<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『夏祭りに行こう♪』

○オープニング

 黒山羊亭に張り出された依頼書には、聖都から馬車で1時間ほどの場所にある「カエン村」での、年に一度の夏祭りのスタッフ募集と、祭りへの参加への呼びかけが書かれていた。
 大きな祭りであるから、手伝いはいくらでも必要だし、祭りで行われるイベントも大々的に行われるのであった。
 しかし、楽しい祭りの裏で、とある計画を企む者もいたりいなかったり‥‥。



 ■浴衣美男美女コンテスト会場にて
 
 会場は多くの参加者でかなり混雑していた。美男美女のコンテストというだけあり、その会場には多くの美しい人々が集まっていた。
「コンテスト参加者は、受付で登録を済ませてください!」
 誘導係のスタッフが、メガホンを持って声を張り上げている。
「しっかし、すげぇ混雑だな。さすが、このあたりでは一番規模の大きな祭りってだけはある」
 虎王丸(こおうまる)は、格好良い浴衣に身を包み、帯に刀を差して会場内を歩き回っていた。美男子コンテストに出場するのかと思いきや、そうではなく、コンテストに集まってきた美女をナンパしている様子であった。
「なあ、ちょっとそっちの方へ涼みに行かねぇ?」
「えー、でも、あたしカレシと一緒だし」
「いいじゃねえか、ちょっと涼みにいくだけだしよ」
「んー、でもやっぱりやめるー。ごめんねー」
 虎王丸が声をかけた紫の浴衣を着た女性は、彼に軽く手を振り、ちょうどやってきた恋人と思われる男性の方へと駆け寄っていった。
「何だよ、つまんないな」
 本来なら、この会場に不審者が入り込んでないか、喧嘩騒ぎにならないか、よっぱらいが暴れまわってないか、等を見て回る警備こそが虎王丸の仕事であった。
 しかし虎王丸は仕事をそっちのけにし、美女達に声を掛けまくっていた。一同にこんなにも多くの美女が集まることはなかなかないことであろう。右を見ても左を見ても美女ばかりのこの会場に、虎王丸はすっかり浮かれた様子であった。
「おお、あの子も可愛いな!」
 そばにある屋台で、飲み物を買っている白い浴衣を着た美少女も、むっちりとした整った体のラインの持ち主で、虎王丸の好みであった。
 彼女に声をかけようと、虎王丸がその女性の方へ近付いていくと、すぐ真横で野太い声が飛んできた。
「お前!さっきから何をしてるんだ!」
 声が飛んできた方向を見ると、がっしりとした骨太の中年男性が、虎王丸をにらみつけていた。
「警備の仕事をせずに、さっきからコンテスト客ばかり追いかけて。仕事したくないなら、とっとと帰れ!」
 中年男性は、この警備の仕事を取りまとめる責任者であった。責任者だから、警備の仕事をさぼってナンパする虎王丸を注意するのは当たり前のことであるが、虎王丸は小さく頭を下げて、謝ったフリをしたその直後、中年男性が背を向けた瞬間こっそりと首筋を殴って、気絶をさせてしまった。
「悪りいけど、口うるさいヤツにはちょっと、休んでてもらうぜ。この暑さで、お前も疲れただろ?」
 警備の仕事をサボった上に、注意されたからと職場の上司を殴る虎王丸に問題があるような気がするが、そのまま簀巻きにして川に投げたりしないところにまだ優しさが感じられた。
 虎王丸は、上司を救護室に連れていき、夏バテみたいだから休ませてくれると、救護室のスタッフに言ったあと、再び浴衣コンテストの会場へと戻った。

 ■祭りの混乱は青い色!?

