりというのも、全てフィリオの演技に過ぎない。
「好きにはさせませんよ。貴方の身勝手な行動もこれまでです」
「何だって?」
 魔女が答えると、魔女の後ろから何かが飛んできた。魔女がその気配に気づく事の方が一足早く、魔女はそれをかわした。飛んできたそれはすぐ横の壁に突き刺さった。それは透明な手裏剣であった。
「なるほど、仲間を連れてきたってわけだ」
 魔女はそう言うと、いきなり魔術の炎を生み出し、後ろまで接近していたミッドグレイへと投げつけた。
「っと、そう当たるかよ!」
 ミッドグレイは背を低くして炎を避け、魔女との距離をある程度とったまま、壁に突き刺さった手裏剣を呼び戻し再度手裏剣を投げつけた。
 手裏剣は魔女の右肩に当たったが、魔女の表情は変わらない。そこから血がにじみ出ているにも関わらず、まだ怪しい笑みを浮かべている。痛みを感じないのだろうか。
「手裏剣型の聖獣装具か。まるで忍者だな」
 飛猿は影分身の術で2人の分身を生み出し、襲い掛かってきた2体のトカゲ戦士を翻弄する。トカゲ戦士は身軽な動きで槍の様な武器で飛猿を貫こうとしてきた。
「いけっ!」
 ミッドグレイがトッドローリーを操りトカゲ戦士にぶつけるが、その体は鋼鉄のように堅く、手裏剣を弾き飛ばしてしまった。
「とんでもない硬さだな!」
「だったら、こうすればいい!さあ、こっちこい!」
 飛猿は分身で使者を入口の方へ誘導しようと試みた。トカゲ戦士は目の前にいる敵に反応するのだろう、分身とわかっていない様子で飛猿を追いかけて行く。
「ここは蒸し暑いからな!少しは涼まないと!」
 そう言って飛猿は盗んだ滝の水を解放した。洪水の様な水の流れが生み出され、トカゲ戦士は洞窟の外に水で押し流されてしまった。
「お前達、邪魔をしにきたとはいい度胸だ!」
 魔女が呪文を詠唱しようとしたところで、フィリオは光のかんしゃく玉を使って相手の目を眩ませた。
「天使の捌きを本当に受けてもらわないといけないですね」
 魔女がその眩しさで身を翻した隙にフィリオはミッドグレイのそばへと駆け寄った。
「心配かけましたね隊長」
「心配なんかしてない」
「そう言うと思いましたよ」
 フィリオはミッドグレイに小さな笑顔を返し、魔術を唱える準備をした。女性化している今の自分には、より都合のいい姿である。
 魔女は再度魔法を詠唱し、まるで雨の様に炎を降らしてきた。炎がミッドグレイの頭に直撃しかかったが、フィリオが風を起こし魔法の炎を消し飛ばした。
「ふん、戦いになれているみたいだね」
 魔女は再度詠唱し、洞窟内に電撃を発生させた。太い糸の様な電撃が張り巡らされ、当たればまる焦げになってしまうだろう。
「考えたな」
 ミッドグレイのまわりに電撃がいくつも飛び散り、うかつに動く事が出来ない。魔女が電撃を打ち終わったところを狙い、再度反撃しようと考えていた。
 その時、飛猿が、魔女の視線が反撃をしようとしたミッドグレイへ向いた時、黒い糸を延ばし水を魔女へとかけた。
「な、何をする?!」
「いやあ、雷撃ってくれると俺も助かるんだがな。炎の魔法を使うなら、またぶっかけるぜ?後ろの本ごとな」
「この水、滝の水か」
 魔女は飛猿へと視線を向けた。
「そうだ、何の変哲もない滝の水だ。だけど、純粋な水じゃない。それがどういうことか、わかるよなお前なら」
 空気よりもより電気を伝えやすい水を被れば、電撃とともに自分も感電する。飛猿は魔女の電撃を封じ込めたのだ。
 その隙を狙い、ミッドグレイはトッドローリーを操り、それを魔女が持っている杖へと投げつけた。魔女はいち早くその手裏剣に気づき、避けようとするが、フィリオがすかさずかんしゃく玉を使い目をくらませたおかげで、魔女は見事に魔法の発動体である杖を手裏剣により折られてしまった。
「大人しく捕まれば命は助けてやる。抵抗するなら、俺の憂さ晴らしをさせてもらうぜ」
 ミッドグレイは無表情のまま、魔法を封じられた魔女へ近付いていった。ミッドグレイの心には、少女達を酷い目にあわせた事の怒りの感情が噴出しそうになっていた。
「俺もこの魔女を殺す事には反対だ。捕まえて村へ連れて行こう」
「ミッド、私もそう思います。拘束して、私達で捕まえましょう。自警団を呼びつけるにも、時間がかかりますから」
 フィリオは女性天使のまま、ミッドグレイに言う。
 彼の変身は数日立たないと効果が切れない為、しばらくはこの姿で過ごすこととなるが、今はその事を気にしている場合ではない。
 魔女はミッドグレイに拘束され、飛猿に猿轡をつけられている時も、怪しい笑みを浮かべたままであった。普通なら、悔しそうな顔をしたりするものだが、この魔女は人としての心はすっかり失ってしまっているのだろう。放っておけば厄介な犯罪者になるに違いない。