「いやーん!」
 浴衣コンテストの会場で好みの美女を探していると、少女の悲鳴が響きわたった。「何だ、トラブルか!?」
 虎王丸が声が響き渡った現場へ走っていくと、真っ青な浴衣を着た少女が、柄の悪そうな男数名に囲まれていた。
「そんな挑発的な格好してさ」
「いいから、ねーちゃん、こっちこいよ、可愛がってやるから」
 まわりにはその少女と男達以外、誰もいなかった。この騒ぎに気付いている者はいるようであったが、皆、巻き込まれたくないと見てみぬ振りをしていたのである。
「まてよ、おっさん達!」
 虎王丸は、少女を助けるべく、男達の肩をつかんだ。
「何だお前は。怪我したいのか?」
 チンピラ風のその男が、虎王丸をにらみつけた。
「女の子を囲んで脅すなんて最低だぜ」
「何だ、いまどき正義の味方のつもりかよ!」
 男は鼻で虎王丸を笑うと、虎王丸に強烈な蹴りを入れてきた。だが、それを虎王丸は寸前のところで避け、帯の刀を取り出し、男の顔をその刀の鞘で思い切り殴った。
「てめーふざけんな!」
 激怒した男が、虎王丸につかみかかろうとしたが、虎王丸はしなやかな動きでそれを避けると、叩き潰すかのような一撃を男の頭に叩き込んだ。別の男が虎王丸に襲いかかってきたが、虎王丸はそれを華麗な動きで全て避けた。
 普段もっと凶悪な怪物達と戦っている虎王丸だ、この程度の攻撃を避ける事など何でもなかった。
「ぎゃー!」
 途端に、男達から悲鳴が上がった。焦げ臭いがしたかと思うと、男達の尻が黄色い炎で燃えていた。いつの間にか火がついたのだろう、白焔は使ってないはずだが、と思っているうちに、男達は水を求めて、この場から消えてしまった。後には、青い着物の少女と虎王丸だけが残された。
「有難う、助けてくれて」
「いやあ、女の子が襲われていたら男だったら、助けなきゃ」
 そう言いかけて、虎王丸は身構えた。
「お、お前は!」
「あら、どこかで会ったかしら?」
 青い浴衣に負けないほど真っ青な青い髪の毛に黒い悪魔の羽。虎王丸は以前バレンタインで、この少女に酷い目に合わせられた事を即座に思い出した。
 イケメンを好み、男達をその魔術で翻弄して恥をかかせることを楽しみとしている悪魔の少女、ブルーネイルであった。今日は胸元をやたらに開いた浴衣を着ており、胸の谷間が見え隠れしていた。
「バレンタインで散々イタズラされたことは忘れもしねえ!お前、こんな所で何をしてるんだ?あの炎は、お前の仕業か?」
「ええ、そうよ。あのお兄さん達、ここで私をナンパしようとしてくるもんだから、断ってたら強引に連れて行こうとしたのよねえ。スリリングを味わうために、助けを求めてみたけど」
「お前、わざと絡まれてたのか?」
 そう問いかけると、ブルーネイルは悪魔らしい邪悪な笑顔を浮かべた。
「ふふ、勿論よ。世の中スリルがないとつまらないじゃない。スリルとエキサイティングが必要よね」
「そうか。久しぶりだなあ。いやぁ、この前は参ったぜ〜」
 と、虎王丸は声を震わせながら指をポキポキと鳴らした。バレンタインで散々恥をかかせられたのだ、いくらが意見がセクシーな少女とはいえ、黙っているわけにはいかなかった。
「バレンタイン?あ、そうか、思い出したわ。あの時に手伝いしてくれた子ね?」
 ブルーネイルはようやく、虎王丸を見て納得した顔をして見せた。
「もう、何を怒っているの?ほんの可愛いイタズラじゃない、ね?」
「どこが可愛いイタズラだ、ああ?!」
「これだから男の子は。女の子に暴力なんかしちゃ駄目よ。それよりも、このリンゴ飴配る手伝いしてくれない?ね、いいでしょ?」
 着物から胸の谷間を見せつけながら、ブルーネイルが虎王丸に迫る。彼女の髪の毛からは甘い香りが漂っており、腐女子でも本性は小悪魔だということが納得できる。
「もしお手伝いしてくれたら、凄くいい事してあげるわよ」
 妖艶な笑みを浮かべて、ブルーネイルは虎王丸を指でくすぐる様に撫でた。虎王丸はその仕草と甘い香りにすっかり乗せられて、彼女の頼みを聞いてあげる気持ちになった。
「仕方ねえな。手伝ってやるぜ」
「有難う虎ちゃん。それじゃ、この飴を若くて格好いいお兄さん達に配ってきてくれない?」
「わかった。でな」
 ブルーネイルから渡された、妖しい香りを放つリンゴ飴を持ち、虎王丸は彼女へと尋ねた。
「凄くいい事って何だ?」
「あら、そんな事女の口から言わせる気?わかっているでしょ?」
 虎王丸は、彼女が腐女子である事を半分忘れかかっていた。もしかして、あんなことやそんなことをしてくれるのではないだろうか。
 そんな期待を胸に、虎王丸はリンゴ飴を祭り限定のサービスだと言って、浴衣コンテストに集まってきた美男子達に配り歩いた。
 沢山配ったら凄い事をしてくれるかもしれないと期待しつつ、虎王丸はリンゴ飴を大量に配った。そして、被害を拡大させる事となる。
 美男子浴衣コンテストのあちこちで、男達が悶えた様な声を出しながら、あちこちで浴衣を脱ぎ始めたのだ。熱い熱いと声があがり、美男子達は浴衣を脱ぎ捨て、さらには下着まで脱ぎ始める輩もいた。
 美男子コンテスト会場だったので女性がいないのと、まわりの者が皆浴衣を脱いでいるという事もあり、それぞれ脱ぐ事に抑制がきかないようであった。
「これを待っていたのよ!」
 ブルーネイルは会場に入り込むと、亀の形をした装置を握り締めて、その様子を写真に収め始めた。
 リンゴ飴に体が火照る薬が仕込んである事を、その時初めて虎王丸は気づいた。ブルーネイルはすっかり陽気になり、男達を撮影している。
 しかし、それでも薬の効力が利かないか、脱ぐのに戸惑う男達もいた。ブルーネイルは、まだ服を脱がない男達を見つめ、そして虎王丸に指で指し示した。
「全員脱がしてくれたら、私の事好きにしていいわよ?」
 彼女が色気のある笑みを浮かべた。
「しょうがねぇな!俺に感謝しろよ!」
 虎王丸は男達の間を縫うように走り抜け、目に見えない早さの斬撃で、すり抜け様に全員の服だけ斬っていった。虎王丸が刀を剣に納めた瞬間、男達の服が皆切れて落ち、温泉の脱衣所の様な全員裸の光景が広がっていった。
「きゃーすごーい!虎ちゃんってばやるー!」
 ブルーネイルは片っ端から男達を撮影した。服を着られた男達は、それでも熱い熱いといってその場に立ち尽くしていた。
 こんな事になってしまい、祭りの美男コンテストはちゃんと行われるのだろうか。いささか祭りのことも気になったが、虎王丸の関心はすでにブルーネイルだけにあった。