魔女を拘束したまま、3人は村へと戻って来た。すでに世はあけており、太陽の光が世界を包み始めていた。
「おかえり!」
 最初に3人の元へ飛び出してきたのは、サナであった。おそらくは、眠らずに帰りを待っていたのだろう。
 そのサナの声は小さな村によく響き渡り、やがて村人達が次々にやってきた。
「ママムー神の怒りは納めました」
 フィリオが静かに答えた。
「じゃ、もう生贄はいらないんだね!」
 嬉しそうな顔でサナが答えたが、すぐ横にいる魔女に視線をやり、すぐに笑顔を消した。
「この人は誰?」
「ママムー神を名乗っていた魔女だ。村の娘を攫い、人体実験に使っていた」
 飛猿は真実を告げた。へたに隠すよりも本当の事を言った方がいいと思ったからだ。
「ママムー神を名乗れば、娘達を攫い易いと考えていたようだ。心の壊れた魔女だが、腕前は確かだ。神の裁きも、この魔女の魔法だった」
「魔女?じゃあ、生贄になった皆は」
 サナが飛猿に尋ねたが、飛猿は何も言わずに黙ったまま首を振った。
「サナさん‥‥これからは、本物のママムー神が貴方を守ってくれます。私達が貴方と出会ったのも、ママムー神のご加護でしょう。いえ、悲しむなという方が無理なのです。この魔女は私達に任せて下さい。そして、貴方はもっともっと、幸せになってください」
「うん。わかってるよ。だけど、やっぱり悲しい気持ちは抑えられないね」
 サナが涙をこぼし始めたので、フィリオはサナを抱きしめて優しく慰めた。
「サナさんの心に早く太陽が昇る事を願ってますから」
「この魔女っていうのが憎たらしいよ。友達はこの魔女のせいで!ところで、お姉さん誰?」
 サナは、今自分を優しく抱きしめてくれている天使の女性が誰なのか、気づいていなかったようだ。
 フィリオがサナを慰め、飛猿が村人達に事情を説明している間、ミッドグレイはエルザードの自警団に詳細を報告して魔女の報告をした。あの滝の裏の隠れ家や、そこにあるであろう魔女の魔術所を回収する様エルザードで待機している部下に命じた。
「あの、皆様、どうかお食事でも召し上がってください」
 魔女は拘束をしたまま村の納屋に閉じ込めておき、3人は村人達が作った米のスープや餅を食べた。
 自警団が到着するまで、ミッドグレイは魔女を見張りつつ、交替でフィリオや飛猿に見張りを代わった時は、そこいらの木陰で適当に怠けていた。
 飛猿は見張りを離れた後、再度滝へと向かった。今度は飛翔船を使って移動したので、歩いた距離もあっという間に到着した。
 滝やそばの川を見渡し、吹き飛ばしたトカゲ戦士を探した。あれがまたどこかにいってしまっては大変である。トカゲ戦士は岩場に衝突した様で、体がばらばらになってしまっていた。もう動くことはないだろうが、村人の安全を最後まで考え、飛猿はトカゲ戦士の体を回収したのであった。
 フィリオは女性の姿のまま、その優しい笑顔で村人達の心の傷を癒せるよう、励ましていた。そして、間もなく自警団が到着する、という時、サナに最後の別れを告げた。
「もう、帰っちゃうんだね」
「役割は終わりましたからね」
 サナは、ほんの数日だけだが村を助けてくれた恩人達との別れが辛い様であった。
「村はこれから、サナさん達若い人が支えていかねばなりません。でも大丈夫です。ママムー様がおりますから」
「フィリオさん、ありがとう。変な言い方だけど、この事件のおかげで皆に出会えた」
 サナが静かに答えた。
「こんな事件、もう2度とおきないことを願っています。サナさん、またエルザードへ来てください。今度は観光ででも。またすぐに会えますよ」
 フィリオの優しい笑顔で、サナも元気が出ただろう。
 生贄を差し出すことがなくなった村に活気が戻るのはそう遠くはないと、フィリオは思った。自分達の役目は終わった。あとは、ママムー神に任せるだけである。(終)

◆登場人物◇


【3681/ミッドグレイ・ハルベルク/男性/25/異界職】
【3510/フィリオ・ラフスハウシェ/両性/22/異界職】
【3689/飛猿/男性/27/異界職】

◆ライター通信◇

 飛猿様

 後編への参加有難うございます。WRの朝霧青海です。

 前回同様シリアスシナリオの為、コミカルな部分は一切なかったのですが、その分真剣な場面を沢山描くことが出来ました。戦闘描写は苦手な傾向にありますが、飛猿さんの色々な技を使った描写がうまく再現できていればいいな、と思います。

 それでは、今回は本当に有難うございました。少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。