 ■祭りの終わり

「今日は大量だわ。有難う、虎ちゃん」
 美男子コンテストは悲惨な事になり、延期になってしまったらしいが、それでも祭りは続行されたようであった。
 あたりはすっかり暗くなり、虎王丸はブルーネイルと一緒に屋台のカキ氷を食べていた。ブルーネイルが虎王丸にカキ氷一緒に食べようと誘ってきたからである。今回の礼のつもりなのかもしれない。
 虎王丸はイチゴを、ブルーネイルは真っ青なブルーハワイを食べていた。
「またコレクションが増えちゃったわ。今度はどこで遊ぼうかしら」
「なあブルーネイルさんよ」
 虎王丸は期待を胸に、ブルーネイルに問いかけた。
「何?」
「お前言っただろ、良い事してくれるってさ。まさか、このカキ氷じゃねえよな」
「ああ、それね、それは」
 彼女がそう言いかけた時、虎王丸はブルーネイルの腕を引っ張り、木陰に強引に連れ込んだ。
「きゃっ、何!?」
「なあ、この前の続きってのも良いだろ?」
「何よ続きって。そんなに私の事が欲しいなら、あげちゃうわ」
 ブルーネイルは虎王丸の顔に笑みを浮かべたまま、まるで口づけをするかのように近づけると、一瞬油断をした虎王丸の口に無理やり、あのリンゴ飴をねじ込んだ。
 あまりの事に虎王丸はうっかりその飴を飲み込んでしまった。
「私をモノにしようなんて数百年は早いわよ。じゃあね、虎ちゃん。今日は楽しかったわ!」
 ブルーネイルは虎王丸に投げキスを送ると、そのまま翼を羽ばたかせ夜空へと消えていった。しっかりと、あの亀の装置だけは握り締めながら。
「待てよお前、あっ!ああー!!」
 急に体が火照ってきた。そして、何故か見られる事に快感を覚え始めていた。
 虎王丸は屋台の並ぶ、人通りの多い広場へと駆け込み、その広場で打ち鳴らされていた太鼓のリズムに合わせて、服を一枚、また一枚と脱ぎ始めた。
 虎王丸の身を包んでいた最後の一枚を取り去った時、その場にいた女性達から悲鳴が上がった。それでも、体の火照りは収まらなかった。
 こうして、カエン村の夏祭りは、後で我に返った虎王丸を含んだ男達の悲しい涙と共に、幕を閉じるのであった。(終)



◆登場人物◇

【1070/虎王丸/男性/16/火炎剣士】

◆ライター通信◇

 虎王丸様

 こんにちわ、WRの朝霧青海です。いつも参加頂き、どうもありがとうございます。

 今回はかなりお色気コメディみたいな雰囲気になりました。虎王丸さんとブルーネイル、結構いいコンビかもしれない、と思いつつも、それでもやっぱり最後は虎王丸さんが大変なことになってしまう方がそれらしいかな、と思い、ラストもイロモノで終えてみました。
 皆が裸になってしまう、コンテスト会場もかなり凄そうでしたが。

 それでは、どうも有り難うございました!!